あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、先月のアートな映画に引き続き、「もっとスポーツが好きになってしまう映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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有坂セレクト1.『アザー・ファイナル』
監督/ヨハン・クレイマー,2002年,日本、オランダ,77分
渡辺:うーん!
有坂:これはスポーツの競技でいうとサッカーですね。サッカーにまつわるドキュメンタリーなんですけど、僕自身ずっとサッカーをやっていたということもあって、逆にプレイヤーとしてやっていると、その競技を扱った映画を、けっこう厳しい目線で観てしまうところがあって、要はスーパースターという設定なのに、「そのドリブル、ちょっと固くない?」とか、そういうところが気になってしまうんですけど、今、ご紹介する『アザー・ファイナル』というのは、そういったものとはまたちょっと違った視点で、サッカーが楽しめるドキュメンタリーとなっています。これは、日韓ワールドカップが盛り上がっていた2002年の6月30日、実は、日本で行われたブラジルとドイツの決勝戦の裏側で、もう一つの決勝戦が行われていたという設定になっています。これがですね、FIFAランキングの202位のブータンと、203位のモントセラトによる世界最下位決定戦。これがもう一つの決勝戦として行われていて、それを記録したドキュメンタリーとなっています。これ、どこかのですね、広告代理店が主導して始まったと言われている企画なんですけど、でも、FIFA公認の正式な、オフィシャルな試合なんですね。その試合、世界最下位決定戦という史上初の決勝戦の準備から、試合当日までを追ったドキュメンタリーなんですけど……。これですね。サッカーの試合は、本当に日本の高校生のほうがうまいんじゃないかなっていうぐらいのレベルなんですけど、やっぱりスポーツの良さって、このドキュメンタリーの中でもブータンの人が言っているんですけど、スポーツには二つの良い面がある、と。一つは勝ち負けを競う。もう一つは競技をすることによってお互いを知り、友情を芽生えさせることができる。スポーツには、そういう両面、良いところがあるよねっていう、その後者の方にフォーカスしたドキュメンタリーとして、本当にこれはジーンと心があたたかくなる素晴らしい作品かなと思います。
渡辺:うんうん。
有坂:これは、カリブ海にある小さな島らしくて、モントセラトという国が。そこから、舞台となったのは、ブータンのしかも山の高いところにあるグラウンドに行くんですけど、モントセラトの人たちは、なんと5日間かけてそこまで行くんですね。行ってみたら、ブータンではすごい、もうなんか歓迎のゲートが用意されて、国民総出でお祝いするみたいな、祝福ムードに包まれて、もう何か決勝戦が始まる前から、本当にもうその幸せな空間が切り取られている。スポーツって本当にこういう面もあることを忘れてはいけないし、時代がどんどんビジネス化していく中で、どんどんこのドキュメンタリーというのは、逆に貴重になってきているような気がしています。ちょうど今公開中の映画で、『ネクスト・ゴール・ウィンズ 』という『ジョジョ・ラビット』を撮ったタイカ・ワイティティの最新作。これがまさに、世界最弱のサッカー代表チームの実話を映画化したコメディなんですけど、その『ネクスト・ゴール・ウィンズ 』を観る前に、この『アザー・ファイナル』を観てもらうと、また理解も深まるのかなという気もして、今回ちょっと紹介しようかなと思います。ただ、配信では観られないということで、DVDを買うか、TSUTAYA DISCASとかじゃないと観られないかもしれないんですけど、サッカーが苦手な人でも、ハートフルな人間の交流を観たいなという人にぜひお勧めなので、機会があったら観てください。サッカー大好きになると思います。
渡辺:なるほど! 今、新作もやっているから、それを合わせて観るのは面白いかもしれないですね。じゃあ、僕の一本目は、割と王道な作品にいきたいと思います。
渡辺セレクト1.『がんばれ!ベアーズ』
監督/マイケル・リッチー,1976年,アメリカ,103分
有坂:そっちか!
