あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回は「この日本の女優にフォーカスした映画」を切り口に、それぞれが一人の女優をピックアップし、おすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。

有坂:今月のニューシネマワンダーランドのテーマは、「この日本の女優にフォーカスした映画」ということで、日本の女優。
渡辺:いっぱいいるけどねー。
有坂:いやー、だって昔の人もね、むしろ最近出てきた伸び盛りの若手も含めて紹介したい人はいっぱいいますが、それぞれ一人ずつ選んで、その代表作を5本ずつ、これから紹介したいと思います。

渡辺:じゃあ、久々にじゃんけんに勝ったので、先攻、僕からいきたいと思います。僕が選んだ女優はですね、はい、松たか子さんです。
有坂:でた!
渡辺:はい、もうね、松たか子さんは、かなりいろいろなところに出ているので、知らない人はいないと思うんですが、歌舞伎の一家に生まれたサラブレッドですけども、女優としても大活躍している、この松さんの作品を紹介していきたいと思います。

まず1本目はですね、1998年の作品です。

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渡辺セレクト1.『四月物語』
監督/岩井俊二,1998年,日本,67分

有坂:はいはい。ふふふ。
渡辺:これはね、その恵比寿ガーデンプレイスのピクニックシネマで上映したんですよ。そこで久しぶりに改めて観て、改めて傑作だなっていうねー。
有坂:そうだね。
渡辺:ちょっとね、やっぱりすごい新鮮に焼き付いていて、それで、何かやっぱりすごい女優だなっていうのを改めて思ったので。それがちょっと残っていたというのがあります。岩井俊二監督の作品なんですけど、尺としても67分かな、けっこう短い作品なので、すごい観やすいタイプのものなんですけど。田舎から大学で東京に上京する女の子の話なので、引っ越しをして、そして、東京の大学で新しい人たちに出会ってみたいな。そういう何か起こりそうで、特に何も起こらないみたいなタイプの作品です。これがすごいみずみずしくて、岩井俊二のこの詩的な映像と相まって、とても良質な作品になっているんですけど、ここを上京する女の子を演じるのが松たか子なんですね。このときが19歳とかで、デビュー2作目だと思うんですけど、なんていうんだろう、もうちょっと初々しさもありつつ、やっぱりもうすでに演技が上手いっていうのがあったりします。なんか引っ越しのシーンで業者さんが全部やってくれるから、「もうちょっとじゃまだから、どいておいてください」って言うんだけど、なんかちょっと手伝おうとするんだけど、何もしてないみたいな。あの動きがね、すごい好きで。もうすでに上手いなっていう、19歳にしてっていうっていうのがあるので、このときからちょっと、もうすでに片鱗を感じさせるうまさっていうのがあったなと思いました。作品としてもすごいいいし、やっぱり作品の世界観ともすごいマッチしているし、あとオープニングが、田舎から上京するときに家族が見送りに来るんですけど、その家族がリアル松本幸四郎一家という。
有坂:一瞬しか映らないのにね。
渡辺:両親とお姉ちゃんと、あと当時の市川染五郎一家が、「気をつけてね」みたいな、電車で見送りのシーンに出てくるみたいなね。っていうところの、本当にこの一家のお嬢さんってところも生かされつつっていう作品となっています。
渡辺:松本一家のお嬢さん的な雰囲気がこのときはあったけど、ここからどんどん女優として進化していく。その最初の初期の代表作なので『四月物語』。
有坂:もう名シーンの連続だよね。
渡辺:そうね。
有坂:本当に、赤い傘をさして、
渡辺:そうだね。
有坂:雨に打たれているあのシーンとか、自転車で走っているとかね、桜吹雪とかね、そう、で、やっぱり改めてこの前上映して、大スクリーンで観て思ったけど、松たか子って東京生まれ東京育ちの超シティガールじゃん。だけど、この『四月物語』で北海道から上京してきた大学1年生の純朴な感じが、もう演技だけじゃなくて、滲み出ているところが本当にすごいし、多分そういうところが出てこないと、岩井俊二の映画の世界観にはまらないじゃない。そこはもう上手いとか下手を超えた、松たか子もすごいし、そこをちゃんと見抜いてキャスティングしている岩井俊二もね、すごいなっていうのを改めて感じました。いいのから入ってくれたね。
渡辺:そうね。
有坂:というのもですね、僕、ちなみに僕の取り上げる日本の女優さんは、蒼井優です。その1本目にあげる作品は、2004年の作品です。


