あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「英国(U.K.)」な映画です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつドラフト会議のごとく交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、それぞれテーマを持って作品を選んでくれたり、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。有坂塁さん(以下・有坂)が2か月ぶりに勝利し、有利な先攻を選択。渡辺順也さん(以下・渡辺)が後攻に。今回も「TEGAMISHA BREWERY」のクラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合うという、幸せな1時間のスタートです。収録前に開催されたビューティフルハミングバードによるオンラインライブの余韻冷めやらぬ中、まずはイギリス映画についての思い出が語られます。


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有坂:今回はイギリス映画。「英国(U.K.)な10作」を選んでみようということで、イギリス映画って言われたときどうだった?
渡辺:え!? イギリス映画は、なんかある種の共通する雰囲気みたいなものは、すごいあるなと。あとはその……音楽寄りにするのかとかね。どれだけ広げられるか、そういうところも今回出てくるんじゃないかなと。まだね、ちゃんと固まっていない、自分の中でも。
有坂:そうだね。ちょっと探り合いな感じになると思うんですけど、あのぼく、今回「英国な10作」と言われて「イギリス映画か……」っていろいろ考えて自分の記憶を辿っていったときに、一つ思い出したことがあって、それこそ僕が映画に目覚めた19歳とか、20歳、21歳の頃に、イギリス映画も観るようになったんですけど。その頃って英語の映画は全部アメリカ映画だと思っていた(笑)。そういう人って、もしかしたらいるかなと思うんですけど、英語=アメリカ映画で、ざっくり英語の映画という感じで、イギリス映画を意識していなかったんだよね。なんか順也と二人でしゃべっていて、それこそ20何年前に、オアシスとかブラーとか、当時、ブリットポップかすごい流行っていて、その頃のイギリスの話をしていて、その中で順也が、アメリカ英語とイギリス英語のイントネーションの違いを話していて。それを言われて初めて、あっ、確かにそう言われるとイントネーションが違うし、それを言われてから映画を観たら、やっぱりイギリス映画って喋り方にすごい癖があって、その癖が映画の内容にまでちゃんと反映されてるのが面白いなと思った。そんなことをね、ふと思い出したので、その節はどうもありがとうございました(笑)。
渡辺:いえいえ(笑)。



有坂セレクト1.『トレインスポッティング』
監督/ダニー・ボイル,1996年,イギリス,93分

渡辺:うーん!
有坂:これは言われる前に先に答えちゃうおうと。観たことがある方、いらっしゃいますかね? 1996年の映画で、もう今やハリウッドの大スター、セレブリティと言ってもいい、ユアン・マクレガーの大出世作になります。これは、ドラッグに溺れる若者たちの陽気で悲惨な青春映画。​​本当にトレインスポッティングっていうのは、僕のイメージするある種のイギリスらしさが、すごく濃厚に出た作品だと思っています。
渡辺:うんうん、そうだね。
有坂:あ、コメントで「ユアン・マクレガー好きです」って方がいますね。当時、僕はこれ、渋谷にあった「シネマライズ」で観たんですけど、あの予告編、その前に何度か観ていて、もうね予告のクオリティーが高いんだよね。予告のクオリティーっていうか、もともとつくっている映像のスピード感のある編集だったり。イギー・ポップやアンダーワールドの曲が使われていたりするのでそれを編集してね、予告編をつくっているわけなんですけど、もうその時点で何かこう新しい映画が観られるんじゃないか、っていう期待感が強かった。
渡辺:うんうん。
有坂:で、内容に関しては、本当にぼくのイメージする、さっき「陽気で悲惨な青春映画」って言ったんですけど、その陽気な部分がもっと強い映画かなって最初思っていたら、割とブラックユーモアとか、あとは、そのユアン・マクレガーがすごく汚い便器の中に入って行って、ちょっとあのファンタジックなシーン、あの汚さとかっていうのは、すごくそう泥臭く描くのが、とてもイギリスらしいなと思って。最初は、ちょっと拒否反応もあったんですよ。そういう映像に対して。だけど、見終わってみると拒否反応というか、自分が感じた違和感というのは、しっかり映画の個性として残っていた。なので、それまで自分が感じてた青春映画の爽やかで、気持ちよくて、まあちょっと寂しいところもあるけど、大人に向かって前に進んでいくみたいな、そのポジティブな部分だけではない、ちょっとそのダークサイドな部分も描かれてるところが、結果的にトレインスポッティングが名作って言われている理由かなと、そういう気がしています。
渡辺:うんうんうん!
有坂:まあ、リアルタイムで見れたことの良さの一つとして、 この映画はやっぱりポスタービジュアルがかっこいい! 「Tomato」がデザインしたね。ビジュアルがカッコイイというのと、あとサントラが話題になったので、あらゆるところでトレインスポッティングのサントラがかかっている。街を歩けば、渋谷の街中にトランスコンチネンツが出した、トレインスポッティングTシャツを着た若者がたくさんいた。
渡辺:キャラクターごとにねあって。いろんなキャラクターの。
有坂:そうそう、ユアン・マクレガーのレントンが好きなんだな、あの人はとか。なんかそういうところも含めて、こう街を巻き込んで、映画がこれだけ盛り上がるんだっていうのを体験できたことがすごい大きかった!
渡辺: あのミニシアターブームのさぁ、シネマライズで、当時絶好調のね。本当にど真ん中のシーンだったからね。
有坂: なんていうんだろう、映画でここまでのことができるんだと。要はメディアミックスじゃん。メディアミックスでも、これだけ今のユースカルチャーにヒットできるんだってことで、すごくいろんな希望も感じられた作品だったなと思います。
渡辺:ね。
有坂:そしてこの映画のサウンドトラックね、さっきちょっと話しましたが、イギー・ポップとかルー・リードとか、ブラーとか、いろんな人が使われている中でも、まぁアンダーワールドがね、もうこれで大メジャーになりまして、で、アンダーワールドの二人ってその後ね、2012年のロンドンオリンピックでも音楽とかを手がけていて、本当にもうイギリスを代表するアーティストにまで上り詰めました。本当にそのきっかけとなったのが、このトレインスポッティングの「Born Slippy」という曲かなと思いますので、観てない方はぜひそんな音楽にも注目して観ていただいて、「いや〜、アンダーワールドの音楽が最高だったな」って方は、ぜひライヴ盤があるので、ライブ盤の CDとDVDも合わせて、聴いてみてはいかがでしょうか、という感じですね。
渡辺:なるほどね! ダニー・ボイルもこれで出世しましたよね。
有坂:ダニー・ボイル、『スラムドッグ$ミリオネア 』とか、『イエスタデイ』とかね。
渡辺:そうね、最近だと。
有坂:イギリスの名監督から、アメリカに進出して世界的な監督になった。ダニー・ボイルの出世作でもあるよね。 そう考えるとみんなの出世作だよね。ユアン・マクレガーもそうだし。 渡辺:キャストもみんなそうだもんね。
有坂:やっぱりそのブレイク間近のエネルギーってあるよね。そこが集結して作られたっていう意味では『佐々木、イン、マイマイン』と同じだね?笑
渡辺:(笑)
有坂:という私の1本目でした。
渡辺:これは、ど真ん中ですよね。やっぱり取られました……。