渡辺:これはスポーツでいうと野球です。どんな話かというと、主人公の男がコーチなんですけど、野球のコーチとして担当することになったチームが超弱小の少年野球チームというところで、もうポンコツ集団なんですけど、問題児だらけの少年野球チームを率いて、大会に出て、なんと勝ち進んでいくというですね、そういう話になっています。これはけっこうこのフォーマット。弱小ポンコツチームが、あることをきっかけに一致団結して勝ち進んでいくという、そういうパターンの元祖の作品じゃないかなと思います。このパターンで『メジャーリーグ』とか、そういうのも、その後できたりしていますけど、もうなんかこうわかりやすいカタルシスがあって、もうわかっているんだけど、熱くなって応援したくなってしまう、というタイプの作品かなと思います。なので、やっぱりちょっとまず挙げるとしたら、この王道のスポコンものの作品かなと思って挙げました。あと、これ、リチャード・リンクレイターでリメイク版もあったりして、そっちも面白いです。あと、この『がんばれ!ベアーズ』のシリーズが、また2作品ぐらいあるんですけど、そのうちの一つがなぜか日本に遠征するっていう話があったりして、なんか当時の東京が出てきたりとか、その辺もちょっと変わったところで楽しめる作品となっています。
有坂:これ、リンクレイターがリメイクつくったって言ったけど、同じリンクレイターの『スクール・オブ・ロック』の物語の構造だって、結局『がんばれ!ベアーズ』と一緒だよね。それをロックと小学校に置き換えているっていう。ある意味、これはいろんなシチュエーションを変えて、いろんなバリエーションでつくれるぐらい、多くの人が心をつかまれる優秀なフォーマットじゃないかなと。本当、その元祖かもね。
渡辺:そういう意味でも面白い作品です。
有坂:キノ・イグルーでも上映したことあるよね、屋外で。じゃあ、僕の2本目は、日本映画にしよう。2007年の作品です。
有坂セレクト2.『奈緒子』
監督/古厩智之,2008年,日本,120分
渡辺:ほう。
有坂:知ってます? みなさん。
渡辺:なんだろね。
有坂:これはスポーツでいうと、駅伝なんですけど、上野樹里、三浦春馬が共演した作品で、めちゃくちゃ爽やかな駅伝ムービー。
渡辺:すごいところ、挙げてきたね(笑)。
有坂:これがいいのよ。泣いたよ! やっぱり駅伝っていうスポーツって、映画と相性がいいんだよね。これはどういう話かというと、長崎が舞台で、小さい頃、幼少期に知り合っていた三浦春馬と上野樹里なんだけど、ある不幸な出来事が起こって、12歳の二人が仲違いしてしまう。そんなわだかまりを持ったままの二人が、高校生になって再会して、三浦春馬はその世代を代表する天才ランナーとして、高校陸上協会の寵児みたいな。そこの同じ高校に上野樹里が通って、その二人のわだかまりを知った、複雑な関係を知った先生が、じゃあお前うちのマネージャーやれって言って、夏合宿に引き入れて、わだかまりがあった二人の心がだんだん打ち解けていって、みんなで大会の優勝を目指していくっていう。本当にシンプルな設定の駅伝ムービーとなっています。この映画が、本当によくありがちな設定で、誰もが知る人を使って、どうかなって一瞬思っちゃうんだけど、とにかくよく走るの。よく走っているシーンをちゃんと使うんだよね。本当に相当走っているなっていうぐらい、セリフに頼らないで、観ていて、表情とか疲れてきたときの体の動きとか、そういうところからやっぱり観客が感情移入できるようにつくっているし、心の内側の描き方がすごく映画的だなと思って。あとはもうやっぱり駅伝というのは、タスキをつないでいくスポーツで、やっぱりそのタスキに誰かの思いが乗っかっていくっていう。で、最後のアンカー三浦春馬。その三浦春馬にはライバルがいて、かなり強力なライバル。そのライバルは、当時知らなかったんだけど、綾野剛なんだよ。若き三浦春馬と綾野剛のレースが観られる。二人とも走っているときのフォームが本当に綺麗だから、それだけでもずっと観ていられる。そんなタイプの陸上映画で。
渡辺:これは観てないな。
有坂:ほぼ観ていないと思うんですけど、ちょっと密かにおすすめしたい、監督は古厩智之という人で、この人は自主映画上がりで、そのときから、若い主人公が走るっていうシーンをけっこう撮って、ただから古厩さんが撮るべくして撮る。出会うべくして出会った題材だなというところでも、注目して観てほしい作品です。
渡辺:観られないんだっけ?
有坂:観られる。『奈緒子』っていうタイトルはどうかなと思う。
渡辺:奈緒子が、上野樹里?