有坂セレクト1.『花とアリス』
監督/岩井俊二,2004年,日本,135分

渡辺:なるほど!
有坂:そう、岩井俊二つながりで始まりました。もともと蒼井優さんというのは、舞台のミュージカルの『アニー』のオーディションに合格してデビューした後、ニコラのレギュラーモデルでモデルとして活躍をして、それで映画にデビューしたと。映画のデビュー作が、リリイ・シュシュのすべてのチョイ役、その後、宮崎あおいが主演した害虫という問題作、塩田明彦の。で、初めてメインキャストの一人として出演したのが、『花とアリス』です。もともと蒼井優がモデルをやっていたときに、改めて映画女優になりたいと思ったきっかけになった3本の映画があって、それが塚本晋也の双生児、双子の双生児。あと、阪本順治の、もう1つが岩井俊二のPiCNiC。彼女にとっては、自分の将来を決めるきっかけになった岩井俊二映画のヒロインを掴んだ。そういう意味でもターニングポイントになった映画でもあるのかなと思います。これは、「花」と「アリス」という2人の女の子の話で、そこにある先輩が入ってきて、男の先輩が入ってきて、三角関係というのがこの映画の大きな物語になってくるんですけど、これ、そもそも長編映画になる前に短編がネット配信された、それで話題になった作品です。これが、チョコレートのキットカットの日本発売30周年を記念したプロジェクトで、『花とアリス』という4つの短編をネット配信して、それが話題になったということで、改めて長編映画化されたものになってます。これは鈴木杏と蒼井優の2人の魅力がないと成立しない、本当に女の子たちの日常を描いている作品なんですけども、やっぱり女優さんの子どもでもない、少女から大人に変わるこの狭間の時期をフィルムに収めるのが、岩井俊二はある意味名人芸じゃないですか。それは海外で言うと、ソフィア・コッポラも同じ。この『花とアリス』の蒼井優っていうのは、いろんな自由奔放な彼女らしい役を演じていながら、最後の最後で、バレエ教室に通ってるっていう設定なんですけど、バレエを踊るシーンが美しすぎて神がかってます。もともと彼女はバレエをやっていた人なので、自分をつくってくれたものを、物語の中に岩井俊二はそれを活かした脚本にしてくれたという意味でも、本当に運命的な出会いだったのかなと思うんですけど、本当にバレエを踊るシーンの場面が絵画のような美しさで、岩井俊二らしい、ちょっとかすんだぼやっとした映像で、その美しいダンスシーンを切り取った、本当にそこだけを観ても、本当にもうこの映画を観られてよかったっていうぐらい、特別な作品なのかなと思います。やっぱり岩井俊二作品の中でも、この映画が特別好きっていう人も多いと思いますし、みなさん揃って言うのは、音楽も良かったと言うんですけど、実は音楽も岩井俊二なんですね。なので、やっぱり自分独自の世界観をつくる上で大切な音楽も、監督本人が手がけているという意味で、ぜひそこにも注目して観てもらいたい作品かなと思います。
渡辺:なるほどね。花とアリス殺人事件もある。アニメーションで撮られている。
有坂:しかも、それもあれだよね、ちゃんと鈴木杏と蒼井優が声優でキャスティングされている。
渡辺:しかも、実写をトレースしてアニメーションにするってやつだから、実際に演じているんだよね。
有坂:そうだね。
渡辺:そこでもね、蒼井優がダンスをしていて、それも見どころとなっています。……では、続けて、僕の松たか子、第2作はですね、2010年の作品です。


渡辺セレクト2.『告白』
監督/中島哲也,2010年,日本,106分

有坂:出た!
渡辺:中島哲也監督なんですけど、なので『四月物語』から12年経っている。けっこうもう、大人の女優になってきている時期なんですけど、この『告白』、まあ物語もすごくて、松たか子さんは教師なんですけど、中学校の教師で、自分の娘が亡くなってしまったんですね。そして「それは事故ではなくて、あれは殺人です」っていう告白を急に教室でし出すと。犯人はこの教室にいますっていうところから始まるんですね、この真相を突き詰めようとしていく気迫みたいな、これが描かれるミステリーなんですけど。原作も湊かなえさんなんで、ミステリーの巨匠が作った作品なんですけど、これの冷静に淡々と追い詰めていくみたいな。そういう、怖い教師を演じているのがこの松たか子です。なんかあの対照となるような役で、岡田将生が、なんかこうアホの体育教師みたいに出てくるんですけど、岡田将生もこれですごい、なんか演技的に飛躍した気はするんですけど。なんかこんな振り切ったキャラも演じられるんだっていう、なんか対照的なところもあって、松たか子の冷静に追い詰めていく冷酷さみたいなのが際立たされるところもあって。で、確かこの年の日本アカデミー賞の主演女優賞、これで獲っているのが、この『告白』という作品です。なので、あの『四月物語』の初々しさとはもう一転、本当にこうなんか追い詰めていく肝の座った女性を見事に演じたっていうのが、この『告白』でした。
まあ映画としてもね、この時期にすごい話題となった作品なので、映画としてもめちゃくちゃ素晴らしいので、これもちょっと未見の人はぜひ観てもらえると、こんな松たか子もいるんだって、わかるんじゃないかなと思います。
有坂:そうだね。橋本愛とかもね、そうね『告白』。これ劇場で観たときに、後ろの列に高校生4人組が座っていて、多分ダブルデートで来ていたんだけど、めちゃくちゃテンション高い4人で、これもう本編始まってこのテンションだったらどうしようと思ったら、こういう映画じゃん。もちろん、声は聞こえなくなり、終わった後、こういう内容で、あの4人どうなったのかなと思ったら、誰も言葉が出ない(笑)。なんてものを観てしまったんだみたいな。やっぱり自分たちの日常に近い世界じゃん、大人が観るよりも。だから余計に多分刺さるものがあって、そういう意味でもある意味、トラウマ映画になっちゃうような、それぐらいでもパワーのある傑作だよね、これは本当に。……じゃあ、僕の2本目いきたいと思います。僕は蒼井優の時系列で紹介していこうと思います。なので、2作目は2005年の作品です。


