あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「もっと夏が好きになってしまう映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。



https://youtu.be/L8lrkSLVH1s


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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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有坂セレクト1.『真夏の夜のジャズ』
監督/バート・スターン、アラム・アヴァキアン,1959年,アメリカ,83分

渡辺:ああ!
有坂:これは1959年につくられた、アメリカのニューポートで開催された、ジャズフェスティバルをまとめた、ドキュメンタリーで、今から観ると、60年前の夏フェスを記録した貴重な映画となっています。この映画は、当時第一線で活躍していたジャズミュージシャン、例えば、セロニアス・モンク、ルイ・アームストロング、あとは、ジェリー・マリガン、ダイナ・ワシントン、ジョージ・シアリングなどなど、知る人ぞ知るというか、当時のトップジャズマンが参加した記録映像なんですけども、この映画が素晴らしいのは、記録映像というと、主役はあくまでミュージシャンであって、それをただ映像に記録したみたいな印象ってあると思うんですけど、これは監督が素晴らしいんです。このバート・スターンという人なんですけれども、このバート・スターンというのは、もともとファッション系のフォトグラファーで、当時の「VOGUE」だったり、あとはオードリー・ヘプバーンとかブリジット・バルドーとかっていうセレブリティの写真も撮ってるような、そういったフォトグラファーが撮った記録映像になってます。なので、映像自体がすごくスタイリッシュです。面白いのが、このミュージシャンのパフォーマンスしてる映像が、もちろんメインではあるんですけど、それと同じぐらいの比重で、それを楽しんでいる観客たちの映像が、たっぷり観られるんですね。観客の映像がなんで楽しいかというと、みんなオシャレなんですよ。もうね、仕込んだんじゃないかなっていうぐらい、オシャレな人たちが集まっているんですけれども、当時のいわゆるトラッド系のファッションの、もう本当にお手本が集まったみたいな、そういう楽しみ方ができます。なので、音楽、ジャズに興味がなくても、そういった時代のトラッドが好きな人とか、ファッション系のいろんな過去の映像を観てみたいっていう人にも満足感はあるし、もちろんミュージシャンたちのパフォーマンスがね、とにかく最高です。これは、4日間行われたジャズフェスティバルを、もう最初から最後まで記録して、それを83分にまとめたものなので、それぞれのミュージシャンのベストパフォーマンスが楽しめる映像となっています。ぜひ、今回の僕らみたいに、お酒を飲みながら家で観るんだったら、もう爆音で、窓も開け放って、本当にビールとかワインとか飲みながら、ゆっくり夏の時間を感じながら楽しんでいただくと、特別な一本になるんじゃないかなというライブドキュメンタリーとなっています。
くり夏の時間を感じながら楽しんでいただくと、特別な一本になるんじゃないかなというライブドキュメンタリーとなっています。
渡辺:お客さん映してるのは面白いよね。
有坂:いやー、これ斬新だったよね。
渡辺:当時、50年代ファッションの女性とか、三角のサングラスとかね。ああいうのをリアルにしてる人がいたりとか、アイスクリーム食べていたりとかね。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:その辺も、こんな感じで自由に聴いているんだっていう姿も、ちゃんと観られる。
有坂:そうだね。そこは結構大事なポイントで、ジャズっていうとジャズ喫茶のイメージで、物音一つ立てちゃいけないみたいな、そういうイメージがあると思うんですけど、ではなくて、もう海の近くで、本当に大自然の中、フジロックと同じような雰囲気の中で、ジャズが楽しめる。
渡辺:そうね、子連れでね。
有坂:そうそう。
渡辺:ノっている人はノってるっていう感じの。
有坂:これ本当は、どうやら、バート・スターンが、映画監督になりたいと思って、そういう野心のもと、本当はこのジャズフェスティバルを背景に、ラブストーリーを撮ろうと思っていたんですよ。そういうフィクションの映画を撮ろうと思っていたら、やっぱり環境的にとか、いろんな問題で、その企画が頓挫しちゃって、だったらシンプルに記録映像を撮ろうと。バート・スターンのモチベーションとしては、やっぱり当時のジャズのイメージっていうのが、やっぱりちょっと沈んだ雰囲気の中で、真っ暗な中で、ストイックに演奏しているジャズミュージシャンみたいなイメージがはっきりあったから、そうではなくて、太陽の下で演奏してる人たちを、どれだけ美しく撮るか、そこに彼のモチベーションがあって。さらに、もともと持ってるファッションの、そういった目線も合わせて作品にしたということで、これは本当に歴史に残る音楽ドキュメンタリーといってもいいと思います。今年、あれだよね、恵比寿のガーデンプレイスでも、これ、野外で上映します。キノ・イグルーとしてではないんですけど、僕たちがやるイベントの前だったかな。夏の野外でも、これを観ることができるので、ぜひそんなところもチェックしてもらえたらと思います。
渡辺:なるほどね。じゃあ、僕の1本目いきたいと思います、僕の1本目はですね、2018年上映の映画です。