有坂:そうそう、もう三浦春馬のほうにかなり比重がいっているからね。ちょっと不思議ですが。フィルマークスの評価は驚くほど低いです。そんなことに負けずに、みなさんぜひ観てください。大丈夫ですか? フィルマークス。
渡辺:あっているかもしれないです(笑)。
有坂:評価見たけど、言わんとしていることはわかる。そうなんだけど、面白いは、面白いんですよ。
渡辺:なるほど。僕は逆に、フィルマークスの評価、めちゃめちゃ高いやつを出したいと思います。2本目は2016年の作品。
渡辺セレクト2.『ダンガル きっと、つよくなる』
監督/ニテッシュ・ティワリ,2016年,インド,140分
有坂:そりゃ、評価高いよ!
渡辺:これは、インド映画ですね。ダンガルっていうのが、この映画の主人公が、とある男の人なんですけど、レスリング選手を目指していて、ただ自分は夢が叶わず、なので自分の子どもをオリンピック選手にさせようというお父さんなんですけど。子どもが生まれるんですけど娘が生まれて、いや次っていって、4人連続女の子っていうですね。息子を断念して、夢途絶えたっていうお父さんの話なんですけど。でも、娘はすくすく育って、ある日、次女が男の子と喧嘩して、男の子をボコボコにして帰ってくるっていうですね。その娘の才能に目をつけて、そこから娘をレスリング選手に仕立てていくっていう、というお話です。なので、日本でいうとアニマル浜口親子とかがあるので、めちゃくちゃ日本人からしたらなじみやすい。お父さん、スパルタのお父さんと、それに従って反発しながらも実力をつけていく娘みたいなですね。そういう構造の話なんですけど、完全にエンタメのインド映画なので、本当に面白いです。歌って踊って涙してみたいな。そういうエンタメ要素もてんこ盛りなので、最初のなかなかうまくいかない時期から、うまくいき出して、またちょっとハードルがあってみたいな。そういう盛り上げ要素、てんこ盛りのインド映画として楽しませてくれる作品です。主演がアーミル・カーンというインドの大スターで、アーミル・カーンが出ている映画は、大抵面白いというのがあるので、この人が出ていたら、まず安心して観られる作品なんですけど。その中でも、このダンガルはけっこう面白い作品です。なので、レスリングっていうところのジャンルの映画ってあんまりないんですけど、その中でも、かなり面白い作品じゃないかなと思います。
有坂:日本人に例えると誰ですか? アーミル・カーンは。
渡辺:役者として? なんだろうね。
有坂:大スターだけどね。インドで。
渡辺:役所広司(笑)。大スターで、いい映画にたくさん出ているっていうね。
有坂:そうだね(笑)。はい、わかりました。じゃあ、3本目にいきたいと思います。スポーツの枠って、今広がってきているじゃないですか。オリンピックに新しい競技が入ってきたり、というところでこちらの映画を紹介したいと思います。
有坂セレクト3.『スケート・キッチン』
監督/クリスタル・モーゼル,2018年,アメリカ,106分
渡辺:ほう。
有坂:スケートボードを描いた作品なんですけど、これは17歳の少女カミーユという子が主人公なんですけど、彼女は大好きなスケボーをやっていたんだけど、大怪我してしまって、お母さんからもういい加減やめなさいって言われて親子の関係もうまくいかなくなり、悶々としてたときに、『スケート・キッチン』って呼ばれる女の子だけのスケートクルーにあるときに出会うんですね。そのキラキラした『スケート・キッチン』のクルーの彼女もメンバーになると。で、なったことで、またお母さんとの関係がこじれると。関係はこじれても自分の生きる場所を見つけたカミーユは、その中で、いきいきスケートボードで自己表現をしながら、その中で出会った男子スケートボーダーと恋もして……っていう物語になっています。僕は、スケボーはやらないんですけど、スケボー映画って大好きで、ドキュメンタリーも含め、DVDでしか発売されてないゴリゴリのスケボービデオとかも全部買っているぐらい好きなんですけど、本当にフィクションの映画の中で、これだけ女性の世界を描いたスケボー映画としては本当に珍しいし、やっぱりファッションとかのこだわりとか、もうきちんと丁寧に描いているあたりも素晴らしいなと思いました。