あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「地元を愛し、街を深く楽しむための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『日本全国 地元パン』
著・文/甲斐みのり,発行/エクスナレッジ
旅に出たとき、駅で売っているきれいなおみやげより地元のスーパーで売っている謎のパンを探し求める……そんな方は意外と多いのではないでしょうか。レトロなパッケージやご当地ならではのオリジナル商品に出会えるのは最高のよろこびですよね。全ページが可愛く、見てるだけで楽しいカタログ的な1冊です。
2.『ぼくのコーヒー地図』
著・文/岡本 仁,発行/平凡社
パンもいいけどコーヒーもね、ということで、有名編集者の岡本仁さんが作った日本全国のコーヒー店ガイド。何でも岡本さんはコーヒーが大好きだけど家ではまったく飲まないそうで、そんな“完全外飲み派(?)”ならではの執念が伝わる、エッセイのような不思議な本。地方をくまなく網羅してるのも、昭和っぽすぎる写真もよいです。
3.『商店街さんぽ ビンテージなまち並み50』
著・文/あさみん,発行/学芸出版社
ディープにその街を知りたいなら、やはり商店街は欠かせないですよね。とはいえ、いざ商店街を味わおうと思っても鑑賞眼がないと「わ〜、いい雰囲気〜……」で終わってしまうこともたびたび。生粋の商店街マニアが作ったこの1冊で、看板、照明、アーチなど、どこをどう見ればよいのか勉強してみましょう。
4.『まちの文字図鑑 ヨキカナカタカナ』ハヤカワ新書
著・写真/松村大輔,発行/大福書林
すてきな商店街がある街で探し集めたいものといえば、文字。昔の看板の文字ってすごく凝った書体で、さらに装飾がほどこされていたりします。タイポグラフィーやグラフィックデザインが好きな人ならすでにご存じかもしれませんが……。ちなみに同じシリーズの「ひらがな」も発売中です。これであなたも文字ハンター。
5.『いいお店のつくり方 保存版』
編/インセクツ編集部,発行/インセクツ
チェーン店もよいけど、街のおもしろさを作っているのは個人店の人たちかもしれません。これは関西で個性的なお店を営む人たちへのインタビュー集なのですが、インタビュアーと店主たちが友達のような関係だからなのか、普通のインタビューでは出てこないようなむき出しの言葉がゴロゴロ飛び出してきて読み応えがすごい。めんどくさくてひねくれ者の店主たちがかっこいい!
6.『まほろ駅前多田便利軒』文春文庫
著・文/三浦しをん,発行/文藝春秋
こちらはフィクションですが、東京の端の架空の街を舞台にした便利屋ふたりの物語。とにかくこのふたりが魅力的で、こんな人たちが便利屋をやっている街に住んでみたいな〜と思わせてくれる小説です。登場人物それぞれに暗い過去を抱えていたり、ヤバめの案件に関わってしまったりもするのですが、読後は心にさわやかな風が吹き抜けます。
7.『ずっと名古屋』ポプラ文庫 日本文学
著・文/吉川トリコ,発行/ポプラ社
東京生まれ東京育ちの自分としては、地方に住む、ってどんな感じなんだろう?と興味津々です。まず方言というものに憧れるし、地元への愛憎混じり合う気持ちがうらやましいんですよね。名古屋市の16区とその近隣を舞台にしたこちらの短編集は、名古屋に住んでいる人はもちろん、それ以外の人にも『知らない街』の魅力と味わいを感じさせてくれます。名古屋に行きたくなる1冊!
8.『成瀬は天下を取りにいく』
著・文/宮島未奈,発行/新潮社
こちらの物語の舞台は滋賀。閉店が決まった西武デパートで、最終日まで毎日TV中継に映り込むことに夏休みを捧げると決めた中学生の成瀬。誰もが成瀬を好きになってしまう新時代の滋賀小説です。実は最初、表紙の雰囲気から手に取るのを敬遠していたのですが、あまりにまわりの本好きたちが賞賛するので読んでみた1冊でした。かつての私のようにまだ読んでない人は早く!
9.『東東京区区』路草コミックス
著・文/かつしかけいた,発行/トゥーヴァージンズ
東京の東部は「下町」という言葉で片付けられがちなのですが、実は新宿よりも移民の数が多かったりと、複雑な歴史を持っているエリア。このエリアに暮らすイスラム系大学生のサラ、エチオピア出身の小学生セラム、そして不登校中学生の啓太という不思議な3人組が街を歩きながら、地元を発見していく漫画作品です。「何もない」と思い込んでいた地元にも、意外といろいろあるかも。
10.『どこにでもあるどこかになる前に。〜富山見聞逡巡記〜』
著・文/藤井聡子,発行/里山社
新幹線も開通し、再開発でひらかれたエリアになったかと思えた富山市。けれど著者がUターンしたその中心地は、個性を失いかけ、どこにでもありそうな都市になっていた。そしてそんな街のあり方とは裏腹に、アラサーの著者に結婚や出産を迫る閉塞感は相変わらずで……。失われていく街に抗うようにミニコミを作り始めたことから人生が動き出していく実話エッセイ。地方の街づくりに興味がある人ならのめりこみ読み間違いなしの1冊です!
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。