有坂セレクト2.『ニライカナイからの手紙』
監督/熊澤尚人,2005年,日本,113分


渡辺:んんー!
有坂:これは蒼井優のキャリアでいうと、初めての単独主演作になります。その『花とアリス』はダブル主演だったので、初めての単独主役です。これは沖縄の竹富島が舞台になっていて、蒼井優は、おじいちゃんと2人で暮らしている風希という高校生の役を演じています。彼女はシングルマザーで育ててくれたお母さんがいるんですけど、その風希が幼い頃にいつか必ず帰ってくると言って、お母さんは一人で東京へ行ってしまった。行ったまま戻ってこないお母さんの帰りを待ちながら、成長していく役を蒼井優が演じています。お母さんからは毎年手紙が届くので、その手紙の便りをきっかけに、今お母さんはどういうことを考えているか、自分のことをどう思ってくれているかというのを、手紙を通して蒼井優は感じるわけですけど、当然お母さんに会いたいわけです。でも、お母さんからはある年に届いた手紙に、「風希が20歳になったときに、すべてを打ち明けます」ということで、20歳まで彼女、蒼井優はお母さんとの出会いを待たないといけない、という設定になっています。でも、ただ沖縄で待っているのも、いてもたってもいられず、彼女は高校卒業した後、カメラマンになるという夢を叶えるためにお母さんのいる東京に行って、そして……という物語になっています。これは今お話ししたような内容で、物語がすべて進んでいくので、すごくシンプルな設定になっています。シンプルな分、やっぱり蒼井優演じる風希が日々過ごしている日常、沖縄の竹富島の風景とか、そこでつながる人たちとの交流だったりとか、おじいの言う一言だったりとか、そういうところが一つ一つ心に迫ってくる作品なので、本当にハリウッド映画、情報量過多のハリウッド映画と対照的な、時間の流れもスローだし、そういった情報量が少ない分、自分のペースでゆっくり映画を観たい人にとっては、おすすめの一作かなと思います。これネタバレになるので詳しくは言えないんですけど、僕も今4歳の娘がいて、その状況でこの映画を観るともうね、やばい。いろいろやばいんですよ。親の立場になって、ネタバレになるので詳しいことは言えないんですけど、なので、ぜひお子さんのいる方は親目線でも観られるし、逆に今、高校生とか大学生っていう人たちは、蒼井優の目線でお父さんお母さんのことを考えることもできるので、本当に広くいろんな人に刺さる映画だなと思います。いやー、ちょっと思い出しただけでちょっとグッとくる。
渡辺:沖縄ものの作品としても有名だし、なんか雰囲気がすごいなんだろう、南国的な雰囲気で、いい作品なんで。
有坂:これなんかね調べたら、蒼井優演じる風希がおじいと住んでいる家がすごく魅力的で、何だろうなと思って調べたら、明治38年に建てられた竹富島の中でも最も古い家らしい。そこを使って撮影されているので、この夏、本当は沖縄に行きたいんだけど、行けないよという人は、ぜひ沖縄の雰囲気とか風が感じられる映画だとも思うので、ぜひ、ハンカチを用意して観てみてください。
渡辺:竹富島って、そこでしか売っていない焼酎。泡盛だっけな、あるらしくて、すごい酒好きな人が言っていた、わざわざ買いに行くって。
有坂:行きたくなるよね、この風景。
渡辺:なるほどね。じゃあ、僕の3本目、3本目はですね、2014年公開のアメリカ映画。


渡辺セレクト3.『アナと雪の女王』
監督/クリス・バック、ジェニファー・リー,2014年,アメリカ,102分


有坂:そっかそっか。
渡辺:日本語吹き替えの声優っていうことですね。アナと、もう一人のヒロインのエルサ。エルサ役を松たか子さんが演じています。この『アナと雪の女王』は、もう当時、社会現象になるぐらい大ヒットして、みんなレディゴー、レディゴーって歌を女の子が歌っていましたけど、そのぐらい、もう社会現象になるぐらい歌が広まったっていうミュージカル映画ですね。なので、声優となる松たか子さんも、当然歌っています。これの歌えるんかいっていう、歌もできるんかい……っていうのは、CD出したりとか当然知っていましたけど、でも、こんな本格ミュージカルのやつも、ちゃんとできるんだっていうのが、それがなんかすごいなっていう感じでしたね。
有坂:あの声量にびっくりだよね。
渡辺:本当に。ハリウッド版やっている人は、イディナ・メンゼルだっけな、すごいミュージカル女優なんですよ。その人、『ウィキッド』のブロードウェイ版で、ウィキッドでトニー賞とか獲っている、めちゃくちゃ声量のあるミュージカル女優がハリウッド版をやっているんですけど、それの日本語版、誰がやるのかっていうのが松たか子だったっていう。それで、もう見事に日本版も大ヒットで、何の違和感もなくこなしてしまうっていう。それが本当にすごいなっていう! なんで、まあ普通にテレビや映画とかで活躍してるんだけど、舞台とかも出てるし、CDも出している。だけど、ミュージカル女優のイメージはなかったんですけど、アナ役の神田沙也加はミュージカル女優として、ものすごいブレイクしていたんで、そこも当然上手いし、めちゃくちゃハマっていましたけど、松たか子すげぇなっていうのは、このときもまた思ったっていう感じでしたね。なので、本当にこの全世界大ヒットで、世界中でその国々のなんかこう一番できる人をキャスティングしたみたいな、そういうのが話題になっていたところでね。
有坂:それさ、なんか各国のエルサがそろったのってさ、ハリウッドのプレミアとかかな、あれ面白かったよね。みんな、それぞれ実力者が世界から集まって、この役を演じているって。
渡辺:そう、本当に。それがもう松たか子さんだったっていう。この切り口もあるんだって、そんな引き出しもあるんですかっていうのを見せつけてくれたのが、この『アナと雪の女王』だったかなと思います。
有坂:本当に、まるで打ち合わせしていたかのように、3本目にまたいいのを持ってきてくれたね。
渡辺:なんですか? パス出しちゃった?
有坂:そう、パス出しちゃった(笑)。というのもですね、僕の3本目も、アニメの吹き替えなんです。蒼井優のおすすめ3本目は、2006年の作品です。