渡辺セレクト1.『さらば青春の光』
監督/フランク・ロッダム,1979年,イギリス,117分

有坂:うあー!
渡辺:これは1979年の作品で、舞台となってる設定はもうちょっと前かな、60年代なんですけど、これもイギリスの音楽シーンを語る映画としては、代表作のひとつです。『トレインスポッティング』は本当に現代を、当時の90年代を描いた作品だったんですけど、これは60年代なので、ちょっと前なんですね。
有坂:ジャケットもかっこいいね。
渡辺:かっこいい! このバイクが特徴的で、このバイク……ベスパみたいなスクーターに乗って、モッズコートっていう……米軍の放出品のモッズコートってのがあるんですけど、それにスーツを着るっていうスタイルの「モッズ」っていうグループがいるんですね。彼らと、かたや「ロッカーズ」っていう、もうロッカーズはジーンズに革ジャンで、リーゼントでバイク! っていう、そういう集団がいて、このモッズとロッカーズの対立・抗争を描く青春映画なんですね。本当に若者たちが、音楽としてもパンクとロックとか、ファッションだったりとか、熱狂してるところの方向性が違うグループたちが争っているっていう話なんです。なので、青春映画でもあるし、当時のイギリスの若者の音楽の嗜好だったり、ファッションだったり、そういったところが色濃く反映されてる作品です。
有坂:そうだね。
渡辺:イギリスって音楽……、ロックシーンがいろいろ変わっていって、その70年代とかのニュー・ウェイブみたいなところの前夜にあたる時代が、この時代なんですよね。モッズとロッカーズみたいな、ちょっと分かりやすい色があって。その辺をね、描いたところで、あの役者で、スティングが出ていてですね。
有坂:かっこいいんだよね!
渡辺:かっこいい! 背が高くてすらっとして、スリーピースの細身のスーツがすごい似合う。なんか細身のスーツっていうのが、イギリスのスーツのスタイルとしてすごい似合っていて、それがちょっと不良のリーダーみたいな感じの役どころで出ていて……。で、やっぱり『トレインスポッティング』もそうなんですけど、イギリスの青春映画とか音楽シーンを描くところの根底に、やっぱり社会不安とか、経済破綻とか、失業みたいなところがだいたいあって、その負のエネルギーを若者がすごい持っていて、それの出し先として音楽だったり、そういったものがある。というのがカルチャーの根底にあって。で、音楽ものってだいたい、そういう土壌のものが多いんですけど、これもまさにそういうやつで。なんかこういう映画をずっと見てると、なんかイギリスはずっと失業しているんじゃないかと(笑)。
有坂:本当だよね、映画だけみているとね。
渡辺:そんな感じがするんですけど、これは60年代を描いた作品になりますので、これもかなりおすすなので、ぜひまだ観ていない方は観ていただきたいなと思います。
有坂:これはあれだよね、ザ・フーの「四重人格」。
渡辺:そうそうそう。
有坂:それがもとになっている。そういう意味でも、音楽がベースにある映画で、トレインスポッティングも、さらば青春の光もそうなんですけど、なんかイギリスの青春映画は、走るんですよ、若者が。 渡辺:(笑)
有坂:で、その疾走感がいい。『さらば青春の光』でいうと、そのモッズチームの誰かがボコボコにされて、それを仲間を引き連れて復讐しに行こうと思って街をみんなで歩いていたら、こう道の端でロッカーズがたむろしてるの見つけて、「いた! あいつが俺をボコボコにしたやつだ」って、モッズが100人くらいでみんなで襲いかかるとか。​​人が何十人何百人とワーっと動いているエネルギーって、やっぱり画面を通しても伝わってくるんだよね。『トレインスポッティング』の場合はそれがもっと個人単位になって、ユアン・マクレガーが最初、街を走っているところから始まるけど、なんかその大人になって走ることってあんまり無いと思うし、やっぱり何かあったときに走るっていうのは若者らしさでもあるのかなと思いました。



