あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「この夏を楽しくするための本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『あなたに犬がそばにいた夏
著・文/岡野大嗣、佐内正史,発行/ナナロク社





大人になると夏のよさを味わうことを忘れがちです。夏のワクワク、眩しさ、せつなさを短歌と写真でぎゅっと真空パックにしたようなこの1冊で、まず「夏っていいものだよな」ということを思い出そう。どのページからも、ありふれているけれど懐かしくて特別だった夏の記憶が蘇ります。「島にいるみたい まあそうなんだけど 島の気分で歩く駅前」


2.『東京の森のカフェ
著・文/棚沢永子,発行/書肆侃侃房




遠くまで旅行に行かなくても心地よい場所はいっぱいある! ということで夏にこそ行きたい、緑と涼しさを思いっきり味わえそうなカフェの紹介本です。初版は2017年ですが、最新の情報にアップデートしながら売れ続けています。ただのガイドブックではなく営んでいる人の人生の物語まで描かれているところが素敵。絶対行きたい場所が見つかります!


3.『水族館飼育員のキッカイな日常
著・文/なんかの菌,発行/さくら舎



夏に行きたいところといえば水族館!! 特に生き物が好きというわけではなくても、行くとテンションが上がりますよね。しかしその裏側、水族館で働く人たちの日々はどういうものなのでしょうか? やっぱり楽しい? それとも大変? かわいい漫画に癒されつつエッセイでふむふむと勉強してから向かえば、水族館の楽しさは何倍にも膨らみそうです。


4.『アルプス席の母
著・文/早見和真,発行/小学館



ところで、高校野球は好きですか? 前回の本屋大賞でも2位となり大きな話題となったこちらも夏を味わえる作品。高校球児の“母”を主人公にしたこの小説は、ただ表面的な努力や感動のストーリーではなく、子どもを支える側の金銭問題や業界の理不尽なルール、それにどう向き合うかまでも丁寧に描きつつも、登場人物たちの生き方に爽やかな感動がひろがる1冊です。


5.『りょこう
絵・文/麻生知子,発行/福音館書店



最近見つけたかなりおすすめの絵本! サイコロの展開図のような絵の構図がかなり斬新で楽しい。レトロな雰囲気なのにセブンティーンアイスはかなり細かく書き込まれていたり、旅に出る電車や旅館、広い浴場のワクワク感がどこまでも伝わります。シリーズで『なつやすみ』も出ていてそちらもおすすめ! 新しい表現の絵本に出会いたい方、ぜひ手に取ってみてください。


6.『アイスの旅
著・文/甲斐みのり,発行/グラフィック社




そうなんですよ、夏はやっぱりアイスじゃないですか! ということで我らが(?)甲斐みのりさんのアイス本。全国各地の素朴ながらかわいい“ご当地アイス”が大集結で、実際に食べなくても商品のロゴやアイスたちのフォルムを眺めているだけで幸せ。国内旅行の予定がある方は予習しておいて現地で探すのもよさそうですね!


7.おいしい文藝『ひんやり、甘味』河出文庫
著・文/浅田次郎、沢村貞子,発行/河出書房新社




表紙も魅力的なこちらは池波正太郎や向田邦子から、東海林さだお、川上弘美まで「おいしいものの話をさせたら天下一品だろうな」と思わせる作家たちのエッセイ・アンソロジー。少し懐かしい昭和っぽさのある冷たくて甘いものが次から次へと登場します。「これってどういう食べ物なんだろう」って想像しながら読んだり「昔よくあったよなあ」なんて思い出しながら読めて楽しい。


8.『ロイヤルホストで夜まで語りたい
著・文/朝井リョウ ほか,発行/朝日新聞出版




長い休みを取って旅行に行くのは難しくても、日々の密かなごほうびの時間は心を豊かにしてくれますよね。都会をせわしなく生きる者のオアシスといえばそれはロイヤルホストなのかもしれません。他のファミレスや素敵なカフェではだめで、ロイヤルホストでなければならない理由とは--。人気エッセイストたちが語る記憶やこだわりはどれも“ロイホ愛”に満ちていて、今すぐ駆け込みたくなります。

 

9.『すいかの匂い』新潮文庫
著・文/江國香織,発行/新潮社

 

 

子どもの頃の夏の思い出は楽しいものばかりではなかったかもしれません。知らない場所ですごすときの不安や、あらゆる不快感と恐怖、自分の心のどこかにある残酷さ……今となっては忘れてしまったような記憶を少女の目線から綴った、詩のように美しい短編集。怪談とはひと味ちがう「ひやっ」をお求めのあなたにも。


10.『プロジェクト・ヘイル・メアリー
著・文/アンディ・ウィアー,訳/小野田和子,発行/早川書房




本好きならば、夏はなんとなく「大長編にでも挑戦しようかな」の季節なのではないでしょうか? お盆が休みの方ならうってつけのチャンスですよね。こちらの本は夏に直接は関係ないのですが、読み終わってみれば最高すぎて、まさに夏にぴったりの作品。来春の映画化でネタバレを見てしまう前に読もうという人が増え(実は私もそのひとりです)今、再ブームが来ています! はやる気持ちで下巻を手に取る瞬間って、ほんとうにいいものですよね。

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選者:花田菜々子

流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。