有坂セレクト3.『鉄コン筋クリート』
監督/マイケル・アリアス,2006年,日本,111分

渡辺:わー、そうだ! 知ってる!
有坂:おい、おい、忘れちゃ困るよ。これね、そうなんですよで、僕がさっき紹介した『花とアリス』と『ニライカナイからの手紙』で、もう若手のトップランナー確定したはずなのに、こんな引き出しまでという、蒼井優という声優としての可能性を大きく感じた一本が、この『鉄コン筋クリート』です。二宮和也と蒼井優が、2人の少年なんです。クロとシロっていう2人の少年を演じているのが、ニノと蒼井優で。二人が主人公で、義理と人情とヤクザの地獄の街を自由に飛び回るという、主役二人を演じています。二人が支え合いながら生きていくんですけど、そこでヤクザたちの介入によって、いろんな暴力だったりとか、いろんなことに巻き込まれていくという、大枠はそういう内容なんですけど。とにかくニノと蒼井優がキャスティングされた時点で、正直、最初その情報を聞いたとき、残念だった。期待がまったく持てなかった。というのも、声優さんってさ、声だけで演じなきゃいけないから、この人が演じているって分かった瞬間、アニメの役に観ている側が入り込めないじゃん。大作とか洋画の吹き替えとかでもよくあることだけど、ニノと蒼井優かと思って。いや、予告面白そうだしと思って行ってみたら、もうニノと蒼井優のことなんか完全に忘れるぐらい、もうね、クロとシロだったんですよ。やっぱり、特に蒼井優は、この少年の役を演じながら、もうそのニノを演じるクロとはまったく違うキャラクターを、そのキャラクターが生きているとしか思えないような臨場感で演じてくれて、本当にエンドロールで改めてこの2人がやっていたんだと気づくぐらい、本当にベストなキャスティングだったし、多分日本のアニメ史においても、最良の吹き替えの一本じゃないかなって思うぐらいの作品です。ちょうどこの時期のニノと蒼井優って、本当にブレイク一歩手前。ニノでいうと、もちろん嵐としては有名でしたけど、イーストウッドの硫黄島からの手紙でハリウッドに進出したタイミング。蒼井優はフラガールでアカデミーの助演女優賞を受賞したタイミング。そんな2人が、松本大洋原作の、原作大好きみたいな人たちの映画にキャスティングされて、みんなの想像を超えるような、アニメにして大正解だと言われるぐらいの吹き替えをやっていました。作品の魅力でいうと、やっぱり音楽も大事じゃない。特に、日本映画は、劇中の音楽は良かったけど、最後のエンドロールで、「これタイアップだろう、残念」という曲がよく流れますけど、安心してください。『鉄コン筋クリート』はアジカンです。アジアン・カンフー・ジェネレーションなので、そのやっぱりつくっているマイケル・アリアスっていう監督自体が、松本大洋への思い入れもすごい強くて、絶対にこの世界観を崩しちゃいけないということで、ちゃんとアジカンの曲を使い、しかも、なんかね、この編集とかもすごいですよ。
スピード感が、こうなんか明るい軽いタッチの映画かと思ったら、めちゃくちゃ重いじゃん。シリアスで重くなってくる。で、そこはやっぱりある映画をマイケル・アリアスは参考にしてつくったらしい。聞いたことある?
渡辺:なんだろう。
有坂:それがですね、僕と順也のフェイバリット映画の1本、シティ・オブ・ゴッド
渡辺:ああ! 聞いたことがあるかも。
有坂:ブラジル映画の『シティ・オブ・ゴッド』っていうのを参考に、手持ちカメラ風の映像。そういうのをなんかつくった。
渡辺:そうね。少年ギャングがいるスラム街の話だね。
有坂:内容的にも重なるんだよね。これは疾走感とかも含めて、できれば大画面で観た方が。
渡辺:いや、本当だよ。この前、アップリンクでやってたじゃん。
有坂:ピンポンとね。なのに忘れていた。おかしいな。
渡辺:忘れてはいない。
有坂:ちなみに、これはニューヨーク近代美術館、MoMAの選出する2006年に公開された最も優れた映画の一本に選ばれています。なので、国内外で評価の高い、もっともっと多くの人に観てもらいたい一本かなと。
渡辺:なるほどね。これはね、松本大洋の世界観も本当に見事にアニメーションに、蒼井優の演じるシロが、けっこう鼻水垂らしたようなボケっとしたキャラクターなんで、それを見事に。
有坂:一歩間違えると大変な大惨事になるところを、最高のバランス感覚で蒼井優が演じています。
渡辺:なるほど、アニメきちゃった。
有坂:最高のパスで(笑)。ありがとうございます!
渡辺:じゃあ、これもパスになるのか? いやならない。わからない。僕の4本目、2017年のドラマです。


渡辺セレクト4.『カルテット』
監督/土井裕泰、金子文紀、坪井敏雄,2017年,日本

有坂:うんうん。
渡辺:これはですね、映画じゃなくてドラマにしたんですけど、脚本が坂元裕二さんです。もうね、映画で言うと、怪物だとか、本当にもういろいろ、『花束みたいな恋をした』など大活躍。本当に、花束みたいな恋をしたが好きすぎて、当時、面白い、面白いって言っていたら、まわりから「『カルテット』観てます?」って言われて。で、『カルテット』は観ていなかった。そしたら、本当にね、4人ぐらいに激推しされて、あの『花束みたいな恋をした』が好きだったら、絶対『カルテット』好きだと思うんで、ぜひ観てくださいって言われて観たら、見事にハマっちゃったというですね、本当に面白いドラマでした。で、『カルテット』って四重奏の音楽の、四重奏の話なんですけど、アマチュア音楽家が主人公の話です。で、偶然カラオケボックスで演奏の練習をしていた人たちが出会って、そこから、なんかこう軽井沢に別荘があるから、そこに集まってみんなで演奏の練習でもしませんか、みたいなところから話が転がりだして、実はみんなそれぞれ秘密を抱えていて、それが徐々に暴かれていくというような、コミカルなんですけど、ちょっとそういう深刻さも漂うミステリーというような、本当に脚本が見事っていう、坂元裕二ワールドの作品なんです。その中心人物、中心にいるのが松たか子なんですね。他には、満島ひかりとか、松田龍平とか、本当にいろんなキャストがいるんですけど、この中心的にいるのが松たか子で。本当に坂元裕二の脚本にも、やっぱり見事にハマるんだと。このドラマなんですけど、演出を手がけているのが、あの『花束みたいな恋をした』の土井監督。なので、土井監督、坂元裕二脚本のコンビのドラマを、花束より前にやっていたのが、この『カルテット』だったというので。本当に坂元裕二ワールドの、ちょいちょいいろんなネタが面白いんですけど、その中で有名なのが、「からあげレモンかけますか」。
有坂:あー。
渡辺:聞いたことあるでしょ。
有坂:あるある。
渡辺:レモンを、「かけますか?」とかってね、居酒屋とかでよくあると思うんだけど、「いや、なんかそれはそれぞれだから、皿に移してから個別にかけたい」「最初にバーってかけちゃう人ってどうなんでしょうか」っていう、そういう議論が永遠とされるみたいなのが、ちょっとなんかわかる、アルアルみたいなやつが、面白おかしくエピソードトークみたいなやつが入ってくるっていう。本当に、この『カルテット』にドハマりして、本当に紹介してくれてありがとうっていうので、紹介してくれた人たちと、から揚げ食べに行きましたから(笑)。から揚げ食べに行って、みんなで「レモンかけますか?」って言ってやるっていう。それを、本当に行きたくなるぐらい、面白かった作品です。本当にこの中でも、松たか子さんが、実は秘密があるみたいなところを明かしそうで明かさないみたいな、っていうのを見事に演じ切るというか、シリアスというかコメディエンヌなんですけど、そういう、なんかコメディもできる人なんで、それが本当、坂元裕二脚本のちょっとコミカルな流れにも、見事にハマるという。けっこう錚々たる監督と、松たか子さんってやっているんですけど、やっぱりなんかそういう巨匠とか、名匠みたいな人たちに愛されるのがわかる。なんか、ちゃんとその世界に染まれるような素質を持っているんですよね。なので、ドラマでいうと『ロングバケーション』とか、『ラブジェネレーション』とか、『HERO』とか、そういうもうなんかキムタクとの月9みたいな、ザ・ドラマの王道のところにもしっかり出ていながら、こういうところにもちゃんと出ていてっていう、本当に才能のある人たちに愛されて、ちゃんとそこで結果を残すという、本当にね、振り返ると錚々たる人たちとやっているからね。本当、すごいなっていうのがわかる。なので、ちょっとドラマからもね、結構錚々たるドラマも出ているんですけど、まぁ、個人的に好きのが、この『カルテット』だった。これは、ちょっと観ていない人は、ぜひ観てほしいですね。
有坂:観ます! 僕、観ていないんで。
渡辺:配信も、あると思うので。
有坂:U-NEXT。『カルテット』も、フィルマークスのページあるんだね。
渡辺:そう、ドラマもあるので。
有坂:そう、坂元裕二と松たか子といえば松さんの名曲。「明日、春が来たら」の作詞が坂元裕二。
渡辺:ええ! マジで!
有坂:もう、その才能に愛されてっていうのは、もう、97年曲で、『四月物語』の前、『四月物語』の上映後のトークで話したけど、松たか子って紅白の司会をやって、10代でやって、で、「明日、春が来たら」のシングルが出て、『四月物語』っていう、まさにブレイクの瞬間。そのタイミングで坂元裕二ともう実は仕事をしていて、『カルテット』。十何年後に『カルテット』だもんね。語ったね(笑)。思い出が伝わってきました。唐揚げ、真似します。……じゃあ、僕の蒼井優、4本目は、さっきちらっと『鉄コン筋クリート』のときにも名前の出た、2006年の作品です。


有坂セレクト4.『フラガール』
監督/李相日,2006年,日本,120分

渡辺:うーん、うん。
有坂:これはもう蒼井優が、日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞を受賞したということで、まあ、名実ともに大スターの仲間入りをした1本でもあるのかなと思います。この中で、蒼井優は高校3年生の紀美子という役を演じています。物語自体は、実話をベースにした映画で、福島県のいわき市で昭和40年の設定なんですけど、炭鉱が閉鎖になってもういよいよこの街やばいぞと追い込まれた中で、新たにレジャー施設をつくって、街をもう一回盛り上げようという動きがありました。その中で、ハワイアンセンター、常磐ハワイアンセンターというのをつくろうと、その目玉として行われるのがフラダンスショー。そのダンサーの一人が蒼井優演じる紀美子となっています。これはもう、炭鉱の街で、そこをもう一回盛り上げようみたいな設定っていうのは、イギリスはじめいっぱいあるじゃない。リトル・ダンサーしかり、ブラス!しかり、アメリカにも遠い空の向こうに、実は日本にも炭鉱の街を舞台にした映画があって、それが『フラガール』になります。話としては、今お話ししたような街をもう一回再生させるっていう大きな流れがあって、そこにダンサー志望の人が集まるけど、全然踊れない人たちもいたり、いろんなキャラクターがいる中で、みんなが同じ方向を目指していくっていう。本当にこれうまくいったら、みんなが感動できるようなサクセスストーリーがベースなんですけど、見事に、それがうまい形で作品として形になったということで、この年の日本アカデミー賞では最優秀作品賞、監督賞、脚本賞で助演女優賞ということで、もうその年の賞レースを総なめした作品になります。この手のダンス映画で面白いのって、本当に踊れる人たちだけを集めることってあんまりないじゃん。この映画でいうと、本当に実はしずちゃんとかもそうだけど、そんなに踊れなかったけど、もう猛特訓を積んでこの役を演じましたって言うけど、その猛特訓を積んで演じたっていうことが、そのまま役にも重なってくるじゃん。だから、フィクションで、物語の中の世界なんだけど、本人が努力して本当に踊れるようになったという、ドキュメント的な要素もあって、それがこの物語の最後のダンスシーンにもう溢れんばかりのエネルギーとして表現される。本当にもうみんなが踊れるようになったおかげで、この映画が素晴らしい作品になったというところでも、本当に見どころかなと思います。
有坂:僕らの好きなジャン・ルノワールのフレンチ・カンカンも同​​じだよね。これは時代が変わっても、こういうものは人間の心を打つなと思った作品です。ちなみに、この映画の監督、今話題の超話題の国宝の李相日が監督です。なので、『国宝』で李相日という監督を初めて知った人、『フラガール』を観ていたっていう人もいればね、『フラガール』なんてっていう人も、『国宝』に打ちのめされたら、ぜひこれも観ておいたほうがいいのかなと思います。ある意味こういう王道の分かりやすい物語を、このレベルでつくれるっていうところで、もうすでに実力は認められていた監督だったのかなと思います。あと今ね、蒼井優が結婚もして、山ちゃんと結婚もして幸せそうですけど、その目線で観ると、そもそもこの映画で蒼井優は、しずちゃんと共演したことで山ちゃんと出会った、ということで、そういう点でキューピット的な作品でもあるのかなと思うので、観てない方は、改めて観てほしいなと思う作品です。
渡辺:なるほどね。これはけっこう観られるのかな。
有坂:これは観られなくなるときがないぐらい。
渡辺:なんかテレビでも、たまにやるしね。
有坂:そうだね。ウォーターボーイズとか、『フラガール』とかね。この辺はいつでも観られるような、みんな大好きな名作!
渡辺:たまにね、劇場でもやっているので。
有坂:広島で! 朝10時から『フラガール』、いいね! 夏休みに。
渡辺:たぶん『国宝』の流れだね。
有坂:そうだね。いいじゃん、昼に終わってさ、1日の始まりとしては素晴らしいね。
渡辺:なるほどね。いいですね! はい、じゃあいよいよ、最後の5本目いきたいと思います。僕の5本目はですね。
有坂:あれかな、最新作かな?
渡辺:最新作でございます! もう時系列で来ているんで。松たか子さん最新作、2025年の作品です。


渡辺セレクト5.『ファーストキス 1ST KISS』
監督/塚原あゆ子,2025年,日本, 124分

有坂:いいね!!
渡辺:これも脚本、坂元裕二です。だから、さっきのそのデビュー曲からすると、めちゃくちゃもうずっと組んでるみたいなね、ところがあるかもしれないです。監督は、塚原あゆ子さんっていう、けっこうもういろいろ映画、ドラマで一番売れっ子じゃないかぐらいの方ですけど、その監督というのが、今年の2月ぐらいに公開された作品です。で、共演は松村北斗です。坂元裕二初のタイムリープものだと思うんですけど、あの松村北斗と松たか子、夫婦なんですけど、これも普通にあらすじにあるレベルの内容ですけど、松村北斗さんは事故で亡くなっちゃうんですね。で、亡くなっちゃうんですけど、ひょんなことから松たか子さんは昔にタイムリープすることができるようになる。車で走っててトンネルを抜けると、昔に戻れるっていうのがわかるっていうね、っていうのがあって、この松村北斗が死なないにはどうしたらいいかみたいなことを、そうすると、自分が過去に遡ることができるので、未来をそこをいじることで変えることができるんじゃないかってことで、いろんな模索をするっていう。そもそも出会ってなければ、こんなことにならなくて済んだんじゃないかとか、でも、出会わないってことは、二人の今までの馴れ初めみたいなこともなかったことになっちゃうので、そういうところで、どっちがいいんだとか考え始めることで、この夫婦の出会った頃の思いとか、そういったものにまた気づかされるっていう。ちょっとキュンとするラブストーリーになってるんですよね。なので、タイムリープものの王道として、なんかこう行ったり来たり、もうなんか分かっているから、それクリアできちゃうみたいな。そういうコミカルなやりとりが前半はすごい楽しい。だんだん後半、出会ってなかったら、なかったことになっちゃう、どうなのみたいな。
そういう恋って何とか、夫婦ってどういうことみたいな、そういう真面目な話にもなりつつっていう、本当に坂元裕二すげえなっていう、脚本の妙みたいなところを堪能できるし、松たか子が本当にコメディエンヌもできるし、シリアスもできるし、感動もさせられるみたいなっていうのが、万能なんですよね。だから、今本当に今年の映画なんですけど、なんていうんだろうな、まったく魅力が色褪せない。『カルテット』のときとかから、もうまったく変わってないってぐらい若々しいし、なんか色々器用にできちゃう。あんまりね、ベテランですっていう感じもしないし、そこが本当に松たか子さんのすごいところだと思います。なんか、雰囲気的には昔からあんまり変わっていない感じはするんだけど、やっぱりこうやって振り返ってみると、超絶いろんなすごい人たちと仕事をしてきていて、そこでちゃんとすべて結果を残してきているっていう、そういう凄さはありつつ、そのとき、そのときの作品に、世界にちゃんと染まるっていう、そういう本当にすごい女優なんだなっていうのを感じさせてくれる作品です。なので、この最新作でまた松たか子を観て、なんかあんまり意識していないんですよ、普通に松たか子を消費してしまうんですけど、またこう振り返って改めて観ると、本当にすごい女優さんだなと思います。さっき、『国宝』の話が出てきましたけど、歌舞伎界のプリンセスで、生まれがですね、『国宝』ってどういう話かっていうと、女方の役者の話なんですけど、なんで女方の役者がいるかっていうと、歌舞伎っていうのは、女性は役者になれないんです。なので、男性が女性を演じる。それが女方なので、松たか子さんは歌舞伎役者になれないんですよ。歌舞伎の家に生まれながら。でも、やっぱり女優をやらせたら、とてつもない才能だったっていう。これは、今の日本の歌舞伎界だから歌舞伎俳優になれないんですけど、もし歌舞伎俳優になっていたとしても、相当な役者になったんじゃないかなっていう。『国宝』もね、血筋の話だったりもするので、それも合わせていろんなね、松たか子を感じられる。松たか子さんは『国宝』には出ていないんですけど、なんかそういう歌舞伎一門ってやっぱり才能があるんだみたいな。血筋もあるし、才能もあるのに、歌舞伎には出れないみたいな。『国宝』とかも含めてみると、すごいなんか、すごい数奇な運命にある人なのかもしれないっていう。なんで、ほんと今回ちょっと振り返ってみてね、すごい、改めて面白い立ち位置にいる女優さんだと思いました。
有坂:松たか子の『国宝』の感想を聞いてみたいよね。
渡辺:そうだね。観ているのか。
有坂:絶対に観ないと言っているのか。『ファーストキス 1ST KISS』、最高です! はい、じゃあ、ちょっと時間も時間なんで駆け足で。僕の蒼井優5本目は、2008年公開の作品です。

渡辺セレクト5.『人のセックスを笑うな』
監督/井口奈己,2007年,日本, 137分

渡辺:うーん!
有坂:これは、山崎ナオコーラの同名小説を映画にした作品で、キャストは松山ケンイチ、永作博美、蒼井優ということで、2008年につくられた作品です。蒼井優が演じるのは、これは助演というポジションで、まず話からするとこれは美大に通う19歳の男の子を松山ケンイチが演じていて、その先生、講師としているのが永作博美、20歳年上の講師。この2人、年の差がある2人がちょっと恋愛関係になっていくんだけど、実はその20歳年上の永作博美には夫がいるということで、そこに巻き込まれていくのが、蒼井優演じる、えんちゃんという友人役です。なので、自分の友人である、みるめという松山ケンイチが演じる青年に、あんな女の人はって言いながら、実は自分もみるまに心を惹かれているという、ちょっと複雑な三角関係みたいな話なんですけど、物語の後半は永作博美じゃなくて、蒼井優がほぼ主人公のような映画になっています。この映画がいいなって思うのは、いわゆる恋愛映画、ラブストーリーっていうのは、カップルの2人、カップルになるであろう2人にフォーカスされていくというのが、王道のつくり方なんですけど、この映画というのはどっちかというと思っている側の受け身の人たちにフォーカスされていく。なので、どんどんいろんなことに巻き込まれていって、翻弄されていく側がメインで描かれているというところが、他にはあんまりない、この映画の面白さなのかなと思います。そういう役を演じさせると、蒼井優というのはもう天下一品で、もう声張り上げてカツ入れるシーンとか、うじうじ悩んでしまうシーンとか、本当に感情の振り幅が大きい役なんですけど、そういう役、さらに美大生というところも含めて、本当に彼女じゃないと演じられない役だし、観終わった後、主演の一人だったなっていうぐらいの印象に残る役を演じています。この映画を作ったのは、井口奈己という女性監督で、この前に犬猫という、かつて本人がつくった8ミリ映画の自主映画を、商業映画のデビュー作としてセルフリメイクして、その彼女がつくった2作目が、この『人のセックスを笑うな』になります。すごく個性的な映画を撮る人で、割とどの作品も淡々と、ゆっくり空気の流れで、淡々とした作品をつくるんですけど、割と人にフォーカスする内容ながら、主人公のアップの表情とかを映すシーンがあんまりない。この映画でも、美大で普段日常生活を送っている人たちを、学校の空間の中にポツンと置く。いわゆる引いた絵で撮るので、演じている人が今どういう感情なのかなっていうのを、観ている側がちゃんと読み取ろうとしないと、ちょっと分かりづらい部分もあるんですけど、でも逆に、そういう風景の中に人間がいるみたいな映画が好きな人には、多分、井口奈己という監督はどの作品を観てもハマるんじゃないかなという、実は、個性的な監督ではないかなと思います。
蒼井優は、この3年前かな、ハチミツとクローバーでもね、同じような設定の役をやっていて、美大生の役をやっていたりして、本当にこの手の役はハマるなと思うんですけど、今日、僕が紹介した5本の映画というのは、2004年の『花とアリス』から2008年の『人のセックスを笑うな』まで、実は4年の間に出ているんですよ。代表作って言われるような映画を、初期の4年でこれだけ演じている。さらにハチクロがあったりとか、クワイエットルームにようこそとか、百万円と苦虫女とか、まさに蒼井優がブレイクした、神がかった4年に出演した映画を、今日僕のほうでは紹介してみました。

 

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有坂:多分、もっと後期で、この映画がいいなとか、それぞれ皆さん思うところはあると思いますが、僕はあえて時代を限定して紹介してみました。いかがだったでしょうか? 他にも紹介したい映画は、松たか子もあったでしょう。
渡辺:ドラマにすごい出ているからさ、そこもすごいなと。
有坂:そうだね。蒼井優の映画の出演作ってすごいんだよね。ドラマも出ているけど、数で言うと映画のほうが出ていて、最近だと山田洋次の映画とかも出ていたり、今度、TOKYOタクシーっていうね、それも山田洋次のリメイクも出ていたり、宮本から君へのヒロインとかね、スパイの妻とかね、相変わらず年を重ねてからも本当に魅力的な女優さんではないかなと思います。

有坂:では、最後に何かお知らせがあれば。
渡辺:お知らせは、またフィルマークスのリバイバル企画なんですけど、8月15日が終戦記念日ですけど、今年終戦80年っていうのがあって、ライフ・イズ・ビューティフル。何か戦争ものをやりたいなと、その中でもポジティブな作品で名作と言われている『ライフ・イズ・ビューティフル』をやりますので、劇場で観たことない人がけっこう多いので、この機会にぜひ観てもらえたらなと思ってます。
有坂:これも親になってから観るとね。
渡辺:そうですよ。
有坂:たまらないと思いますが。

有坂:僕からのお知らせは、キノ・イグルーのイベントは、8月11日(月・祝)に横浜市役所の吹き抜けになっているエントランス。これもね、戦争に絡んだイベントで、上映する映画はシチリアを征服したクマ王国の物語というイタリアのアニメーションを上映します。その中で、その映画自体は具体的な何かの戦争を描いたわけではないですけど、こういう時代が、こういう流れになると戦争が起こるよねとかっていうところでそういうメッセージも含めてその映画を選んだんですけど、上映前に45分間、僕と順也でトークショーをやるんですけど、そこではいろんなこれまでの戦争映画について、トークの中でいろんな作品を紹介しようと思っていますので、予約なし、参加無料ですので、ぜひ来てください!
8月30日(土)、31日(日)は、恒例の横須賀美術館の野外上映会。今年は、ルパン三世 カリオストロの城を上映いたします。このあたりの情報は、これからホームページとインスタグラムで紹介していきますので、ぜひそちらでお会いできればと思います。

 

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有坂:はい、では次回は「日本の男優」ということでお楽しみに。またこちらでお会いできればと思います。では、今月のニューシネマ・ワンダーランドは、以上となります! 遅い時間まで皆さん、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい。

 

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe