あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門は、先日、「テアトル蒲田」という閉館した劇場を使って開催された、キノ・イグルーのスペシャルなイベントを受けて、「今は無き映画館で観た忘れられない映画」をテーマにしました。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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有坂セレクト1. 有楽町「シネ・ラ・セット」で観た『冬の猿』
監督/アンリ・ヴェルヌイユ,1962年,フランス,102分
渡辺:これは、かぶったね!
有坂:なんでかぶったかというと、僕と順也が一緒に映画をよく観にいっていた20代?
渡辺:うん。
有坂:キノ・イグルーを始める前、僕が映画に目覚めたのが19歳なので、19から20代の後半くらいまで、よく映画を観にいっていたんですけど、その数多く一緒に観た映画の中で、お互いがもう同じ温度感で感動した。もう感動したなんて言葉じゃ表現しきれないぐらい、打ちのめされたみたいな。本当に深い感動で、もういっぱいになった特別な1本です。これはフランス映画なんですけど、1962年の映画で、当時フランスの大スター、ベテランスターだったジャン・ギャバンと、若手のホープ、これまでの映画スターを食ってしまうような勢いで出てきた、若手スターのジャン=ポール・ベルモンド。2人が初共演した、2大スターががっぷり四つでぶつかり合うという、ヒューマンドラマになっています。これはノルマンディの小さな街が舞台なんですけど、ジャン・ギャバン演じるアルベールという役。彼がホテルを営んでいて、何か本当は自分の人生こうしたかったのに、今はホテルを営んでいるみたいな登場の仕方で、そこに自由奔放な若いジャン=ポール・ベルモンドがやってくると。2人は、ふとしたことで交流が始まって、お酒を飲み始め、お酒をずっと我慢していた、あることが理由で我慢していたジャン・ギャバンも、ベルモンドとの交流の中でお酒を解禁して、飲み始めてからの2人の心の通い合いとか、あとは、映画の物語を観ているというよりは、本当にその人たちの人生を自分が味わっているような、何だろうね、本当に理屈ではちょっと説明ができないような。多分、それは映像のつくり方とか、冬のノルマンディのロケーションの美しさとか、あとちょっとこのDVDのジャケ写にも花火が映っていますけど、花火のシーンがね、屈指の名シーンなんですけど、本当にどの場面も心に残るようなシーン、心に残るような深い演技、極上の物語。もう余韻がとにかく深い、隠れた名作といっていいかなと思います。
渡辺:これ、前情報なしで観にいったからね。それもよかったんだよね。
有坂:そうだね。当時は、まだ雑誌の『ぴあ』があった時代で、僕らは、何観にいこうかというのを先に決めずに、とりあえず待ち合わせして、そこでお互いの鞄から雑誌の『ぴあ』を出して、何を観るって決めて行っていたんですけど、この『冬の猿』のときは、『エンドレス・サマー』っていうサーフドキュメンタリーか、『冬の猿』か、どっちにするって散々悩んで、「ジャン=ポール・ベルモンドが出ているから、なんかタイトルいまいちだけど行ってみようか」って行ったら、本当に打ちのめされるほどに感動したっていうね。そういった意味で不意打ちの出会いだったってことも、結果的には幸せだったなと思うんですが、でも、今みたいな事前の情報が入っても、改めてやっぱり名作っていえるような一作かなと思いますので、これからの季節にもうぴったりな一本だと思いますので、ぜひ! ちょっと観られる環境はDMM-TVとか限られていますけど、ぜひ観てほしいなと思う一作です。
渡辺:「シネ・ラ・セット」って、今、「ヒューマントラストシネマ有楽町」のところにあったんですね。もう建物ごと取り壊しで。
有坂:一回、更地になってね。
渡辺:という映画館ですね。なるほど、いきなりかぶったな、やはり。
有坂:これを言えば、もうあとはかぶらない。
渡辺:じゃあ、僕は、王道いきたいと思います。
有坂:どれ? どれ?
渡辺セレクト1. 渋谷「シネマライズ」で観た『トレインスポッティング』
監督/ダニー・ボイル,1996年,イギリス,93分
有坂:うんうん。
渡辺:渋谷の「シネマライズ」といえば、もう90年代のミニシアター作品を牽引してた映画館なので、もう有名な作品だらけなんですけど、その中でも『トレインスポッティング』は、やっぱり当時、アパレルとミニシアターがコラボし出すっていう、それでTシャツをね、『トレインスポッティング』は、結構いろいろな種類のものをつくっていて。しかも、『トレインスポッティング』ってデザインに、TOMATOっていうデザインチームが入って、かなりおしゃれなデザインで、ポスターとか、いろいろクリエイティブ回りをやっていました。なので、チラシも何種類もつくって、キャラクターごとのチラシをつくったりとか、ポスターをつくったりっていうのが、当時はめちゃくちゃ画期的だったんですね。今、結構あるんですけど、そういう手法は。でも、当時はそんなのはなくて、めちゃくちゃ画期的な感じで、登場人物、みんな主人公なんじゃないかって思わせるような、それぞれのキャラクターだけのポスタービジュアルができたりとか、それぞれのキャラクターごとのデザインのTシャツが、トランスコンチネンタルとコラボして発売されたりしていて、本当に当時の渋谷のスペイン坂は、このTシャツ着た人だらけが歩いているっていう。もう渋谷を歩くと、トレスポのTシャツ着た人たちばかりとすれ違うっていうぐらい、時代をつくった、何ですかね、ムーブメントになっていたっていうのが、本当にこのトレインスポッティング現象だったので、もう、そのど真ん中にいた「シネマライズ」。そこで観られたっていうのは、リアルタイムで観られたっていうのは、やっぱりすごい、あのとき観ておいてよかったっていう、思い出の作品と劇場かなと思います。
有坂:音楽もよかったよね。
渡辺:そうだね。音楽もオムニバス的に、こう既存の曲を使ってやるっていうのは、結構名盤の一つ。
有坂:そうだね。だから、その前にたぶん94年に『パルプ・フィクション』があって、そのタランティーノがつくる映画って、すごい編集的っていわれてね、いろんな情報をかき集めて自分の世界をつくるみたいな。で、サントラも漏れなくタランティーノ自身が選曲していると、話題になったサントラがやっぱりあったからこそ、ダニー・ボイルが選曲した『トレインスポッティング』も、しかも、そこにはイギー・ポップがいたり、ブラーがいたり。
渡辺:UKロックなんだよね。
有坂:あと、アンダーワールドがいたり、その時代をつくっているミュージシャン、そこから巨匠にステップアップしていくようなミュージシャンとかが、もうみんな一枚にコンパイルされていて、本当に何度も聞いたし、今、このビジュアルを観て思い出したんだけど、パンフレット、これね、トレスポのパンフレットは、紙がいい匂い!
