あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「いろんなお仕事を読書で体験しよう、の本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


──


1.『転職ばっかりうまくなる
著・文/ひらい めぐみ,発行/百万年書房




20代で6回の転職を経験した著者が、仕事に就いてはやめ就いてはやめ、の怒涛の日々を綴ったお仕事エッセイ。倉庫、コンビニ、営業、webマーケティング、書店、広報、ライター……どんな仕事も真剣に取り組んでいるのにうまくいかず、悩みは尽きないし血便も出る。クスッと笑えて仕事って何だろうと考えさせられる。転職でお悩みの人に絶対おすすめしたい1冊です。


2.『私のアルバイト放浪記
著・文/鶴崎いづみ,発行/観察と編集



こちらもとにかくいろんなお仕事がわかる、ゆるーいタッチが魅力のコミック作品。美大出身であることを活かしたリペアスタッフ、測量会社、頭部モデルといった専門的な仕事から梅調査員なんていうマイナーな仕事まで! 自分が働いているのに妙に淡々と観察しているところも楽しい。仕事探しに疲れたときに読みたい本。


3.『しごとば』しごとばシリーズ
著・文/鈴木のりたけ,発行/ブロンズ新社



しかしどうしても大人向けの仕事の本では、仕事のつらさ、人間関係の大変さなどに触れずにいることはできないでしょう。その点子ども向けの本は夢いっぱいでよい! 大人の「仕事」を紹介する絵本で特に好きなのがこのシリーズ。いろんな仕事の現場に置かれているものの名前をただひたすらに書いてあるだけなんですが、なぜかやたらとワクワクします。


4.『わたし、定時で帰ります。』新潮文庫
著・文/朱野帰子,発行/新潮社




今や日本でいちばん有名な「お仕事小説」、かもしれません。とにかく定時で帰ることがモットーの主人公の前に立ちはだかるのは、ブラックな上司、スーパーワーキングマザー、非効率的な同僚などなど……。働き方改革と言ってもまだまだ「当然残業するよね?」の空気が支配するわたしたちの社会で、勇気をもらえるエンタテインメント小説です!


5.『常識のない喫茶店
著・文/僕のマリ,発行/柏書房




ハラスメントの概念が根づくに従って「カスハラ(カスタマー・ハラスメント)」という言葉も生まれ、店員に怒鳴ったり暴言を吐いたりする“お客様”が問題視されるようになってきました。著者の働く喫茶店では、失礼な客は容赦なく「出禁」、女性店員になめた態度をとる客には「塩対応」という、なんともうらやましくかっこいいルールが運用されているのです。しかしだからと言って誰もが無傷ではいられない……。新たな時代のお仕事エッセイ。


6.『ランチ酒』祥伝社文庫
著・文/原田ひ香,発行/祥伝社




小説の中に出てくる「いかにも実在しそうな架空のお仕事」っていうものもけっこうありますよね。この小説の主人公の職業は、事情ある人の家を訪れ、頼まれたものを寝ずの番で夜から朝まで見守る「見守り屋」(もちろんエロ系の仕事はなし)。よって仕事を上がった後の(世間的にはランチ時間の)一杯は最高のひととき。こんなお仕事絶対面白そう! そして仕事のあとの昼間のお酒おいしそう! と思わせてくれる、心温まるシリーズです。


7.『ネオ日本食
著・文/トミヤマユキコ,発行/リトルモア




ホットケーキ、たらこスパ、パフェ、とんかつ。寿司や天ぷらのように純然たる和食でもないけど、海外のどこにもない。そんな不思議な立ち位置の食べ物を「ネオ日本食」と名付け、作った人たちを追ってみたらーー。食の歴史は店の歴史でもあり、それを仕事にしていた人たちの歴史でもある。「おいしそう」と「すごい」と「かっこいい」が交錯する楽しいルポルタージュ。


8.『事務に踊る人々
著・文/阿部公彦,発行/講談社




「事務」と聞けばネガティブな気持ちになる人も多いでしょう。事務仕事が苦手だったり(私もその一人です!)「事務的な対応」なんて言い方をするとき、事務は悪とされているわけですからね。この本は事務の汚名(!)を晴らしたいと考えた著者が、国内外の文学作品を引き合いに事務の営みから人間のあり方を再考するという一風変わったエッセイ集! 事務を愛する人にぜひおすすめしたい1冊です。いわゆる事務仕事についての本ではないです。

9.『建設業者 : 三七人の職人が語る肉体派・技能系仕事論
著・文/エクスナレッジ、建築知識編集部,発行/エクスナレッジ




表紙からしてシブい! 建設業で働く一般の人たちへのお仕事インタビューなのですが、自分の身体と技術を使って仕事をする職人さんたちの言葉はほんとうにかっこよくてしびれます。それが目に見える形で評価されなくても、己の誇りにかけて今日も仕事をしている人たちがいるということ、仕事の原点に立ち返らせてくれるような気がします。やんちゃだったり仲間思いだったりする人間味も読み応えあり。

 

10.『消費者金融ズルズル日記』日記シリーズ
著・文/加原井末路,発行/三五館シンシャ

 

 

このヘタウマなイラストが目印の職業日記シリーズ、なんだか大ヒットしているらしく……。「キツそうだけど、実際どうなんだろう?」という職業にスポットを当て、毎作違う著者が自らの職業体験を綴っています。【○○業界の闇を暴く!】というような露悪的なノリじゃなくて、ヘロヘロな本人が「こんなこと言われちゃって……困っちゃいますよね」という雰囲気なところも感情移入して読み進められるポイントかも。働く人、みんなほんとうに尊いです。そしてつらくなったらどんな仕事でもなる早でやめましょう!!


──



選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。