有坂セレクト2.『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』
監督/サム・テイラー=ジョンソン,2009年,イギリス・カナダ,98分

渡辺:うーん、うんうん。
有坂:これはですね、ビートルズ結成前のジョン・レノンを描いた作品になります。なので、まだビートルズ前夜のリバプールが舞台になった映画、伝記映画ですね。この映画はやっぱりビートルズファン、誰もがビートルズを聴いたことがあって、特別思い入れが無くても、やっぱり例えば「Hey Jude」とか、なんかこうちょっとイントロを聴いただけでグッとくる。 あらためてビートルズってすごいんじゃないかと思って、大人になって聴き直すとか、そういう経験がみなさんもあるかなと思うんですけど、あらためて彼らがどんなキャリアを歩んできたかっていうのはね、意外と知らない。僕も知らなかったんですけど、この『ノーウェアボーイ』っていうのを観て、ジョン・レノンのバックグラウンドっていうのも初めて僕は知りました。それで、やっぱり複雑なね、家庭環境で育っていて、二人の母親がジョン・レノンにはいて、その二人の母親とジョン・レノンの話っていうのが、この映画の軸になります。で、その二人の母親を、ある種、音楽に昇華したのが、ジョン・レノンがソロになって初めて出したアルバムの1曲目に使われてる「マザー」っていうあの名曲。やっぱりもうジョン・レノンにとってはある種のトラウマで、それを克服するためにプライマルセラピー……だったかな? っていうのを受けて、自分の過去の母親の記憶とかを出して、それが曲になったのがマザーなんですけど。その辺りのストーリーが、このノーウェアボーイを見ると事細かにわかるのがいいところ。これが一つ。
渡辺:うん。
有坂:そしてもう一つ、僕はこの映画で一番グッときたのは、ジョンとポールの出会い。あそこ最高だよね!
渡辺:いいよね! ジョンがさぁ、不良じゃん。まずね。
有坂:絵に描いたような不良で、ジョン・レノンが「クオリーメン」っていうバンドを先にやっていて、街のお祭りみたいなのでクオリーメンでステージに立ってね。歌っていたら、その共通の知り合いに連れてこられたポールが見てるんだよね、ステージをね。それで終わった後に紹介されて、ジョンは、なんか優等生っぽいビジュアルのポールを、すごい上から目線でマウント取りぎみで。
渡辺:ポールのほうが年下だしね。
有坂:そうそう、15歳でポールが。
渡辺:学生時代の2歳下くらいって大きい、すごい不良の先輩っていう感じでね。優等生の後輩って感じだよね。ポールが。
有坂:それで、お前なに、音楽できるの? って感じでポールに言うんだけど、ポールはポールで、なんか自分の世界がちゃんとあるから、怯まないんだよね。ちゃんと対等に話をして一曲ギターを弾いたら、そのなんかマウントをとっていたジョン・レノンとクオリーメンのメンバーが「すげー!」ってなる、それがちゃんと映像として記録されているっていう。って言っても演技ですけど。その空気がね、すごい伝わってくるんですよ。そこに思いを込めて監督が作ったんだなっていうのがよく伝わってくるし、あれを観るとやっぱりビートルズの曲を聴いたときに、ああいう出会い方でジョンとポールが出会って、ビートルズが結成されたんだなっていう流れが、自分の中でできるので、本当に観られてよかったなと。よりビートルズが好きになる作品です。これはアーロン・テイラー=ジョンソンっていう人がそのジョンレノン役をやっているんですけど、彼がやっぱりね。本当にもうジョン・レノンの若い頃はこうだったんだろうっていう、何かこう雰囲気を体現してくれてるので、説得力がすごくある演技で見せてくれるので、期待して観てください。
渡辺:これも60年代ぐらいだよね、舞台設定は。
有坂:そうそう、ですね。とういうことで、 2本目は『ノーウェアボーイ』です。
渡辺:ねぇ、あの小さい街でさ、あの二人がいるっていうのがすごいよね。
有坂:本当だよね。でも日本でも、群馬県には氷室京介と布袋寅泰がいたとか(笑)。
渡辺:そういうストーリーいいよね。
有坂:あの二人は、 六本木のアマンド前で待ち合わせをして……。その話はいいか(笑)。
渡辺:交差点を、氷室京介が渡ってきたんだっけ?笑
有坂:そうそう。でも、ジョンとポール、なんかそういう出会いがね伝説の始まりみたいな。そういうエピソードが好きな方は、もうね、ノーウェアボーイはたまらないと思います。
渡辺: なるほど。
有坂:また観たくなってきちゃった!