渡辺:えっ?
有坂:なんか、すごい他のパンフレットと違う紙を使っていて。
渡辺:なんか銀色のやつ?
有坂:そうそう、なんか上質な紙を使っているんだけど、すごくいい匂いで、くんくん嗅いでいたことを思い出しました。
渡辺:本当?(笑)
有坂:これ持ってる人、ぜひ。持っていない人は、ちょっと探してみてください。
渡辺:何十年前の紙?
有坂:そうだね。まだ匂うかな?
渡辺:匂わないでしょ。そんなイメージないけどな。
有坂:まあ、そんなトレスポ(笑)。
渡辺:これはでも、アマプラとかで観られる。見放題じゃないけど観られそうですね。
有坂:意外と観られないんだね。はい。まあ、「シネマライズ」はね。じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。三本立てです。
有坂セレクト2. 「新宿松竹」で観た北野武映画3本立て
『その男、凶暴につき』
監督/北野武(ビートたけし),1989年,日本,103分
『3-4X10月』
監督/北野武(ビートたけし),1990年,日本,96分
『ソナチネ』
監督/北野武(ビートたけし),1993年,日本,94分
渡辺:んー!
有坂:これはもうね。こんなきつい映画体験なかったかなっていうぐらい、本当にハードな、時間でいうと多分6時間ぐらいなんですけど。これ、なんで武映画が3本立てで……1,800円で3本立てだったんだけど、公開されていたかっていうと、あの『HANA-BI』という映画が、ヴェネチア国際映画祭で最高金獅子賞を獲って、それの受賞記念で北野武特集をやっていたんです。で、初期の武映画の傑作って言われている、『その男、凶暴につき』『3-4X10月』『ソナチネ』の3本立て上映だったんですよ。これ観たことがある方ならお分かりだと思うんですけど、武のめっちゃバイオレンスな映画3本立てなんです。なので、1本観ててもぐったりするのに、これが3本続く。で、もう僕はそのときに、どれも観たことはあったので、内容を分かった上で行ったんですけど、でも、やっぱり改めて、なんかこの武映画の特徴の一つである、そのバイオレンスな部分を立て続けに観ることで、やっぱり本当にもう世界的に見ても、肩を並べる人がいないタイプ。本当に、突出した個性の監督だなっていうのが、この3本立てではっきりしました。武映画ってタランティーノと当時比較されたりしていましたけど、何が武の映画ですごいかというと、また怖いかというと、説明がないまま突然恐怖が始まるんですよ。撃たれたりとか。だいたい映画の中で描かれる見どころになるようなシーンっていうのは、事前に布石がちゃんとあって、「この後、この人撃たれるな」って観ている側は、どこかで分かりながら観ているんですけど、でも、武の考え方としては、現実で起こる暴力は突発的だから、それをそのまま映画で表現したいということで、そういう表現になっているんですけど、それをそのまま形にしたら、やっぱり映画としては新しい表現につながっている。特にデビュー作の『その男、凶暴につき』は、武本人が主演して、監督もしているんですけど、武っていうのは、もともと映画監督をやろうと思って、この映画をつくったわけじゃないんだよね。本当は深作欣二っていう『仁義なき戦い』あと『バトルロワイヤル』とか、あの人が監督をやって、武が主演だったのが、深作監督とプロデューサーの奥山和由が、もうもめにもめて、降板しちゃって監督がいなくなったときに、これはもう奥山和由の本当にファインプレイだけど、監督未経験の武の才能を買って、「やってみないか?」っていうオファーをしたら、武から出た条件っていうのは一つだけで、脚本の書き直しをさせてくれればやりますよ、ということで、結果的に監督デビューすることになったんですね。 だけど、もうその時点でカメラマンとか、録音のスタッフとか、制作チームはがっつり決まっていて、みんなベテランばっかりで、武は「コメディアンが映画監督するなんて」みたいに、すごいなんか上から目線でバカにされながら映画をつくっていったら、完成したものがとんでもないもの。ラッシュを見たスタッフがもう呆然、すごい監督だって認めて、そこから撮影がスムーズにいくようになった。
渡辺:うーん。
有坂:それで2作目が『3-4X10月』、4作目が『ソナチネ』。このファインプレイをしたプロデューサーの奥山和由は、その息子さんのほうが、多分みなさん知っていると思います。カメラマン、写真家の奥山由之さんが息子さんです。お父さんは映画プロデューサーで、さらに、そのお父さんも映画プロデューサーっていう本当に才能のある一家ですけど、そんな奥山和由と武のデビュー作から始まった3部作。ぜひ、あの勇気のある方は、映画の作品として本当に表現力も素晴らしいものなので、ぜひ観てもらいたいなと。新作もやってるしね。
渡辺:そうね。『首』。
有坂:ぜひ観てみてください。
渡辺:武映画ってね、暴力が痛いんだよね、描写がね。カラッとしたバイオレンスというよりかは、こう痛みのある、観ていて「あっ痛!」っていう感じの。あれがでも、韓国映画のバイオレンス映画に影響を与えたともいわれてるので。
有坂:そうだね、間違いなくね。
渡辺:そういった意味では力のある監督なんで、『首』も面白いんで。
有坂:まだ観てない。
渡辺:戦国時代であれをやってるんで。なるほどね。「新宿松竹」って、今の「新宿ピカデリー」だよね。
有坂:そうそう。
渡辺:じゃあ、ということで、僕の2本目はこれにしたいと思います。
渡辺セレクト2. 「銀座シネパトス」で観た『ダイ・ハード3』
監督/ジョン・マクティアナン,1995年,アメリカ,128分
有坂:シネパトスで観たんだ(笑)
渡辺:シネパトスで観た(笑)。「シネパトス」っていう映画館が、どういう映画館かというと、東銀座にあります。銀座から晴海通りを築地方面に行くときに、東銀座のあたりにあったんですけど、かなり変わった立地で、晴海通りっていう築地に抜けていく大通りがあるんですけど、その道路の下にあるんですね。この道路があって、道路の両脇に地下鉄に入るみたいな感じで、地下に入る入り口があって、地下街みたいなね、本当にただの一本道の地下街みたいな、居酒屋とかも入っている通りがあるんですけど、その地下街に併設された映画館です。この映画館のすごいところが、その下に地下鉄が走っているんですね。日比谷線とかが走っていて、その振動がめちゃくちゃ聞こえてくるっていう。
有坂:4D上映みたい。
渡辺:そうそう、そこでだからこういう『ダイ・ハード』とか観ると、なんかもう、この映画のバイオレンスの爆発の揺れなのか、地下鉄の揺れなのか、よくわからなくなってくるっていうですね、唯一そういう経験ができる映画館でした。「シネパトス」で、なんか静かなヨーロッパ映画は絶対観たくないっていう。「シネパトス」で観るんだったら、もうちょっとこうアクション系か、おバカな感じかみたいな。まあ、でもラインナップも、だいたいそういうラインナップだったんで。
有坂:B級アクションとかが多かったね。
渡辺:そうそう、本当にこう爆発があるようなタイプの。こういう『ダイ・ハード3』も爆発があってっていう、ブルース・ウィリスが泥だらけになってっていうアクションですけど、そういうのが本当に合う。で、映画の中のこの爆発なのか、電車の振動なのかみたいなのが、わからなくなったり、それが混ざり合ったりとか。それは、この映画の時間と電車の時間が見事にシンクロするタイミングとかがあったりするので。そういう奇跡的な映画体験ができるっていう、本当に変わった映画館でした。ここも建物の老築化っていうことで、なくなってしまったんですけど、その後、何も施設ができないので、もうそのまま埋めてしまったんじゃないかというぐらい、跡地も何もないからね。なので、もしかしたら下の地下鉄と距離が近すぎたのか。なんか今の建築法だとアウトな立地だったのかもしれないんですけど、あの時代だから観られたっていう。そういうちょっと映画館の質としたら相当「なんだこれ?」っていう、「振動すげえじゃねえか」っていう立地ではあったんですけど、あの時代だからOKだったっていう。今だったら多分アウトな環境だと思うんですけど、それもなんか楽しかったですね。本当に地下街に居酒屋とかがあったんで、酔っ払いの人とかもいるような、銀座エリアではありつつ、そういうちょっと下町っぽい雰囲気のある、不思議な映画館での映画体験という感じでした。
有坂:いいの観たね!
渡辺:結構ここは、わりとこの手のアクションを観たっていう思い出だね。息子が出てくるのかな? 3は。
有坂:サミュエル・L・ジャクソンが出てる、俺らの大好きな(笑)。
渡辺:3の内容は、あんまり覚えてないですが(笑)、体験としてめちゃめちゃ覚えている。
有坂:わかりました。じゃあ、僕の3本目いきたいと思います。
有坂セレクト3. 吉祥寺「バウスシアター」で観た『5windows』
監督/瀬田なつき,2011年,日本,40分
渡辺:バウスシアターで見たんだ?
有坂:そうなんです。『5windows』を紹介したいと思います。吉祥寺の「バウスシアター」は、駅からのびているサンロードっていうアーケードを抜ける手前にあった、今はラウンドワンになってしまったんですけど、そこにあった老舗の映画館になります。スクリーンが3つあって、大きな劇場、すごい天井高もある、広い空間のある大きな劇場から多分50席ぐらいの小さな劇場まで、割と劇場のサイズ感もバラバラで、上映する映画もドラえもんとかやりつつ、爆音映画祭という尖った企画もやったりっていう、本当にある種、一番理想的な街の映画館といってもいいのが、「バウスシアター」になります。
渡辺:爆音、走りだよね。
有坂:そうそう。僕が観た『5windows』は、『5windows 吉祥寺リミックス』っていうバージョンが上映されていて、それこそ爆音映画祭のなかの一プログラムとして上映されました。この染谷将太くんとか、中村ゆりかさんとかが出ている、若者4人の横浜の黄金町を舞台に、ちょっと人と人が交錯するっていう、物語があってないような、ちょっと不思議な感覚の映画で、音楽を蓮沼執太が手がけているので、物語よりは音楽とか、映像の雰囲気、世界観が本当にパチッとはまる人にとっては、もう特別な一作になるような、そういうタイプの映画です。
渡辺:うんうん。
有坂:これ、すっごい面白かったのが、僕が見た吉祥寺リミックスっていうのは、なんとね「バウスシアター」だけでの上映じゃなかった。映画館を飛び出て、街中の4カ所、コピス吉祥寺の屋上庭園、あとあの武蔵野公会堂のレストランの壁面、図書館の自転車置き場、あと高架下の壁面っていう、街中の4カ所にスクリーンを立てて、この『5windows』のうちの4つのエピソードをそれぞれの場所で上映する。で、最後の1エピソードは「バウスシアター」で上映する。で、これ順番とか特にないので、みんなコピスから観る人もいれば、図書館の自転車置き場から観る人もいたりして、みんな街中でそれぞれのエピソードを4カ所巡って、街歩きしながら、最後、みんな「バウスシアター」に決まった時間に集まってくる。そんな映画体験は、後にも先にもあの1回きり。すごいそれは面白いし、この『5windows』自体が40分の映画なので、その4カ所で流れている映画っていうのは、5分ずつぐらい。サクッと観られて移動して、サクッと観てってことで、最後の20分ぐらいをみんなで観る。だから、物語的な感動というよりは、本当に味わったことのない初めての映画体験をみんなで共有しているっていうのが、本当にもう僕にとっても、それ多分キノ・イグルーのイベントへのインスピレーションにもつながったなって思いますし、街を歩きながら映画を観て、歩いているその時間も映画の中の世界というか、ちょっとそういう不思議な、言葉で表現しづらいような感覚になるような、それぐらい特別なものでした。散歩しながら映画観るなんてね、なかなかできる体験ではないので、そういった意味でもこの「バウスシアター」は、やっぱり尖ったことやってくれるなっていう意味で、改めて劇場のことが大好きになった一作となっています。
渡辺:なるほど、「バウスシアター」ね。本当に惜しまれつつなくなって。
有坂:そうだね。
渡辺:一階に古着屋さんみたいな。あそこのアフリカ系の店員が、いつも客引きしてるイメージがすごくあったけどね。
有坂:あとクレープ屋さんがあったり、でも、あの雑多な感じが吉祥寺らしくていいなと思ったんですよね。
渡辺:いまや、ラウンドワンか。
有坂:残念ですが、そんな素晴らしい映画館が吉祥寺にありました。
渡辺:まあ、「バウスシアター」は挙げるだろうなと思って。
渡辺セレクト3. 「渋谷パンテオン」で観た『ロスト・ハイウェイ』
監督/デヴィッド・リンチ,1997年,アメリカ,135分
有坂:ははは(笑)、はいはい。
渡辺:渋谷の「パンテオン」っていう劇場が、今の東急プラザがあるところなので、渋谷の駅前なんですけど、場所的には井の頭線の渋谷駅の方にある場所で、今、東急プラザっていう東急の商業施設があるんですけど、そこが新しくできる前にあった映画館。そのときも東急文化会館だったかな? 東急の商業施設があって、その最上階が「渋谷パンテオン」という映画館なんですけど、「パンテオン」が有名だったのは、その座席数の広さなんですね。当時、1,000席ありました。1,000席クラスの映画館って、日本でも多分3劇場ぐらいしかなかったんですね。そのうちの1館だったんで、めちゃくちゃでかかったんですね。他のそのクラスっていうと、有楽町にあった「日劇」っていう劇場がそのクラスでした。今やってる『ゴジラ-1.0』で、当時できたばっかりの「日劇」が出てきていてですね。ゴジラにぶっ壊されているというのも、その辺も注目して観てもらえると楽しいんですが、そのぐらい有楽町の「日劇」といったら東宝のメインの映画館なので、そこと同じクラスのキャパシティを誇る、1,000席ってちょっと想像できないと思うんですけど、今、シネコンの一番大きい劇場っていうのが、500席クラスなんですね。ある程度、「新宿ピカデリー」とか、「TOHOシネマズ 新宿」とかメインのシネコンの一番大きいクラスが500席ぐらいなんで、その倍っていうのは、もう当然2階席もあるしっていう、ものすごいキャパシティのところに、お客さんが10人ぐらいしかいないっていうですね。そういう環境で、デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』を観てですね。この『ロスト・ハイウェイ』っていうのもすっごい変な映画で、暗闇のハイウェイを車のヘッドライトだけで走っている映像が延々と続く。そこに不穏な音楽が流れているみたいな。なんかデヴィッド・リンチらしく、謎が謎を呼ぶみたいな話で。奥さんがさらわれて、謎のメッセージが寄せられている。それはどういうことなのかみたいな。主人公は翻弄されてみたいな。それで、夜道を車で疾走するみたいなシーンがあるんですけど、まったく意味はわからないので、真っ暗な映画館で、眠気との戦いの中で必死にこのヘッドライトだけのハイウェイを疾走するシーンとか、起きてるのか、寝てるのかよくわからない不思議な感覚で、巨大なスクリーンを眺めていたっていうのが、すごい思い出のある映画館と作品です。デヴィッド・リンチを、あんな巨大なスクリーンと、劇場で観るってなかなか。やっぱりミニシアター系の監督だったりするので。
有坂:やっぱり『ツイン・ピークス』のヒットが大きいよね。やっぱりそれがあって、デヴィッド・リンチっていう謎の監督の新作だからということで、多分、俺は「新宿ミラノ座」で観たんだよね。
渡辺:ミラノもでかいですね
有坂:1,000クラスの映画館で、もうちょい10人以上はいたけど、やっぱりすごい少人数で、「なんてもの観せられているんだ」って思いながら、観ていた記憶があります。
渡辺:1,000人キャパってもうないからね。
有坂:そうだね。
渡辺:やっぱりそういうクラスの劇場があったっていうのと、そういうところでリアルタイムで観られたっていうのは、やっぱりね。今、思い起こしても結構貴重な体験だったと思います。これはなんか観られますね。見放題以外もありますが。まあ、デヴィッド・リンチの映画だっていう覚悟で、観ていただければなと思います。
有坂:じゃあ、僕もそのデヴィッド・リンチと同じぐらい、もうちょっとヤバめの映画を観た。これを紹介したいと思います。
有坂セレクト4. 渋谷「アップリンクファクトリー」で観た『セックス・チェック 第二の性』
監督/増村保造,1968年,日本,89分
渡辺:何それ?(笑)
有坂:知らないの? これは1968年の映画なので、もうだいぶ前の映画なんですけど、緒形拳が若い頃に出演した映画で、大楠道代と緒形拳が共演した作品です。まず、最初に渋谷の「アップリンクファクトリー」を紹介すると、吉祥寺にも「アップリンク」ってありますよね。渋谷にもちょっと前までありました。渋谷のアップリンクは元々、渋谷の神南エリアに「アップリンクファクトリー」という、マンションの一室を映画館にして運営していたんですね。そこから始まって、徐々に規模が大きくなって、今、吉祥寺と京都があるんですけど、そのマンションの一室の「アップリンクファクトリー」に、このとき僕は、『セックス・チェック 第二の性』を観に行ったわけじゃなくて。
渡辺:またまた(笑)
有坂:本当にそう。
渡辺:またまた、タイトルに惹かれて行ったんでしょ(笑)。
有坂:違うんだ、これがね、加賀まりこの『乾いた花』っていう映画を観に行ったんです。なんで加賀まりこかっていうと、『月曜日のユカ』っていう、圧倒的に可愛い加賀まりこの映画と同じ年につくられた『乾いた花』が、劇場で観られると思って、雑誌の「ぴあ」のオフシアター部門のコーナーの小さい情報を頼りに行ったの。で、始まったら、タイトルがバーンって『セックス・チェック』って出て、「え? 違うじゃん」って思って、でも、なんで違うのかも分かんないまま、もう始まった映画をそのまま受け入れるしかないと思って、この映画を観たんですよ。これね、そうそう、増村保造。
渡辺:増村なんだ。
有坂:そう、増村保造は、もう日本の名監督の一人。すごい変わったタイプの癖の強い世界観を描く彼の中でも、本当にもうとびきりな一本で。これ物語は、もともと緒形拳は短距離の選手で、すごいオリンピックに出られるぐらいの有望株だったのが、怪我をしたのかな? で、もう自分の夢が叶わなくなって、その夢をこの大楠道代演じる南雲ひろ子に託すわけ。で、もうこの1968年なので、今から見たらもうコンプラ全無視。もうセクハラ、モラハラの嵐、もうパワハラの限りを尽くすみたいな映画で。
渡辺:面白そうじゃん。
有坂:そう、それを、やっぱり当時観ても、それは衝撃的だったらしい。今の時代から観ると完全アウトなことを、堂々と圧倒的な熱量で何の迷いもなく表現しているから、あのね、ここまで堂々とやられると、ちょっとね爽やかな気持ちになるんだよね。
渡辺:(笑)
有坂:すげーなって、90年代のときに観ても、すっごいここまで振り切れるのもすごいし、表現として面白いなって思った。でも、今のねこの時代で観たら、さらに、それはもうモヤモヤも増すとは思うんですけど、とにかくでもね、実は映画として素晴らしかったんですよね。終わった後、もう結構感動して「いやー、すげーもの観ちゃったなー」と思ったときに、でも、なんでそういえばこの映画だったんだろうと思って調べたら、その雑誌の「ぴあ」の情報が間違ってたの。で、その『乾いた花』は観られなかったんですけど、でも、結果的に、この『セックスチェック』っていう映画を観られて、この増村保造っていう才能にも出会い、その振り切ったパワハラ、モラハラの嵐も作品として成立するっていうことを知ることができた。それは、本当にもう「ぴあ」が情報を間違ってくれたおかげって今は本当に思う。多分、それを知らずに、やっぱこの映画観ようって、なかなか思えないじゃない。だから、そういう意味でも、すごくなんかこう印象、いろんな意味で印象に残る映画体験でした。ぜひ、観てくださいとはとても言いづらい内容ですが。
渡辺:でも、やってないね。
有坂:配信ではやってない。配信かけられないんじゃない(笑)。
渡辺:コンプラ的に。
有坂:でも、劇場とかではたまにやってるので、この増村保造という監督の特集とか、やったときに、ぜひ探して観てほしいなと思います。
渡辺:増村は面白いからね。
有坂:面白いね。
渡辺:なるほどね。知らない映画だったな。
渡辺セレクト4. 「シネセゾン渋谷」で観た『太陽の下の18才』
監督/カミロ・マストロチンクエ,1962年,イタリア,95分
有坂:おお、うんうん。
渡辺:渋谷の「シネセゾン渋谷」っていうのがあったんですけど、場所的にいうと、今109のちょっと奥に行ったところのユニクロがあるプライムビル、あのビルの8階ぐらい、上の方?
有坂:そう上の方。
渡辺:そこにあった映画館です。で、セゾンがやっていた映画館なんですけど、当時は西武系のセゾンカルチャー、セゾン文化が全盛期だったので、セゾンカードとかね、チケットセゾンとか、チケットといえば「ぴあ」が有名ですけど、西武のセゾングループが、結構そういう文化事業をかなり力を入れていて、そういうチケットだったりとか、あと映画配給会社も持っていたりとか、映画館もつくって、それが「シネセゾン」なんですけど。90年代のときに、昔のリバイバル上映企画とかをやっていて、それがモノクロのそれこそヌーヴェルヴァーグの時代の50年代、60年代のフランス映画とかっていうのをよくやっていました。しかも、オールナイトとかでやったりしていて、その中の一つで紹介されたのが、この『太陽の下の18才』という作品で、主演がカトリーヌ・スパークっていうフランスの女優なんですけど、作品自体はイタリアですね。『女性上位時代』とか、このカトリーヌ・スパークってめちゃくちゃ可愛い女優なんですけど、彼女の主演した作品のいくつかをリバイバル上映という形で、これが何年だろう。62年くらいかな。だから、90年代当時からすると、30年以上前とかの作品を、なんか結構おしゃれな昔の映画っていう形で、音楽とかと一緒にプロデュースされていて。なので、それで当時の若者が、昔の古いフランス映画とかに熱狂するみたいな。そういう文化があったりしたので、まさにそのど真ん中で、こんなの知らなかったっていうね。観た作品の一つが、「シネセゾン」で数々上映されていた中で、この『太陽の下の18才』っていうのが、かなり思い出深い作品です。これは本当にバカンス映画で、カトリーヌ・スパークが主演して、若くて美しい女性と、それを取り巻く男性のお話という感じなんですけど、結構昔はこういう手のね作品が多かったし、それでなんか面白い作品が多くて、そのカトリーヌ・スパークの作品群は、今年かな? リバイバルをまたやっていてね。
有坂:去年か、2年前かな。
渡辺:また、まとめていくつか作品を、リバイバル上映をしていたんで、まだ知ってる人もいるかもしれないんですけど。その「シネセゾン渋谷」っていう映画が、結構そういうヌーヴェルヴァーグの時代だったりとか、昔のゴダールの作品なんかを、オールナイトで結構やってくれていたという思い出の劇場です。「シネセゾン」がなくなるっていったときは、かなり残念な気持ちになったのを覚えてる、という感じですね。
有坂:「シネセゾン渋谷」、実はバイトしたくて、出したら落とされて(笑)。書類の時点で落とされた。あ、違うわ、一回面接したのかな。「どういうものを期待してバイトしたいと思ったんですか?」って言われて、その順也が今言ったような、「リバイバル上映がすごい好きで、もうすべて、全作観ていますので」って結構熱いことを語ったら、「今まではそうだったんですけど、これからそういうリバイバル上映がなくなっていくんで」って言われて、その時点で落ちたなと思って(笑)。落とされました。そういう思い出が。
渡辺:そうなんだ(笑)。
有坂:思い出した。
渡辺:初めて聞いたかも。
有坂:そうだよね。忘れてた。完全に忘れようとしていた情報を。
渡辺:そうなんだ。その後どうなっていった?
有坂:レイトショーとかでも、割とドイツ映画の『es[エス]』とか、割とホラー系のものとか、アメリカ映画も、それまでは割とハリウッドメジャーが当たり前なところから、ちょっと中規模の映画が出てきた。そういうものが、割とレイトショーでもやるようになったりして、もうそのヨーロッパのリバイバルは、一時代が終わったなって。その一番いい時期に公開された一つが、『太陽の下の18才』。
渡辺:そうだよね。でも、本当に観られてよかったね。
有坂:すごい覚えているけど、ゴダールの『万事快調』を順也やと二人で観にいって、当時、僕はもう本当に小難しい映画こそ映画だみたいな。一番面倒くさいタイプの人間だったんですけど、で、順也を誘って行ったら、謎の映画だったじゃん。で、ちょっと終わった後、順也がちょっと怒り気味だった。意味がわかんないんだけどって(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:今は、もうちょっと耐性がついているからいいけど、まだそういうのを観てなかった時代だったのかな。
渡辺:そうだね。
有坂:珍しく怒ってたよ。
渡辺:でも、だいぶ後になってから『万事快調』観たよね。全然、意味がわかんなかった(笑)。
有坂:成長してないってこと(笑)。
渡辺:いやいや、あれはゴダールのせいだった。
有坂:そうね。それぐらいね。
渡辺:セリフがだって意味わかんないんだもん。
有坂:そう、セリフの意味を追ったらもうね、ノイローゼになっちゃうから、ゴダール映画は。
渡辺:なるほど。
有坂:わかりました。じゃあ、僕のラストは、さっきね、増村保造の映画で、ちょっとセクハラだ、モラハラだとか言ってしまったので、最後は美しくまとめたいと思います。
有坂セレクト5. 「横浜日劇」で観た『ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版』
監督/ジュゼッペ・トルナトーレ,1989年,イタリア、フランス,175分
渡辺:ああ!
有坂:「横浜日劇」って、「濱マイク」シリーズの映画の舞台になっているでもおなじみの映画館で、黄金町の「ジャック&ベティ」っていう今もある映画館。その斜向かいにあった劇場です。僕が、この『ニュー・シネマ・パラダイス』を観たのは、「横浜日劇」のラストショー。もう最後の閉館前最後の作品として上映された、無料上映で観た。
渡辺:無料なんだ。
有坂:そう、2日間の無料上映で『ニュー・シネマ・パラダイス』やって、これが2007年の3月にやって。なんで無料かっていうと、もうね、エアコンが完全に動かない状態で、
渡辺:寒いんだ。
有坂:だから、本当に極寒だったんですよこれ。もう僕、ダッフルコート着て、マフラーぐるぐる巻きで行って、劇場で脱いで観るんじゃなくて、劇場でもみんなそのまま、そのまま防寒していても、それ以上に寒くて、しかも雪降ってた、その日。でも、もうラストショーだし、しかも『ニュー・シネマ・パラダイス』が確か、完全版みたいな、長いのが。
渡辺:3時間くらいだ。
有坂:だけど、本当に震えながらみんな観ているんだけど、やっぱりこの劇場のラストショーを、途中で脱落しちゃいけないってみんな思ってるのか、みんなちゃんと最後まで観て、でも、やっぱり失われていく映画館の物語を、あの劇場で観るっていうのは、特別な体験で、そうこれこれ。175分頑張りました。
渡辺:死人は出なかった?(笑)
有坂:知る限りは、大丈夫だった(笑)。面白かったのが、映画が終わって、本当に拍手に包まれて、で、終わったら、みんな同じお店に駆け込んだの。みんなというか、結構な人たちが。その中の一人が僕だったんですけど、それがね、ラーメン屋。近くのラーメン屋に行ったら、そこの劇場から出てきた人がどんどんどんどん入ってきて。
渡辺:あったかいものを求めて。
有坂:そう、で、みんなそうですよねみたいな、めちゃくちゃ寒かったですねって笑いながら、その劇場のことを話す人がいたりとか、なんかそんな映画を観終わった人たちで、みんなでラーメン食べられるって、それもなんかすごい良い思い出だし、安心・安全・快適な環境では、このシチュエーションはできないなって思ったんだよね。だから、その瞬間は大変だけど、そこを乗り越えると特別な体験になるみたいな。富士山の登頂的な、そういう映画体験として、自分にとっては特別なものが、この「横浜日劇」の『ニュー・シネマ・パラダイス』でした。
渡辺:なんか、配給会社に聞いたら、その、映画館のクロージングに、一番かかる映画だって。
有坂:そうだよねっていう。「テアトル蒲田」で、この前やったもんね。
渡辺:本当に、それが似合う映画ではある、という感じですね。なるほど。
渡辺セレクト5. 「有楽町スバル座」で観た『0.5ミリ』
監督/安藤モモ子,2014年,日本,196分
有坂:うんうん!
渡辺:安藤モモ子監督、安藤サクラ主演の『0.5ミリ』という作品です。僕も、有楽町の「スバル座」が閉まるっていう、そのクロージング上映で観たのが、この『0.5ミリ』でした。確かその『0.5ミリ』が公開館だったから、それの縁でクロージング作品になったっていうやつだったと思うんですけど、有楽町の「スバル座」っていう映画館が、今のどこだろう、日比谷の「TOHOシネマズ」の裏手あたりにあった劇場なんですけど、もうね、すごいクラシックな昔ながらの映画館で、劇場のスクリーンの脇にちゃんとどん帳があってですね。えんじ色で金色に縁取られた、ベロア調の重たそうなカーテンのどん帳が、左右にあるタイプの、座席も全部赤くクラシックなスタイルで、映画が始まるときにブーってブザーが鳴るんですよね。昔ながらのスタイルで、しかもアナウンスが流れるんですよ。しかも、昔のアナウンサーが喋ってんじゃないかみたいな、女性の声で、これから映画が始まりますみたいな、注意文言というか、そういうアナウンスが流れるっていう。本当に昭和にタイムスリップしたんじゃないかみたいに思わせるような、かなりクラシカルな劇場が、有楽町の「スバル座」でした。そこのクロージングで、安藤モモ子監督の『0.5ミリ』を観たんですけど、このときに舞台挨拶付きでした。安藤モモ子監督、主演の安藤サクラ、彼女たちのお父さんである奥田瑛二と、その3人かなって。もう家族ですけど、が舞台挨拶に来ていて、もう、彼らの映画館愛とか、そういったものをすごい語ってくれて、安藤モモコ監督って、映像を観ている人はわかると思うんですけど、全身でジェスチャーで語るみたいなタイプの方なんで、身振り手振りをすごいしながら、この映画撮ったときはこういうところが大変でとか、こういう思い出があってみたいなことを、ものすごい熱量で語ってくれて、安藤サクラは結構なんかクールなタイプというか、人見知りが伝わってくるような感じの、ちょっと対照的な姉妹が面白いんですけど。で、奥田瑛二もかなり喋る方なので、負けじと、娘、モモ子に負けじと喋るみたいな感じで、だいぶ時間をオーバーしていたと思うんですけど、まあ、映画自体もすごい面白いですけど、なんかこういう人たちで作った作品なんだってことと、なんか映画館で映画を見ることの大切さみたいなことを、すごいモモ子さんが語っていて、なんかそういうのもすごい響いた会だったし、やっぱり映画館がなくなってしまうという悲しさと、映画館で映画をかけたいという人の熱い思いみたいなところを、同時に感じられた場所だったんで、それはそれですごいいい映画を観て、なんかなくなってしまう劇場で観られて、そういう思いもちゃんと感じられて、本当に映画館もその回、満席でしたし、すごいいい経験をしたという劇場と映画でした。
有坂:そのタイミングで観られてよかったよね。
渡辺:いや、本当に。
有坂:それ羨ましい。
渡辺:なかなかいい体験ですね。映画館ってどんどんなくなってっちゃうからね。毎年やっぱり何館かは、なくなってしまうし、そういうニュースとか流れたりとか、さっき言ってた「シネマ・ジャック&ベティ」も、今、クラウドファンディングを募集して、老築化で、その建て替え費用がないから、このままだと危ないみたいな。だから、そういうのは積極的に応援してあげたいなと思いますし、なかなか、どんどん古い映画館がなくなってしまうので、そこはどうにかできないかっていうのをね、ありますよね。
有坂:そういうこともあって、この前、蒲田でやったイベントは、映画館愛を持った人たちが集まって、ともに映画館で一日を過ごすところから、何かが生まれないかなと思ってやったイベントで、実際でも高校生とかも来てくれたりして、あの女子高校生とかもすごいエネルギーだったね。
渡辺:日芸に行きますみたいな感じだったもんね。
有坂:やっぱりそういう場所があることで、直接文字とかだけではない。心の交流とか熱量とかって、やっぱり必要だし、映画もね、いろんな環境で観られるのは間違いなくいいことなんですけど、みんなが決まった時間に集まって、同じ物語を共有する。そこからしか生まれない感動というのは間違いなくあるのかなと思います。今回ね、小池くんが体験したところから、いいテーマを与えてくれて10作品紹介しました。ぜひ、みなさん、観てない映画、観てみてください。
──
有坂:では、最後にお知らせがあれば。
渡辺:僕が、普段、フィルマークスで映画のリバイバル上映企画とかやってるんですけど、 今度12月には、六本木の蔦屋書店で、トークイベントとか、来場者同士が映画の話で盛り上がれるみたいな、「Filmarksファンミーティング」をやるんですけど、それを2回やります。12月7日(木)と15日(金)。それぞれ、7日のほうはゲストがいて、STUDIO PONOC(スタジオポノック)っていうアニメスタジオがあるんですけど、そこのスタジオがもとジブリの人たちでつくられたスタジオなんですけど、12月に『屋根裏のラジャー』っていう新作映画があって、その監督とプロデューサーがゲストに来てくれるという感じですね。もとジブリの人たちを招いたイベントっていうのをやります。僕が、MCをやるというのをやります。15日の方は、それは蔦屋書店さんとのタイアップなんですけど、2023年の映画を振り返るみたいな企画と、あと90年代の映画のリバイバル上映とかをやってるので、90年代映画について話をするので、これもゲストがいてですね、こっちのゲストは、なんと映画芸人のこがけんさん、こがけんさんを招いて、そっちも僕がMCをするというイベントを12月にあります。
有坂:ゲストで行こうか?
渡辺:よろしくお願いします(笑)。
有坂:僕のお知らせは、これです、何と言っても。
渡辺:見えるかな。
有坂:キノ・イグルー20年目にして、初の著書。『18歳までに子どもにみせたい映画100』というですね、本を、12月4日(月)発売で刊行します。ありがとうございます。嬉しい! 本当にでも、キノ・イグルーとして物販をまったくつくってきていない中、いきなりこんな立派な本をですね。これ、KADOKAWAから出すんですけども、これちょっとわかりづらいかな。ハードカバーで映画100本紹介している。ちょっとあまり見せられない。パラパラっと。子どもたちにみせたい映画100本を紹介しているんですけど、例えば、ある映画、今日の映画でいうと『ニュー・シネマ・パラダイス』のページがあったとしたら、ニュー・シネマ・パラダイスが好きな人には、この2本もおすすめですっていうことで、1作品におまけが2本ついてるので、トータルで言うと300本紹介しています。で、子どもたちに合わせて映画を選ぶんですけど、ただその合わせすぎるのも、僕個人的には良いことではあんまりないなと思っていて、というのは、やっぱり映画がその子の良さを引き出してくれる。映画には、そういう力があると思っているんですね。なので、なるべくいろんな多種多様な本当、多様性の時代ということもありますし、いろんなものに触れてもらいたいということで、結構レンジを広く持っていろんな映画を紹介しています。イラストを、全部描き下ろしのイラストで、タイ人のイラストレーター、本当に素敵なエオウェンさんという女性の方が描いてくれたもので、デザインは雑誌の『POPEYE』とかも手がけている「白い立体」というチームです。本当にこれは、クリスマスギフトとしても最適な一冊だと思うので、ぜひ12月4日発売なので予約も受付していますので、Amazonなどで気になった方はぜひチェックしてみてください。これの出版記念のイベント、トークショーも行います。さっき順也は六本木の蔦屋書店でしたけど、僕はですね。代官山の蔦屋書店。日程は、12月14日(木)の夜7時から行います。このトークショーは、この本の担当編集をやっている方がMCで、基本的には、僕のほうでこの本をつくるにあたってのいろんな思いであるとか、裏話。あと、僕個人的に僕自身をつくってきた映画、今子どもと一緒に見たい映画、そんなテーマで90分、お届けしたいと思っています。こちらのトークショーも、予約の受付は始まっていますので、気になった方、ぜひこちらにもご参加いただけると嬉しいですし、もし参加してくださったら必ず声をかけてください。これを見てきてくれてたら、すごい嬉しいな。はい、この本です。このイラストを映画館の幸せな光景をイラスト化してもらって、よく見ると、ある映画のキャラクターが紛れ込んでいたりしますので、ぜひ、そんなところもチェックしてみてもらえたら嬉しいです。はい、以上です。
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有坂:ということで、あっという間にいいテーマでした。来月は12月ということは恒例のあの企画でしょうか。
渡辺:アカデミー賞ですね。
有坂:「勝手にアカデミー賞」かなと思いますが、また日程など出たらSNSなどでお知らせしたいと思います。はい、では今月のキノ・イグルーのニューシネマ・ワンダーランドは、これで終わりたいと思います。遅い時間まで、みなさんどうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました。おやすみなさい!
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)