
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回は「このハリウッドの男優にフォーカスした映画」を切り口に、それぞれが一人の女優をピックアップし、おすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、後攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
有坂:今月のニューシネマワンダーランドのテーマは、「このハリウッドの男優にフォーカスした映画」。前回が女優で、僕はキルスティン・ダンスト。順也は?
渡辺:フランシス・マクドーマンド。
有坂:というですね、激渋なところを選びましたが、今回は男優ということで、それぞれ一人ずつフォーカスして、5本の映画を紹介したいと思います。じゃあ、僕の選んだ俳優、スティーヴ・ブシェミから。まずですね、スティーヴ・ブシェミ。知らない方も多いと思います。彼はですね、90年代、80年代後半からかな、そこから映画に出始めた、いわゆるバイプレイヤーの鏡と言えるような人です。彼自身のどんな映画に出たかっていうのは、これから紹介する5本を中心に、この後お話ししようと思うので、ちょっと僕の好きなスティーヴ・ブシェミのエピソードを一つ紹介しようと思います。彼は売れる前、役者として売れる前は、スタンダップコメディアンとして舞台に立っていた。それは夜の仕事で、彼は日中、消防士をしていたんです。これ、けっこうアメリカの人では有名な話らしくて、というのも、彼が今でもボランティアで消防士とかやっているらしいんですけど。
渡辺:ボランティアでやるものなの?(笑)
有坂:そうなんです。それもエピソードがあって、アメリカの9.11の同時多発テロのときに、いわゆる世界貿易センタービルの瓦礫の山の中、パニック状態で、みんながみんなの命を助けるみたいな、あの状況のときに、なぜか今、使用されていない消防服を着て救出作業をしている人がいて、それを現役の人が見て、「あいつ誰なんだ?」って言ってヘルメットをパッと取ったら、スティーヴ・ブシェミだったという。ブシェミは、消防士だったというところで、やっぱり今自分が何とかしないとということで、できることとして作業着て、救出作業して、それがやっぱりすごく認められて、後の今もボランティア活動をしていると言いましたけど、ボランティアとしても時間のあるときに彼は携わっていると。という形で、そんな心優しき一面もある、スティーヴ・ブシェミの5本の映画を、これから紹介したいと思います。
まず、1本目はこれしかありません。
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有坂セレクト1.『レザボア・ドッグス』
監督/クエンティン・タランティーノ,1992年,アメリカ,100分
渡辺:はい!
有坂:これは、1992年のクエンティン・タランティーノの長編デビュー作です。このいわゆる伝説の、アメリカ映画がここからまた大きく変わった記念碑的な一本で、スティーヴ・ブシェミはミスター・ピンク役を演じています。この映画はどんな内容かというと、宝石店の強盗計画。その宝石店の強盗をするメンバーはみんな黒スーツを着た、これですね、強盗団なんですね。それぞれやっぱり素性を明かさないということで、コードネームを付けられるんですね。そのコードネームが色にちなんだコードネーム。なので、ミスター・ブルーとか、ミスター・ホワイト、それぞれボスから付けられるんですけど、そのコードネームを付けられるシーンとかも劇中にあって、スティーヴ・ブシェミってちょっとひょろっとして、見るからに変な雰囲気を漂わせている人。声もちょっと高くて、そんな「こいつ強盗できるのかな?」みたいなタイプの人がメンバーの中にいる。そんな彼が与えられたコードネームが、ミスター・ピンクなんですね。最初、ピンクに反対するんですよ。「なんで俺がピンクなんだ!」って。そういうことを言いそうな顔なんですよ(笑)。そういうところも、やっぱりスティーヴ・ブシェミっていう、もともと持ってる彼のパーソナリティをタランティーノが活かして、そういういちいちイチャモン付けるみたいな役を与えているってところで、本当に良き監督に恵まれて、いい役を与えられたなと思うのがこの『レザボア・ドッグス』となっています。この映画自体は、宝石店の強盗計画に失敗してしまうところから物語が始まるんですね。で、なんで失敗したか、どうやらこの仲間の中に裏切り者がいるぞと。で、一体裏切り者は誰なんだっていうところで物語が進んでいく。いわゆるバイオレンス映画となっています。で、このスティーヴ・ブシェミは、さっきのそのピンクっていう名前にイチャモン付けたりとか、あとみんなでレストランに行って食べ物とか頼むときに、チップを払わなかったりするんですよ。ケチったりする。なので、そういう独特の価値観を持っているっていうのが、映画の冒頭で描かれるので、その仲間だったはずのメンバーに何か疑念が生じたときに、まず真っ先に疑われたりするっていう、ある意味おいしい役を演じています。物語の展開はネタバレになるので、詳しいことは言えませんけど、裏切りとか、信頼とか、忠誠みたいなものを、犯罪者グループを通して描いた、本当にタランティーノらしいクライムドラマになっています。当時、タランティーノは、28歳のビデオ屋店員でした。いわゆる無名の映画オタクが、自分の脚本で映画監督デビューができるという、当時の若手映画人に思いっきり夢を与えることになった、きっかけの一本となっています。この映画って、何で無名の人が長編が撮れたかというと、もともと『レザボア・ドッグス』って短編バージョンがあって、それをいろんな映画人に観せた中で、結果的にミスター・ホワイトかな、ハーヴェイ・カイテルっていう俳優さんに短編バージョンが渡って、「これはすごい才能だ」ってことで、自分がプロデューサーになるという形で、大物俳優がプロデューサーで入ってくれたことで、その脚本がどんどんいろんな人の手に渡って、お金も集まり、長編デビューすることができました。観たことある? 短編版。
渡辺:いや、ない。
有坂:今、これ観ている皆さんには観せられないんですけど、これがそうなんです。
渡辺:ブシェミだ。
有坂:そう! ちょっと後ほど、これは僕のインスタのストーリーとかでちょっとリンク貼っておきますけど、この1991年につくった短編バージョンに、すでにスティーヴ・ブシェミが出ているんです。なので、やっぱりタランティーノの中では、すごくマッチョな犯罪者集団の中でも、ちょっと異質なスティーヴ・ブシェミの可能性というのを、もう一早く感じていたのかな、ということで、彼自身もこれがブレイクスルーになるきっかけになった一本ということで、『レザボア・ドッグス』から始めたいと思います。
渡辺:このとき、役者がみんな素人というか、無名のティム・ロスとか、マイケル・マドセンとか……。ハーヴェイ・カイテルぐらいだよね。
有坂:そう、名のある人はね。スコセッシの映画に出ていたからね。
渡辺:なるほど、最初はそこでしょうね。
渡辺:では、続けていきたいと思います。僕は、レオナルド・ディカプリオです。
ディカプリオは、みんなご存知っていう感じだと思うんですけど、最初は子役でした。子役からスタートして、しかも映画というか、テレビ番組とかの「シットコム」って言われるコメディ番組みたいなのに出ていて、それでお茶の間でおなじみみたいなところから、映画でスターになっていって、スターになっていった後に、次々有名監督と組んでいって、名優となっていくという、そんなレオナルド・ディカプリオですけど、彼の若いときから時系列で5本紹介できればなと思います。
渡辺セレクト1.『ギルバート・グレイプ』
監督/ラッセ・ハルストレム,1993年,アメリカ,117分
有坂:うーん!