渡辺セレクト1.『君の名前で僕を呼んで』
監督/ルカ・グァダニーノ,2017年,イタリア、フランス,132分

有坂:ああ!!
渡辺:これは話でいうと、北イタリアの避暑地にバカンスに行っている一家の話になります。その避暑地に学校の教授がいて、その教え子が訪ねてやってくるんですけど。そこの息子と、その訪れてきた学生との一夏の恋の話という形になります。主演が、ティモシー・シャラメ。
有坂:みんな大好き。
渡辺:ティモシー・シャラメが、これで世界的に知名度を上げた、という作品になります。ミニシアター系でやっていた作品ではあるんですけど、結構ヒットをしてですね、一言でいうと、一夏の恋の話になります。それが男の子と、この男の教え子の、男性同士のラブストーリーという形ではあるんですけど、あまりに話が美しいので、ジェンダーを超えて、恋に落ちた相手が、たまたま同性だったっていうぐらいの、本当に純粋なラブストーリーという話なので、そういうジェンダーに偏ったような話ではないかなというふうに思いました。それぐらい自然だし、本当に夏に避暑地に行って、恋に落ちるっていう、その描かれ方がすごい自然だし、とにかく舞台となっている北イタリアが、めちゃくちゃ美しいんですよね。「本当にこんな避暑地があるんだったら行ってみたい」ってなるようなすごい木陰でみんなでランチする姿がよかったりとか。
有坂:いいよねー、あのシーン。
渡辺:なんか、ちょっとこうプールとか、池に泳ぎに行くみたいなのとか、なんか、そういうちゃんと本当に自然をね、豊かな自然でバカンスしているって、こういうことなんだなっていう、それを感じられるような本当に美しい作品だなと思います。
あと、結構その映画を彩る音楽っていうのも、非常に良くてですね。このときは、「このサウンドトラックは、ずっと聴いていた」みたいなぐらい、クラシックな曲なんですけど、その辺もすごい良いので、夏になるとこの作品はやっぱりなんかこう、毎年ちょっと話題になるというか、思い出すような作品だなと思います。
有坂:そうだね。これはやっぱり、監督のルカ・グァダニーノっていう人の美的センス。やっぱりその映像へのこだわりとか、映像に映るものすべてにこだわっているので、さっき順也が言ったように、北イタリアの風景も、その風景プラスどういう建物かとか、その建築寄りの人が観ても、本当にここの映画に出てくるいろんな建物っていうのに、やっぱり興味を持ったり、あとその美しい建築を撮るのって、けっこう難しいんだよね。そのまま撮っても肉眼で見ているような美しさでは撮れない。それはやっぱり、それを切り取る側の映像のセンスが大事になってくる。そういう意味では、本当にルカ・グァダニーノの美的センスがあって、初めてあの世界観の中で繰り広げられるラブストーリーかなと思うので、これはマストだね。
渡辺:そう。
有坂:毎年夏に観たくなる、確かに映画だな。
渡辺:ティモシー好きは、けっこう観ているかもしれないですね。
有坂:ここを入り口にね、なるよね。
渡辺:未見の方がいたらぜひ! この夏に観ていただきたい。
有坂:これ、あとPinterestとかで検索すると、その舞台になったロケ地、いろんなその建築物とか、風景とかが、そのキャストとかが映ってない風景だけを切り取った写真で、まとまっているサイトとかも出てくるので、それ見てもけっこう刺激的だと思うので、そういった風景とか建築とか好きな人は、ぜひPinterestでもチェックしてもらえたらなと。
渡辺:あと、海外版のポスターもあったりして、それもね、この作品結構いいのが多いので、その辺もチェックしてもらえると楽しいと思います。
有坂:そう来ましたか、なるほどね。はい、僕の2本目は、まったく方向性を変えて、1993年の日本映画。……ある? 候補に。
渡辺:日本映画はあるけど、その年じゃないかな?
有坂:ないよね。はい、これです。



有坂セレクト2.『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』
監督/岩井俊二,1993年,日本,45分

渡辺:ああ! なるほど。
有坂:これは、いわゆる岩井俊二の出世作と呼ばれている、これ中編です。45分の中編で、もともとはテレビドラマとして放映されたものになっています。フジテレビの『if もしも』っていうテレビドラマの枠でつくられて、それがあまりにも話題になって、翌年劇場公開された。それで岩井俊二が一躍名を挙げたという、記念碑的な一作となっています。これ、主演は、山崎裕太とか、奥菜恵という、後にブレイクする俳優さんたちが、13歳、14歳の頃に出演した作品なんですけれども、話としてはシンプルで、小学生の男の子たちが、まず主演です。その子たちはタイトルのとおりですね、打ち上げ花火って横から見たら丸いのか、平べったいのかっていうことで、言い争いになる。小学生男子っぽい感じなんですけども、それを確かめに「花火大会に行こうぜ」「灯台に行ってみようぜ」っていうところに、彼らにとっての憧れの美少女、なずなという奥菜恵演じる、なずなへの淡い思いが重なって、過ぎていく夏の思い出という作品になっています。これは、初恋っていうテーマで切り取っても、まず最初に挙げたくなるぐらい、初恋の名作映画といってもいいんじゃないかなと思うんですけれども、やっぱり、夏休み、花火、プールっていう、もう夏の「これぞ夏」っていうアイテムが満載だし、やっぱりその自分に照らし合わせて考えても、小学生にとっての夏の一日。夏休みの一日って特別ですよね。そういう設定をやっぱりうまく生かして、みんなが通過してきたような初恋の感情とかを、理屈ではない、本当に映像感覚で伝えてくれる、そういう岩井俊二の魅力が詰まった、一作になっているかなと思います。花火大会、ちょっと繰り返しになるんですけど、花火大会って、花火大会を見に行くって言ったら、もう親は「じゃあいいよ、行ってきな」っていう感じになるということで、大人公認なんだよね。大人公認の中、夏の夜に、同級生といつもと違った姿で交流できるっていう、そういうワクワクできるような時間が詰まった一作となっています。これは後に、数年前にアニメ版も公開されて、アニメ版観た?
渡辺:観てない。
有坂:僕もね、ちょっと怖くて観れなくて、いまだに観てないんですけど、これ『モテキ』の大根さんが脚本を手がけているから、観よう、観ようと思うんですけど、僕はこの岩井俊二版が好きすぎて、なかなかちょっとまだその勇気がないので、観れてないのが。あっ、これですね。
渡辺:なかなか評判が良くない。
有坂:評価がすべてではないと言いつつも。
渡辺:これ、だってスタッフとかオールスターだからね。
有坂:そうだよね。
渡辺:キャストも菅田将暉、広瀬すずでしょ。錚々たるキャストでやったのにっていう。
有坂:でも分かんない。これ、観た人にとっては、特別な一本になってるかもしれない。
渡辺:でもね、元ネタが伝説だからね。当時観てたもん、テレビで。「あの子、かわいい、誰?」っていうのが、奥菜恵。奥菜恵が、さっきのティモシー・シャラミじゃないですけど、全国に名を轟かせた作品だからね。
有坂:13歳のときの奥菜恵だもんね。でも、やっぱりこういうなんかティーンの夏を舞台に出す青春映画で、やっぱりもう夜のプールとかさ、もうマストじゃない?
渡辺:映画になるよね。
有坂:そうそうそう、なんかそういう点でも、日本映画を代表する青春映画の一本かなと思いますので、観てない方はぜひ、この夏。夏の夕方にでも、観ていただければと思います。
渡辺:調布も、花火大会やりますね。今年はね。
有坂:そうなんだ。
渡辺:4年ぶりの復活ですから
有坂:じゃあ、その日かな? 観るなら。
渡辺:花火観ないで(笑)。
有坂:花火の音を聞きながら。
渡辺:短いからね。
有坂:45分ですから。
渡辺:なるほどね。じゃあ、僕もこれにしよう。僕の2本目は、2021年上映の日本映画です。



