あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「すべてにムカついてイライラMAXな日に読みたい、大暴れな本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『自分以外全員他人』ちくま文庫
著・文/西村 亨,発行/筑摩書房





まずは最近個人的にイチオシのこちらから。太宰治の『人間失格』に強い感銘を受けて描かれたという本作、主人公が自死を考えるほどのストレスの原因は、勤務先のクレーマー、愚痴ばかりの母親、そして駐輪場のマナーがなってない奴……。現代風のリアルな「怒りエピソード」に共感しつつ、次第に暴走する主人公はやっぱり怖くて、でもどこか笑える……。怒りの溜まった方にぜひおすすめしたい本。


2.『YABUNONAKA―ヤブノナカ―
著・文/金原ひとみ,発行/文藝春秋




内容も分量も激重ですが、それでも読む価値ありの大傑作! フェミニズムとSNSの炎上を中心に、複数の登場人物のモノローグで進むストーリーは、さながら怒りと醜さの花火大会。そして事態はどんどん最悪になっていくけれど、続きが気になる展開に加えて不思議な爽快さもあって、複雑な問題をこんなに深く考えて言語化してくれてありがとうと言いたくなる読後感でした!


3.『ババヤガの夜』河出文庫
著・文/王谷 晶,発行/河出書房新社



こちらはストレス解消にもなりそうな大暴れ小説。イギリスのダガー賞を受賞して日本でも再び大きな話題となっています。「シスター・バイオレンス・アクション」小説ということで「そういうのはちょっと……」と思われる方も多いと思いますが、騙されたと思って読んでほしい! 一見どうにもなりそうもない苦しい状況も、こんな鮮やかに打ち破ることができるかもしれないと思わせてくれます。


4.『無敵の犬の夜
著・文/小泉綾子,発行/河出書房新社




一方、こちらは北九州の片田舎のヤンキー男子を主人公にした小説。大暴れする心と理想通りにいかない現実がなんとも切ない。主人公の考えは間違いだらけかもしれないけど、「きっとこれがいいと思った」というきらめきや、東京にカチコミに行く疾走感はどこまでも本物で。無駄な怒りはいつかきっと無駄じゃなくなるのだ、と希望をくれるような1冊。


5.『いい子のあくび
著・文/高瀬隼子,発行/集英社



「言いたいことはなかなか言えないけど、本当はいろんなことにムカついてる」って人に特におすすめしたいのが高瀬隼子の小説。道で人とすれ違うとき、スマホに夢中でぶつかりそうになる人を自分だけがよけていて、相手はいつも道を譲っていない——そんな真実に気づき、よけるのはやめてぶつかりに行くことにした主人公。誰しもがほんのり持っている心の黒さを炙り出してみたら、やっぱり怖いけど面白い!


6.『嫌いなら呼ぶなよ』河出文庫
著・文/綿矢りさ,発行/河出書房新社




攻撃は最大の防御なり。なんでこんなにも全てにイライラさせられるのか、と思うなら、イライラする前に人をイライラさせる側にシフトすればいいのかもしれません。綿矢りさの小説に出てくる人たちは皆、独自の哲学で生きていて常識人たちを苛立たせるのが天才的にうまい。「どちらが悪」とか「人に迷惑をかけたなら謝るべし」なんて考え方はセンスがないのかもしれません。高瀬隼子とはまた違う、パンクな意地悪さが痛快。


7.『地球と書いて〈ほし〉って読むな
著・文/上坂あゆ美,発行/文藝春秋




イライラしている日は心が美しい人の整った文章を読んでも、「ふん、いい子ぶりやがって」と八つ当たり的な気持ちになってしまうこともあるかと思います。そんなときに読みたいのが歌人・上坂あゆ美さんのエッセイ。若干ヤンチャな両親の元で育てられ、小学生時代から同級生を正論で詰め、現在進行形で自分にどこまでも正直に生き抜く姿は、パワフルで魅了されます。きっと魂が共鳴するはず!


8.『かいじゅうポポリはこうやっていかりをのりきった かいじゅうとドクターと取り組む2 怒り・かんしゃく
著・文/新井洋行,監修/岡田 俊,発行/パイ インターナショナル




イライラしすぎて字ばっかりの本なんて読めなさそう! というときは、子ども向けの絵本だけど大人にもめちゃめちゃ刺さるやつ、あります。怒りにはきちんと原因があるし、だからといって爆発していいわけではないし、感情を抑える方法もあるってことがすごく納得いく形で(しかもかわいい絵で)描かれていてじーんとしてしまいます。子どもだってがんばっているのだから、大人の私もちょっとがんばってみようかなと思わせてくれる本。

 

9.『キレる私をやめたい 〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜
著・文/田房永子,発行/竹書房

 

 

イライラは誰にでもあるものですが、感情がコントロールできなすぎて苦しんでいたり、周りに加害してしまう、という状態の場合は改善したほうがいいですよね。夫へDV加害をしてしまうことで苦しんでいた著者が自分の感情と行動を客観的に観察し、ときにセラピーを受けながら「キレる私」から脱出するまでを描いた壮絶なコミックエッセイ。「なぜそうなってしまうのか」を知りたい人や、自己嫌悪に陥りがちな人にも絶対読んでほしい!


10.『タイプ別 怒れない私のためのきちんと怒る練習帳
著・文/安藤俊介,発行/CCCメディアハウス




すぐキレてしまうより「怒れない」の方が一見まともそうに思えますが、大事な場面で怒れなかったら損をするのは自分。怒るべきときに怒るための練習ですね。「上から目線でものを言われる」「無理なお願いを押し付けられる」など豊富な具体例のそれぞれにどう考えたらいいか、どんな返答ができるかを書いてあって、まさに怒りのガイドブック! 「あなたにも問題があるかも」というケースの事例もしっかり書かれていて信頼度120%です!

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。