あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「環境を変える、人生を変える、な本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『大工日記
著・文/中村季節,発行/素粒社




36歳の女性が海外で夢破れ、大工の世界で働き始めた日々の日記……と帯に書いてあるので、きっとどんなにつらくどんなに大変なのだろう、とページを開いたら何だかすっごく楽しそうでびっくり。転職というと不安や失敗ばかりに焦点を当てがちだけど、これくらい率直で清々しくてもいいんですね。新しい仕事の面白さやがビリビリ伝わるニュータイプの日記。


2.『39歳、初就職。
著・文/藤﨑 忍,発行/世界文化社




仕事で大きく人生を変えた人の本をもう1冊。著者はドムドムハンバーガーを立て直した現在の社長だったり、初めて就職したのが39歳だったり、気になるポイントづくしですが、読めば読むほどふつうのまじめな人で、特殊なルートではなく正攻法で流れるままに社長になったのだとわかります。「もう年だし、新しい環境なんて無理」とあきらめがちな人におすすめ!


3.『ゆっくり歩く』シリーズ ケアをひらく
著・文/小川公代,発行/医学書院



転職以外にも環境が大きく変わることはいろいろあります。たとえば親の介護の始まり。若いうちから海外に留学し、英国で文学研究をしていた著者。それまで猛進し、ゆっくり歩いたことなどなかったのに、ゆっくりしか歩けない母の介護をすることに。母とのぶつかり合い、さりげない会話、日々考えることから著者の新たな世界が開かれていく。ケアの時代の必読書です。


4.『あしたはうんと遠くへいこう』角川文庫
著・文/角田光代,発行/KADOKAWA



恋愛中毒気味な女性の、10代から30代までを追った小説。夢とか目標とか大それたものなんてなくても、ダメな男に振り回されても、行動力さえあれば何とかなる! だめなときは突然アイルランドに行ったり、トライアスロンに出たりすればいいんです(?)。主人公のように生きることをおすすめはしませんが、傷つくのが怖くてなかなか環境を変えられない、という人は参考にしてみては。


5.『台湾にひとりで1か月住んでみた 50歳、セカンドライフ模索中!』だいわ文庫
著・文/おがたちえ,発行/大和書房



子育ても終わって、この先どうしよう? と思ったときに著者の心に湧き上がってきた台湾移住欲。まずはお試しでやってみよう、ということで、実際に移住を考えている人にはかなり具体的に役に立ちます。かつ、著者の長年の台湾愛が伝わって、旅行だけじゃない外国の楽しみ方、いろいろあるなと気付かされます。ずっと日本にいて、日本で死ななきゃいけない決まりはないですよね。


6.『ようやくカレッジに行きまして
著・文/光浦靖子,発行/文藝春秋




海外脱出の本をもう1冊。40代にして日本の芸能界を少し離れ、カナダへ留学したお笑い芸人の光浦さん。3年間カナダで働く権利を得るため、入学したのは調理師の専門学校。先生に怒られたり自分勝手なクラスメイトと戦ったり、新しい生活は大変そうだけど、繊細で小心者でときどき性格悪いけどとてもやさしい光浦さんの魅力が文章から溢れています。そして永住権は獲得できるのか……!? 気になる結末はあとがきで。


7.『カンパニー』新潮文庫
著・文/伊吹有喜,発行/新潮社



自分で選んだわけでもないのに環境が変わってしまうこともありますよね。会社からも家庭からも戦力外通告をされた47歳のサラリーマンと、選手の引退で仕事を失った若手トレーナー。そんなふたりが突然「バレエ公演を成功させる」というミッションを下され、戸惑いながらも奮闘するお仕事青春小説。「何のために仕事してるんだろう?」と最近心がお疲れ気味な人にバシッと効きそう。


8.『ヤクザときどきピアノ』ちくま文庫
著・文/鈴木智彦,発行/筑摩書房




逆に、すぐには仕事や住む場所を変えられないという人も多いかと思います。そんな大人たちが始めてみたいこと第1位といえば「習いごと」ではないでしょうか。ヤクザのルポを中心に活動するコワモテおじさんライターが突然ピアノが弾いてみたくなって(しかもABBAを)、厳しく美しい先生のもと、発表会を目指してがんばる! 楽しく読めるけど、自分も何かを始めてみたくなる1冊です。

 

9.『あたらしい名前』ハヤカワepi文庫
著・文/ノヴァイオレット・ブラワヨ,訳/谷崎由依,発行/早川書房

 

 

楽しい本のご紹介ばかりになったので、少しシリアスな本も1冊紹介させてください。1981年ジンバブエに生まれた作者の実体験をもとにした小説。貧困と暴力で荒れるジンバブエから、アメリカへの移住。こどものような言葉で描かれるのは、ジンバブエの悲惨さや、新しい生活への戸惑い、故郷への複雑な思いなど、日本にいては知らないことばかり。でも出会えてよかったと思える作品です。


10.『宇宙にヒトは住めるのか』ちくまプリマー新書
著・文/林 公代,発行/筑摩書房




最後にとびきり非現実的なお引越しのご提案を。いや、もちろん「住めるのか」なので、現実的にはまだ無理そうですが……。月で栽培した野菜の調理や、重力がちがう星の住居の間取りを考えたり、地球より早く進む老化をどうするか……など読んでいるだけでなんだか楽しい。SFが好きな人なら今後の妄想にもきっと役立ちますよ!

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。