あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「雨音を聴くような気持ちで静かに読みたい本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『リリアン』
著・文/岸 政彦,発行/新潮社
ずーっとやまない雨を見ているような小説第1位。もともと何も起こらない系の小説や映画が好きなのですが、その究極みたいな物語。かぎりないやさしさとさみしさの両方にあふれている。
2.『雨はコーラが飲めない』
著・文/江國 香織,発行/新潮社
ちょっと不思議なタイトルだけど、雨、はじつは江國さんと生活をともにする犬の名。愛する音楽のことと愛する雨との日々を綴ったエッセイは、なにより美しい文章自体が心地よくていつまでも読んでいたくなる。
3.『雨のことば辞典』
著・編/倉嶋 厚,著・編/原田 稔,発行/講談社
毎年雨の季節になると思い出す本。古くから日本で使われてきた雨のさまざまな名前を集めたこの本を読んだら、雨への解像度が上がって、「うっとうしい」としか感じられなかった雨に名前を感じられるようになるかも。
4.『銀河の片隅で科学夜話』
著・文/全卓樹,発行/朝日出版社
専門的なことはわからなくても、科学的なものごとの面白さにはいつも魅かれる。エッセイのように静かな言葉でさまざまなエピソードを詰め込んだこの本は、つめたくてきれいなお菓子の詰め合わせのようで楽しい。
5.『あるノルウェーの大工の日記』
著・文/オーレ・トシュテンセン,訳/中村冬美,訳/リセ・スコウ,監訳/牧尾晴喜,発行/エクスナレッジ
誰かの仕事の話をきくのは面白い。それも華やかな仕事論とか、大成功している人の話じゃなくて、淡々とした仕事の話。いいものを作る、それだけを心がけて仕事をする職人さんの、何気ない日々の記録に心が洗われる。
6.『フェルメール』
著・文/植本一子,発行/ナナロク社
ジャンル分け不能の、唯一無二の魅力を持った1冊。ヨーロッパの美術館を巡りフェルメール作品を鑑賞、撮影する。ただの絵画解説にとどまらず、私たちが普段美術館で絵と向き合ったときの気持ちがそのままパッケージされているように感じる。
7.『傷を愛せるか』
著/宮地尚子,発行/大月書店
医学博士による、トラウマや心の傷についての散文集。傷を醜くて恥ずかしいものだと隠すのではなく、そこにあることを認め、傷跡をなぞり、包帯を巻いてくれるような、祈りのような本。
8.『急がなくてもよいことを』
著・文/ひうち棚,発行/KADOKAWA
何でもない1日がほんとうはかけがえのないものであるということを、私たちはすぐに忘れてしまう。それを胸に刻みつけて生きるのにはどうしたらいいのだろうか。たぶんこの本にヒントが書いてあるのだが。
9.『ロスト・シング』
著/ショーン・タン,訳/岸本佐知子,発行/河出書房新社
古今東西、まわりの人には見えていないけど自分だけにその生きものが見えている、という話はたくさんありますが、最近、そんな生きものと会ってますか? 話してますか? 凝った絵柄と独特のオチがたまらない絵本。
10.『死ぬまでに行きたい海』
著・文/岸本佐知子,発行/スイッチ・パブリッシング
過去の記憶をたどって個人的な思い出のある場所に出かける--そんなエッセイなのだけど、なぜこれが自分の記憶のような気がしてしまうのだろう、それにこれはほんとうに実在の話? 読めば読むほどクラクラする。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。