あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「ネガティブワードから始まるさわやかな本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『あきらめる
編/山崎ナオコーラ,発行/小学館




「新感覚ゆるSF小説」と帯に書かれているこの本は、文字通り少し未来の日本が舞台で、地球で生きづらさを感じている人たちがつながりあって火星移住を目指すお話なのだけど、登場人物たちの会話や考え方がいちいち「こんな社会になっていったらいいなあ」と思わせてくれるユートピア感。〈あきらめる〉という言葉は昔は〈明らかにする〉という意味だったそうで、読み終えたあとは「あきらめるっていいなあ!」と思えるようになります。


2.『元気じゃないけど、悪くない
著・文/青山ゆみこ,発行/ミシマ社



50歳をすぎて、身体と心の急カーブ。何もうまくいかなくなってしまった著者が「元気じゃないけど、悪くない」状態に回復するまでを綴ったケア・エッセイ。全部を100OKな状態にするのも無理だし、かと言って「年だからしょうがない」って人生あきらめるのはさすがに早すぎる。気心知れた友達とおしゃべりするような気持ちで読みたい1冊。


3.『休むヒント。
編/群像編集部,発行/講談社



日本人なら誰だって休むのが下手。……と言うと言い過ぎかもしれませんが、なぜかみんな休みの日までメール返しまくってたり、逆にスマホをいじっているだけで休みが終わったと嘆いていたり。作家・エッセイストを中心にそれぞれの“休み論”が展開されるアンソロジー集は共感と笑いがたっぷり。上手に休めないのは自分だけではない、とホッとさせてくれます。


4.『鬱の本
編/点滅社編集部,発行/点滅社




こちらもおすすめのアンソロジー・エッセイ集。鬱と親しい(?)人たちによる“鬱な気分のときに読みたいブックガイド”でもあり、それぞれの実感のこもった鬱のエピソードは、それが特別なものではないのだなと改めて思わせてくれます。ひとつのエッセイが2ページで終わるのも読みやすく、元気のないときにパラパラめくってみるのもよさそう。


5.『死なれちゃったあとで
著・文/前田隆弘,発行/中央公論新社




普段の生活で「死なれた」という言葉を使う機会は少ないと思いますが、言葉の通り、父親から後輩、たまたまいっしょに飲んだ人、さっきすれ違った人まで、多くの人に「死なれた」経験を持つ著者。その悲しみを描くというよりは死にまつわる自分の思い、葬式や死後のあれこれをフラットに語る1冊。でもこんな話を誰かとしてみたかった、やっと話せたなあ(こっちは読んでるだけなのに)と思わせてくれる不思議な本です。


6.「人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方
著・文/鶴見 済,発行/筑摩書房




暗い話題で恐縮ですが、日本の殺人事件の半分は家族間で起きてるそうです。意外なような、わかるような。というわけで「その人間関係、捨ててもよくない?」と提案するこちら。人間関係を降りろ、と言うと「私は家族や友人に囲まれて幸せだけど、何がいけないの?」と思う人もいるかもしれませんが、そうではなくて、親子、夫婦、あるいは職場など、煮詰まりがちだけど「離れられない」と思い込んでしまいがちな関係にストップをかけてくれます。


7.『老後の家がありません シングル女子は定年後どこに住む?
著・文/元沢賀南子,発行/中央公論新社




ええ、そうですね、私もないんです、……と思わず声をかけたくなってしまうタイトルの本。57歳、シングル・子なしの著者が終の住処について真剣に考え、実践したすべて。購入? 賃貸? リフォーム? 移住? シェアハウス? 具体的な数字や不動産会社の人とのやりとりはめっちゃ役立つ&そこまでお先真っ暗ってこともないのかな、と、老後をちょっと前向きに考えられるようになる1冊です。


8.『ぼっち死の館
著・文/齋藤なずな,発行/小学館




ぼっち死、つまり孤独死。独り身の老人たち(と猫たち)の団地暮らしを描くのは、自身も団地に暮らす76歳の現役漫画家。いろいろなことができなくなって、どれが現実だったかもあいまいになって、死に思いを馳せながら、でも生々しくにぎやかに生きている。住人どうしで変なあだなを付け合いながら。不思議な感動と爽やかさをくれる老年漫画の傑作です。

9.闇は光の母シリーズ『ぼく
著・文/谷川俊太郎,イラスト/合田里美,発行/岩崎書店




これはタイトル自体はそこまでネガティブというわけではないですが、自死を扱った絵本です。自殺はいけない、どんな人にも絶対に踏みとどまってほしい。それは大前提として、でもその言葉だけでは、親や同級生を自死で失った子どもたちはどう生きていけばいいでしょう。あるいは「いけないと言うけど死んでしまいたい」と思っている子は。そんな子たちに渡したい、自死を肯定も否定もしない本。大人でもこの本を必要としている人はいるかも。

 

10.『味つけはせんでええんです
著・文/土井善晴,発行/ミシマ社

 

 

このタイトルを見ていちばん最初に思ったことは「味つけは、したいなあ」ということです。でも読んでみたら「味なしのまま食べなさい」という内容ではありませんでした。「それぞれ醤油とかかけたらいいんだから作る人に完璧を求めすぎるな」という話でした。よかった。土井先生の自由でおおらかな自炊哲学は読んでるだけで楽しくて、自分がいかに「料理はこうじゃないと」という呪いに囚われているかわかる。解き放たれるっていいですよね。


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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。