前月の手紙社リスト“本”編で花田菜々子さんがセレクトした「移動中にちょうどいい、初夏にきらりと映える装丁の本」を、手紙社の部員が選んだら? 今回も、心のよだれをたらしたくなる(ジャスコ談)素敵な本が集まりました。アイスのお供に、夏のお供に、是非ご覧ください。 


✳︎ここで紹介した10冊を、手紙舎つつじヶ丘本店の一角に準備しました。どなたでも読むことができますので、カフェタイムのお供にぜひ!



1.『アイスの旅』
著/甲斐みのり,発行/グラフィック社





初夏といえば、暑い季節のはじまり。暑い季節がはじまれば、アイスが食べたくなる。そして旅に出たくなる。


この本にはご当地アイスがわんさか載っています。レトロで素朴なパッケージから、日本のアイスの歴史も記載されている幅広さ。目でも楽しめて、心のよだれをたらしながら、軽く勉強も出来ます。そして、甲斐みのりさんが手掛けると、地元のアイスがとたんに可愛くなります(私の地元のアイスも、とたんに可愛く見えました…ザ・甲斐さんマジック!)。

個人的には、あとがきも是非呼んでほしいです。筆者がアイスを題材にした、あたたかみのある文章が記されています。

日中に読めば、アイスを食べたくなり。夜中に読めば、時間を忘れて食べたくなり。飯テロならぬアイステロな本です。あ〜アイスだけのために旅がしたい〜。
(選者・コメント:ジャスコ )


2.『秀和レジデンス図鑑』
著/谷島香奈子,  haco,発行/トゥーヴァージンズ

 



ぼこぼこした白い壁、青い瓦屋根、バルコニーの曲線の黒いアイアン……なんとも可愛らしい、昭和のレトロマンションのファンブックです。


図鑑というだけに、そのディテール、規格品や大量生産ではない味の部分を分類、考察する熱量たるや、圧倒されます。築40~50年の部屋をリノベーションしてお住いの方を紹介するコーナーもあり、自分だったらどう暮らそうか妄想にふけることもできます。

使われている写真も美しく、細かいところまで手を抜かない感じ。表紙にもその愛は溢れていて、シンプルながらすぐに秀和レジデンスとわかる白と青。


懐かしいと思う方も初めて目にする方も、本そのものの美しさを通して、昭和の“細部に宿る豊かさ”を感じていただけると思います。
(選者・コメント:のぶこ )



3.『それでも世界は回っている 1』
著/ 吉田篤弘,発行/徳間書店




吉田篤弘さんによる〈インク三部作〉の開演です。

世界のあらゆるものを収蔵する博物館。収蔵されるものは、すべて保管室で記録されます。記録に使われる万年筆のインクは〈六番目のブルー〉。保管室で働くオリオによれば、それは「いちばん深い海の底の青色」です。

ある日オリオの師匠のベルダさんは亡くなり、大事なインクのストックは底をつき、街の雑貨屋では「インクをつくっている会社は廃業してしまった」と言われます。


“それでも世界は回っている
アブドラ・ハブドラ・サブドラサ”


幻の〈六番目のブルー〉を求める旅は、インクを探しているのか、物語を探しているのか、歌を探しているのか、その全てを探しているのか。果たして見つかるのか……


カバーは「いちばん深い海の底の青色」を思わせます。
旅の続きも、次回の装幀も、楽しみです。
(選者・コメント:mayuko)



4.『時の名前』
著/三枝克之,写真/西美都,発行/KADOKAWA




初めて時に名前を付けた人って、とてもロマンチストだったんじゃないでしょうか。ページを捲ると、移ろい過ぎていく「時」を表す幾多もの表現が、ステキなデザインで秀逸な写真と共に現れます。日本語の繊細さ、美しさ……


本を読んだ後、平凡な時が積み重なっていると思っていた日々の暮らしが、活き活きと輝き出すのが分かります。そして、繰り返されてきた人の営み、歴史を感じるのです。


初夏の季節。この表紙に誘われてページをめくり、自分の「人生という名の時」に思いを馳せるのも良いです。
(選者・コメント:田澤正)



5.『百貨店ワルツ』
著/マツオヒロミ,発行/実業之日本社




ふらりと入った本屋さんで、装丁に一目ぼれしてお持ち帰りした一冊。着物姿の乙女が持つ、リボンがかけられたパッケージ。丸いBOXには、きっとモダンガールのあの帽子。

背景にそっと描かれた百貨店の屋上に、見えるは夢の観覧車。大正ロマンあふれるこの表紙をめくると 古き良き時代の百貨店の扉が開く。百貨店の看板ともいえるエレベータ―ガールの運転で、フロアを昇っていきましょう。

整列した丸いボタン、昇降レバー、そして格子戸越しに覗く売り場の風景。
服飾雑貨、化粧品、婦人服ではドキドキ試着して、ヨイショっとひと休みする喫茶室。舶来品の文具たちをゆっくり愛でた後は、最上階の大食堂で、お子様ランチが食べたいのをぐっと我慢して、大人はポークカツレツをいただくの。

そして屋上で観覧車に乗って、一番高いところから下に広がる街を見下ろそう。そう……がつがつ仕事をした後は、カフェでこの本を読みながら、乙女モードに戻るのです。
(選者・コメント: KYOKO@かき氷)



6.『きもの』
著/幸田文,発行/新潮社




るつ子は三人姉妹の末むすめ。肌触りに敏感で、気に入らないと袖をちぎってしまうような子どもでした。忙しい母親より、どっしり構える祖母に寄り添われ、るつ子は着こなす意味を知っていきます。お下がり、借りもの、娘の装い、家計を預かる主婦、結婚。女にとって着るものは、時代を超える“重み”なのです。明治の終わり、東京下町、肌ざわり……少女から初夜まで(!)心揺さぶられるものがたりです。

さらに。るつちゃんの物語は著者の幸田文さん没後、娘の青木玉さんが装丁を手伝って、箱で出版されました。表紙は玉さんの羽織の袖の柄なのですって。黒一色ではなく、袖に小花をあしらって、結婚する娘の羽織を仕立てた文さんのデザインなのです(青木玉「誰が袖」『幸田文の箪笥の引き出し』新潮社1995)。
(選者・コメント:まっちゃん )



7.『Room talk 2』
著/岡尾 美代子,発行/筑摩書房




岡尾さんの旅の空気が詰まった本です。なんともいえない素敵な画角の写真、レイアウト、面白いエピソード、紙の素材や、最後の落書きなど、遊び心が盛りだくさん。この本を読んでいると、街中の日常の様子がとても愛おしくなり、写真を撮りたくなります。是非、おでかけの際はカメラを鞄に忍ばせておきましょう。

こちらのかわいい装丁は、あるお国で見つけた〇〇の柄なんです。旅でこんな〇〇に僕も出会いたいです。是非、本の中で探してみてください。男子でも「女子的な気持ち」をくすぐられる本ですので、この際女子の気持ちになって楽しみましょう。
(選者・コメント: たいちろう)



8.『ものがたりの家-吉田誠治 美術設定集-』
著/吉田誠治,発行/パイインターナショナル




美しい湖のようななブルーの表紙に、ジブリの世界からでてきたかのような空想の建物たち。子供の頃から、たくさんの物語に囲まれてそだった、本好きのハートをグッとつかむ、どこかで読んだような設定と背景。


妹尾河童さんの「河童がのぞいたシリーズ」のように、上から建物をみた見取図が、さらに妄想をかきたてます。


「失われた書物の図書館」「カカオの木のツリーハウス」「竜使いの郵便局」‥‥。知っているようで知らない物語の世界。風景グラフィッカーという肩書きの著者だからこそ書ける、精密で繊細な一冊だと思います。
(選者・コメント: サンディエゴのともみ)



9.『和菓子 modern style』
著/諸星みどり,発行/世界文化社




なんとなく、バスでの移動をイメージして、この本を選びました。ちょっと狭い、ゆらゆら揺れる空間で、キラキラ光る和菓子を眺めながら、目的地までワクワク移動するのはどうでしょう。

宝石のように、小さなかわいい和菓子が、案外簡単に作れることを知って、次はお土産用に自分で作る気持ちになるかもしれません。ポストカードにしたくなるような和菓子が満載の美しい本です。
(選者・コメント:しみずぬりえ )



10.『小さな泊まれる出版社』
著・発行/真鶴出版




神奈川県真鶴町にある、″泊まれる出版社″真鶴出版2号店ができるまでのお話です。表紙には、初夏のやわらかい光と青々とした緑が描かれたスケッチ。装丁も優しい風合いの紙が使われていて、手に取るだけでも何だか心がほっこりあたたまります。

冒頭には、表紙のスケッチがコマ送りで10枚ほど続いています。真鶴半島特有の細い路地″背戸道(せとみち)″や、真鶴のゆったりとした空気感が伝わってきて、ページをめくるうちにいつのまにかその魅力の惹き込まれていきます。

真鶴出版を営む若いご夫婦の視点はもちろん、設計を担当した建築家や真鶴をお薦めした方へのインタビュー、設計図や記録写真などいろんな角度から見ていくことで、1本のドキュメンタリーを見ているかのような気分になります。

その日の時間と気分に合わせて気になるページから少しずつ読み進めていくのもよし、いっきに読んで真鶴出版の世界観にどっぷり浸かってみるのもおすすめです。
(選者・コメント:ひーちゃん )