渡辺セレクト2.『サマーフィルムにのって』
監督/松本壮史,2020年,日本,97分

​​有坂:あぁ、あぁ。
渡辺:これはですね、もう2年前か……最近の作品なんですけど、これも一言で言うと、夏休みの青春の作品です。高校生が主人公なんですけど、映画部の女の子が主人公なんですね。その子が面白いのが、時代劇オタクっていう設定で、なんかチャンバラごっことか、完全に世代じゃないのに、勝新太郎とか、市川雷蔵とかですね、そういうののモノマネをする、変わった女子高生が主人公なんです。本当、映画が大好きで、映画部に所属してるんですけど、所属する映画部が作ろうとしている映画が、今どきの男女のキラキラ恋愛映画っていうですね。それにはちょっと乗れないというので、映画部じゃない仲間たちを集めて、このパッケージに写っている……女の子が3人写ってるんですけど、主人公の子と、残り2人は映画部じゃないんだけど、友達を誘って、最後の夏休みに映画作りを自分たちでするっていう青春ストーリーとなっています。映画好きあるあるみたいなものが、結構詰まっていてですね、映画好きが観ると、「あるある」とかちょっとクスッと笑ってしまうようなエピソードが、結構てんこ盛りされていて、話も普通に、なんだろう、話だけを聞いたらちょっと荒唐無稽なところはあるんですけど、それでもなんかこう映画好きだから、それはなんかわかるっていうような展開と、ちゃんとカタルシスもあってですね、見事に面白い結末になっていくっていう、これはなかなか面白い青春ストーリーとなっているので、これもちょっと夏に観たいし、映画好きにぜひ観てもらいたい青春映画となっています。
有坂:これはもうね、なんか才能ある若手俳優のショーケースみたいな、そういう魅力もあるかなと思うので。元乃木坂の伊藤万理華をはじめ、今、若手日本俳優のトップランナーといってもいい河合優実。この映画では眼鏡かけてちょっとオタクっぽいね。
渡辺:「ビート板」っていうあだ名の(笑)。みんなね、あだ名がついていて面白いんですよね。主人公の伊藤万理華が「ハダシ」で、「ビート板」、「ブルーハワイ」っていう、この夏らしいあだ名の3人がいて。映画のパンフレットに、なんでそのあだ名になったかの裏エピソードも書いてあったりするので。
有坂:書いてあったっけ?
渡辺:それもね、ちょっと面白いですよ。
有坂:なんで?
渡辺:なんだっけな、でもハダシは、裸足で歩いていたからみたいなやつとか。
有坂:そのキャラクター。
渡辺:そうそうそう。で、ビート板は泳ぐのが苦手で、ずっとビート板を使っていたとか、なんかみんなそれぞれ、そのままのわかりやすいエピソードが。
有坂:なんか、あれだよね、そういうあだ名をつけちゃう感じとかも、なんかこういう時代劇とかさ、ちょっとオタク寄りな感じの雰囲気が出ているよね。ビート板って友達のことを呼ぶって、なかなか恥ずかしいけど、これは良かったね。
渡辺:男の子も金子大地とか、今、大河ドラマとか出ていたりするんですけど、このときは本当に新人俳優でしたけど。金子大地も結構いろいろ出るようになっているので。
有坂:青春映画の面白いところだね。こういう若手俳優の実力派に出会えるっていうね。「高崎電気館」でやってるね。
渡辺:やってんだね
有坂:群馬の方は、ぜひ! 『サマーフィルムにのって』、挙げると思いましたよ! じゃあ、僕の3本目、どっちにしようかな。実は、今日ちょっと多めにいつもより選んでいて、選んだが故に決まらないっていう。じゃあ、こっちにしようかな。もう、これは絶対に夏に見るべきアメリカ映画です。2010年の作品です。