渡辺セレクト2.『24アワー・パーティ・ピープル』
監督/マイケル・ウィンターボトム,2002年,イギリス,115分

有坂:あぁ……。最高……。
渡辺:これはニュー・ウェイヴっていうあのイギリスの音楽シーンの、もうど真ん中を描いた作品です。1960年代後半から70年代ぐらいに起こった新しい音楽シーン、それがニュー・ウェイヴって言われるところで。そのなんでしょう、インディーレーベルがあって……「ファクトリーレーベル」かな? その創業者の人を主役にした、ちょっとドキュメンタリー風のドラマなんですね。よく音楽もののドキュメンタリーって「当時の映像を近くにいた人がカメラでなんとなく撮っていた」みたいな、そんな映像をつなぎ合わせている作品が多いんですけど、そんな感じの映像を多用して「当時の友達がVTRを回していたやつをこのドキュメンタリーに使いました」みたいな体の編集がしてあって。全部計算して撮ってあるんですけどね。
有坂:そうそう。
渡辺:それで、これってまず、「セックス・ピストルズ」のライブのシーンから始まるんですね。そこには観客が42人しかいなくて、ただ、その42人の中に、ファクトリーレーベルの創業者だったりとか、他のいろんな、その後活躍する音楽シーンのバンドの人たちがいたりとか、少ない人数しかいないライブだったんだけど、そこに来てた人達は結構キーマンだったみたいな伝説のライブで、そのシーンから始まるんですね。そこからどんどん音楽シーンが盛り上がっていって、なんていうんですかね、むちゃくちゃみんなやり出すんですけど。そこからどんどん火がついて、やがて落ちぶれていくみたいなところの過程が描かれていきます。なんかこの時代の空気感だったりとかその音楽シーンの盛り上がりだったりとか、そういったものをすごいリアルに描いた作品だなと思うので、まさにこのニュー・ウェイヴという時代がどういう時代だったのかとか、当時イギリスってどんな感じだったのかみたいなものを、空気感を知りたいなと思ったら、本当にこれはもうドンピシャの作品だなと思います。
有坂:うん!
渡辺:この辺からその ニュー・オーダーだったりとか、そういうバンドがですね、いろいろ飛び出すというか、羽ばたいて活躍していくという感じです。ニュー・オーダーなんかは 『トレインスポッティング』のサントラに入ってたりするので、なんかその後にも続いてくような感じですね。60年代だと、今のそのビートルズの文化があったりとか『さらば青春の光』のモッズとロッカーズみたいなところがあって、そこからこの『24アワー・パーティ・ピープル』みたいな時代あって、その後にトレインスポッティングみたいな時代になっていく。ちょっとそのイギリスの音楽シーンを時代で切り取っていくと、そういう流れになっていくのかなと。そういうのが、このあたりの作品を合わせて観ると、なんとなくわかってくるので。
有坂:音楽マップができるよね。頭のなかで。
渡辺:そうだね。で、この時代もやっぱりその若者が、失業していたりして(笑)不満なんですよね。おなじみの感じで、そういう経済不安とか。このとき確か、サッチャー政権でフォークランド紛争とか、そういうのもあったりして、またイギリス経済が低迷していて社会情勢も不安定で、みたいな。で、若者は失業していて、その不満の矛先をまた音楽だったりとかそういうところに吐き出しているっていう時代なんですね。だから、その音楽以外に吐き出している文化でいうとサッカーもあって、そこからフーリガンていう文化ができたりしているんですよね。そのサッカーチームのファン同士が喧嘩するみたいなね。それで、『フーリガン』っていう映画もあったりするので、それもまさにこの時代を描いているので、音楽シーンじゃなくてそのサッカーシーンの方で同じように鬱屈とした労働者階級の若者たちを描いた作品だったりします。でも、音楽シーンでいうと、この『24アワー・パーティ・ピープル』は、すごい空気感のわかる作品なので、どうぞご覧ください!



有坂セレクト3.『17歳の肖像』
監督/ロネ・シェルフィグ,2009年,イギリス,100分

渡辺:おー、傾向変えてきましたね。
有坂:これは時代設定でいいますと1961年なので、ビートルズ以前のロンドンが舞台になった作品です。で、この映画は、なんといってもキャリー・マリガン。今やもう名優の一人だと思うんですけど、キャリー・マリガンの実質デビュー作と言ってもいい。まあちょい役では出ているんですけど、初の主演作で。この映画が公開された時は「オードリー・ヘップバーンの再来、新星キャリー・マリガン」と紹介されていて、最初に僕その情報を見ていたんですけど「またそんな大げさに、ほんまかい?」と思って観たら、めちゃくちゃ本当に、すごく美しい、映画に愛されてる女優さんが出てきたなぁっていうのを感じた作品。それが、この『17歳の肖像』でした。
渡辺:うんうん
有坂:これはストーリーとしては、キャリー・マリガンが演じるジェニーという女性が高校生で、すごく優等生で、考え方も大人びているし、実際に勉強もできるし、オックスフォード大学を目指して学んでいる、と。それで、学校にいるとやっぱり同級生の男子からは全然刺激を受けなくて。そんなとき、雨の中家に帰っている途中で、ふと車から声をかけられた年上の男性に恋をして、その年上の男性が自分が全く知らなかった、いろんな世界を教えてくれる。それに影響を受けて、例えば着ているファッションだったり、メイクだったり、髪型だったりっていうのを、どんどん彼女は変えていく、と。で、変えていけば変えていくほど、学校の中では同級生と距離ができるっていう。もしかしたら身に覚えのある方もいるんじゃないかなと思うんですけど、まあそんな、ちょっと背伸びした女性をキャリー・マリガンが本当に熱演してる作品です。で、とにかく、なんか知的好奇心の強い……今だとあれなのかな、スマホがあっていろいろ調べられるから知的好奇心というもののレベルが変わっているのかもしれないですけど、当時やっぱりまだ学生で、自分の視野も世界も狭い中で、全く知らない世界、しかも華やかで憧れているような世界を教えてくれる人と出会ったら、やっぱりそれは一瞬で恋に落ちてしまう可能性もある。その映画の中で、キャリー・マリガンが恋をする主演の男性が、17歳の誕生日に「パリに行こう」って言って、本当に二人でパリに行くんですよ。そのパリのシーンとかもすごく素敵なんですけど、なんかそうやって、もう自分にとっては「白馬に乗った王子様登場!」みたいな存在なんですよ。でも、それを見ている僕ら観客は、そういう面が出れば出るほど「実は怪しいんじゃないか?」とか「裏があるんじゃないか?」とか、そうやってドラマがどんどん展開していく作品です。
渡辺:はいはい。
有坂:でも、この17歳の少女の成長物語でもありますし、とにかくそのキャリー・マリガンの優等生ファッションからどんどん洗練されていくところ。成長する姿とかは本当にそれはもう映像として楽しめますし、ファッションが好きな人にとってはたまらないと思います。60’sファッションの宝庫なので。そんなところにも、ぜひとも注目していただけたらと思います。キャリー・マリガンはこの作品でアカデミー賞にノミネートされます。取れなかったんですけど、これが2009年で、それ以降2度目のアカデミー賞にノミネートされたのが 、今年公開された『プロミシング・ヤング・ウーマン』という作品です。この二本を比べるとね、キャリー・マリガンの変化と成長が見られると思いますので、ぜひ合わせて観てほしいですね。
有坂:そうそう。ちなみに、この『17歳の肖像』というタイトルの原題は、『An Education 』=教育というタイトルです。いいよね、あの内容で教育(笑)。ぜひご覧になっていただけたらと思います。



