あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「天才の頭の中を知って天才に近づくための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』新潮文庫
著・文/二宮敦人,発行/新潮社
数年前、かなり話題となったこの本。エンタテイメント系の作家である著者が、東京藝大に在学中の妻の奇異な行動に興味を持ったことから始まった、藝大にいる人たちの風変わりでエネルギッシュな様子をルポしたものなのですが、文章もとても面白くてよいです。何かに夢中になっている人って素敵だなと思わせてくれる1冊。
2.『蜜蜂と遠雷』
著・文/恩田 陸,発行/幻冬舎
こちらはフィクションですが、天才の気分を疑似体験したいときに断然おすすめの長編小説です。長い! けど長さが気にならないくらいガンガン読めるのでぜひチャレンジしてほしい〜! とあるピアノコンクールを舞台に挑む、性格も年齢もまったく違う4人の天才たち。なんでこんな天才の心がわかるの? というくらいリアルに感じられる心理描写にぐっと引き込まれます。
3.『天才はあきらめた』
著・文/山里亮太,発行/朝日新聞出版
こちらは天才になれなかったと振り返るお笑い芸人・山里亮太さんによる独白。と言ってもこれを読めば読むほど、「いや……あんた天才だよ……!」と思わざるを得ない。カリスマ的な笑いを生み出すことはできないと悟った彼はひたすら努力の鬼へと変わっていくのですが、その過剰さがとんでもないのです。うーん、すごい。
4.『天才による凡人のための短歌教室』
著・文/木下龍也,発行/ナナロク社
こちらも同じく大天才が「自分は天才にはなれないから」と言いながら圧倒的な天才さを見せつけてくる系の本です。でもきっと山里さんも木下さんも謙遜して言ってるのではなく、見えてる山の頂点が宇宙なんだろうなあ。短歌をつくりたい人のための指南書ではありますが、その「見えてる度」にヒリヒリ・ワクワクするような1冊です。
5.『1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく』
著・文/高橋晋平,発行/KADOKAWA
世界でたったひとりの天才になることは難しいけど、身近な人にも“天才っぽさ”を感じることはあって、それは例えば「アイデアやひらめきがすごい人」。でもこれも持って生まれた才能ばかりじゃなくて、ひらめくためのルートや伏線のようなものをどれだけ持っているかということも大事なんですよね。こちらはひらめきを地道に手に入れるためのヒントがつまっている本です。
6.『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』
著・文/メイソン・カリー,訳/金原瑞人、石田文子,発行/フィルムアート社
歴史上の天才たちが何を成し遂げたかではなく、どんなルーティンで創作活動などを行なっていたか(ベッドのまわりに仕事道具とドーナッツを円状に並べ、胎児のように丸まってから執筆していた、とか……)をひたすら調べて記録した1冊。素敵なものからはちゃめちゃなものまで、天才と言えど人それぞれだなあ〜、と楽しい気持ちになれます。参考には……ならないかも。
7.『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』
著・文/ジョシュア・ウルフ・シェンク,訳/矢羽野薫,発行/英治出版
一般的に「天才」というと「孤高の」「誰も理解できない」というようなイメージを抱きがちですが、現実世界の天才たちは意外と(?)この2人組だからこそ、という活躍をしているようです。ジョン・レノンとポール・マッカートニーを始め、あらゆるジャンルで成果を上げてきた天才ペアたちの成功の秘密を紐解く本。天才とは程遠いとしても自分のまわりにいる人を大切にしよう、と思わせてくれる1冊です。
8.『虫眼とアニ眼』新潮文庫
著・文/養老孟司、宮崎 駿,発行/新潮社
というわけで(?)天才が書いた大作もいいのですが、天才同士が好き勝手に喋り合っている本のほうがかえって素のその人の“天才み”が立ち現れているような気がしてけっこう好きです。解剖学者と映画監督のふたりによる現代への嘆きと自然礼賛は、そこまではまあよくあるものですが、その先にあるふたりの独自の発想や話しぶりにワクワクしてしまいます。
9.『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール コレクション16
著・文/ロアルド・ダール,絵/クェンティン・ブレイク,訳/宮下嶺夫,発行/評論社
児童文学からもおすすめの天才本を1冊。ファンの多いロアルド・ダールの作品ですが、これは私も大好きな作品です。幼い頃から難しい本が読めたりと、その天才さゆえに親からも学校の校長からも疎まれているマチルダ。彼らの意地悪なやり方に、頭脳戦で仕返しをするというワクワクな展開がたまりません。ミスハニーとのシスターフッドな物語であるところも素敵。
10.『ぼくには数字が風景に見える』講談社文庫
著・文/ダニエル・タメット,訳/古屋美登里,発行/講談社
私にとって、天才が出てくる本といえばこれ。一生大事にしたい本かもしれません。サヴァン症候群とアスペルガー症候群、そして共感覚を持つダニエル。ふつうの生活ができずに苦労する一方で彼は数学の天才でもあり、数字を風景として捉える描写はとんでもなく美しく、また数学研究の夢を叶えるために自分の人生をつかみとっていく様子は何度読んでも感動で涙が滲んでしまいます……。もし気になったらぜひ書店で手に取ってみてくださいね。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。