有坂セレクト3.『アメリカン・スリープオーバー』
監督/デヴィッド・ロバート・ミッチェル,2010年,アメリカ,97分

渡辺:ああー。
有坂:これもですね、これ大学生か。ティーンと言っても本当に20歳前後の若い人たちの青春ストーリーではあるんですけれども、これ、舞台がデトロイトの郊外です。その夏休みの最後の1週間。もう終わってしまう夏を惜しむかのように、みんなで集まってお泊り会をやろうというですね、そんなお泊り会を通した、一夜の物語になっています。これは、主人公は、はっきり1人とか2人ではなくて、何人かの視点から同じ一夜が描かれるというタイプの、言ってみたらちょっとした群像劇という設定になっている作品になります。これは、今はですね、監督自体はデヴィッド・ロバート・ミッチェルっていう、結構アメリカでは名をあげている監督で、そのデビュー作なんですけど、イット・フォローズっていう、ちょっとホラー寄りのもの、あと、アンダー・ザ・シルバーレイクという2本で名を上げた、デビッド・ロバート・ミッチェルの、これはデビュー作になっています。アメリカは入学式・新学期が9月になるので、新学期を目前に控えた夏の終わり。そこが似てるようで、日本とはちょっとその設定が違う。なので、その新学期が始まる前の終わりゆく時間というものに焦点を当てた、その一夜の物語にあえてしぼっているというところが、すごく大胆で、新人がゆえの大胆さかなって思うんですけれども、この一夜の物語をどういうふうに描いたか。そこは、もちろん観てからのお楽しみではあるんですけれども、もちろんですね、取り立てて大きな出来事が起きるわけではありません。ただ、この淡々とした一晩の出来事なんですけど、「それって映画としてどうなの? 魅力的なの?」って思ってしまう人もいるかもしれませんが、結局自分たちが過ごしている日常って、けっこうそういうことだよなと。大きなドラマっていうのは、そうそう起きることではないんだけれども、ただ本人にしか分からないような、小さな心の揺れとか、仲良かったあの人との関係がちょっと変わってくるとか、そういう共感性の高い物語を一晩に集約しているので、観終わって、「いや面白かったぜ」っていうタイプの映画では決してないんですけれども、じわじわ後から心に染みてくるようなタイプの映画です。なので、やっぱりこの映画を観るなら、夏の夜に観てもらうことで、本当にこの映画の持っている魅力に、より深く触れられるのかなと思うので、ぜひ観てほしいなと思いますし、多分改めて大人になって、例えば、ティーンの人が観たら、大人になったときに、「ああ、なんかこんな映画観たな」とか、「自分の当時と重なったな」って思い出せるような、そんな映画になっています。ぜひ観てください。
渡辺:これ、前はあんまり観られなかったからね。今はアマプラでも観られるから。
有坂:そうそうそう。
渡辺:U-NEXTも。これはね、けっこう貴重だったんですよね。日本でも、だいぶ後からリバイバルで、観られるようになってっていう、本当になんかなんだろうね、けっこう生々しい学生のね。
有坂:そうだね。
渡辺:人間関係とか、そういうのが最後の夜にいろいろ出てくる話で、夏に学期が切り替わるっていうのが、アメリカっぽいところ。その辺が、すごい面白い作品です。
有坂:あと、アメリカの青春映画は、音楽にもぜひ注目してほしくて、この映画で言うと、僕、たまたま自分が好きな曲が急にかかって、うわーって盛り上がったんですけど、Beirutの「Elephant Gun」という曲がかかるので、観てから聞いてもよし、先にYouTubeでミュージックビデオ、めちゃくちゃ変なので、引かないで観てほしいんですけど、「ベイルート エレファントガン」で検索してもらえれば、音は素晴らしいので、ぜひそっち目線でも注目してみてほしいなと思います。
渡辺:この監督の新作、出ないんだよね。
有坂:聞かないね
渡辺:もう5年ぐらい撮ってない。
有坂:そうだね。
渡辺:その最後の3作目は、A24なんだよね。
有坂:​『アンダー・ザ・シルバーレイク』​。そうだね。
渡辺:だから、そこからまた出そうな感じはしてたのに、なかなか出てないから、練り込んでるのかもと思って。……なるほど。
有坂:「目をつぶって、MVを聞こうかな」ってコメントが(笑)。ぜひ!
渡辺:なるほど、じゃあ、僕も3本目、どうしようかな。それを受けて、王道でいきたいと思います。1986年のアメリカ映画。
有坂:まさか!!
渡辺:まさかのです。



渡辺セレクト3.『スタンド・バイ・ミー』
監督/ロブ・ライナー,1986年,スイス,89分

有坂:(笑)、出たー! だよね。
渡辺:そうなんですよ。王道を入れようかどうかって思ってたんですけど、ちょっとね、アメリカの夏休みといったらもう。
有坂:そうだね。
渡辺:王道中の王道ですけど、『スタンド・バイ・ミー』は、小学生4人組が、最後の小6なんだよね。もう、この夏を明けたらみんなバラバラになってしまうっていう、そういう最後の夏に4人で旅をするという話です。小さい田舎町が舞台なんですけど、「少年が列車に引かれて行方不明らしい」みたいなニュースを聞いて、「じゃあ死体がまだあるんじゃないか」みたいな、そういう噂話だけで、「じゃあ俺たちで見つけに行こうぜ」って言って、寝袋とかを持って旅に出るという話です。リヴァー・フェニックスがね、まだ少年時代で、これが本当にかっこよくて。なんか悪ガキっぽいんだけど、タバコとか吸ったりしてるんだけど、すごいリーダー格で、誰もが認めるリーダーみたいな感じで。でも、お兄ちゃんが、超絶ヤンキーで(笑)、お兄ちゃん超怖いみたいな。エースっていう。
有坂:そうそう(笑)
渡辺:暴走族のリーダーみたいな感じですよね。
有坂:キーファー・サザーランドだよね。
渡辺:後に、『24』でね、めちゃくちゃ人を救っているんですけど、このときは、ただただ暴力的な兄貴っていうね(笑)。めちゃくちゃ怖いよね。仲間もナイフで脅してて。そういう障害にもあいながら、「あいつらを出し抜いて、先に俺たちが見つけてやるんだ」って言って旅に出て、なんかこう沼にハマってヒルに襲われたりとか。
有坂:そう! すごいよね。あのシーン。
渡辺:そんな、少年にとっては本当に大冒険っていう、初めて夜を明かしたりとか、なんかね、人んちに行って番犬に襲われたりとか、なんか本当にちょっとしたことなんだけど、一個一個が大冒険っていう、それを本当に見事に、青春映画として描かれているのもすごいし、本当に主題歌がね、有名だし、なんか本当に映画として完成度が非常に高い作品だなと思いました。これ、原作が、ホラーで有名なスティーヴン・キングなんですよね。スティーヴン・キングって、ホラーじゃない作品で、ちょいちょい名作があるっていう人で、これは自伝的な内容で、主人公がスティーヴン・キングの幼少期で、本当にこういうことがあって、主人公は本人は運動が苦手なタイプの、内気なタイプの少年で、将来小説家になるのが夢みたいな、そういう少年、まさに自身を描いていて、で、最後にリヴァー・フェニックスが、もし書くことに困ったら、今回の俺たちのことを書いていいぜみたいな。
有坂:そう!
渡辺:っていうのがあるんですけど、本当にそれがそのままスティーヴン・キングのホラー小説家として大成功しますけど、スランプに陥ったときにこれを書いたんですよね。
有坂:いい話!
渡辺:それがとんでもない名作っていうね。映画も見事に名作という形になっているので、まあ、これは観ている人は多いと思うんですけど、やっぱり夏に、キノ・イグルーでも野外上映やったりとかしましたけど、夏に観るとやっぱり改めて最高だなってわかる作品なので、名作を見返すときには、もう夏がこの作品はおすすめだなと思います。
有坂:これね、今、順也がスティーヴン・キングの話をしましたけど、あのフィルマークスのところに、『THE BODY』って出てますけど、「死体」っていう短編が、『スタンド・バイ・ミー』の原作になっているんですね。この短編なので、これってあの実は短編1個でリリースされているわけではなくて、『恐怖の四季』っていうオムニバス小説としてリリースされている。その4本あるうちの1つが「死体」。これが『スタンド・バイ・ミー』。もう1個が「ゴールデンボーイ」っていう、後にユージュアル・サスペクツ のブライアン・シンガーが監督した映画として、ゴールデンボーイも映画化されている。
渡辺:うんうん。
有坂:もう1個があれですよ、小説は「刑務所のリタ・ヘイワース」という小説なんですけど、映画版はショーシャンクの空にです。なので、『ショーシャンクの空に』と『スタンド・バイ・ミー』が同じオムニバス小説の中に入っている。
渡辺:すごいね。
有坂:それは小説も素晴らしいんですけど、やっぱりそこの短編小説からイマジネーションをもらって、長編映画にした監督も素晴らしい。すごく、そういう意味ではスティーヴン・キングっていうのは映画化しやすい人でもあるのかな。でも、ホラー作品は逆だな。「スティーヴン・キングは小説の方がいい」って言われがちなので、非ホラー小説の方が、もしかしたら映画化しやすい人なのかもしれません(笑)。
渡辺:(笑)
有坂:『スタンド・バイ・ミー』はでもね、もはや、こういう世代の人がリアルタイムで好きって言ってる人が、子どもにも観せたいっていって、親子で一緒に共有できるというところもいいかなって思うので、ぜひ改めて観返してみてはいかがでしょうか。……じゃあ、そんな台本があるかのような、今、順也がリヴァー・フェニックスって言いましたけど、ネクストリヴァー・フェニックスって言われた、この人が主演のアメリカ映画いきたいと思います。1995年の作品です。



