あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「紅茶のおともに読みたい本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『紅茶と薔薇の日々』ちくま文庫
著・文/森 茉莉,編/早川茉莉,発行/筑摩書房
優雅なティータイムにぴったりの森茉莉さんの本。文章の美しさやロマンチックさはもちろん素敵ですが、実は食い意地がはっていて口が悪いだけのダメお嬢様で、どこか親近感を持てるところも魅力。そんな森茉莉の真骨頂である食べ物エッセイだけをまとめた1冊。昔の暮らしや当時のパリの食レポをのんびり楽しんで。
2.『紅茶王子』白泉社文庫
著・文/山田南平,発行/白泉社
紅茶といえば読みたいこの漫画。とある高校のお茶会同好会の3人が満月の夜に校舎の屋上でお茶会をすると、なんと紅茶の中から王子を名乗る2匹の妖精、アッサムとアールグレイが現れた……! 王道の少女漫画で、スケールは壮大でありつつ昔懐かしいドタバタのラブコメ感に癒されます。
3.『おちゃのじかんにきたとら』
著・文/ジュディス・カー,訳/晴海耕平,発行/童話館
絵本もあります! お茶の時間にしようとクッキーやケーキやサンドイッチを並べていたソフィーのおうちに「とてもおなかがすいているのでご一緒させていただけませんか?」と丁寧な挨拶でやってきたとら。しかしお菓子はもちろん、家じゅうのものを食べ尽くしてしまって……。ちょっとシュールだけど、人間たちの対応に心がほっこりする名作。
4.『失われた時を求めて:抄訳版』集英社文庫
著・文/マルセル・プルースト,訳/鈴木道彦,発行/集英社
紅茶が出て来る小説といえば真っ先に思いつくのがこちら。主人公が紅茶にひたしたマドレーヌを口に入れた瞬間に昔の幸せな記憶が蘇ってきてーーというミーム(ミームは言い過ぎか)として多用されますが、とにかく長すぎるので現代の日本で完読している人はほとんどいないと思います。この集英社のバージョンはなんとダイジェスト版だそうですので、チャレンジしたい方、まずはこちらでどうでしょう?
5.『最高のアフタヌーンティーの作り方』
著・文/古内一絵,発行/中央公論新社
『マカン・マラン』シリーズでおなじみ古内一絵さんの新シリーズ。老舗のホテルで働く主人公はついに念願のアフタヌーンティーチームに配属されたけど、頑張って考えた企画をシェフにダメ出しされて……。さわやかなお仕事&ヒューマン小説ですが、華やかな世界の裏側って本で想像するだけでも楽しい。いつかホテルでアフタヌーンティーをするときにこの本を思い出せばアフタヌーンティーが100倍楽しめそうです。
6.『イギリス南西部 至福のクリームティーの旅』わたしのとっておきシリーズ39
著・文/小嶋いず美,発行/産業編集センター
しかし、日本じゅうでいま流行しているホテルの「アフタヌーンティー」は本家イギリスのアフタヌーンティーとはだいぶ違います。そしてそれをさらにカジュアルにした、スコーンと紅茶のセットでお茶することを「クリームティー」と呼ぶらしいです。あの、バターのようでバターでないクリームをこってり載せて食べるというやつですよね。憧れる~!!本場のクリームティーを求めてイギリスを旅したフォト&エッセイ。こんな旅、してみたいです。
7.『祖母姫、ロンドンへ行く!』
著・文/椹野道流,発行/小学館
イギリス関連でさらにおすすめしたいのがこちら。若き日の著者の回想エッセイで、姫のようにわがままな祖母の人生最後になるであろうロンドン贅沢旅のアテンドをした思い出を楽しく綴っています。分不相応な高級ホテルの人々とのやりとりや、さまざまなトラブルを糧に成長していく著者がまぶしい。『プリティー・ウーマン』や『ローマの休日』を思い出すような最高の冒険譚です。本の中で出てくるアフタヌーンティーもおいしそう……!
8.『スバらしきバス』ちくま文庫
著・文/平田俊子,発行/筑摩書房
コーヒーのシャキッとしたイメージに比べて、紅茶はなぜかぼんやりと物思いに耽ることを許してくれそうな気がします。こちらは詩人である著者がバスに乗った日常を淡々と綴っただけのエッセイなのですが、それがとっても心地いい。知らない街で乗るバスはなぜいつもワクワクとさびしさが同時にやってくるのでしょうか。心を少しだけ遠くに連れていってくれる1冊。
9.『チェレンコフの眠り』新潮文庫
著・文/一條次郎,発行/新潮社
少しだけ遠く、ではなく、ものすごい遠くに飛ばされてさまよいたいという方は、こんな小説はいかがでしょうか。マフィアのボスが襲撃されて殺され、ひとり残されたヒョウアザラシのヒョーはアザラシ専用のゴルフカートで外の世界に旅に出るーーというあらすじだけ聞いても何が何やら。ハードボイルドな雰囲気だけどしゃべってるのはふつうに動物たち(でも人間もいる)。江國香織に「チャーミング」と称えられ、三浦しをんに「神話のように輝いている」と言わしめた怪作。
10.『また団地のふたり』
著・文/藤野千夜,発行/U-NEXT
こちらは紅茶とこだわりのクッキーで、というよりは、紅茶と柿の種とルマンド、みたいな実家感ある組み合わせで楽しみたい1冊。50代、独身、幼なじみの日々の何も怒らない暮らしを書いた小説です。NHKのドラマも小泉今日子さんと小林聡美さんのコンビで(よすぎる)話題になったようですが、続編も出てますので小説でもぜひ。なんなんだ、この、ぐりとぐらみたいな最高にやさしい世界は……。幸せな読書になること間違いなしです。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。