渡辺セレクト3.『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』
監督/ガイ・リッチー,1998年,イギリス,108分

有坂:ふふふ、うんうん!
渡辺:これ、監督はガイ・リッチーですね。ガイ・リッチーが、世に出てきた作品です。これも90年代の作品なんですけど、クライムアクション、犯罪もので、出てくるキャラクターが全員チンピラっていうね。チンピラが、まあ姑息な商売をしているんですけど、とあるところで、賭けで悪い奴らに負けてですね、さらに借金を負ってしまって「一週間後に返さないとお前ら全員死ぬからな」って脅されて、その借金を……借金っていってもすごい言いがかりではあるんですけど、そのために大金強奪を試みるっていう話なんです。もう本当に悪い奴らが、悪事を重ねて大金を奪い合うみたいな、そういうところをすごいユーモアあふれる、コミカルな感じで、しかも超スタイリッシュな編集で描いていくっていうところで、もう本当に「うわ、カッコいい!」っていう、なんか悪いやつとか不良がすごいかっこいいみたいな。っていうのを全面的にそのノリでカッコよく描いた作品が、この『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』です。これでガイ・リッチーはもう一躍世界に名を売って、そのあといきなりもうブラッド・ピットを主役に『スナッチ』っていう作品を撮ったりとか。
有坂:ブラピは、早いよね。
渡辺:いや、早い! ブラピはその後、プロデューサーとして名を馳せて行くんだけど、やっぱり新しい才能を、もう見つける目がね。
有坂:もう見つけたら一緒に仕事がしたくて仕方がない!
渡辺:そうだよね。今、日本でいうと山田孝之とかがけっこうそういうタイプですけどね。
有坂:斎藤工とかね。
渡辺:うんうん。本当にブラピは早い。早かったよね、この時から注目してね。で、主演のジェイソン・ステイサムも、この作品で一躍スターになって。ジェイソン・ステイサムってもともと水泳の選手だよね。オリンピックに出ているぐらいの。
有坂:へー! そうなの!
渡辺:で、すごく体格が良くて、坊主で、なんか男臭い感じのスタイルが、すごく人気なので、もう男臭いアクション俳優として。
有坂:じゃあ、北島康介が役者になるみたいな感じなんだ。
渡辺:そうそう(笑)。
有坂:知らなかった。
渡辺: だから、ワイスピ(『ワイルド・スピード』)とかにも出ているよね。そういう割と、男臭いアクションに出るジェイソン・ステイサムもこれで一躍スターになった。ガイ・リッチーもこれでスターダムだしね。
有坂:マドンナとも結婚してね。
渡辺:あのあとちょっとおかしかったけどね(笑)。男臭くない作品になっちゃってね(笑)。
有坂:「どうした?! ガイ・リッチー」ってね(笑)。
渡辺:でも離婚してね、また戻ってきた(笑)。最近の『ジェントルメン』という作品は、これもまた悪党どもの騙し合いっていう。ただキャストがみんなそれなりに歳を取ってるっていうね。だいたい、みんな4、50代ぐらいていう、いい感じの。
有坂: ガイ・リッチーっていうと、やっぱり『シャーロック・ホームズ』。
渡辺:そうだね。メジャー作。
有坂:『シャーロック・ホームズ』も面白いよね。
渡辺:アクションシーンとか面白い! イギリスのクライムアクションが、うわっカッコいいという感じで出てきたのが本当にこの作品ですね。
有坂:そうだね。イギリス映画なんだけど、軽やかさがあるのが新しかったね。やっぱりどうしてもこうずっしり重い要素がある中で、スタイリッシュっていう言葉がぴったりなね。
渡辺:本当に。その後の作品もね、立て続けに面白かったし。
有坂:好きだよねぇ、ガイ・リッチー。昔から言っているけど。
渡辺:いや〜、大好き(笑)。これも本当にイギリス映画を代表するような作品かなと。
有坂:そうだね。だからガイ・リッチーは、順也の手前、発表できないなと。
渡辺:ありがとうございます(笑)。
有坂:抑えていました。リスト外にしていたので。