有坂セレクト4.『マイ・フレンド・フォーエバー』
監督/ピーター・ホートン,1995年,アメリカ,100分

渡辺:うーん!
有坂:これはですね、さっき『恐怖の四季』というオムニバスの中の一つとして『ゴールデンボーイ』っていう映画を紹介しましたけど、『ゴールデンボーイ』でも主演をしたブラッド・レンフロという人のデビュー作になっています。『マイ・フレンド・フォーエバー』は、2人の本当にピュアな小学生男子の青春ストーリーなんですけれども、たまたま隣に引っ越してきたデクスターっていう男の子が、実はエイズ患者で、もう余命いくばくもないみたいな状況。その隣に住んできたデクスターと出会ったのが、そのブラッド・レンフロ演じる、ちょっとやんちゃな男の子。そうこのパッケージね。で、ブラッド・レンフロは、なんかちょっと、やんちゃでクールな印象なんですけど、デクスターに対してすごく心を開いて、もう残り少ない彼の命をやっぱりどれだけ輝かせられるかということで、なんとか生きてほしいということで、2人でもう命をつなぐような薬を探す旅に出る。そんな一夏のお話となっています。これはもう本当に、友情物語。友情映画の最高峰と言ってもいいんじゃないかなっていうぐらい、個人的にはめちゃくちゃ好きな一本。順也は大嫌いなんだっけ?
渡辺:いやいやいや、なんでよ(笑)。
有坂:めちゃくちゃ批判してた?
渡辺:めちゃくちゃ泣いたから(笑)。
有坂:そうですか、よかったよかった。でも、本当ね、僕もこれリアルタイムで観て、まだ、僕、1994年に映画に目覚めたので、目覚めて間もない頃だから、まだ映画を多分10本とか、20本とかしか観たことがない中で出会った一本だから、余計にグッときちゃって。
渡辺:すごい覚えてるもん。当時の話。
有坂:え?
渡辺:当時。「すごいの観たぜ」みたいな。覚えてるもん(笑)。
有坂:ほんと嗚咽しかけたから。
渡辺:すごい役者が出てきたばりなことを。
有坂:映画そんな観てないくせに(笑)。でも、それぐらいね、なんかやっぱり『スタンド・バイ・ミー』で、リヴァー・フェニックスに出会った人と同じような温度感で、このブラッド・レンフロに打ちのめされた。やっぱり『スタンド・バイ・ミー』も同じなんですけど、やっぱり主役を輝かせる人が素晴らしいからこそ、より際立つ。そのキャラクターの個性の違いが浮かび上がるっていう意味で、この映画はその相手役のジョセフ・マッゼロっていう、エイズ患者のデクスターを演じたジョセフ・マッゼロが本当に優しくて、受けの演技が上手くて、彼なりに相手を気遣いながらも、でも、自分の体力がどんどんなくなっていってみたいな、ちょっと話としてはもちろん切ない部分もあるんですけれども、そんな自分が心を開いた友達が、なんとか生きてほしいというピュアな部分を、本当にまっすぐに表現してくれた映画になっています。これもうね、名シーンのオンパレードで、スーパーのカート。カゴとかを乗せるようなカートを使った名シーンとか、あとオンボロいかだに乗って、子ども2人で川下りをするシーンとか。あとスニーカーの「コンバース」が好きな人は、もうこれ絶対観なきゃいけない。コンバース好きで、『マイ・フレンド・フォーエバー』観てないって言ったら、それは嘘になる。それくらいコンバース好き必見! もう涙なしでは観られない名シーンもあるので、ぜひ観てほしいなと思うんですけど、最後に1個、名シーンだらけではなくて、この映画は名台詞もたくさんあって、その中の1つを、ちょっと最後に紹介したいと思います。エイズ患者のデクスターと、それを支えるエリック、2人が旅をしています。その旅の途中、夜真っ暗な中で言った台詞です。エリックが言った台詞で、

