あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「大人が新しい趣味を見つけるための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『老後とピアノ
著・文/稲垣えみ子,発行/ポプラ社





大人になってピアノを習いたいと思う人は多いみたいです(実は私も……!)。というわけでタイトルが気になって本書を手に取ったのですがこれがめちゃくちゃ面白かった! 稲垣さんの尋常じゃないのめり込み具合は心からうらやましくなります。もはやこれって「大人の青春小説」あらため「老後の青春小説」では。年をとったからこそ楽しめることもあるのだなと実感します。読み終えた後はますますピアノを始めてみたくなること間違いなし。


2.『ある手芸中毒者の告白 ひそかな愉しみと不安 縫い欲にまみれたその日常
著・文/グレゴリ青山,発行/誠文堂新光社




京都在住の漫画家、グレゴリ青山さんによる楽しい「手芸中毒記」。布や糸、着物のハギレ……と片っ端から買い集め、制作に励む日々を漫画にしたものです。表紙ももちろんご本人の作品。ときには「なぜ既製品のジーンズがこんなに安いのか」という疑問から社会問題に斬り込んだりも。漫画の中で出てくる作品の実物写真もたくさん載っていて、おどろきと感動がいっぱい。手芸の楽しさがビリビリ伝わる1冊。


3.『はじめて手でつくる本 Handmade Bookbinding : ハードカバーから豆本、手帳、アルバム、名刺入れまで
著・文/ヨンネ,発行/エクスナレッジ



布好きの沼もあれば紙好きの沼もあり……。紙はただ箱に入れて眺めるだけでもいいものですが、やはり次のステップも気になりますよね。製本のワークショップなども人気があるようですが、この本があれば本を自力で作れます! どれも作ってみたいものばっかりで気になる……。ハードカバーやアルバムはもちろん豆本などの作り方も載っているので、たくさん作って人にプレゼントしまくりましょう。


4.『絵はすぐに上手くならない デッサン・トレーニングの思考法
著・文/成冨ミヲリ,発行/彩流社



なんとなく書いてみるのではなく、絵を「ちゃんと」始めてみるというのも面白そうです。イラストやアニメの仕事をしながら、プロ向けのデッサン講師を務めている著者による指南書。といってもサブタイトルに「デッサン・トレーニングの思考法」とあるように、ただの技術書ではなく考え方を学べる哲学書のようでもあり、描かないまま読んでいても面白い。絵の具体例も多いので理解しやすく、「上手くなった」気になれる本です。


5.『文化財に泊まる。
著・文/偏愛はな子,発行/エクスナレッジ



観光名所を急ぎ足でまわる旅を卒業して、ゆっくり旅をするのも大人の趣味っぽくていいですよね。素敵なホテルもたくさんありますが、実は泊まれる「文化財」もあるって知ってましたか? しかも「こんなところに泊まれるの!?」というかっこいい建物ばかり。旅欲を刺激する写真が盛りだくさんで、想像するだけでテンションが上がります。


6.『しょうゆさしの食いしん本 おかわり
著・文/スケラッコ,発行/竹書房




生活のためにいやいや作る料理じゃなくて、食べるのが好きな人の「楽しい料理」が好きです。人気漫画家スケラッコさんが描く料理と食べ物はまさにその理想型。鯖寿司、ビリヤニ、アジフライ、マカロニサラダ……気の向くままにチャレンジする「しょうゆさし(作者をキャラクター化したもの)」の姿がかわいくて癒される! そして自分もやってみたくなる幸せなコミックエッセイです。


7.『自家製はエンタメだ。
著・文/浜竹睦子,発行/サンクチュアリ出版




普通の料理では飽き足らないという方のためのさらに上級者向けな1冊。健康、とかではなくエンタメのためにすべてを作ってみる食オタクイラストレーターの戦いの記録。かわいいイラストのコミックで読みやすい雰囲気ながら、各種調味料から始まって、ハム、ちくわ、漬物、クラフトコーラ、バター、モッツァレラチーズ……と、どんどんマニアックになっていくところが魅力。やるのは無理でもとりあえず知識欲は満たされる!


8.『Chat Diary ハングルで3行日記
編/株式会社アルク 出版編集部,発行/アルク




語学習得も大人になってあらためて取り組みたいもののひとつ。その言語のカルチャーが好きだったり目的があれば勉強も具体的でよいですよね。ゼロから日記を書くのはハードルが高い人でも、この本はインタビューのような質問の答えをハングルで書いてみる、という内容なので楽しみながらちょっとずつ続けられそう。勉強しながら内面のセルフケアの時間にもなりますね。

 

9.『知っている山からはじめよう! 大人の日帰り登山
著・文/鈴木みき,発行/講談社

 

 

鈴木みきさんといえば、2010年ごろの「山ガール」ブーム(森ガールとか……みなさん覚えてますか)が起きた時期からコミックエッセイを発表していて、なんと今も描き続け登り続け山を極めている山のプロ。私たち初心者にも手が届くような登山についての本をもう15冊くらい出してます。本書はいきなり本気の登山はちょっと厳しいかもという中年女子にぴったりの本。準備やトレーニングのことも詳しく描かれていてよいです!


10.『メルカリで知らん子の絵を買う
著・文/藤原麻里菜,発行/文藝春秋




最後は趣味のジャンルすら自分で作ってしまう、少し奇異でユーモアいっぱいの1冊。不必要なものを作る「無駄づくり」を信条としている著者がタイトルの通り、知らない子どもの絵をメルカリで入手してみたり、ひとりで軽井沢の高級ホテルのフレンチを食べに行ったり、キッズケータイに機種変してみたり……日常から少しだけ脱出するささやかな冒険のエッセイ。発想と実行力さえあれば、趣味なんてなくても日々は輝くのかも……!?

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。