有坂セレクト4.『ミニミニ大作戦』
監督/ピーター・コリンソン,1969年,イギリス・アメリカ,100分

渡辺:あーあー!
有坂:これはリメイクもされているんですけど、おすすめしたいのはオリジナル版です。1969年の作品です。これは、イギリス、ロンドンの犯罪者たちがイタリアのトリノに行って「金塊を強奪しようぜ!」っていって、ミニクーパーに乗って強奪を繰り広げるっていうカーアクションです。それで、今見たらクラシックカーって言われるヴィンテージのミニクーパーがバンバン出てくる。
渡辺:かわいいんだよね(笑)。
有坂:そう、かわいいんだよね。ビューンって走っているんだけど、そんなにスピードが出ていないみたいな(笑)。ちょっといい意味で間が抜けていて、『ワイルド・スピード』みたいに、なんていうんだろう、派手で男らしいみたいな感じとはちょっと違って。
渡辺:やっていることは一緒なんだけどね。カーアクションなんだけどカラフルなミニクーパーが並んで「可愛い! おしゃれ!」っていう。
有坂:そのうちの一台はユニオンジャックのね、ミニクーパーが走っていたり、洒落ているんですよね。なんですけど、今なら CG でできるところを、こういう時代なので全部 CG なしでやっています。地下鉄の階段をミニクーパーが降りていくとか、すごい狭いトンネルの中を疾走するとか、よくこんなのが撮れたなという、観ていて「おお!」っと声を上げてしまうような映像が満載です。でも、ミニクーパーだから可愛いしちょっと洒落ているので、そのバランスが、この映画の魅力かなと思うんですけど。音楽もクインシー・ジョーンズが手がけていて、絵も音も、主演はマイケル・ケインなので出てくる男の人たちもカッコいいし、とにかくアクションが苦手な人にオススメしたいなといつも思う映画の一本が、この『ミニミニ大作戦』のオリジナル版です。
渡辺:なるほどね。
有坂:これは、日本人にはぜひ言っておきたいのが、宮崎駿の『ルパン三世 カリオストロの城』がめちゃくちゃ影響を受けてます。 ですので、カリオストロの城が好きな人が見ると「なるほど〜!」と、一発で分かるようなシーンとかも出てくるので、ぜひそんなことも頭に入れて観てほしいなと思います。
渡辺:なるほど。
有坂:あとひとつ、この映画って、原題が『イタリアンジョブ』っていうんですよ。だから、イタリアでの大仕事。あとは「イギリス人に好き勝手やられているイタリア人の仕事なんてこの程度」って、ちょっと皮肉も含めて、ダブルミーニングになっているタイトルらしいんですね。すごくいいなと思ったのが、この映画ってようはイタリア警察とかをすごく皮肉って、ちょっと小馬鹿にしたような描きかたをしているんですけど、実はイタリア当局がこの映画のロケ撮影に全面的に協力してくれたから撮影できた。
渡辺:すごい所を走ってるもんね。地下鉄の中とか。
有坂:地下鉄とかもそう。街中で本当に映画史に残るアクション、カーチェイスが撮れた。なんかそのね本当にイタリアとイギリスががっちり手を組んで、あんな内容の映画を作ってくれたっていうのが本当に素敵なエピソードだなと思うので、ぜひそこも注目して観てほしいなと思います。
渡辺:ハリウッド版じゃなくて。
有坂:そうだね。ハリウッド版、マーク・ウォールバーグもいいんだけど、断然こっちの方が面白いと思います。



渡辺セレクト4.『天使の分け前』
監督/ケン・ローチ,2012年,イギリス・フランス・ベルギー・イタリア,101分

有坂:ほー。
渡辺:これはイギリスの名匠ケン・ローチという監督の作品です。 ケン・ローチって、本当にイギリスを代表する作家で、割とシリアスな作品が多いんですね。常に労働者階級の人の立場に立って、世の不条理だったりとかを訴えるという作品が多いんですね。最近も、『家族を想うとき』か。ウーバーイーツで働く大変な労働者を描いてみたりとか、割とそのときそのときの社会批判をしているタイプなんですけど、たまにほっこりするいい作品を撮っていて、これは結構ほっこり系の作品です。
有坂:うんうん。
渡辺:どういう話かっていうと、とある不良少年が、社会奉仕活動の一貫で、ウイスキーの醸造所……、スコットランドってやっぱりスコッチウイスキーの醸造所がたくさんあるので、そこで働かされるんですけど、ただこう意外な才能を発揮してしまって、不良少年なんだけど利きウイスキーが結構できちゃったりして、その職人に気に入られて、しかも本人もウイスキー作りが大好きになっちゃって、そこで 更生していく、人としても成長していくっていう、意外と感動するヒューマンドラマなんです。これがね、ウイスキーがめちゃくちゃ飲みたくなる作品なんですよ(笑)。
有坂:(笑)
渡辺:なんか、作品、ヒューマンドラマとしてめちゃくちゃいい話なんです。その背景としてウイスキー醸造所があって、スコッチウイスキーって何だ? とか、スコッチウイスキーの歴史だったりとか、そういったことを語りながら、不良少年がそういったものを吸収して更生していくところがあるんですけど。その中で、すごい素敵だなと思ったエピソードが、タイトルにある『天使の分け前』。これが原題『The Angels’ Share.』って言うんだけど、何を意味するかっていうと、ウイスキーって木の樽にお酒を入れて寝かすんですね。で、結構寝かすわけですよ、10年とか。だから、何年ものとかってウイスキー、10年ものとか、20年ものとかっていったりしますよね。で、その間に、アルコールが気化するので、ウイスキーの樽にパンパンに入れているんだけど、1割ぐらい減っちゃうんです。その減ったぶんを「天使の分け前」って言うらしいんですよ。これは、昔の人は、それは天使がちょっと味見して飲んだんだねっていう、だから「天使にちょっとお裾分けをあげた」みたいな意味があるらしんですね。それが、『The Angels’ Share.』っていう、天使の分け前って言われているらしくって、それは本当にウイスキーの醸造用語として正式にあるらしくて、それをタイトルにするっていう、なんか小粋なね、ヒューマンドラマ。スコットランドを舞台に、スコッチウイスキーをつくる話で、話もいいし、本当に見終わった後すぐウイスキーを飲みたくなるっていう作品なので、ウイスキー好きの方にはぜひ見ていただきたい作品です。
有坂:これは、江口さんの「mitosaya」で上映したいね。
渡辺:ああ、いいかもしれない!
有坂:mitosayaって、元本屋「ユトレヒト」の江口さんが千葉でやっている醸造所。そこでウイスキーを飲みながらっていうのもいいかもしれないですね。



有坂セレクト5.『パレードへようこそ』
監督/マシュー・ウォーカス,2014年,イギリス,120分

渡辺:あー!
有坂:これはもうイギリス映画のね、十八番である炭鉱労働者たちのストライキと、同性愛者たちのグループの友情を描いた作品になります。これは、実話の映画化なんだよね、実際にあった話で。本当に、ザ・男の世界の炭鉱労働者たちが、どうやってそういった社会問題に向き合っていくのか。本当にシリアスに描くのではなくて、実際にあったそういったエピソードをすごくをユーモアだったりとか、これ音楽もカルチャー・クラブとか、80年代のヒットナンバーに乗せて描いてくれるので、すごく映画のトーンが明るい! 湿っぽくならない。楽しそうでしょ、ビジュアルも。で、明るいトーンの中で、しっかりしたメッセージはちゃんと描かれているので、観た後、何だろう「ずっしり日常に引きずって」っていうよりは、本当にいいものを見せてもらった中で、でも、 LGBTについて考えるっていうのは、現代と地続きのエピソードなわけで、やっぱりそれについて「自分もちゃんと考えたいな」とすごく前向きになることができる、本当に素敵な作品です。で、これはCLASKAで企画していた「ルーフトップシネマ」でも上映したことがあるんですけど、本当に広い青空とかも出てきて映像もすごく綺麗で、色味もそうなんですけど。なので、ちょっといろいろモヤモヤ悩んでるなっていうときに、ぜひ観てもらいたい。すごく気持ちの良さと、パワフルさを兼ね備えた素晴らしい映画だと思います。
渡辺:そうだね。
有坂:この前、LGBT理解増進法案が、結局通らなくて「自民党、ブーブー」とかあって、あのときにインスタに投稿したんですけど、本当に LGBT法案を考える会議で上映してほしい。
渡辺:うん。
有坂:まさに LGBT について保守的に考えている人たちは、この映画の中でいう炭鉱労働者の最初の姿じゃん? だけどやっぱり自分が知らない世界であるっていう、それをやっぱりきちんと理解して、向き合って考えるところからじゃないと始まらないのに、なんかどうなんだろうなってモヤっとしていたときに、これを会議の中でまずは上映して、そこから考えましょうっていうふうに本当になってくれないものかなと思うぐらい、メッセージもしっかりしています。これは、『ラブ・アクチュアリー』とかに出ているビル・ナイも出てきたり、役者さんもそれぞれすごい魅力的なので、ぜひおすすめしたいなと。
渡辺:ビル・ナイが出ていると、だいたいいい映画だからね。
有坂:本当にそうだよね。間違いない説あるよね、ビル・ナイね。
渡辺:これは、プライド・パレードの走りになった作品だね。LGBT のパレードは「プライド」って呼ばれているんですけど。
有坂:これ原題が『Pride』だからね。
渡辺:そうだよね。炭鉱と言えばマッチョなね、人たちの代表のところで、だんだん人対人っていうところで動き出していくんだよね。
有坂:結局人と人がちゃんと向き合えば理解できるっていう、イメージだけで考えちゃうとやっぱり相容れないものがあっても、やっぱり個人で一回戻って考えればね、何でも乗り越えられるよっていうすごく素敵なメッセージがこめられていますので、ぜひ!



渡辺セレクト5.『シング・ストリート 未来へのうた』
監督/ジョン・カーニー,2016年,アイルランド,106分

有坂:うんうんうんうん。
渡辺:これは割と最近の作品です。しかもスコットランドじゃなくて、ダブリンなのでアイルランドなんですけど、アイルランドの若者の音楽の話です。やっぱり今日はイギリスの音楽シーンみたいなところからスタートしたので、そこに戻ってくる感じでこれにしました。これは、結構バンド始めるきっかけって「モテたいから」みたいなのがあると思うんですけど、この作品の場合は、主人公の男の子が可愛い女の子を見つけて、その子に声をかけたときに、「君、ぼくのバンドのPVに出ない?」って声をかけちゃって(笑)、そこから慌ててバンドを組み出すっていう、そういう動機がもう、なんかすごいいいなって思って。そこからだんだんバンドで音楽に目覚めて、そこから「バンドで食ってくんだ! ロンドンに行くんだ!」っていう、若者の話なんですよね。
有坂:うんうん。
渡辺:これは、現代の話なんですけど、彼らのベースにあるのが、やっぱりその社会的、経済的不安だったりとか。っていうので、若者の労働者階級の鬱屈としたところみたいなのが出ていて、そのアイルランドの貧しさだったりとか、そこからやっぱりロンドンに行って一旗揚げるんだみたいなところが根底にあったりするんで、やっぱりイギリス映画って変わってないなっていうところがあったりですね。でも、この映画自体すごく良くて、その主人公のお兄ちゃんが……
有坂:いいよね、お兄ちゃん!
渡辺:そう、すごい音楽好きで、やさしくて、弟をやさしく導いていくんですよね。「これがいいぞ」とか「この音楽聴いとけ」みたいな。すごいいいお兄ちゃんが出てくるので、映画の中のお兄ちゃんキャラではね、かなりトップにくる。
有坂:そうだね。トップ5には入るね。
渡辺:そんな感じのキャラなので、ちょっとぜひ観てもらいたいなと。 あと監督が、ジョン・カーニーっていう人で、この人すごい音楽好きで、音楽ものの作品をすごい撮っているので、『はじまりのうた』とか、あとは『ONCE ダブリンの街角で』とか、あと今ちょうどあの Amazon Primeでドラマをやってるんですね。「Modern Love」っていうのをやっていて、そのシーズン2がちょうど始まったばかりです。これは、1話が30分ぐらいのオムニバスで、10話ぐらいあるんですけど、全部ラブストーリーで、音楽がテーマになっているような、さくっと見れちゃう感じで、これもおすすめです。ジョン・カーニーもかなり今グイグイきている監督だと思いますので、ぜひ注目してほしいなと思います。
有坂:ジョン・カーニーの自伝的な話なんですよね。
渡辺:そうそう、そうなんです。
有坂:いいよね、そのバンド始める動機がさ、すごいリアルだよね。本当にそういうもんだよね。バンドに限らず、割と名を成した人も、それを始めたきっかけは意外と不順だったりとか。
渡辺:音楽はね大体そうだよね。
有坂:ひどいこと言うね(笑)。
渡辺:いやいや(笑)。バンドマンはね、やっぱりそうじゃないですか(笑)。
有坂:まだ言う(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:まあね、ビートルズの映画とかを見ていてもやっぱりそういう女子の目線をみんな意識してやっていたことは確かだなと思いますが(笑)。


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<p有坂:そういうことで、10本紹介し終わりましたが。みなさんはどうでしょう? この10本を、これから観られるって羨ましいね。
渡辺:ね。
有坂:おっ、そう『カセットテープ・ダイアリーズ』 ね。それも候補に入っていました。 あと、ビートルズの『ハード・デイズ・ナイト』とかね。
渡辺:はいはい。
有坂: やっぱり入れたいなと思ったけど。
渡辺:『ボヘミアン・ラプソディ』とかもね。
有坂:そう考えるとイギリス映画は、『リトル・ダンサー』とか、『ブラス!』とか、その辺のヒューマンドラマもそうだし、もっと言ったら『ラブ・アクチュアリー』 とか、『ノッティングヒルの恋人』とかも入れようと思ったんだけど……。あのエルビス・コステロの「She」が流れるところが、どれだけ素晴らしいかっていう話で終わっちゃいそうだから、 やめておきましたけど(笑)。『ベルベット・ゴールドマイン』もね、候補に入れていましたけども。
渡辺:あと、『フル・モンティ』とかね。ああいうのもあるしね。
有坂:この時代、『ブラス!』とか、『フル・モンティ』とかね。『フル・モンティ』なら、それこそ、『トレインスポッティング』のね、ロバート・カーライル。こんな役もやるんだって意外性もあって面白かったけど。ドキュメンタリーもね。
渡辺:ドキュメンタリーもいっぱいあるよね。
有坂:でも、ケン・ローチってさ、他の映画でくるかなって思っていた。『わたしは、ダニエル・ブレイク』だろうなって思って。なんで、『天使の分け前』に。
渡辺:なんかスコットランドっていうのがあったから、そこからスコッチウイスキーという流れで。ちょっと外した感じでいいかなと。
有坂:うんうん。 ケン・ローチはでもあれだよね。60年代の後半から映画を撮っている人なんですけど、日本でちゃんと公開されたのって、90年代に入ってからなんですよ。そのとき僕ら、20代のころに初めて観て。渋谷にあったシネ・アミューズってところで、4本ぐらい特集上映していて、そこ一緒に行ったよね。それで「ケン・ローチすげー!」って二人で興奮して、 『ケス』とか、『レディバード・レディバード』とか。それ以降、ケン・ローチの映画は割と一緒に観に行った記憶があって。
渡辺:『マイ・ネーム・イズ・ジョー』とか。
有坂:『大地と自由』とか。
渡辺:はいはいはい。
有坂:神保町の岩波ホールで。お互い、ケン・ローチは思い入れのある監督だね。1回現役を引退するって言って、でも『わたしは、ダニエル・ブレイク』で復活したんだよね。
渡辺:それで、 いきなりカンヌで獲っちゃってね。
有坂:そうそう、今の世の中に怒りがこみ上げて引退を撤回してていう熱い監督さん。是枝監督との対談本とかもめちゃくちゃ面白いので、ぜひイギリスといえば、ケン・ローチは、チェックしてもらいたい一人かなと思います。

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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。