
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「台所愛を感じる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。
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1.『キッチン』新潮文庫
著・文/吉本ばなな,発行/新潮社

「台所の小説といえば?」で街頭アンケートしたら間違いなく1位になるこの作品。1988年の刊行から今もずっと読まれ続けている吉本ばななのデビュー作です。父母を亡くし、ともに暮らした祖母までも亡くなり、主人公はいちばん落ち着く台所で眠る日々をすごす……そんな場面から始まる物語です。悲しみからゆっくり立ち直る姿を描いた昭和最後の名作、もう一度手に取ってみるのもよいかもしれません。
2.『キッチンに住みたい』はちみつコミックエッセイ
著・文/サトウユカ,発行/オーバーラップ

こちらはささやかな憧れを詰め込んだような、ほっこり系のコミック短編集。6人の女性が自分らしい暮らしを自分らしいキッチンで繰り広げます。彼女たちが自分の憧れを実現できる場所が「ひとり暮らしの部屋全体」なのではなく「キッチン」になるのは、そこが自分が自分のために何かをしてあげられる場所であり、コックピットや秘密基地のように閉じこもれるところもいいのかも、なんて思いました。
3.『台所図鑑 キッチンには人生がつまっている』
著・文/大木奈ハル子、三田みどり,発行/大和書房

しかし現実の台所って、けっこうかわいくなかったり使いづらかったり。素敵な台所にしたい! と内心思いながら実現できていない人も多いのでは(私です)。ここはまずかっこいい台所の持ち主33人のキッチン写真を見てみませんか。インダストリアル系、アンティーク好き、アジアンテイスト、ミニマリストなどなど個性豊か! 台所愛が伝わる&自分もやってみようと思える&そして見てるだけで楽しい1冊。
4.『女ひとり、家を建てる』
著・文/ツレヅレハナコ,発行/河出書房新社

こだわりも極まればついに、オーダーメイドのキッチンで家を建てるしかなくなります(?)。作ることと食べることが大好きなツレヅレさんの台所へのこだわりと、何をあきらめて何を優先するのかというストーリーは、まさに生き方の表れ。読んでいるだけでワクワクします。家の購入はもとより「賃貸でいいでしょ」派の自分が家を建てたくなったのは、後にも先にもこの本を読んだときだけです。
5.『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』
著・文/大平一枝,発行/毎日新聞出版

今いちばん話題の「台所本」といえば、やっぱりこれ。さまざまな普通の人たち(と言いつつ料理家の方なども)の台所の写真を撮り続け、それとともに彼らの人生の話を聞くシリーズの最新刊です。今作では“リスタート”に焦点を当て、転居、転職や家族の再構成など、台所の持ち主たちの喪失と再生が多く語られています。おしゃれじゃなくてもその人の生きてきた姿がにじむ台所はかっこいいし、人生を語る言葉に心が揺さぶられます。
6.『世界自炊紀行』
著・文/山口祐加,発行/晶文社

世界の台所を知るというのも、台所好きからすればそうとうに面白いことです。画像ではわからないと思いますが、この本なんと厚さ3cm超えの大ボリューム。しかもそれなのに大ヒット。何しろ著者の山口さんがアジア、南米、ヨーロッパ、全部の国に自分で行って話を聞いてきてるのだから情熱がハンパない。「おもてなし」のごはんではなく、普段食べているものを作って見せてくれ、と世界中で頼んでできたこの1冊。読み応え十分です。
7.『オールド台湾食卓記 祖母、母、私の行きつけの店』
著・文/洪愛珠,訳/新井一二三,発行/筑摩書房

こちらも海外の台所にまつわる本ではありますが、台湾でベストセラーになり、あらゆる賞を総ナメした本家お墨付きのエッセイ集。台湾生まれ台湾育ちの著者が、祖母、母から受け継いだ味、買い出しをした店、大所帯での食卓、もう失われてしまったかつての台湾の食にまつわる生活と記憶を書き残しています。日本の私たちにもノスタルジーはどこかつながっていて、そして猛烈に台湾に行きたくなる危険な本。
8.『季節のうた』河出文庫
著・文/佐藤雅子,発行/河出書房新社

最近文庫化して復刊された昭和のロングセラー。これまで全く存じ上げなかったのですが、現代でいうところのセレブ妻であり、けれど料理上手で文章も上手、人柄も素敵で人気者な方だったようです。そんなわけで読み始めると、もうこれがたまらなくうっとり。夏みかんのマアマレードにパセリバターのサンドウィッチ、いんげんのピックルスにぶどうのトルテ……。「ございます」口調で書かれる当時の豊かで丁寧な台所模様に癒されること間違いなしです。
9.『人生が変わる台所道具 私を助ける小さな働きもの』
著・文/本多さおり、後藤由紀子、今井真実、コウケンテツ、按田優子、おさだゆかり,発行/光の家協会

たとえそこが100円ショップであれ高級専門店であれ、商品を眺めながら「これがあれば私の台所ライフはもっと便利になって、もっと輝くのでは?」というのはきっと誰もが思うこと。そんな気持ちにぴったりとハマる、料理のプロたちの「おすすめ道具カタログ」。ペラペラと眺めればどれもが素敵で購買欲をそそります! しかしそれぞれのセレクトを見ていると、台所にはやはりその人の哲学が立ち現れるのだな、とも。私もいつかモノではなく、哲学を手に入れられるのでしょうか。
10.『おばけのてんぷら』絵本のひろば
著・絵/せなけいこ,発行/ポプラ社

最後に絵本を何か1冊、と思って考えてみると、食の絵本は数あれど、台所が主役の本ってありそうでないですね。しかし50年読み継がれているレジェンド絵本のこちら、うさぎが天ぷらをただただ揚げ続ける楽しさと、その場で食べることの楽しさを描いた、まごうことなき台所絵本です。途中でめがねを揚げちゃったり、乱入してきたおばけを揚げちゃったりするんですが、べつに大事件にはならないんですよね。この懐の深さこそが台所のすごさなのかもしれません……。
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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。
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