あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「朝こそ読みたい本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


──


1.『世界の朝ごはん 66カ国の伝統メニュー
監修/TASTE THE WORLD,編/パイ インターナショナル,発行/パイ インターナショナル





とにかく楽しみな朝ごはんがあれば起きられるような気がします。「いつもの」もいいけど、海外の旅先で食べる朝食はなぜか豪華なディナーやスイーツよりも魅力的。そんな朝ごはんだけを集めた世にもレアな写真集がこちら。「朝からこんなに甘そうなものを!?」「今食べるならこれかなあ」なんて眺めているうちに自然と目が覚めて、胃も活動を始めてくれそうです。


2.『明るい方へ舵を切る練習
著・文/一田憲子,発行/大和書房




『暮らしのおへそ』の編集ディレクター、一田憲子さんの朝日記(ブログ)をそのまま書籍にした、まさに朝にぴったりの1冊。「明るくなろう!」じゃなくて、それは難しくても明るい方向に舵を切る練習をする。一田さん自身のダメな部分もユーモラスにさらりと書きながら、暮らしのコツ、元気がないときの心がまえ、日々を楽しくするアイデアが詰まっていて爽やかな気持ちになれます。


3.『よくわからないまま輝き続ける世界と 気づくための日記集
著・文/古賀及子,発行/大和書房



「どうせ今日もいつもと同じような1日だよな〜」とちょっと退屈に感じたら、ためしに普段はしないようなことにちょっとだけチャレンジしてみるのはどうでしょう。何も習い事を始めたりお金をかける必要はなく、駅のワーキングブースを使ってみる、昔のバイト先を見に行く、ふだん買わない果物を買う……とか。事件の大きさよりも自分の心の変化を楽しむための、生活練習エッセイ。


4.『起きられない朝のための短歌入門
著・文/我妻俊樹、平岡直子,発行/書肆侃侃房



短歌が好きだけど作るのは難しそう、あるいはやってみたけど悩んでる……そんな人のための短歌入門本。とはいえ、ずっと著者ふたりのおしゃべりの形式で続き、例となる短歌もたくさん出てくるので飽きずにわかりやすく読めます。「眠れない夜のための」だと人生そのものすぎてしまうので、むしろ人生のアウェー(?)である「起きられない朝」に夢からこぼれてくるような短歌を読みたい、と言う話からこのタイトルが生まれたそうです。


5.『藤本壮介 地球の景色
著・文/藤本壮介,発行/エーディーエー・エディタ・トーキョー



今話題の大阪万博のリングを設計したことでも有名な建築家によるエッセイ集。世界中を飛び回る著者ならではの視点で、都市設計や建築についての考え方を専門知識なしでもふむふむと楽しく読めます。世界のさまざまな写真もすがすがしいし、「海外から帰ってきて上野に着くと日本の街ってどうしてこんなにぺなぺななんだろうって思うけど、そのぺなっとさが軽くていい」などと綴られていて、「へー」と言いながら朝に読みたい心地よさです。


6.『観察の練習
著・文/菅 俊一,発行/NUMABOOKS




建築よりもデザインが好きでしたら、こっちも朝のぼんやりな頭脳をシャキッとさせてくれるような本。クイズの本のようにも楽しめる内容になっていて、地下鉄の配管、自販機のラベル、窓に貼られた病院の文字……など、「これってデザイン的に考えたらこうじゃない?」「この風景からある事実が導き出されるぞ」のハッとする体験をぽんぽんとテンポよく味わわせてくれます。こんなふうに街を読み解けたらおもしろい。


7.『私の孤独な日曜日
編/月と文社,発行/月と文社




朝が必ずしも活気に満ちたものとは限らない。ひとりで過ごす休日の朝は平熱で、ただぼんやりと真顔のまま過ぎていく時間かもしれません。そして、それでいいような気もするし。「自分の文章をZINEなどで積極的に発表していないけど、よい文章を書く人」という基準で選ばれた人たちの、“映えないひとりの休日の過ごし方”をテーマとしたアンソロジーエッセイ集。心にじんわりと沁みます。


8.『よいこのための二日酔い入門
著・文/三田三郎,発行/堀之内出版




朝はさわやかな1日の始まりとして語られることが多いけど、大量のアルコールを身体に残したまま迎える朝はまったく別の景色。お酒を飲む人なら誰でも一度や二度は経験のある痛い思い出かもしれませんが、なんとこちらの本の著者は筋金入りの二日酔いプロ。若かりし頃を回想しながら読むもよし、笑いながら読むもよし、なぜそれでもあなたは続けるのかと探究心で読むもよし、の新感覚入門本です。

 

9.『さみしくてごめん
著文/永井玲衣,発行/大和書房

 

 

朝起きて、学校や会社に行くこと、それは「社会の常識」にむりやり自分をはめ込んで「働くって何だろう」「なんで戦争はなくならないのかな」「指のかたちってよく見ると変じゃない?」と次々に浮かんでくる大小さまざまな問いをいったん脇に置いておいて社会的にふるまうことなのかもと思ってしまいます。でも! 朝だって夜だって問い続けてもいいんじゃないですか? 気鋭の哲学者、永井玲衣さんのエッセイを鞄に入れて出かけましょう。


10.『よあけ
絵・文/ユリー・シュルヴィッツ,訳/瀬田貞二,発行/福音館書店




とにかくこれ、最高の絵本です。日本版の初版刊行は1977年。おじいちゃんと孫が夜中に小屋から外に出て、山の夜明けを眺める、それだけの本なのですが、静かに変わっていく空の色に、現実と同じくらい、いやそれ以上に見とれてしまう。毎日朝は慌ただしいものだけど、たまにはこんなふうに夜明けを見届けられたら最高にいい1日になりそう。どこかで見かけたらだまされたと思ってぜひ手に取って見てほしいです。もしかしたら一生そばに置いておきたい絵本になるかも。

──



選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。