あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「Again! もう一度、読み直したい本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『星の王子さま』文春文庫
著・文/サン=テグジュベリ,訳/倉橋由美子,発行/文藝春秋




これはもう、「大人が読むべき童話ランキング」的なものでも常に上位に入る作品ですよね。子どもの頃に読んだ人もそうでない人も、ページを開けば不思議ななつかしさ、やさしくて澄んだ空気を感じられるようなこの世界にすっと吸い込まれてしまうはず。2005年に版権が切れ、作家の池澤夏樹さんや倉橋由美子さんなど、いろいろな人の翻訳バージョンが出ています。新たに手にするならそちらもおすすめ。


2.『モモ』愛蔵版
著・文・絵/ミヒャエル・エンデ,訳/大島かおり,発行/岩波書店



こちらもファンの多い名作児童文学。しかし、「児童文学なんでしょ?」と思って手に取ったらあまりの難しさにびっくりする人も多いはず。というか私です。え、難しすぎん……? ギリ読めたわ……。というわけで「いやいやまさか」と思う人こそチャレンジしてほしい! でも「灰色の男たち」「時間の花」といったメタファーはせわしなく消費のためだけに生きている我々大人こそ読むべきテーマだよなあ、としみじみしてしまうのです。


3.『世界でいちばん透きとおった物語』新潮文庫nex
著・文/杉井 光,発行/新潮社



もう一回読み返したい本! の代表格といえばやはり「どんでん返し・ネタバレ厳禁系のミステリー」ではないでしょうか。「え〜、いつからだまされてたんだろう」とページを戻って確認する瞬間は悔しいながら、何よりも楽しいもの。最近話題になったこちらの本、未読でしたらぜひ。私はネタバラシの瞬間まで1ミリも気づきませんでした。このご時世に電子書籍では楽しめない仕掛けというところもナイス。さわやかな読後感でおすすめです。


4.『十角館の殺人』新装改訂版 講談社文庫
著・文/綾辻行人,発行/講談社




衝撃の結末、といえばこちらも有名。1987年の作品ですが、いまだに話題に上り、近年も漫画化や映像化が続き30年以上注目され続けている作品です。何を隠そう自分はまだ読んだことがないのですが、実は今いちばん読みたい本なんです。オススメ本紹介の動画で見て「気になるなあ」と思っていたところに、たまたまテレビで辻村深月さんがこの本を紹介していて、偶然なんですが「これは運命だ!」と……。こうやって偶然が重なると、昔の本でも自分的には「いま話題の本」。みなさんもそんな経験ないですか?


5.『もものかんづめ』集英社文庫
著・文/さくらももこ,発行/集英社




こちらも知らない人はいないのではないでしょうか。当時は社会現象ともいえるほどの人気でした。250万部以上売れたそうです。すごすぎる……。はじめて読んだのは小学生のときだったと思いますが、「こんな漫画みたいにおもしろい文章もあるんだ!」と子どもながらに驚いた気がします。その頃はまだまだ「文章はかしこくてまじめなもの」というイメージがあったのかも……。この本が日本のエッセイの歴史を変えたのかもしれないですね。


6.『はだしのゲン』中公文庫コミック版
著・文/中沢啓治,発行/中央公論社




うってかわってシリアスですが、小学校の教室や図書室で読んだ記憶のある方も多いのでは。絵も物語も衝撃的だったけど、だからこそ原爆の怖さ、戦争があってはならないものだということを理解できた気もします。しかし当時は子どもだったゆえ、もう細部を覚えておらず……。今だからこそもう一度読んで、大人の自分の感想を持ちたい本です。文庫版がふつうに入手できるみたいです!


7.『声の地層 災禍と痛みを語ること
著・文/瀬尾夏美,発行/生きのびるブックス




今年に入ってから再び注目され、私の本屋でもとてもよく売れている1冊。東日本大震災後の日常で語られた言葉をそっと拾い集めたような本です。災害などで何かを失っても、寄り集まって痛みや苦しみを語り合うことの大切さを教えてくれるような、希望をくれる本でもあります。毎年3月になるとテレビでは特集が組まれ、それもとても大事なものですが、自分のタイミングで震災に向き合える「本」も、いいなと思います。


8.『色の辞典
著・文/新井美樹,発行/雷鳥社




「読み直したい本」というとつい「とても感動した本」「大切なことが書いてある本」という方向でばかりイメージしてしまいますが、「眺めてるだけで楽しい本」「そもそも読み終わるとかじゃなく、何度も開きたい本」というものもあります。装丁もかわいいこの本、中はシンプルなイラストとともにたくさんの色の名前が紹介されていて、ページをめくるだけでワクワクした気分に。こういう本って何度でもめくりたい。

9.『ライオンのおやつ』ポプラ文庫
著・文/小川 糸,発行/ポプラ社




ほんとうに個人的に、すごく好きだし一生大事にしたいけど、まだ1回しか読んでいない本。なぜかというとめちゃくちゃ泣いてしまうからなんですよね……。瀬戸内の島のホスピスで身寄りもなく、ひとりで死んでいく女性の最期をその女性の目線から書いている小説なのですが、そのりりしさ、美しさに号泣しすぎて呼吸困難になるほど泣いた記憶が……。なので読み直したいけどなかなか二度目を開けずにいるのです。

 

10.『アルジャーノンに花束を』新版
著・文/ダニエル・キイス,訳/小尾芙佐,発行/早川書房

 

 

こちらはもう一体何度目!? というほどにまた再ブームが来ているんです。1959年に初版が発表で日本で長編小説版が出版されたのが1978年だそうで、もう古典の域なのに、ティラミスやカヌレでさえも成し遂げていない再ブーム、再々ブーム、再々々ブームの偉業を成し遂げています。大人だけど幼児並みの知能である主人公が、脳の実験によって知能が向上するのだけど−−、というストーリー。昔読んだよ、という方も今読み返すと新たな発見がありそう。そんなところも魅力なのかもしれません。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。