あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、初夢と併せて楽しみたい(!?)「夢の本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『こどものころにみた夢
著・文/アンソロジー,発行/講談社




角田光代、辻村深月、西加奈子……などなど、名だたる作家たちによる『夢の話』のアンソロジー。エッセイから小説風のものまで幅広く、そしてイラストもそれぞれ違う画家による作品でめちゃくちゃ豪華。「人から聞かされてつまらない話」第1位ともよく言われる『夢の話』がここまで面白くなるなんて、と感嘆してしまう1冊です。



2.『フロイトの燃える少年の夢
著・文/森泉岳土,発行/河出書房新社




こちらは最近出たばかりの話題のコミック。夢判断で有名なフロイトや、ドフトエフスキー、ヴァージニア・ウルフなど、世界の文学作品の夢を短編漫画に仕立てた不思議な読み心地のアンソロジーです。ちょっと不気味な絵のタッチが、怖いんだけどもっと覗き込みたくなる、という魅力を生み出していてもうたまらない。



3.『夢十夜』(新潮文庫『文鳥・夢十夜』収録)
著・文/夏目漱石,発行/新潮社




日本で「夢を書いた小説」としていちばん有名なのがおそらくこちら。教科書で読んだ、という人もいるかも? すべて「こんな夢を見た」という一文から始まる幻想的で美しい物語はときにホラーっぽいものもあり、『こころ』や『我輩は猫である』では見られない漱石の一面を知ることができます。夢と関係ないけど『文鳥』もおすすめです!



4.『アルケミスト 夢を旅した少年』角川文庫
著・文/パウロ・コエーリョ,翻訳/山川紘矢、山川亜希子,発行/KADOKAWA




〈ピラミッドに宝が眠っている〉という夢を何度も見た少年が生活を捨ててエジプトに旅に出る、という、世界的なベストセラーであるこの物語。8,500万部も売れているらしいです。すごすぎる。どんなふうに生きたいのか、何のために生きるのか。新年の始まりにそんなことを考えながら読んでみるのもいいかも。



5.『終わらない夜
著・文/セーラ・L・トムソン,イラスト/ロブ・ゴンサルヴェス,翻訳/金原瑞人,発行/ほるぷ出版




夢の世界を絵にしてみたらこんな感じなのかも、と思わせてくれる絵本。マグリットやエッシャーのような騙し絵らしいそれぞれの絵は、じっくり眺めると別のものが浮き上がってくる。幻想的で不気味な画風は、どこか愉快でもあって心惹かれます。眠れない夜は無理やり寝ようとするよりもこんな世界を味わってみたい。



6.『ゆめぎんこう ちいさなおきゃくさま』MOEのえほん
著・文/コンドウアキ,発行/白泉社




同じく絵本ですが、こちらはうってかわって可愛く、心がほわっとゆるむような1冊。リラックマの作者であるコンドウアキさんの絵本です。誰かが見た楽しい夢やこわい夢を買い取り、カラフルな飴にして売っている銀行の物語。悪夢に悩むお客さんとのやさしいやりとりに心が癒されます。



7.『鏡リュウジの夢占い』鏡リュウジの占い入門5
著・文/鏡リュウジ,発行/説話社




意味深な夢を見たり、繰り返し同じモチーフの夢を見たりしたときには「これって何か特別な意味があるのかな?」と気になってしまうもの。占い師、鏡リュウジさんがまとめた夢の事典とも言えるこの本は、わかりやすくて読みやすく、気になる夢を見た後にはもちろん、ぱらぱらとめくって読んでいるだけでも面白い1冊です。



8.『夢の正体 夜の旅を科学する
著・文/アリス・ロブ,翻訳/川添節子,発行/早川書房




そもそも夢を含めた無意識の世界は解明されてない部分が多いらしい。そこに科学的に斬り込んでいくのがこちらの研究本。夢が身体に与える影響、トラウマ治療に夢を活用……など、事例がたくさん出ていて興味深いです。何より気になるのは夢を自分でコントロールできるという明晰夢を見るための方法。とりあえず、まずは夢日記をつけてみようかなと思いました。



9.『夢みごこち
著・文/フジモトマサル,発行/平凡社




ぼんやりとした悪夢からまたべつの悪夢へ、ゆるゆるとつながっていく……そんなストーリーだとご紹介すれば嫌な読後感の本だと思われてしまいそうですが、なぜかこれがとんでもなく楽しくて引き込まれるからほんとうに夢って不思議。いや、フジモトマサルさんの《かわいこわい》世界観がそうさせるのか。巻末には村上春樹氏によるフジモトマサル論も収録。



10.『三度目の恋
著・文/川上弘美,発行/中央公論新社




もともと夢か現実かわからないような世界を描くことが天才的にうまく、恋愛小説の名手でもある川上弘美さんならではの物語。現代で魔性の男との恋に悩む主人公が、夢の中で平安時代と江戸時代を行き来し、在原業平とも恋愛する。単なるタイムスリップものではなくこの構造自体もすごい。恋愛で悩んでいる人や時代小説が苦手な人にもおすすめしたい特別な『夢の本』です。


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。