渡辺:1993年の作品で、彼が19歳だった。
有坂:もっと若く見えるよね。
渡辺:19歳のときの作品なんですけど、本当にもう華奢で、すっごい細くて、もっと幼く見える役どころです。役としては、18歳になるアーニーという男の子の役なんですけれども、これですね、アーニーは障がいを持っている役なので、それを体当たりで演じて、もう本当にそういう子にしか見えないっていう。これで出てきたときにすごい若き天才みたいな、そんな感じの映画界というか、映画の観客からは、受け入れられ方をしていたのが、このレオナルド・ディカプリオの『ギルバート・グレイプ』という作品でした。この映画、どんな内容かというと、主役はジョニー・デップですね。ジョニー・デップはお兄ちゃんで、大人しい性格で、一家の長男で、お母さんはものすごい肥満で家にいて、お父さんいなくて、自分が一家を支えなきゃいけない。弟は障がいがあってという。そういうすべての苦労を一人で背負っているみたいなジョニー・デップに対して、弟のレオナルド・ディカプリオのアーニーは天真爛漫で、自分の思ったことを全部口にして、嫌だとかやりたいとか、本当にわがまま放題という、そういう役を演じています。なので、この兄弟がすごい対照的なんですよね。光と影みたいな、太陽と月みたいな、そういう関係性というのが、この作品の一つの家族を描いた魅力的なところでもあるんですけど。監督が、ラッセ・ハルストレムというスウェーデンの名匠になります。そういう監督に早くから名匠みたいなところで映画で一緒になっていると。そこで、若くしていきなり天才的な名演技を見せたのがこの作品で、この当時、撮影スタッフもレオナルド・ディカプリオのことを、まだ無名だったので、テレビは出てましたけど、映画はまだそんなに出ていないという時期だったので、この子は本当に障がいのある子なんだというふうに、撮影スタッフが思っていたそうです。そのぐらい役作り、入れ込んで撮影していたと。っていうので、もう本当にこの10代のときから演技の天才の片鱗を見せていたというのが、この『ギルバート・グレイプ』になります。
有坂:これさ、ディカプリオってオスカーにノミネートされたんだっけ? 助演男優賞とか。
渡辺:いやされてないじゃない。
有坂:されてないんだっけ?
渡辺:ね、こんなにすごいのにね。
有坂:でも、僕も、ディカプリオってまだ知らない初めてのとき、初ディカプリオがこれで、本当にそういう人だと思っていた。そしたら、その後、なんかロバート・デ・ニーロと出ている映画とかがあって。それぐらいの演技力。ジョニー・デップが霞むほどの役でした。
有坂:では、僕のブシェミ2本目いきます。2本目は前回、順也も紹介していた映画になるんですけど、1996年の作品です。
有坂セレクト2.『ファーゴ』
監督/ジョエル・コーエン,1996年,アメリカ,98分
渡辺:うん!