「もし、夜に目を開けて真っ暗で、自分が宇宙の果てにいるみたいで怖いと思ったら、目を開けたときに、この靴を見れば、僕がそばにいると分かるさ」

靴、それがコンバースにつながってきます。なので、夜眠ったときに目を開けて、朝を迎えられるという当たり前のことが、このエイズ患者のデクスターというのは、もう約束されていない状況なんですね。なので、夜眠ることが怖い。そんなときにエリックが、もし不安になったらということで、自分の心から出てきた言葉をデクスターにかけてあげる。そこにスニーカーが関わってくるという、素晴らしい名シーン、名言が楽しめるので、ぜひ観てみてください。
渡辺:ちょっと思い出してきたわ。
有坂:今、ちょっと泣きそうだった、思い出したら。ピュアなんだよね。
渡辺:号泣映画だもんね。
有坂:嗚咽映画だもんね。
渡辺:泣いたのは思い出してきた。
有坂:本当に泣いた?
渡辺:泣いたよ(笑)。めちゃめちゃ泣きましたよ。安心してください。
有坂:はい、わかりました。
渡辺:なるほどね。ブラッド・レンフロ、懐かしいね。そんな、スターになるかと思ったけど、そうならなかったもんね。
有坂:そう、だから悲しいかな、​リヴァー・フェニックス​しかり、ブラッド・レンフロしかり、若くして名をあげた人は、大体30歳を迎える前に亡くなってしまう。
渡辺:​マコーレー・カルキン​は?
有坂:そう考えたら、マコーレー・カルキンは別枠で、まだ生きてるし、キャリアも歩んでるし、しかも皆さん知ってます? マコーレー・カルキンが自分のセカンドネーム、ミドルネームを新しくつけるために、公募したっていうエピソード。僕のミドルネーム募集しますって言って、公募したら、結果的にそれで選ばれたのが、ミドルネーム「マコーレー・カルキン」。マコーレー・マコーレー・カルキン・カルキンっていう名前になった(笑)。それがニュースになった。
渡辺:本当にしたの?
有坂:本当に、ニュースになった。マコーレー・カルキンは我が道を行ってるっていう。ほら、コメントで「知ってる」って人いる。結構ニュースになってましたよね。
渡辺:面白すぎる(笑)。マジで?
有坂:​​マコーレー・マコーレー・カルキン・カルキン。いい話でしょ?
渡辺:その字面だけは見た気がするな。
有坂:でしょ?
渡辺:リアルな話だったんだ。
有坂:そうなんですよ。
渡辺:おとぎ話じゃなかったんですね。
有坂:そうなんですよ。ああいうタイプの人が長生きすると、そういうことになってしまう(笑)。
渡辺:すごいな、面白いね。
有坂:よかった。その話できて!
渡辺:なるほど、僕の4本目、どうしよう? じゃあ、ちょっとガラリと変えて、これにしたいと思います。2019年上映の日本のアニメです。



渡辺セレクト4.『海獣の子供』
監督/渡辺歩,2018年,日本,111分

有坂:ああ!
渡辺:これは、日本のアニメーションなんですけど、どういう話かというと、女の子が主人公です。中学生の女の子が主人公なんですけど、彼女は学校でも家庭でもあまりうまくいってないときがあって、そのときの夏休みの話になります。両親が離婚しているんですけど、お母さんとちょっとうまくいかなくて、お父さんの働いている水族館に遊びに行くと、そこにいた不思議な兄弟、少年の2人に出会って、そこから不思議体験が始まるという話となっています。夏の海が舞台になっていて、その不思議な少年たちに会うことで、海の神秘に引き込まれていくというような話で、めちゃくちゃ不思議体験なんですけど、それがすごく壮大な話で、海の起源とか人類の誕生の起源みたいな、宇宙はみたいなところまで、壮大な話に巻き込まれていって、それで何か悩んでいることを吹き切れて、新しく成長して戻ってくると、そういう話で。海の映像とかですね、そういうのがめちゃめちゃ綺麗で、夏の海の向こう側みたいなところの、すごく不思議な体験を、映像体験として一緒にできるという話になっています。これ、初めて観たときの率直な体験は、「よく分かんないけど、なんかすごいもの観た」っていう、そういう感じでした。
有坂:そう、すごかったね。
渡辺:できれば、本当に映画館の巨大スクリーンで、真っ暗で、映像がすごい音響がすごいっていう空間で観るのが、本当に一番いいと思うんですけど、でも、たぶん今、配信とかでもやっていると思うので、ぜひちょっと夏にやっぱり観るのがいいだろうなと思うので、日本のアート系のアニメではあるんですけど、音楽は米津玄師だったりして、けっこう映像も綺麗だし、音楽もいいし、観やすいアニメとして観られると思いますので、観てない人はいるんじゃないかなと思いますので、ぜひ! 宮崎駿監督の新作も、音楽、ちょっと言っちゃいますけど、米津玄師だから。
有坂:言っちゃうの?
渡辺:それはね、もうちょっとニュースになってたんですみません。けっこう、そういういい映画に割と音楽提供していたりするので、映画側から請われているっていうのもあると思うんですけど、そういう繋がりもありということなので、ぜひこの夏に未見の方は、観ていただければと思います。
有坂:これさ、今気づいたんだけど、この原作、五十嵐大介って書いてある。
渡辺:そう、そうなんです。
有坂:『リトル・フォレスト』の人だよね。
渡辺:そうそうそう、漫画家でね。
有坂:そうなんだ。
渡辺:ヴィレヴァンとかで、原作漫画売っていたりするので。けっこうね、当時はすごいヴィレヴァンに行くと、割と詰まれていて、特集されていましたけど。
有坂:天才・​芦田愛菜​が声優もやり。
渡辺:そうなんです。これもなかなかいいアニメなんで、ぜひ!
有坂:(コメントで)「『海獣の子供』も気になりつつ、観てない」という人が。「肉子ちゃんは観たけれど」と。じゃあ、最後、僕の5本目いきたいと思います。2007年のアメリカ映画です。



有坂セレクト5.『ヘアスプレー』
監督/アダム・シャンクマン,2007年,アメリカ,116分

渡辺:あぁー。
有坂:この映画は一応設定としては、夏は夏なんですけど、そんなに夏感を全面に出している映画ではないんですけど、ただ「夏にスカッと楽しめる映画を観たい」って言われたら、全力でおすすめしたい1本になっています。これは2007年の映画なんですけれども、時代設定、物語の中の設定は、60年代のボルチモアになっています。ボルチモアで、その中、当時の人気のテレビ番組「コーニー・コリンズ・ショー」というものに憧れている。ダンス番組なんですけど、憧れるちょっと太めの女の子、高校生のトレーシーが主演のサクセスストーリーというか、ポジティブな青春ストーリーみたいな作品になっています。まあ、ミュージカル作品ですね。これは、トニー賞も8部門、当時受賞したという、ブロードウェイのミュージカルで知っているっていう人も多いと思うんですけど、これ実は、ミュージカルが原作ではなくて、もう一個オリジナル版の映画があるんですよ。1988年の、もうそのタイトルはそのままヘアスプレーなんですけど、これを監督したのが、悪趣味映画の帝王と呼ばれているジョン・ウォーターズ。
渡辺:そうなんだね。
有坂:そう、ジョン・ウォーターズが、地元ボルチモアでピンク・フラミンゴっていう映画とか、フィメール・トラブルとか、もうね、本当に悪名高いカルト映画ばっかりつくっていた中、ついにそこから一歩踏み出して作ったメジャー映画が、この『ヘアスプレー』のオリジナル版になっています。なので、そのジョン・ウォーターズが作った、わりと小規模なミュージカル映画が、もうだんだん口コミで広がっていって、時代がどんどんですね、マイノリティだったり、多様性とかを求めるような時代になって、初めて、だから時代が追いついて、それがブロードウェイでミュージカルになって、映画版としてこの2007年版がつくられた、っていうストーリーがあります。もう今や、だから、そのオリジナル版は、カルトクラシックっていってもいい、当時だから、VHS、ビデオレンタルがあったからこそ、ウォーターズがつくった『ヘアスプレー』が認められていったっていうふうに言われるぐらい、オリジナル版も合わせて観てほしいなと思います。この映画は、もう女子高生のサクセスストーリーみたいな、わかりやすい設定なんですけど、音楽もノリノリで、ダンスもキレキレで、とにかくそのハッピーな気分になれるように大枠ちゃんとつくられてます。さらに、60年代のアメリカンな雰囲気、ダイナーとかファッションとかもそうなんですけど、そういったところにも作り手は、ものすごいこだわっている。さらに、主人公のお母さん役が、なぜか、ジョン・トラボルタっていう、男優ですよね。サタデー・ナイト・フィーバーでおなじみのジョン・トラボルタが、特殊メイクして、お母さん役をやってるんですよ。めちゃくちゃダンスがうまい。その旦那さんが、クリストファー・ウォーケン。クリストファー・ウォーケンも元々ダンサーとして活躍してた人で、映画俳優になった後に、そんなダンサーとしてのウォーケンを改めて観たいということで、マルコヴィッチの穴とかかいじゅうたちのいるところのスパイク・ジョーンズが作ったミュージックビデオに、クリストファー・ウォーケンは、ダンサーとしてキャスティングされている曲があるんですね。それが、ファットボーイ・スリムの「Weapon Of Choice」っていう曲で、ウォーケンが誰もいないホテルの中で、最初は歩いていたと思ったら、で、ダンス始めたと思ったら、急に空を飛んだりっていう、とても言葉では説明しきれない、素晴らしいダンスミュージックビデオがあるので、それも観てください。なので、ウォーケンとトラボルタを、夫婦に設定しているという時点で、これはもう作り手に間違いなく、この『ヘアスプレー』だけではなくて、ダンスそのものに対してのリスペクトがあるんですね。なので、そんな人が作ったダンスシーンが悪いわけない。なので、ぜひこの映画を観るときは、もうアメリカンな雰囲気が存分に楽しめるので、ピザとコーラを片手に、もしくはビール片手に楽しんでほしいなと思う、夏におすすめの一本です。
渡辺:なるほどね、すごいよね、ミュージカルが有名だからね。タイトルは知っている人は多いと思う。
有坂:このパッケージが、オリジナル版のほう。やっぱりこの主人公のディヴァインとかね、これは主人公ではないのか、友達役で。なんかやっぱり今、ディヴァインなんて、マツコ・デラックスそっくりで、それをでも1988年に、作品にしてずっとつくり続けて、それを今の目線で切り取ると、やっぱり人種問題とか、あとその見た目を評価する、ルッキズムみたいなテーマで語ることもできる。それを、でも誰も知らない小規模な映画として、ジョン・ウォーターズはつくっていて、ミュージカルになり、映画版にもなるっていう、この流れの中で観るのも、すごくいろんな学びがあって面白いかなと思うので、夏に観てほしいな。
渡辺:なるほどね。そうきましたか。じゃあ、僕の5本目、最後。僕の5本目は、2015年の日本映画です。



渡辺セレクト5.『私たちのハァハァ』
監督/松居大悟,2015年,日本,91分

有坂:そっか、完全に忘れてた!
渡辺:これはざっくり言うと、さっきの日本版の『スタンド・バイ・ミー』みたいな話です。主人公は、女子高生4人組なんですね。最後の夏休みの話なんですけど、もうこの「卒業しちゃったら、みんなバラバラになる」っていう前提の、女の子たちが、みんなクリープハイプ好きなんですね。
有坂:バンドのね。
渡辺:で、クリープハイプのライブが東京であるっていうので、それを見に行こうって言って、九州から自転車で旅立つっていう話です。本当にリアルな女子高生の話なので、さすがにやっぱり自転車で行けるわけもなく、途中でヒッチハイクしたりとか、お金なくなっちゃってバイトしたりとか、っていうことをしながら、珍道中で東京のクリープハイプのライブを目指していくんですけど、その道中の話なので、そこでやっぱりいろいろ人間関係の話とかが出てくるんですね。なんかこう、ちょっと派閥みたいな感じで、2:2で割れちゃったりとか、1人の子がちょっとなんか変な感じになっちゃったりとかっていう、仲良し同士の4人だったんだけど、こう旅していろんなことが起こることで、いろいろなんかちょっと人間関係のいざこざとか、アレコレとかっていうのが出てくるみたいなところが、すごく面白い、そういうなんかちょっとリアルな青春ストーリーという話になっています。でね、松居大悟の中でも、けっこう個人的にも好きな作品で、この中で4人いるんですけど、1人が三浦透子さん。彼女は、この当時1人だけ役者。演技経験があって、残りは演技経験のない素人の人たちが、抜擢されています。三浦透子さんは、だからあれだよね、ドライブ・マイ・カーでアカデミー賞にノミネート、アカデミー賞の外国語賞を取ったのか、脚本賞か、それの主演女優という、実力派の彼女が、当時女子高生役として入っていて、でも、残りの3人は素人だったらしいんですけど、やっぱり難しい役どころを、彼女が演じてるので、そこはさすがだなって、今観てもそういうちょっとすごさがわかる作品だったりします。でも、やっぱり当時みんな若い女優を、本当に本人っぽいキャスティングとしてやっているので、とても自然な感じで、作品自体は見事にマッチングしていて、本当に女子高生があくせくしながら旅をしているっていうのが、ちゃんと表現されているので、これは本当に青春映画として、切り取り方もすごい面白いなと思うんですけど、気になる方はぜひ観てもらいたいなと思う作品です。
有坂:これは、個人的にはその年のベスト10に入れた作品で、松居大悟ってみなさん、知ってます? 監督。松居大悟で他に好きだなっていう映画って何かある?
渡辺:松居大悟、あとなんだろうな? あれか、アイスと雨音
有坂:それ!!
渡辺:実験的なね。
有坂:そうだね、『アイスと雨音』は、僕、その年のベスト1。最近で言うと優しいスピッツっていう、スピッツのドキュメンタリーを監督している人でもあるので、もともとゴジゲンていう劇団を主宰して、脚本も書いて演出もしてっていう人が映画監督になって、今やね、若手中堅のトップランナーの一人。彼の本当に大きく評価された作品が、『私たちのハァハァ』だなと思うので、確かにこの時季に観てほしいね。
渡辺:そう、本当に最後の夏休みの話なので。
有坂:なんか、夏の時間とか、空気が感じられていいなって、あの映画は。


──


渡辺:被らなかったね。
有坂:被らなかったね。他にも挙げたいのあったけどな。ちなみに何があった?
渡辺:サマー・オブ・ソウルとか、いきなり『真夏の夜のジャズ』をやられたから外した。
有坂:みんなのヴァカンス』っていうフランス映画とか、サマードレス、フランソワ・オゾン監督の。
渡辺:あとはなんだろう、サマータイムマシン・ブルースとか。
有坂:そうだよね。
渡辺:台風クラブ
有坂:『台風クラブ』もね。そうだよね。
渡辺:最近のだと、サバカン SABAKANとか、海街diaryとか、mid90s ミッドナインティーズとか。
有坂:そうだね。是枝さんでいったら、奇跡も。
渡辺:ああ! あとは歩いても 歩いても』。
有坂:挙げ始めたらキリがない。これ、反則ですよね。5本ずつ選べって言ったのに、これも実は挙げたかったって(笑)。
渡辺:でも、かぶるかもしれないからね。一応用意はしてるっていう。
有坂:言っちゃいましたが、おまけも含めて、気になったものをぜひ観てみてください。


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有坂:最後に何かお知らせがあれば。
渡辺:僕、フィルマークスっていうところで、映画館のリバイバル上映企画もやっているんですけど、それでまさに今回、挙げようか迷ったんだけど、サマーウォーズを、7月28日から全国上映、2週間限定でやりますので、これも夏に観たい作品で、去年キノ・イグルーで夏に静岡で上映をやったんですけど、やっぱりそのときに観て、やっぱりこれは夏だなと思って。
有坂:そうだね。
渡辺:これは本当に、夏に観ると面白い映画だなと思ったので、今回映画館でやりますので、ぜひ観ていただけるとありがたいなと思います。
有坂:全国何館くらいやってるんですか?
渡辺:100館。
有坂:おお!
渡辺:まあまあいろんなところで観られると思います。
有坂:確かにね、映画館を出て、なんかセミが鳴いていたりとかさ、静岡でやったときは土砂降りだったんですよ。それも含めて最高の体験でしたっていう意見もあったので、ぜひ劇場で『サマーウォーズ』を。いつぐらいまでやってるの?
渡辺:2週間だから、8月の10日かな。
有坂:ぜひ観てみてください。
有坂:では、僕からはですね、キノ・イグルーの、あっ出た! これが順也がフィルマークスで企画したやつです。
渡辺:時をかける少女はね、公開を終えました。
有坂:その1週間おいて、『サマーウォーズ』なんだね。
では、僕からはですね、キノ・イグルーの野外上映会、ついに、4年ぶりに復活することになった恵比寿ガーデンプレイスの「PICNIC CINEMA」です。これは8月の4、5、6日。金・土・日。さらに翌週の11日(金)・12日(土)・13日(日)の6日間開催する野外上映会になります。恵比寿ガーデンプレイスの中央広場に、人工芝を敷き詰めて、都会のど真ん中でピクニックをしながら映画を楽しんでいただくという野外上映会で、コロナになる前はね、毎年毎年、ものすごい多いときは1,000人ぐらい、芝生広場だけじゃなくて、その上の吹き抜けのところからも観ているみたいな、本当にもうあそこでしかつくり出せないぐらいの幸せな雰囲気の中で、日替わりで映画が楽しめるイベントになっています。今年はですね、6日間開催するんですけれども、上映する映画6作品、ちょっと簡単にざっと紹介すると、ちょっと待ってくださいね、初日から、まずリトルフォレストの韓国版、続けてディリリとパリの時間旅行というフランスのアニメーション。日曜日が、『​​さかなのこ。翌週、フィンランド映画で世界で一番しあわせな食堂、次がパディントン2吹き替え版で、最終日が海の上のピアニストという、6作品となっています。今回は、映画で世界旅行ということをテーマに、6カ国6作品選びました。土曜日は、基本的にはファミリー向けということで、日本語吹き替え版の上映ではあるんですけど、『ディリリとパリの時間旅行』も『パディントン2』も、大人が観ても最高に楽しい映画、学びもめちゃくちゃある映画なので、ぜひ皆さんこの中の1日でも、ご都合が合えば来ていただけるとうれしいです。雨天中止ではあるので、ぜひ、てるてる坊主をつくって、本当にもう夏に体験できてよかったという特別な時間をつくりますので、ぜひ予約もなし、無料で観られるイベントなので、遊びに来ていただけたらうれしいです。
渡辺:キッチンカー、出るんだよね。
有坂:出る?
渡辺:いつもはキッチンカーが出て、生ビールが飲めてね、フードもあってみたいな。
有坂:そう、ガーデンプレイスも新しくリニューアルして、いろんなテナント、面白いお店も入ったので、持ち込み自由なので、自分が食べたいものを持ち込んで、早めに場所取りして、酒飲んで、美味しいもの食べて、日が暮れていく時間も楽しめるというような、スペシャルイベントとなっていますので、ぜひよろしくお願いします!


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有坂:ということで、このキノ・イグルーイグルの「ニューシネマ・ワンダーランド」、次回はそんな野外イベントも終わっているかもしれない時期に、みなさんとまたお会いすることになるかと思います。ぜひ会場に来ていただいたときは、僕たちいますので、お気軽に声をかけていただいて、乾杯とか、一緒にできたらうれしいなと思いますので、よろしくお願いします。はい、今月のニューシネマ・ワンダーランド、これをもって終わりたいと思います。みなさん、遅い時間まで、どうもありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました。おやすみなさい!!
有坂:また来月!!


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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe