あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回のテーマは、「あの動物の素晴らしさを思い知った映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月も有坂さんが勝利し、後攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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渡辺セレクト1.『ドリーム・ホース』
監督/ユーロス・リン,2020年,イギリス,114分
有坂:ほー、うんうん。
渡辺:これは去年公開なんですけど、全然期待しないで観に行ったらめちゃくちゃ面白かったっていう映画で、どんな話かというと、イギリスの一般的な主婦がですね、自分のお小遣いとかを貯めて、「競争馬を買おう」と。でも、競争馬は高いので、村人みんなを巻き込んでですね、みんなで出資しようというのを、どんどん1人口説き、2人口説き、税理士を口説いて、「税理士がこう言っているから大丈夫」とか、そういったことを言ってですね、みんなで、村人全員を巻き込んで競争馬を買うっていう。それで、夢を買うみたいな形のことを、起こしていった主婦の話で、これ実話がベースになっているっていうのがすごい。ついに競争馬を買うんですけど、そのみんなの夢を託された馬が「ドリームアライアンス」っていう名前で、この子がですね、みんなの期待を背負わされすぎて大丈夫かと思いつつ、なんと勝ち進むっていうですね。最初は、もう馬を買うところから「どうするんだ、どうするんだ」ってやってるところからですね、ついに馬を買うっていうところにいって、実際どうなんだっていったら、なんとか勝ち進んでいくみたいな。けっこう、スポ根ものの最初はダメダメだったけど、だんだん最後勝ち進んでいくっていうのと、同じようなつくりの作品となっていて、めちゃくちゃ観やすいですし、面白い。そして、みんなの夢を託されたドリームアライアンスが、けなげに頑張るところがめちゃくちゃ可愛いっていうところの感動もあり、笑いもありっていう、とても面白い作品となっています。これ、配信も観られるかな。配信もそうですね、いろんなところでやっていますので、これはわりとハードル低く観やすいタイプの作品なので、ぜひ楽しんでもらえればなと思います。
有坂:観てないんだよね。
渡辺:ええ、そうだっけ? これは本当にわかりやすく面白いタイプですね。
有坂:他の映画でたとえるとどんな作品?
渡辺:えっとね、『がんばれ!ベアーズ』。
有坂:わかりやすい! それはもう安心して観られるやつだね。でも、イギリス映画で珍しいね。ちょっとイギリス的なブラックユーモアとか、ちょっと暗い部分もあったりするんですか?
渡辺:それもあります。やっぱり、みんなお金がないから、だから、一攫千金じゃないですけど、夢を見るっていうのがあるんですけど、そういうちょっとなんか経済事情が厳しいみたいな背景は、ちゃんとそれぞれみんなあるという。
有坂:じゃあ、そういうイギリス映画ファンも楽しめる。
渡辺:そうですね、そうなんですよ。
有坂:レンジの広い映画だね。なるほど、勉強になります!
渡辺:まずは、馬からいきました。
有坂:じゃあ、僕の1本目、僕は犬とペンギンが出てくるイギリス映画。わかる何か?
渡辺:犬とペンギン?
有坂:1993年の映画です。
有坂セレクト1.『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』
監督/ニック・パーク,1993年,イギリス,29分
渡辺:はいはいはい。
有坂:わかった?
渡辺:いや、わかった! だって候補にしてたから(笑)。
有坂:いや、いいんだよ、別に被ってもね、今回は(笑)。これはもう分かりやすい、言わずと知れたウォレスとグルミットのシリーズの第2作目にあたる作品です。30分の短編で、これ1つ前の第1作目は、『チーズ・ホリデー』というもうちょっと短い映画で、30分バージョン、これ二本立てで、当時公開されていました。これ、内容は、天才発明家のウォレスが相棒の犬・グルミットと暮らしていて、グルミットの誕生日にちょっと奮発してNASAが開発した「テクノズボン」っていうプレゼントをしたものの、ちょっと出費が大きすぎて家計が苦しくなり、でも、ウォレスは自分の空いてる部屋を貸し出して、なんとか家賃収入を得ようということで貸し出したところ、そこに謎めいたペンギンが下宿を始めて……という映画となっています。この映画は『チーズ・ホリデー』も素晴らしい映画なんですけど、劇場でこれね、実は僕と順也、一緒に観ているんですよ。
渡辺:一緒に観に行った?
有坂:そうそう。
渡辺:そうだっけ?
有坂:こういうのをだいたい忘れる男なんですけど(笑)、銀座の「シネ・ラ・セット」っていうところで、これ観にいって、本当に衝撃で! これってアニメーションの表現で言うと、クレイアニメーション、粘土でできたアニメーションで、それをコマ撮りで動かしているんですけど、だんだん粘土の質感っていうのが失われてくる。もう粘土か、粘土じゃないかもわからなくなる前の、まだ本当にコテコテの粘土でつくっているなという時代のウォレスとグルミットなんです。それがいいんですよ。本当に手づくりで、こんな素晴らしい映画をつくってくれたなっていうのが、もうその絵からも伝わってきます。この『ペンギンに気をつけろ!』の本当に見どころというのは、後半の模型列車のチェイスシーンで、すごいハラハラドキドキする、スリル満点のアクションシーンが後半に待っているんですね。それまでクレイアニメーションって、どっちかというとアートアニメーションで、そんなに動きのあるハリウッドのエンタメ映画みたいな雰囲気とはまったく違うね、わりと暗いトーンのものとかが多かったりしたんですけど、それとは真逆の突き抜けたエンターテインメントとして、このクレイアニメーションを形にしたということで、当時本当に画期的な一本でした。実際にアカデミー賞、アメリカのアカデミー賞でも短編アニメーション部門で、『チーズ・ホリデー』もノミネートされてたんですけど受賞ならず。2作目のこの『ペンギンに気をつけるろ!』もノミネートされ、これは見事受賞を果たしました。なので、これをきっかけにニック・パーク監督とこのシリーズというのは、世界的な評価を受けることになった、ある意味記念碑的な作品です。ちょっと裏話をすると、この映画の原題(The Wrong Trousers) は、ある昔の映画のタイトルをもじっていて、その映画というのが、『間違えられた男(THE WRONG MAN)』というヒッチコックの映画をもじった原題なんですよ。実際、怪しい下宿人という設定も、ヒッチコックのその名前ずばりですけど、『下宿人』という映画から来ていたりという意味で、実はこのヒッチコックオマージュがすごく感じられる作品でもあります。なので、この映画をきっかけにヒッチコック映画を観ても面白いですし、ヒッチコック大好きだよって人で、「ウォレスとグルミットなんて……」って思ってる人がいたら、ぜひ観てください。なんかそんなところでね、まったく異なるタイプの映画好きがつながるといいなと思いますし、つながれる魅力的な映画となっております。シネ・ラ・セットで観ましたよ。
渡辺:そうでしたか。まあ確かに、でもクレイアニメのね、あの時代の粘土っぽいっていうのはわかるね。
有坂:なんか、だんだんきれいになっていくことが寂しかったよね。
渡辺:最近のコマ撮りのやつって、クオリティが高すぎてコマ撮りじゃないみたいな。そこまでいっちゃってるところがあるから、
有坂:多分、これからAIの時代になっていくと、逆に手づくり感とかアマチュア感が出ている映画の方が、心を動かす時代になるだろうなっていう。
渡辺:いや、そうだよね。
有坂:その目線で観ても、今観るからこそ面白い映画かもしれないので、ぜひ観てください。
渡辺:じゃあ、僕の2本目は。
有坂:動物は何ですか?
渡辺:動物は犬ですね。
有坂:犬、いっぱいあるよ。
渡辺:2023年のアメリカ映画です。
渡辺セレクト2.『DOGMAN ドッグマン』
監督/リュック・ベッソン,2023年,フランス、アメリカ,114分
有坂:それ、きましたか!
渡辺:犬が映画としては、やっぱりいっぱいあるんですけど、昔の作品を考えるとすごいベタになっちゃう気がしていて、最近の作品で犬といえばこれだなと。これがですね、実は、リュック・ベッソン監督なんですね。リュック・ベッソンの新作なのに、「こんなのやってたっけ?」っていうほどの地味さなんですけど、まさに『DOGMAN ドッグマン』っていうタイトルで、なんかポスターがね、女の人の顔のこれなんですけど、これよく見ると、女装した男性なんですね。犬のドーベルマンの顔も横にあるみたいなポスタービジュアルになっていて、これがどういう人かというと、なぜか女装した男性が、警察の職質でトラックを止められるんですけど、そうするとトラックの荷台には数十匹の犬がいるみたいな。そんなシチュエーションから始まる映画なんですね。警察が連行して話を聞くみたいになったら、半生を語り出したっていう。で、どういう話だったのかっていう、このドックマンと言われた男の半生が語られ出すという映画なんですけど。この男が、ドックマンと言うだけあって、犬と共に生きてきた男なんですね。いろいろちょっと不幸な生い立ちとかもありながら、犬と共に過ごしてきた男の話。この中に登場する犬たちがめちゃくちゃ良くて、このドッグマンとはすごいですね、心を通わせていて、意思疎通が完全にできていて、ドッグマンの言うことを忠実に何でも聞くという話で、途中で料理するシーンとかがあるんですけど、ドッグマンが「あれ」って合図したら、小麦粉とか砂糖とかをちゃんとくわえて持ってくるっていう、どんなしつけをしたらこんなふうになるんだみたいなぐらい忠実なところが、めちゃくちゃ可愛かった。とはいえリュック・ベッソンの映画なので、リュック・ベッソンってどういう監督かというと、基本的に復讐劇を撮る人なので、そういう復讐、バトルシーンみたいなのがまた出てくるんですけど、そのときにまたワンちゃんたちが大活躍するっていう、ディズニー映画でも『101匹わんちゃん』とかで、スカッとするワンちゃん大活躍みたいなのがあるんですけど、これがリュック・ベッソン流に描かれているっていう作品となっていて、本当にこのワンちゃんが可愛いっていう!
有坂:その一言(笑)?
渡辺:でも、なんかこのポスターから、そんな映画だとはまったく思わなかったけど、リュック・ベッソン、なかなか面白いのつくるなっていうのもありますし、この犬切り口で、こんな作品がつくれるんだっていうですね、そんな作品となっております。
有坂:これは本当に、予想外に面白かった! 本当に見逃さないでよかった、これ、女装している俳優が、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズって、もう知る人ぞ知る名優で、僕が一番好きなのは『ニトラム』って映画もいいんですけど、『スリー・ビルボード』のオレンジジュースの人だよ。
渡辺:オレンジジュースの人?
有坂:オレンジジュースのめちゃくちゃいい人だよ。
渡辺:オレンジジュースのいい人ってなんだよ?
有坂:レッド君だよ
渡辺:え、レッド君? そんな人出てたっけ?
有坂:多分、この映画の役とイメージが違いすぎて、なかなかつながらないと思うんですけど、ぜひ『スリー・ビルボード』を観て、包帯ぐるぐる巻きのオレンジジュース飲む人って、ワードだけ覚えていてください。そしたら、「うわ、この人か!」って、もうあれで、オスカーにノミネートされたのかな? 本当に助演男優賞みたいな、ノミネートされそうな、本当にピリリとスパイスを効かせた脇役をやってた人が、主演も張ったっていう、すごい実力者ですね。
渡辺:そうだね。
有坂:じゃあ、そんなワンちゃんの次、僕はかなり変化球でいこうと思います。
渡辺:何ですか、動物は?
有坂:動物でいうとヘビ。
渡辺:ヘビ!?
有坂:わかる? 2006年のアメリカ映画です。
有坂セレクト2.『スネーク・フライト』
監督/デヴィッド・R・エリス,2006年,アメリカ,107分
渡辺:ああ!! 見てないわ。
有坂:見てないの?
渡辺:見てない。そういうの見ないから(笑)。
有坂:聞きました? 今の。
渡辺:これ、予告編で全部わかるタイプの。
有坂:いや、それがね、わかんないんだよ。だいたい合っているんだけど。この映画は、どういう映画かというと、『スネーク・フライト』ってそのまんまなんですけど、このビジュアル観たら余計にみんな観る気なくなっちゃうかもしれないんですけど。
渡辺:B級感がすごいんだけど(笑)。
有坂:しかもフィルマークスの評価がめちゃくちゃ低いんだよ。3.2とか。これはいわゆるパニックアクションです。飛行機で、いわゆるジャンボジェットに搭乗したものの、そのジャンボジェットがハイジャックされて、その飛行機の中で大量の毒蛇が荷物として積まれていて、その毒蛇の箱が開いているというパニックアクションになっています。主演は、サミュエル・L・ジャクソン。タランティーノの『パルプ・フィクション』とか、いろんな映画でおなじみの彼が蛇とバチバチで戦うわけですよ。サミュエルvsヘビです。そんな設定、いわゆるB級映画の鏡のような、最高品質のB級映画だと思っているんですけど、一応、マフィア組織がいてとか、いろんなバックグラウンドがあるんですけど、飛行機の中でいかにサミュエル・L・ジャクソンがヘビを倒すか。逃げ場のないところでどうやったら倒せるのか。それは、普通に考えたら辻褄の合わないことなんてありますよ。それを押し切るのが、B級映画としての面白さ。そこを迷いなく貫き通しているところが本当に清々しくて、僕は大好きな映画なんですよ。フィルマークススのこの評価は、ちょっとどうかなって、ちゃんとみんな観たのかなって。
渡辺:あってると思う(笑)。
有坂:この映画は、やっぱりね、深夜とかにお酒を飲みながら観るとか、みんなでわいわい観る、いわゆるポップコーンムービーとしての魅力がすごくあるので、観る環境はそれぞれみなさん考えた方がいいかなとは思います。実際に、500匹のリアルな本物のヘビを使ったらしくて、そこはB級映画でも、こだわるとこはこだわるっていう、その監督のデヴィッド・R・エリスという人の志の高さみたいな感じで、僕はぐっと来たんですけど、このデヴィッド・R・エリスという監督は、60歳にして亡くなっていて、僕、最近知ったんですけど、この人って『スネーク・フライト』で、すごい監督が出てきたと思って調べたら、『ファイナル・デスティネーション(2)』を撮ってた人で、あと、『セルラー』とか、シンプルなシチュエーションでB級映画的な面白さを最高レベルまで高められる、面白い人出てきたなって思ったら、何年だっけな2000何年かに亡くなっちゃったんだよね、60歳にして。なので、そんな彼が遺した最高品質のB級映画はぜひ観てほしいですし、これでヘビの素晴らしさを思い知った。だから、ヘビを見たときにこの映画を思い出すようになったので、ヘビってただ怖い対象だったのが、楽しいパニック映画を思い出せるという意味で、日常でヘビが出てきても心のゆとりが出るようになりました。そういう意味でも、ぜひ観てほしいな。
渡辺:これやってんの?
有坂:配信で観れないのかな? 観られない、まさかの。
渡辺:B級すぎてやってないっていう。
有坂:いずれ観られると思うので、ぜひ観てください。
渡辺:じゃあ、そんなB級、ちょっとね、僕もあんまり……マイナーなやつ行きたいと思います。3本目は動物でいうと、豚です。
有坂:あれじゃない?
渡辺:違うよ。2022年のオランダ映画です。
渡辺セレクト3.『愛しのクノール』
監督/マッシャ・ハルバースタッド,2022年,オランダ,73分
有坂:『愛しのクノール』、あったね。
渡辺:これもけっこうひっそりとやっていたやつなんで、全然メジャーじゃないんですけど、これもクレイアニメなんですね。人形をコマ撮りで撮った作品なんですけど、これが、クノールっていう可愛い豚ちゃんが、主人公。まあ、主人公は真ん中で投げている女の子なんですけど、このクノールという豚を中心に巻き起こるお話なんですね。なんか、アメリカ映画と違うのは、ヨーロッパなので、ちょっと話自体は、何ていうのかなグリム童話っぽいというか、ちょっとなんか怖さもあるグリム童話っぽい内容です。内容としては現代劇なんですけど、おじいちゃんから誕生日に子豚をプレゼントされるっていう、前半はめちゃくちゃほのぼのとした感じですね。クノールが可愛くて、クノールをみんなで可愛い可愛いって育てていくっていう話なんですけど、後半、実はおじいさんには、とある狙いがあってクノールをプレゼントしてたっていうのが分かってくるんですけど。それがなんとですね、おじいさんは無類のソーセージづくりマニアで、豚をソーセージにしたいっていう、その思いで、実は孫に小豚をあげていたっていう、とんでもないことが発覚して。それでピンチになって、それに気づいて「逃げろクノール!」みたいな。「みんなで逃がせ、クノール」みたいな展開になっていくっていうですね。そういう、なんでちょっとねトーンも後半変わる感じではあるんですけど、その辺のスピード感が増してくる面白い作品となっています。なんか、ちょっとその辺がダークさもある、教訓もあるみたいなところが、童話っぽい感じの作りになっていて、全体もね90分とか80分とか短かったと思うんですけど、さっくり観られる感じの作品になっています。でも、クノールはとにかく可愛い。あと、特徴的なのが、めちゃめちゃウンチするんですよね。なんか「ブリブリ」って子どものときからやるっていうのがギャグみたいになって、それが都度、都度入ってくるみたいな、というのが、途中でも流れを変える一つの動きになるのが、またブリブリってウンチするのがキーワードになったりとか、そういう面白さもある作品となっています。これも配信が確かないんですよね。なんかあるかなと思ったら、意外となかった。去年公開なんで、もしかしたらもうちょっとしたら配信に入ってくるかもしれないですけど。という、ちょっと小さい作品でした。
有坂:『ベイブ』じゃないんだね。
渡辺:『ベイブ』じゃない。メジャーすぎるかなと思って。
有坂:そっか。そんな後に、超メジャーなやつをいきたいと思います。僕の3本目は、クマが主人公のあの作品。
渡辺:ああ、あれだね。
有坂セレクト3.『パディントン2』
監督/ポール・キング,2017年,イギリス、フランス,104分
渡辺:はいはい。
有坂:大好きな人も多いと思います。もふもふな愛され熊のパディントンが主人公の第2作目です。これはペルーのジャングルで住んでいたパディントンが、イギリスのロンドンにやってきたっていう話で、そのロンドンで大好きなルーシーおばさんの100歳だっけ? 誕生日プレゼントを買いたい、探しに行こうっていうパディントン。そこで、骨董屋さんで飛び出す絵本を見つけて、買いたいけどなかなか高くて買えないということで、アルバイトを、買うためにアルバイトをして人生初めてのアルバイトをしながら、大好きなルーシーおばさんのためにプレゼントを買おうとしていたある日、その絵本が何者かに盗まれてしまうという事件に巻き込まれます。で、なぜかその警察の手違いがあって、パディントンが盗んだと勘違いされて、逮捕されてしまうんですね。刑務所暮らしが始まるというような物語になっています。自分のその汚名を晴らすために、いろんな刑務所の中で、まるで『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスかのようにパディントンはね、その中で善人ぶりを発揮して、ちゃんと自分の居場所をつくりつつ物語が進んでいくっていう、ちょっとこうなんていうんでしょう、サスペンス的な要素もあるような作品となっています。で、いわゆる敵役みたいな形で、ヒュー・グラントが出てて、ヒュー・グラントがすごい良いんだよね。なんかあのちょっと澄ました感じとかを、すごくうまく生かした悪役みたいな形で、すごくパディントンの魅力に負けないぐらいの悪役ぶりで、映画がけっこう1に比べると、エンターテインメントとして大きくなったなと感じる作品です。で、なんかこれもわりと後半にかけてのアクションシーンとかが見どころなんですけど、あのチャップリンとかバスター・キートンみたいな、ああいう往年のサイレントスター、無声映画のスターのアクションシーンをオマージュしてるなっていう、つくり手の本当にこの人、映画を知っているなっていうようなところも垣間見えたり、でも単純に刑務所の囚人服のボーダーも可愛かったり。
渡辺:ピンク色になっていてね。
有坂:そう、ピンク色になっていたりとか、あとはアンティークのお店とか、移動式カーニバルとか、古典演劇、衣装とか、なんかね出てくるアイテムがみんなおしゃれなんだよね。音楽もかっこいいし。で、いろんな小ネタ満載で、伏線も回収しつつ、ラストの大団円につながっていくという、エンターテインメントとして本当に素晴らしい作品じゃないかなと思います。これはキノ・イグルーでも、去年の恵比寿ガーデンプレイスのピクニックシネマで上映して、そうしたら『パディントン2』が大好きっていう、小一の双子の男の子が来てくれて、お母さんから教えてもらったんだけど、DVD持っていて本当に100回以上観ています。でも、大画面で観るのは、今回が初めてでした。二人の男の子が初めて観るかのような、キラキラした目で『パティントン2』を観て、終わった後に、そのお母さんに「今まで観た『パディントン2』で一番面白かった」って言ってくれたらしいんですね。連れてきたお母さんはよかったよかったって思っていたら、その双子の男の子は「このイベント、明日も来たい」って言って、明日の作品というのは当然『パディントン2』ではなくて『海の上のピアニスト』なんですよ。『パディントン2』は吹き替え版だったけど、『海の上のピアニスト』は字幕版で長いし、内容も大人向けみたいなところで、お母さんは「理解できないからやめとこう、今日のでいいでしょ」って言っても、やだやだって言って、結局、翌日もその双子の男の子は来て、最前列陣取ってくれて『海の上のピアニスト』を観たら、字幕が読めないはずなんですよ、小一の男の子なんで。でも、本当にもう食い入るように観て、終わった後にお母さんに言った言葉が、なんと「『パディントン2』より面白かった」。それだけで終わらず、映画のティム・ロスのピアニストとか、あとモリコーネの曲に感化されて、ピアノを習いたいって言ったらしいんですよ。で、実際に習い始めた。それを、お母さんから、実はそんなエピソードがあったんですっていうお礼のDMが届いたんですけど、お母さんからしたら自分の子どもに、ピアノをやる可能性があるなんてことを考えたこともなかった。「だから、映画が自分の子どもの良さを引き出してくれました」っていう連絡をもらったんですよね。でも、それって映画の可能性だし、映画のポテンシャルだと思うんですよ。でも、そのいきなりね、例えば、『海の上のピアニスト』を観せていたら、彼らは同じようにピアノを習ったかっていったら、多分習わないし、最後まで観られたかもわからないんですけど、そのきっかけになったのが『パディントン2』、大好きな映画が入り口になって、そこまで広がったっていう意味でも、キノ・イグルーとしても思い出深い一作かなということで、『パディントン2』を紹介しました。
渡辺:そんなこともありましたね。
有坂:いやー、本当、こんな出来すぎた話だよね。本当、嘘のような話なんですけど、実話です。
渡辺:なるほど。じゃあいよいよ4本目ですね。4本目は、僕はですね、羊です。
有坂:おお、あれだね。
渡辺:はい、あれです。さっきね、ちょっとカスってというか、一旦かぶりそうになってからのなんですけど、2015年の作品。
渡辺セレクト4.『映画 ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』
監督/マーク・バートン,2015年,イギリス,85分
有坂:うんうんうん。
渡辺:これも、『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』と同じ、アードマン(・アニメーションズ)のクレイアニメの作品となっています。これも人形をコマ撮りで撮ったタイプの作品なんですけど、ひつじのショーン、有名なのでご存知だと思うんですが、それの劇場版で『バック・トゥ・ザ・ホーム』という劇場版の中でも、評価の高い作品となっています。フィルマークスでも、4.0なので、かなり評価が高いものなんですけど。これ、『ひつじのショーン』って基本的にどういう話かっていうと、いたずら好きのショーンが、毎回、悪知恵を働かせて何か騒動を起こすっていうのがお決まりのパターン。この劇場版は、いつものようにショーンがいたずらをして、牧場主がいるんですけど、牧場主にまたいたずらを仕掛けたら、牧場主の乗った車が暴走しちゃって都会まで行ってしまうっていうですね。それをみんなで追いかけていくんですけど、それがきっかけで牧場主の、それは人間の男の人なんですけど、その人が記憶喪失になっちゃうんですね。頭をぶつけてしまって、それで、さらに町には野良犬を退治する、区の野良犬を捕獲する人たちがいて、どんどん目の前で野良犬が捕獲されていくみたいなのを見て、ショーンたちはビビって隠れてしまうし、あと、牧羊犬がいるんですね。いつも牧場主に忠実な部下として仕えている牧羊犬がいるんですけど、彼も捕まりそうになってしまうという。そんな中、結局なんだかんだショーンたちは捕まってしまうんですけど、その前に目撃したのが、牧場主が記憶を失ったまま、なぜか美容院に雇われて、で、でたらめでつくった髪型が、なぜかそのとき切った人がスターで、その人がお店を出た途端、パパラッチに撮られた写真がすごくバズっちゃって、めちゃくちゃ有名な髪型をつくった人みたいな。カリスマ美容師みたいになっちゃってですね、で、記憶がないまま、カリスマ美容師として幸せに暮らしていて、そこに訪れたショーンたちを、「誰だお前、知らない」みたいに、邪険に追い払うんですね。そうすると、今までの構図で言うと、ショーンたちを管理している牧場主vsショーン、そこに逆らいまくっているショーンという構図だったのに、なぜか、今まで敵対していた相手に、お前なんか知らないって相手にされなくなった途端、寂しくなっちゃって、で、ショーンたちは涙を流すっていう。牧場主に、何とか記憶を取り戻してもらいたいという方に、話が転換していくっていう話になっていて、なので、ドタバタコメディなのに、ここは感動と涙があるっていうので、評価が高い作品なんですよね。っていうところで、いつものこのショーンの可愛らしさとか、ずる賢い面白さみたいのも感じられつつ、ショーンがまさかの涙を流すっていう、ちょっとそういうところも感じられる一作となっているので、これはちょっと違うショーンを観られるので、おすすめの作品となっています。
有坂:愛おしくなるんだよね。
渡辺:そうなんですよ。このコマ撮りのアニメとしても面白いし、物語もよくできているし、これは配信でチョロチョロとやっていますので、気になる方は、観ていただければと思います。家族でも観られるし、安心して観られるタイプの作品です。
有坂:じゃあ、そんなエンタメ感全開な『ひつじのショーン』から一転、僕はヨーロッパのアートフィルムを紹介したいと思います。ロバが主人公の映画。
渡辺:出た! あれかな(笑)
有坂セレクト4.『EO イーオー』
監督/イエジー・スコリモフスキ,2022年,ポーランド、イタリア,88分
渡辺:やっぱり! ロバが主人公ってなかなかないからね。
有坂:これ、2022年のポーランド映画です。監督はイエジー・スコリモフスキという、もう60年代から活躍している、いわゆる巨匠ですね。例えば、ヴィンセント・ギャロが主演した『エッセンシャル・キリング』とか、『アンナと過ごした4日間』とか、60年代の頃は、ジャン=ピエール・レオが主演した『出発』とか、本当に息の長い巨匠の最新作がこの『EO イーオー』です。
渡辺:ポスターのデザインもいいよね。
有坂:これ、一頭のロバの目線で、人間界のおかしさを描くという作品になっていて、ロバの目線、本当にロバが見ている風景として、人間界を見ている映像と、そんなロバを客観的にカメラが撮っているっていうのが、だいたい物語、映画全体の構成となっています。なので、人間側に感情移入するみたいなことが一切ないんですよ。そこがやっぱりすごい斬新で、とにかく僕たち人間を、人間の世界を、客観的にこの80何分、90分くらいかな、88分も見続ける。いかに、僕たち人間が当たり前だと思っていることがおかしくて、愚かでみたいな。もうなんかちょっと、ちゃんと足元を見つめて生きないとなって、ちょっとなんか反省してしまうぐらい、いろんな人間が登場します。一応、物語がこれあって、サーカス団にいたロバが、動物愛護団体によって救出されて、そのEOというのはロバの名前なんですけど、そのEOが、かつて自分を愛してくれた人のところに戻るということで、施設から脱走するんですね。その脱走して、ポーランドからイタリアに放浪の旅に出るというロードムービーになってます。なので、その道中、いろんな人たちが出てきて、例えば、地元のサッカーチーム、地域のサッカーチームとか、伯爵未亡人が出てきたり、オムニバス映画みたいにパートが分かれて観られるので、一個一個話が切れて次に繋がっていってっていう意味では、観やすさはあるんですけど、最初に話したとおり、とにかくこの映画で描かれているテーマが、人間の愚かさみたいなものをロバの目を通して表現するということなので、胸が痛くなる部分もありながら、とにかくこのロバが可愛くて、ロバの目をズームで撮るところとか、本当にロバが何を考えているのかなっていうのを、観る側も考えてしまうような。
渡辺:そうだね、無表情なんだけどね。
有坂:でも、何かを、やっぱり感情がそこにあるなっていうのを感じられるようなことが映画で体感できる、さすがスコリモフスキ。
渡辺:これはちょっとね、度肝を抜かれたけど、面白かったよね。
有坂:これを84歳で、いまだにこんな映画を、振り切った映画をつくれることもすごいし、最初に順也は言いましたけど、本当にこのポスタービジュアルがいいんですよ。このビビッドな赤で、手描きかのようなロバの絵と、EOの文字、このロゴも最高だし、こういうアートワークも含めて、個人的には大好きな1本です。実は、これは元ネタというか、スコルノフスキがインスパイアされた映画があって、それが『バルタザールどこへ行く』という、フランスのロベール・ブレッソンというこれまた超ストイックな映画を撮り続けた、ヤバい監督がいるんですけど、そのバルタザールを自分なりに作りたい。バルタザールの方も、本当にロバの目線を通して人間の愚かさを描くっていう意味では、設定は全く同じで。ただ、EOはそこから脱走して自分の信頼している人のところに旅をするっていう、ロードムービー仕立てになっているぶん、こっちのほうが映画的には観やすさはある。
渡辺:現代だしね。
有坂:そう、現代だし。
渡辺:これさ、すごい面白いエピソードというか、1つが、さっきサッカーチームって言っていたじゃん。そのときは、サッカーの地元のチームが勝った。みんなでワーって飲み行こうぜみたいなタイミングなんでね。そのときにEOが出くわすから、なんかすごくこいつは勝利の女神だみたいな感じで、みんなに持ち上げられてね。よいしょされてワーって言って、すごく持ち上げられるんだけど、別のところ行くと、なんでこんなロバがこんな飲みに入ってきてんだって蹴飛ばされて、ボコボコにされて追い出されるっていう。同じ人間の同じ仲間たちの飲みの場なんだけど、その人間の感情とか、そのときのノリによって同じロバなのに扱いが真逆っていう、そういう人間って、同じものでも自分の都合のいいときには祭り上げて、都合の悪いときにはこけ下ろすという、それをね、ロバを使って見事に表現しているという、そういう童話の教訓話の連続みたいな。それをうまく描いているっていうのが、めちゃくちゃ面白いところなんですよね。
有坂:そうだね。
渡辺:これはね、なかなかやっぱり勧められないと観ないタイプかもしれないんで、こういうタイミングで観られると。
有坂:そうだね。
渡辺:なんか、Amazonプライムとかで観られる。
有坂:映像もきれいだし、多分観たらね、一生残像とかイメージが脳裏に焼き付くタイプの映画なので、あまり馴染みのない人も、ぜひチャレンジしてほしいなと思う一作です。
渡辺:なるほど、EOは完全になかったな、候補に。
有坂:けっこう最初に出てきた(笑)。
渡辺:じゃあ、僕の5本目、これもちょっと変わった作品、いきたいと思います。2019年のアメリカ映画。
有坂:動物は?
渡辺:動物はですね、牛です。でも、上映したのは2023年。
渡辺セレクト5.『ファースト・カウ』
監督/ケリー・ライカート,2019年,アメリカ,121分
有坂:うんうんうん。
渡辺:これは、ケリー・ライカートっていうアメリカのインディーズ監督なんですけど、最近ものすごい注目されていて、彼女のつくった過去の作品も特集上映されたりとか、わりと遅れて日本で評価された人の最新作です。これがですね、面白くて、『ファースト・カウ』っていうタイトルのとおり、“最初の牛”で、舞台は1800年代のアメリカ・オレゴンなんですけど。アメリカにまだ牛という動物がいなかったときに、ヨーロッパから初めて牛が来たという、その最初の牛を巡る物語です。1800年代のオレゴンっていうのは、まだこうアメリカ西部開拓時代なので、何にもないところに白人たちが来て、なんかこういろんな怪しい商売とか、まだいろんなものが確立されていないので、みんな一攫千金しようとしているところです。その中で、主人公の男たち、2人組なんですけど、もともと1人ずつなんですけど、何かお互いにコンビを組んでやっていこうというので、組んだ2人が主人公なんですけど、なんかこう舞台が鉱山がある町かなんかで、その鉱山にみんな一攫千金を求めてくるんだけど、その主人公の男たちは、その鉱山に集まっている男たちを相手に商売しようと、っていうことを何か画策するんですけど、じゃあ何するっていうので、なかなかうまくいかない中で、なんか牛がいるらしいと、牛は乳が出るっていうので、その乳を夜な夜なこっそり忍び込んで牛の乳を盗んで、そのミルクをつくって、なんとドーナツづくりを始めるんです。そのドーナツがめちゃくちゃ大繁盛するっていう、その鉱山の荒々しい男たちに、甘いスイーツが大人気になるっていうですね、これは絶品だというので、大行列のできるドーナツ屋になっていくんですね。その噂を聞きつけた領主が来るんですけど、「これはドーナツうまい」と、これは何を材料にしてるのか、ミルクを材料にしてるのかみたいな、そうなのかみたいな、実は俺は牛を飼っていると。そのファースト・カウの持ち主だったんですね。でも、俺の牛は乳が全然出ない。なぜか乳が全然出ないっていう、そこの関係性ができてくるっていう話なんですね。で、若干、「ちょっとなんでお前らミルク持っているの?」みたいな、「うちの牛、乳が出ないんだけどおかしくない?」 みたいな。ちょっとね、疑いが生まれつつあるっていう、そういうところからドラマが始まるっていう、そういうちょっとサスペンスチックな話もありつつ、これはでもおとぎ話というか、空想の話なんですけど、最初の牛が来て、そのときこんな物語が昔もしかしたらあったかもしれないみたいな。そういうところの話ではあるんですけど、これがめちゃくちゃ面白い話に仕上がっているっていうですね。で、アメリカに牛がいなかったんだとか、最初の牛が1800年代に来たんだとか、ちょっと歴史的な事実もあったりとか、それでつくったのがドーナツだったっていうのも楽しいし、この劇中に出てくるドーナツがめちゃくちゃ美味しそうなので、すごいドーナツ食べたくなる。
有坂:食べながら観てほしいよね。
渡辺:そうだね、そんな作品となってます。これは牛が、キーポイントになってくる。
有坂:これ、ドーナツって、いわゆる穴の開いたドーナツじゃないんだよね。
渡辺:そうだね。
有坂:今でいう、まん丸なドーナツではなくて、なんかボテッとした、それが逆においしそうなんだよね。これはでも、『ファースト・カウ』は、僕、去年のベスト10に、7位に入れているぐらい大好きな映画なので、でも完全に抜け落ちてた、入ってなかった選択肢に。
有坂:じゃあ、最後、僕の5本目、動物でいうと絞れないので、動物園としておきます。
2011年のアメリカ映画です。
有坂セレクト5.『幸せへのキセキ』
監督/キャメロン・クロウ,2011年,アメリカ,124分
渡辺:はいはいはいはいはい。
有坂:これは、キャメロン・クロウ。『あの頃ペニー・レインと』とか、『ザ・エージェント』のキャメロン・クロウの監督作で、主演がマット・デイモンです。これはマット・デイモン演じるベンジャミンという男が、実は、妻を亡くしてしまった。彼には2人子どもがいて、14歳の息子と7歳の娘がいると。なかなか子どもがいるから前を向かなきゃいけないと思いつつ、やっぱり妻を失ってしまった喪失感みたいなものから、なかなか抜け出せない。なんとかでも抜け出さないと、子どもたちの人生にも影響する。どうしようということで、今までの家族全員の思い出のある場所を引っ越して、新しいところで暮らしを始めて、そこでまた三人の人生を歩み始めようという家族の話です。新しく買った物件というのが、家の隣に動物園が併設されているという、ものすごい物件を買ってしまい、その動物園のオーナーにマット・デイモンがなるというですね、いやいや、そんな話ないでしょう。映画としてもどうなのと思いきや、これ実話の映画化です。本当にそれをやったイギリス人ジャーナリストがいたっていう。やっぱり閉鎖されてた動物園を買い取って、日常生活が日常生活じゃないぐらい、子どもたちにとってはワクワクの対象でしかないという環境で、家族、あと動物園を再生させていくという物語に。
渡辺:素人がね。
有坂:そう素人が、それも実話の映画化なので、やっぱり本当に起こったこととして観られるからこその刺さる行動だったり、言動だったりっていうのがいっぱいあるので、もっともっと、あんまり話題にならなかったんだよね、この映画。もっともっと多くの人に観てほしいなと思うんですけど、この映画を観る前に、音楽を担当したのはシガー・ロスのフロントマンのヨンシーが、これはサントラの曲を全部担当していて、この映画用に書き下ろしてつくっているんですね。もちろんシガー・ロスのホッピーポーラーという超名曲も出てくるんですけど、そのシガー・ロスのライブドキュメンタリーに、実はものすごい刺激を受けて、このキャメロン・クロウはこの映画をつくっているんですよ。その『HEIMA』っていうのは、かつてニューシネマ・ワンダーランドでも紹介したんですけど、本当に大好きなライブドキュメンタリーで、そっちを先に観ていて、で、この『幸せへのキセキ』を観たら、この映画のラストシーンが『HEIMA』の一番いいシーンへのオマージュだったんですね。本当に鳥肌が立つような感動が、この映画のラストには待っています。この肩車されている女の子、7歳なんですけど、やっぱりお父さんが、なかなか自分の傷を乗り越えられていないということも、どこかでわかっているんですよね。息子は、目の前の恋にいっぱいいっぱいで、家族全体のことは見えないんですけど、このロージーという女の子は、父親と息子にもちょっとした気遣いとかがあるのが、家族映画としてもすごく良くて、パンのジャムを塗ってあげるシーンとかが、たぶん自分がお母さん代わりになろうっていう、ちょっと健気なシーンとかがさりげなくあったりするのが、娘を持つ父としてちょっとグッとくるポイントでもあるので、ぜひ観てほしいなと思います。さっき言った、シガー・ロスのライブドキュメンタリーの『HEIMA』は、監督が影響を受けただけじゃなくて、実際にマット・デイモンとか、出演者にも観せてたらしい。だから、その世界観をみんなで共有してつくられた映画になってます。あと、最後に1個だけ、『幸せへのキセキ』っていうタイトルがちょっとなんかもったいないなって思っちゃう。よくわかんない。たけど、これ原題は『We Bought a Zoo』、「動物園を買った」っていうすごいシンプルな、そっちを活かしたタイトルになったらね、もうちょっと引っかかりがあって、あまりにも引っかかりのないタイトルで、そういうなんかきれいな感じのはいいやって、届いていないなっていう。なので、でも、もっといい話ではあるけど、そのヨンシーが参加するぐらいの映画なので、もっともっと多くのカルチャー好きにも観てほしいなと思う一作でした。
渡辺:これ、塁が選びそうだなと思ったけど。
有坂:動物園というわけで、最後に選ばせてもらいました。
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有坂:はい、ということで、5本ずつそろいました。かぶることもなく紹介できましたが、いかがだったでしょうか。ぜひ、皆さんも同じテーマで、自分だったら何を選ぶかなと考えてもらえたら嬉しいなと思います。お知らせは何かありますか?
有坂:お知らせは何かありますか。
渡辺:僕の方はフィルマークスで、リバイバル上映企画をやっているので、ちょうど明日から、『マルホランド・ドライブ』というデヴィット・リンチの作品を、1週間限定で映画館でリバイバル上映をやりますので、デヴィット・リンチの中では一番面白い作品じゃないかなと思います。
有坂:僕はデヴィット・リンチで一番好き。
渡辺:映画館で観られる機会もないので、ぜひこの機会に行っていただければと思います。
有坂:はい、じゃあ、僕は10月5日、皆さん高円寺に来ませんか? 高円寺にあるIMAGINUSという廃校になった小学校をリノベして、まあ科学館みたいな、IMAGINUSという施設がちょうど1周年を迎えた、その記念イベントで、中庭を使って『ブルース・ブラザーズ』を上映します。その上映だけではなくて、映画の前にライブがあるんですけど、2組出るうちの一つがみんな大好き、「孤独のグルメ」の原作者の方のバンドが実際に演奏してくれます。なので、そんなスペシャルなライブがあった後に『ブルース・ブラザーズ』ね。今年、恵比寿で上映してて、まるでライブ会場かのようにジェームズ・ブラウンとかレイ・チャールズとか出てくるミュージシャンにみんなが拍手して、歓声が上がった最高の映画。この映画は、やっぱり配信とか、DVDで家で観るよりも、みんなで、しかも屋外でお酒飲みながら楽しむのが本当に向いている映画なので、ぜひ10月5日、高円寺に遊びに来てください。チケットの方はこちらも発売中なので、ぜひ詳しくはキノ・イグルーのホームページ、Instagramを見ていただければと思います。
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有坂:ということで、東京蚤の市のチケットは明日からだそうです。みなさん、チェックを忘れずに! ということで、今月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」はこれをもって終了です。みなさん、どうもありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました!!
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)