有坂:これはやっぱりスティーヴ・ブシェミを語る上では、どうしても外せない一本です。これはコーエン兄弟によるブラックコメディ、クライムサスペンスというジャンルの作品です。ミネソタ州のファーゴという場所が舞台になっている、これはクライムサスペンスになるんですけれども、シネマライズ、渋谷にあったシネマライズで観たんですけど、これを観る前に、予告を30回ぐらい観たんです、劇場で。その予告編もすごくよくできていて、冒頭に初めは、キャッチコピーで、「初めは無邪気な偽装誘拐だった」。“無邪気な偽装誘拐”って何? みたいな。これ、実際に観てみると、自分の借金を抱えてしまった自動車ディーラーがいて、自分の奥さんを偽装誘拐して、彼女の裕福なお父さんから身代金を騙し取ろうっていう。その偽装誘拐を請け負った2人のうちの1人が、スティーヴ・ブシェミになります。この大事な誘拐する側の2人が、めちゃくちゃポンポツで、デコボココンビみたいな、見た目のシルエットもデコボコで、何やってもうまくいかないみたいな、コントみたいな。ちょっと笑いを散りばめつつ、でも、その事件が起こってある人を射殺してしまって、事件はどんどん思わぬ方向に物語が転がっていくっていう内容なんですけど。その笑いがありながらも、突発的なバイオレンスの描写とかはちょっとグロいんだよね。なので、そこのバランス感覚がすごくコーエン兄弟らしさでもあって、後にね、あのーなんだっけ……、あの人を使って、コーエン兄弟のこのクライムサスペンスで、あっ、『ノーカントリー』で、ある意味このスタイルは完成したと思うんですけども、わりと初期の頃につくった代表作の一本が、この『ファーゴ』になります。で、この映画って、コーエン兄弟6作目かな、監督としてすごく「これまでのアメリカ映画とは違う面白い個性を持った人だ!」っていう評価はあるんですけど、やっぱりヒットにつながらない中で、この『ファーゴ』というのは批評家からも絶賛され、きちんとヒットもしたという意味で、なので、初期の代表作と言われているんですけども、結果的にその年のアカデミー賞でも、前回、順也が紹介したフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を獲ったり、あと脚本賞も獲る。カンヌ国際映画祭では、監督賞も受賞するということで、演技、脚本、あとは監督、いろんなところから評価を受けた作品です。これ日本では、その年のキネマ旬報という映画雑誌のベスト10、外国語映画ベスト10の第4位にランクされて、日本でも高い評価を受けた作品です。この映画さ、覚えてるかな。冒頭に「ミネソタ州で実際に起こった実話に基づいているが、生存者の希望から名前を変更しており、それ以外は起こったとおりに正確に語られている」っていうテロップから、これ映画が始まるんだけど、これ実話の映画化じゃないんです。コーエンのちょっとギャグというか、なんかその地味な内容にある意味、箔をつけるために、わざとこういうハッタリを先にかますっていう、とんでもないところから始まって。なんだよ、おいおいと思っていたら、これ実は、撮影現場でもその嘘をついていたらしくて、主要キャストに途中まで、「これ実話の映画化です。あなたは実在する人物を演じます」って言わせて、作品を作っていたらしい。なので、そういう変わった感覚の持ち主が、コーエン兄弟かなと思います。最後に、数年前にアメリカの放送映画批評家協会というところが、1990年代の最優秀映画を選出するという投票を行ったときに、『ファーゴ』は6位に選ばれました。90年代ですよ。10年間のうちの第6位なので高い評価を受けているんですけど、じゃあどんな映画が他にあるか、1位からいきます。『シンドラーのリスト』、『プライベート・ライアン』、スピルバーグですよ。1、2フィニッシュ! で、『L.A.コンフィデンシャル』、4位『フォレスト・ガンプ』、5位『グッドフェローズ』、スコセッシ、6位が『ファーゴ』、この後からがすごいんだよね。7位『羊たちの沈黙』、8位『ショーシャンクの空に』、9位『パルプ・フィクション』、10位『許されざる者』。なんか、これちょっと後半の方が上位なんじゃないかっていうランキングですけど、まあでもこういうラインナップの中にね、入ってくるぐらいの、本当に90年代を代表する名作です。
渡辺:なんかミニシアター系があんまりなかったね、今の。
有坂:そうだね。やっぱアメリカのね。
渡辺:大作で。なるほど。
有坂:という、2本目は『ファーゴ』でした。
渡辺:本当に、このポンコツコンビが面白いんだよね。
有坂:面白いよね。
渡辺:片一方はサイコパス。
有坂:そうそう、暴走したサイコパス。「お前何やってんだ!」って、あのカン高い声で、キャンキャン言うっていう。何を観せられているんだって感じなんだよね。
渡辺:なるほど。じゃあ、続けて僕の2本目いきたいと思います。レオナルド・ディカプリオの2本目は、1997年の作品です。
渡辺セレクト2.『タイタニック』
監督/ジェームズ・キャメロン,1997年,アメリカ,189分
有坂:聞いたことないけどなにそれ?(笑)
渡辺:(笑)誰もが知っているという、ジェームズ・キャメロンの作品です。これはもう本当に世界記録をつくっていた、興行収入の作品なので、知名度はだいぶ高い。この作品を主演することで、レオナルド・ディカプリオは一気にスターダムにのし上がります。それまでは、けっこうやっぱり『ギルバート・グレイプ』で有名になって、『ロミオ+ジュリエット』とか、『バスケットボール・ダイアリーズ』と、けっこうアイドル的なこのルックスで、そういったイケメン役のところをやってきて、まさに超大作で、そういった王子様役にはまったのが、この『タイタニック』じゃないかなと思います。なので、本当に世紀のイケメンみたいな感じで、その年を代表するような超大作、大ヒットっていうところで、一気に若手スターの座を手に入れたというのが、この『タイタニック』になります。『タイタニック』のお話は、有名なので分かると思うんですけど、タイタニック号という実在する豪華客船で沈没してしまった事故がある。そこを描いたドラマの作品となります。主演がケイト・ウィンスレットで、この2人とも、これによってスターダムにのし上がるという感じになります。この作品は本当に大ヒットしたんですけど、このジェームズ・キャメロンという監督が、とにかくお金を使う監督として有名です。それまで『ターミネーター』とか、ヒット作を飛ばしているんですけど、とにかく制作費がすごいかかるというので、この『タイタニック』もとんでもない額の制作費を投入してつくって、追加、追加の予算でどんどん予算が膨らんでいって、20世紀フォックスっていうですね、大手のハリウッドメジャーの会社がつくっていたにもかかわらず、これはこのまま1社で公開してコケたら、20世紀フォックスといえども潰れるってビビって、パラマウントっていうですね、当時の同じ大手メジャースタジオに声をかけて、2社で共同配給しようということで、リスクを分散する形で公開したら、もう世界中で大ヒット! 当時の興行収入の記録をつくるっていう、とんでもない大ヒットだったので、20世紀フォックス1社でやっていれば、とてつもない利益になったのに、それがパラマウントと山分けになってしまった、というようなエピソードがあるぐらいの大ヒットをつくったのが、この『タイタニック』になります。ちなみに、ジェームズ・キャメロンが、この後に多額のお金を使ってやっているのが、今『アバター』という作品ですね。これがシリーズが、シリーズというか、7部作くらいの感じらしいので、今度、今年やるのが3作目かな。
有坂:そうそう。
渡辺:なので、まだまだ続く。しかも、ほぼ全編CGなので、実写って言えんのかみたいな感じなんですけど、中で演技しているのは、実際の生身の俳優さんがキャプチャーやって作っているものになりますので、とんでもないお金がかかっているんですけど、どうなる、それが回収できるのかっていう。なかなか、そういうジェームズ・キャメロン監督は新しいことをやって、すごい『アバター』もね、また、『タイタニック』を超えた興行収入をつくったのが『アバター』だったので、とんでもない売上を出すんですけど、すごいリスクを払う、そんな監督のもとでスターになったのが、『タイタニック』でのレオナルド・ディカプリオという感じになります。あと、エピソード的には、帆の上に行って「俺は世界の王様だ」ってレオが叫ぶシーンが、名シーンで名ゼリフと言われてるんですけど、あれはアドリブだそうです。
有坂:そうなんだ!!
渡辺:なので、そういったところにも才能があると。あとはケイト・ウィンスレットが、後に結婚したときに、バージンロードを歩くときに、レオをそこに招待したという感じだそうです。けっこう、この作品で二人の友情がすごく芽生えて、過酷な撮影を乗り切ったということで、本当に盟友としてお互いリスペクトし合っているというので、ケイトの結婚式にレオをちゃんと呼んで、バージンロードにも一緒に歩いてもらう。そんな絆が生まれている作品でもありましたという感じです。
有坂:『タイタニック』、観ましたよ、リアルタイムで。これはでもさ、大ヒットして、大スターの映画が大ヒットして、アカデミー賞、オスカー総なめしたじゃない。もうアカデミー賞を獲る映画って、こういうものを撮ってほしいなっていうイメージってまだあるじゃない、自分たちの中に。でも、意外と『タイタニック』以降そういう映画が少ないから、そういう意味ではね、最後の大スターの映画かなと思うんですけど。これでも残念ながら、オスカー総なめした中に、ディカプリオは入ってない。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:しかも、主演男優賞にノミネートさえされなかった。それがディカプリオの不運の始まりというね。もうその大スターで知名度はあるんだけど、その実力を評価されるオスカー像をなかなか手にできない。呪いの始まりといってもいい映画かもね。
有坂:今となっては笑い話になりますが。じゃあ、僕のスティーヴ・ブシェミの3本目は、1996年の作品です。
有坂セレクト3.『トゥリーズ・ラウンジ』
監督/スティーヴ・ブシェミ,1996年,アメリカ,95分
渡辺:ほう。
有坂:これは、『ファーゴ』と同じ1996年のスティーヴ・ブシェミ主演作なんですけど、なんと、主演兼監督です。監督デビュー作でもあるのが、この『トゥリーズ・ラウンジ』となります。この自分が監督した映画の中で、スティーヴ・ブシェミは31歳のトミーという、パッとしない中年男を演じています。彼は、自動車整備工をしていたんですけど、首になる。おまけに、恋人も奪われるということで、もうやさぐれてやさぐれて、彼が日常的に行っているバー。そのバーの名前が、『トゥリーズ・ラウンジ』といいます。そこに昼間から入り浸って、そこにいる常連の人たちにちょっかい出したりとかして、ダラダラした毎日を送っている。そんな男を演じています。そんなダラダラしていたある日、彼のおじにあたる人が急死してしまうんですね。そのおじは、アイスクリームの移動販売というのを生業としていて、その仕事を引き継げということで、急に無職からアイスクリームの移動販売を始めることになります。そのおじの娘、姪にあたる17歳のデビーという役を演じているのが、クロエ・セヴィニーですね。最近、リバイバル上映された『KIDS/キッズ』でデビューしたクロエ・セヴィニーが出てくるんですけども、そのデビーと知り合って、デビーに恋心を抱くという、30歳を超えたおじさんがティーンエイジャーに恋をするっていう映画を、自らが監督するっていう。それもスティーヴ・ブシェミらしくていいなという、そんな映画となっています。やっぱり俳優が監督をすると、もう大体そうなんですけど、出演者が豪華。これまで自分が一緒に現場を共にしてきた人たちが、監督するなら協力するよということで、すごく地味な田舎の街が舞台の映画なんですけど、共演にはサミュエル・L・ジャクソンが出ていたり、シーモア・カッセルっていうジョン・カサヴェテスの映画にも出てた名優。あとは『レザボア・ドッグス』でも共演したマイケル・マドセン。そんな中に自分の実の弟だったりとか、そういうファミリーも出演させているっていう、自分のつながりのある人たちですごく温かみのある、でも、ちょっとビターなテイストのラブストーリーをつくりました。なんかこう、その『トゥリーズ・ラウンジ』っていうバーのシーンが個人的には好きで、なんかこう本当に昼間から集まって、みんな酔っ払って中学生みたいなバカ話ばっかりして、お互いけなしあってみたいな、ああいうやりとりって、映画であんまり観ないじゃない。なんか異国の田舎の、ちょっとなんかパッとしないおじさんたちがやっているっていう風景を、映画で観られるっていうときに、ちょっと満足感があったんだよね。観たことのないものを観たっていう満足感もそうだし、こういうふうに生きている人も、やっぱりいるんだよなっていう。そこに温かい目線もちゃんとあって、ちょっとした救いというか、自分なりの人生を見つけていくような物語にもなってるので、地味なんだけど、ずっと僕のこの映画ライフの中では、心の中に残ってるい1本が、『トゥリーズ・ラウンジ』です。でも、今配信で観られなくて、これDVD化もされてないんだよね。本当、ブシェミがもう一回ブレイクとかしない限り、なかなか観る機会がないかもなんですけど、字幕なしであればネットで観れます。
渡辺:それはつらいな。
有坂:デイリーモーションっていう、そこで観ることもできるので、映像の雰囲気を感じたい方は、アイスクリームの移動販売、フードトラックみたいなのを観たい方は、ぜひデイリーモーションで探してもらえればと思います。
渡辺:これ何年だっけ?
有坂:これは、96年。
渡辺:やっぱり売れていたときに。
有坂:そうそう、そうなんですよ。だから、やっぱり自分のキャリアが上向きになって、仕事が選べるみたいなときに、実は監督やってみたいんですってことを、たぶん提案して。
渡辺:そうだよね。
有坂:やっぱ、それ大事だよね。流れに乗るっていう
渡辺:若手の役者もね。たぶん、そういうのをやってみたいって人もいるだろうからね。
有坂:そうそう。
渡辺:その勢いで。才能があるかどうかはちょっとね、わかりませんが。
有坂:でもね、個人的にはもう一本観たいなと思うんだよね。それぐらい、監督としても才能があるんじゃないかなと思ってます。
渡辺:続けて、僕の3本目にいきたいと思います。3本目は、2013年の作品です。
渡辺セレクト3.『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
監督/マーティン・スコセッシ,2013年,アメリカ,179分
有坂:出たー! あれですね。
渡辺:出ました! さっきの『タイタニック』のときが、レオが23歳。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のときは、39歳です。けっこう16年。さっき選んだやつから。この『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の監督は、マーティン・スコセッシ監督です。『タイタニック』以降、やっぱり錚々たる監督とタッグを組んでいて、その中でもマーティン・スコセッシとは、これが5作目かな。めちゃくちゃ、そこからもうスコセッシ組みたいな感じで、主演を務めています。その間も、バズ・ラーマンとか、スピルバーグもそうだし、割と錚々たる監督と仕事をしてきています。タランティーノもそうだね。ノーランも、イーストウッドとか、あとリドリー・スコットもいるし、ダニー・ボイルもいるっていう、『ザ・ビーチ』。もう、その名匠と言われる監督と組んでいくという、そういう路線に行った時期になります。やっぱりさっきね、塁が言ったみたいに、『タイタニック』っていう作品で、アカデミー賞を総なめっていう作品で、自分だけがまったく相手にもされないような状況になったっていうのが、実際のところでした。アイドル的な人気を得たし、スターにもなったけど、実力的なところが評価されていないんじゃないかっていう、まぁ『ギルバート・グレイプ』を観たらわかりますけど、そんなことはないんですけど、でも、なぜかアカデミーからは縁がない。嫌われているっていう状況っていうのもあったと思うんですよね。それで、次々といろんな名匠監督と組んでいくっていうのが、この時期になります。その中でこの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、どういう映画かというと、あるバブリーな証券会社を若くして創業した実業家の話なんですね。26歳で証券会社を立ち上げて、年収49億円っていう、とてつもない億万長者に上り詰めて、36歳ぐらいですべてを失うっていう。そういう過滅的な人生を送った男を、レオナルド・ディカプリオが演じているんですけど。このね、成り金になっていく感じとか、成り金になって、お付きの人がジョナ・ヒルなんですけど、ジョナ・ヒルとのやりとりとか、一番最高なのがドラッグをきめて、ヘロヘロになって車に乗れないみたいな。あの演技とか、本当に映画史に残るレベルの、本当にドラッグでヘロヘロになった演技。あれを本当、真顔で自分はまっすぐ歩いているつもりなんだけど、地べたを這いつくばっているっていう(笑)。
有坂:あれ、観てほしいね。ここで観てほしいな。
渡辺:あれだけ観るだけでも、本当にこの映画を観る価値があるぐらいっていう。やっぱり本当、レオナルド・ディカプリオ、上手いなっていう。
有坂:“レオ様”を捨てたね。あのシーンで。
渡辺:映画としてもすごい面白いし、なんかこう一つの会社が、短期間に成り上がっていくというそこのストーリーを描いているので、ビジネスものの映画としても面白いんですけど、とにかくディカプリオの演技が素晴らしい、というのがこの作品になります。あとは、本人は、本当にドラッグとか嫌いらしくて、ハリウッドだとね、もうみんなドラッグやってんじゃないかみたいな感じがありますけど、真面目にドラッグはやらないというスタンスで、なんかあれかな? 菜食主義だったかな? なんかけっこう、いろいろその環境問題に熱心だったりとかっていうのがあるので、そういうドラッグはやらないみたいなスタンスのレオ様が、バリバリラリっているものを演じきったという、そういったところでも面白いかなと思います。
有坂:これはね。でも、その成り上がった成り金ってこうだなってみんなが期待しているものを、その期待を超えてくる面白さでね、観せてくれるし。このあたりからね、ディカプリオの顔芸がね。
渡辺:本当に顔芸すごいですね。
有坂:王子様としての顔の使い方から、ちょっとジャック・ニコルソン的な、迫力ある顔芸を始めた。
渡辺:おじさんになってきてね。渋みが増した感じになります。
有坂:好きだねー。
渡辺:好きです。
有坂:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。はい、じゃあ、ちょっと時間も45分なので、4本目いきたいと思います。スティーヴ・ブシェミの4本目は、1998年の映画です。
有坂セレクト4.『アルマゲドン』
監督/マイケル・ベイ,1998年,アメリカ,150分
渡辺:ははは。そうね。
有坂:はい、これはもう言わずと知れた大ヒット映画。もう『タイタニック』に匹敵するね、その時代を代表する一本ですけども、その超メジャー映画に、スティーヴ・ブシェミが出ている。もう、その衝撃! たぶん、当時本当にバイプレイヤーとして成り上がってきて、さっき紹介した『トゥリーズ・ラウンジ』で、ついに監督までやらせてもらえて、その次にこの『アルマゲドン』に出演するわけです。これはたぶん、もう同じ時代を、苦楽を共にした人たち、俳優にはめちゃくちゃ勇気を与える。「あのブシェミが、こんな映画に出られるんだ」みたいな。
渡辺:ブルース・ウィリスとかね、ベン・アフレックとか、
有坂:もう、錚々たるスターの中に、でも、そのやっぱりスティーヴ・ブシェミがいることで、なんかすごくいいアクセントになっているなぁと思います。ちょっと物語、簡単に紹介すると、20世紀の終わりなんですけど、これあの地球に向かって小惑星が接近しているということが発覚して、それが衝突すると人類滅亡間違いなし。さぁ、どうするっていうときに、その小惑星の内側に核爆弾を仕込んで爆破させ軌道を変えれば、地球は存亡できるんじゃないかっていう、むちゃくちゃな、そういう案をNASAが立てて、その小惑星の内側に爆弾を仕込むときに、その惑星に穴を掘らなきゃいけない。その穴を掘る穴掘りのプロを呼ぶと。そのスペシャリストの一人がスティーヴ・ブシェミです。他には、ブルース・ウィリスとかね、ベン・アフレックもそのメンバーの一人なので、みんながスペースシャトルに乗って、宇宙に旅立つという物語となっています。いわゆる問題児のおっさんたちが地球を救うという、分かりやすく言うとそういう話です。
渡辺:行ったら帰ってこれないかもしれないっていうね。
有坂:そうそう。なので、もうその覚悟を持って、地球を救うという使命を持って宇宙に行く人たちの話です。
そのブシェミは、メンバーの一人なんですけど、自称天才、キザで女たらしっていう。実際、本当に若くして天才として認められた人で、だからこそ周りが扱いづらいみたいな、本当にめんどくさいタイプの、これまで彼が演じできたような役を、もうちょっとスケールの大きいところに置いた、ある意味、彼にしか演じられない役なのかもしれません。その中で、昔『博士の異常な愛情』という、キューブリックの映画がありました。あれも天才博士が主演で、その『博士の異常な愛情』のあの役を、パロディでやるシーンがあるんだよね。『アルマゲドン』の中で。ミサイルに乗ってブーンっていく。そういう小ネタに気づくと、このいわゆるブロックバスター映画、超メジャー映画でも、そういうちょっとサブカル要素的なものもあったりして面白かったり。あと、『アルマゲドン』といえばエアロスミスのあの曲ですよ、「ミス・ア・シング」。これもちょっと秘話があって、エアロスミスって、これまで自分が作った曲を自分が歌うっていう形でやってきたと。ただ、この『アルマゲドン』の主題歌に関しては、もう一人作曲が決まっていて、「その人の歌を歌ってください」と、スティーヴン・タイラーにオファーが来て、スティーヴンの信念としては、「そんなもの歌えね」って言いたいんだけど、この映画のメインキャストの一人に、彼の娘が出ているんです。リヴ・タイラー。リヴ・タイラーも出ているし、曲聴いてみたら「意外といいじゃねえか、俺が歌う」ってなったんだけど、その曲を作曲した人自身は、セリーヌ・ディオンみたいな、女性シンガーをイメージしてつくったらしい。だから、「おいスティーヴン・タイラーかよ」って思ったらしいんですけど、実際に歌ってもらって聞いたら、いわゆるマッチョなロックスターが、繊細な歌詞を歌うことで、別次元の魅力が生まれた。でも、確かにそういう化学反応が起こると、これだけのビッグヒットとか、今でもこの映画を観た人はあの曲を聴いただけで涙腺が緩むぐらいのものも、やっぱりこういう裏話も実はね、あったりしたそうです。あともう一個だけ、これは監督マイケル・ベイっていう人で、これはもういわゆる『パール・ハーバー』とか、『ザ・ロック』とか、メジャーブロックバスター映画の申し子みたいな、ハリウッドを代表する監督なんですけど、彼は15歳のときに、ジョージ・ルーカスのILMっていう会社でバイトしていたらしい。絵コンテの整理のバイトをしていたらしくて、で、そのときの作品が『レイダース』だったらしい。で、その撮影される前の『レイダース』のコンテを見たマイケル・ベイ少年は、「これはクソ映画になるだろうな」って思ったらしい。なんてひどい映画なんだと思って。で、翌年、完成したバージョンを映画館で観て打ちのめされて、映画監督になりたいと。だから、やっぱりその絵コンテの時点ではわからない映画の魅力みたいなものに、もう取り憑かれた人が、マイケル・ベイなのかなと思います。ぜひ、マイケル・ベイとスティーヴ・ブシェミに注目して、『アルマゲドン』を観ていただけると嬉しいなと思います。
渡辺:いや、『アルマゲドン』に出たのは意外だったよね。当時はね。
有坂:でも、そのとっかかりは、やっぱ上手いよね。プロデューサー目線で。
渡辺:ほんと、ミニシアターの男だったのに。じゃあ、続けて僕の4作目は2015年の作品です。
渡辺セレクト4.『レヴェナント: 蘇えりし者』
監督/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ,2015年,アメリカ,157分
有坂:うんうん。
渡辺:これはですね、レオ様41歳のときになります。この作品のポイントといえばですね、ついについに、これでアカデミー賞最優秀主演男優賞を、これで受賞した。なので、長らく、もういろんな名匠と組んで、これでもかあれでもかっていう役をやってきたのに、ずっとアカデミーには無視され続けていたレオ様が、この作品でついにアカデミー賞を受賞したという、記念的な作品になります。この作品がどんな作品かっていうと、めちゃくちゃマッチョな作品で、中世なのかな。近代ぐらいの時代設定なんですけど、アメリカが舞台で息子を殺されてしまった男の復讐劇になるんですけど、復讐をするために自分も殺されそうになるんですけど、そこから蘇ってですね、極寒の雪山をサバイブして、そして復讐を果たすために旅に出るという、そういう作品なんですけど。もうなんて言うんでしょう、『タイタニック』の頃の王子様はどこへ行ったのかな? っていうぐらい、もうタフでマッチョな役になります。もうヒゲモジャで、髪の毛も伸び放題で、毛皮をかぶって雪山を復讐のために怒りの形相で練り歩くっていう。途中でクマに襲われるんですね。
有坂:あったあった。
渡辺:本当に一言でこの映画を表すときに、「レオ様がクマに襲われる映画」みたいに言う人もいるんですけど、なので本当にクマは特徴的なんですけど、クマはCGではあるんですけど、めちゃくちゃそれも表現もリアルで、クマに逆に引きずり込まれながら、何回も何回も叩きつけられるっていう。そういう演技もクマはCGなんですけど、クマの代わりのスタッフに本当に叩きつけられていたらしいので、撮影自体はめちゃくちゃ過酷だったそうです。
有坂:いいねー!
渡辺:本当に雪山でやっているので、でも、レオナルド・ディカプリオとか、もうめちゃくちゃ役者根性のある人ですけど、やっぱり撮影が過酷すぎて、スタッフが大量に辞めるっていうことが、撮影中に起こっていたそうです。っていうぐらい過酷な環境で、しかもレオナルド・ディカプリオがクマに襲われて、声帯をやられて喋れないみたいな役なんですよね。だから、本当に体と表情だけで演技するっていう。それで、復讐を誓った父親のすごさと執念みたいなものを演じ切ったので、喋って感情を表現するとかじゃなくて、本当に身体表現で演技して、それで体現してアカデミー賞を勝ち取ったという。
有坂:顔芸と(笑)
渡辺:そういう作品になるので、本当にこの辺から顔芸が見事になってくるんですよね。このおじさんのしかめ面が、本当にレオナルドの持ち味になってくるという記念的な作品が、この『レヴェナント: 蘇えりし者』になります。
有坂:本当に、「ついに獲れた!」ってみんな言ったもんね。
渡辺:本当に無冠の帝王だったので。
有坂:『タイタニック』とは真逆の作品で取るっていうね。じゃあ、ちょっと時間がないんで、最後いきたいと思います。スティーヴ・ブシェミの5本目は、2001年の作品です。
有坂セレクト5.『ゴーストワールド』
監督/テリー・ツワイゴフ,2001年,アメリカ,111分
渡辺:うん。
有坂:これはさっきのブロックバスター映画『アルマゲドン』を経て、ブシェミどっちに行くのかなと思ったときに、やっぱりここに行ってほしいっていうところに戻ってきてくれる。しかも、この『ゴーストワールド』っていうのは、もともとコミックが原作で、それを映画化しているんです。話的には青春映画なんですけど、いわゆるハリウッドのティーン映画とは違う、キラキラしていない女子2人の青春映画です。高校を卒業するようなシーンから始まるんですけど、2人とも夢も希望もなくて、仲のいい2人が近所をぶらついて世の中に毒づいてるみたいな2人の日常です。そんな2人の日常に、あるとき、古いジャズとかブルースのレコードを集めているコレクターと出会うことになるんですね。そのコレクターの中年男を演じてるのが、スティーヴ・ブシェミです。シーモアという中年男を演じています。で、そのシーモアが入ってくることで、3人の中に奇妙な友情とか、恋愛感情みたいなものが芽生えてくるというようなストーリーになってるんですけど。原作、ダニエル・クロウズの原作には、実はスティーヴ・ブシェミの役ってなくて、女の子2人、イーニドとレベッカ、2人の友情の話なんです。それを監督のテリー・ツワイゴフは、2人の物語よりもそこに第三者を入れて、ちょっとそこに恋愛感情みたいなものが芽生えるってことで、2人の関係も変わってくるというストーリーにしたかった。だから、この3人目のシーモアという役は、すっごく大事。この脚本にしようとした時点で、スティーヴ・ブシェミって決めていたらしい。ブシェミにオファーして断られたら、この映画を降りるって言ってたらしい。なので、もうそれは役者名利に尽きる役で。さっきブシェミが自分で監督した『トゥリーズ・ラウンジ』は、彼がティーンエイジャーに恋をするっていう役でしたけど、今回はティーンエイジャーから恋をされる中年男を、ブシェミが演じているんですけど、本当にこれは監督のブシェミへの思いもそうだし、あと、これはレコードコレクターという設定も、監督はすごくブルースとかジャズとか昔の音楽、ヴィンテージミュージックが大好きで、いろんな曲を使いたくなることがもう分かっていたから、設定としてレコードコレクターにしたんだって。そこで、いろんな自分の多くの人に知ってほしい曲も使いつつ、自分にしか描けない『ゴーストワールド』をちゃんと映画にするということでつくった、温度感低めなんだけど、実はちょっと胸熱なエピソードのある作品で、リバイバルもすごく話題になった作品でしたが。
渡辺:これ、女の子もスカーレット・ヨハンソンだよね、若き日の。
有坂:そうだよ。スカヨハもインディーズの女神みたいなところからね、『アベンジャーズ』とかいったからね。
渡辺:なるほど。最後、僕の5本目は2025年の作品です。
渡辺セレクト5.『ワン・バトル・アフター・アナザー』
監督/ポール・トーマス・アンダーソン,2025年,アメリカ,162分
有坂:うんうん。
渡辺:絶賛、公開中ですね。レオ様が51歳かな、という作品になります。これはですね、監督ポール・トーマス・アンダーソンという、「P.T.A.」と呼ばれる、もうなんだろう、今のナンバーワン監督じゃないかみたいな、映画人からも好かれる監督とタッグを組んだ作品になります。時代設定が何年くらいになるんだろう、20年前ぐらいのところから始まるんですけど、現代から70年代、80年代を描いてるのかな、もっと前なのかな。なんか革命家の話なんですね。昔いろいろテロとか、もっと小さいグループの左翼的テロ集団とかありましたけど、本当、その時代を描いています。主人公たちのグループっていうのが黒人のグループで、移民を解放するみたいな、そういうことをやっている革命組織なんですけど。その中心にいる黒人女性に惚れているのがレオナルド・ディカプリオで、革命家として、爆弾の専門家として、そのグループに参加してるんですけど。冒頭のシーンがまず面白くて、移民を解放するための移民が囚われているキャンプを爆破して救済するみたいなとこなんですけど、ちょっと遅れてディカプリオがカートを引いてきて、爆弾いっぱい持ってきたけど、「今日って何のやつなんだっけ?」みたいな。
有坂:分かってない(笑)
渡辺:状況分かってねえじゃんみたいな(笑)、聞かされてねーのかよみたいな。すごい、もう雑魚役として登場するところから面白いっていう。「いいの、あんたは爆破してればいいから」みたいな、軽い扱いを受けるみたいな。そういうダメ男っぷりがたまらないっていうのがこの作品でのレオナルド・ディカプリオの魅力となってます。ここ近年の作品でのレオナルド・ディカプリオの演技の魅力って、やっぱりダメ男っぷり。ずっとへの字で苦い顔して終わるみたいなものだったりとか、その辺が今の中年になってきての演技の幅が出てきているのが、ダメ男っぷりっていうのがちゃんとできるっていうところですね。
本当、この作品も面白いんですけど、途中でいろいろ組織との暗号をやりとりして、その暗号をクリアして次に進むみたいなところがあるんですけど、暗証番号忘れちゃうんですね(笑)。
有坂:あのシーン、面白い!
渡辺:暗証番号思い出せないっていうのを、もうなんか「キー!」ってなっちゃうんですけど。
有坂:本当に「キー!」って言ってたよね。
渡辺:暗証番号ぐらいいいだろうと、相手にキレ出すとか、本当にダメダメっぷりの。本当に今のレオ様は本当に、なんか昔はちゃんと引きずらずに、王子様でね、あんなスターになったのに、そこを引きずらずにアップデートされて、ちゃんとダメ役ができるみたいになってるのが、今のレオナルド・ディカプリオのすごいところですね。
で、このポール・トーマス・アンダーソンと初のタッグになるんですけど、実は昔オファーがあったっていうね、エピソードがありまして。
有坂:ああ!
渡辺:それが何だったかというと、『ブギーナイツ』という作品。『ブギーナイツ』ってポルノ業界を描いた作品なんですけど、そのポルノ男優の役としてリグラーという役があるんですけど、それのオファーを受けていて、それをやるつもりだったんだけど、違う作品の出演がもう決まっていたので、泣く泣く断ったっていう経緯がありました。で、その『ブギーナイツ』を蹴って出演した作品が何だったかというと、それが『タイタニック』だったんですよね。なので、あの本当にディカプリオっていうのは演技派で、個性派の作品に出たい人なんですけど、実際、それで『タイタニック』を選んでスターになったっていう。なので、それが良かったのかどうなのかみたいなのは、本人でも分からないとこでもあると思うんですけど、紆余曲折を経て、ここで今年、P.T.A.の作品に出ることになったという感じです。この作品は本当に映画業界ではめちゃくちゃ評判がいいので、次のアカデミー賞でノミネートはいろいろされるだろうと、主要部門でノミネートされるだろうし、レオナルド・ディカプリオもそこで選ばれるかもしれない、というところがあるので、そこのアカデミー賞まで注目して観てもらえればなと思います。
有坂:最後はこれだよね。そりゃそうだよね。もう一回観たいな、劇場で。
──
有坂:ということで出揃いましたが、いかがだったでしょうか。また、皆さんが同じディカプリオとブシェミで選んだら、違う作品もあったと思います。ぜひ、そんな目線でいろんな俳優を観てみるのも面白いかなと思いますので、試してみてください。
最後に何かあれば。
渡辺:はい、じゃあ告知、またちょっとフィルマークスの方でリバイバル上映の告知なんですけど、今週の11月28日の金曜日から、『AKIRA』の大友克洋監督の『MEMORIES』というですね、3本の短編オムニバスのアニメーション映画というのが、リバイバル上映されます。これもめちゃくちゃ面白いやつなので、ぜひ観ていただきたいなというのと、続けて12月12日に、今度は『エターナル・サンシャイン』の……
有坂:出た!
渡辺:20周年で、初の4Kバージョンでのリバイバル上映になりますので、続けてやりますので、ぜひ映画館で観られる機会、なかなかないので、観ていただければなと思います。
有坂:僕は、今週金曜日、原宿の「Authors Harajuku」というところで小規模なイベント。ここ最近、何百人、何千人みたいなイベントが多いので、あえて原点回帰ということで、30人限定のシネクラブをやります。今週金曜日は、ジャック・ドゥミ監督の『ローラ』というフランス映画をやります。ドゥミは『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』などで有名な、ミュージカルを中心に撮った監督ですけど、色彩が爆発したドゥミの絶頂期の前、デビュー作なので、まだ色を使えない時代のドゥミの魅力を、ぜひ観てもらった上で、終わった後、長時間かけて映画の解説もしますので、興味のある方はぜひ来てほしいなと思います。
──
有坂:ということで、ちょっと駆け足になりましたが、すいません、もう10時10分ということで、今月のニューシネマワンダーランドは終わりたいと思います。ちなみに、来月は年に1回の楽しみ、「勝手にアカデミー賞」です! ということで、そちらも楽しみにしていただければと思います。では、今月は終わりたいと思います。遅い時間までありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました。おやすみなさい!!
有坂:おやすみなさい!!
──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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