これ、もともとの企画の成り立ちっていうのが、これは「Miu Miu」のプロジェクト。「Miu Miu」が映画のプロジェクトをやっていて、女性たちの物語っていうテーマで、いろんな人に短編をつくってもらうっていう企画で、最初、ショートフィルムとしてつくった映画。それが話題になって、監督自らが長編映画化したものなんですね。なので、「Miu Miu」の方でつくった短編は、よりファッショナブルなほうによってはいるんですけど、そのエッセンスもきちんと残しつつ、長編映画ならではの心の葛藤とか、自分を確立して自分の居場所を見つけていくみたいなところのドラマがすごい切実だったり、あとはいわゆるスケボーの世界も男性社会で、女はこうあるべきみたいなところを、固定概念に挑んでいくみたいな、そういうパワーにあふれた映画でもあるので、ぜひ元気でクールな都会の女の子たちの映画が大好きって人は、マストかなと思うので、ぜひ音楽もかっこいいので、観てほしいなと思う一作です。
渡辺:スケートボードものって結構あるもんね。
有坂:あるね、増えたよね。時代だね。
渡辺:そうね。「Miu Miu」の話とかにちょっとなんとなく寄せたというか、僕の3本目はこの作品にします。
渡辺セレクト3.『アンクル・ドリュー』
監督/チャールズ・ストーン三世,2018年,アメリカ,103分
有坂:ふむふむ。
渡辺:この『アンクル・ドリュー』はスポーツでいうと、バスケットボールです。もともとペプシのCMから始まった作品なんですね。どういうCMかというと、ドッキリCMで、NBAのバスケの大スターが特殊メイクでおじいちゃんの格好をして、ストリートバスケをしに行くんですね。ストリートバスケの若者に「勝負しよう」って言うと、若者とかは舐めきって、みんな大笑いして、このジジイが俺と勝負だとみたいな。で、やると、めちゃくちゃ負けるっていうですね、中身はNBAのスーパースターなんで当然なんですけど、っていうドッキリが昔あって、それが劇場版になったっていうのがこの作品です。劇場版ではドッキリじゃなくて、NBAのスーパースターたちが特殊メイクしておじいちゃんになるんですけど、おじいちゃんたちとして活動していくっていう話で、昔バスケやっていた仲間たちが、また集まって大会出ようぜみたいな、そういうノリのお話になります。やっぱりおじいちゃんたちなんで、すごいバカにされて舐められてやるんですけど、かつてのスターたちなので、おじいちゃんながらダンク決めまくって大活躍するっていう。もう中にいるのが、シャキール・オニールとか、そういう当時の大スターたちなんで、それはもうすごいんですけど、それのバカにしてくる相手を、凌駕して圧倒するっていう、そういうちょっとスカッと感みたいなものが楽しめる作品ですね。バスケモノの映画っていうのも結構あるんですけど、その中では、王道コメディとして面白い作品なので、すごい観やすいタイプのやつなので、これもぜひおすすめの作品になります。
有坂:観てない。今調べたら、監督、『ドラムライン』つくっているんだ。
渡辺:そうそう。
有坂:なんかこうちょっとスポーツとかね、そういう競技のものにひかれる傾向がある人なのかな。
渡辺:ね。
有坂:面白そう。
渡辺:これはね、面白いですね。
有坂:ビールとか飲みながらね。
渡辺:そうね(笑)。
有坂:みんなで観たら楽しそう!
渡辺:すごいおじいちゃんなのに、めちゃくちゃダンク決めるんで。
有坂:あのCM笑ったよね。
渡辺:そうそう、そのCMもYouTubeとかで観られるので、ぜひチェックしてみてください。
有坂:はい、じゃあ、僕の4本目は日本映画にしよう。2014年の作品です。
有坂セレクト4.『百円の恋』
監督/武正晴,2014年,日本,113分
渡辺:なるほど!
有坂:これはボクシングですね。安藤サクラが主演した、これはボクシング映画なんですけど、もともと安藤サクラ演じる一子という主人公は、実家で引きこもり生活を送っている。32歳だったんだけど、実家にいたものの、妹と喧嘩してやけになって一人暮らしを始め、そこからある中年ボクサーに出会って恋をして、自分もボクシングを始める。なかなか出会った人との恋もうまくいかず、ただ自分の中で引きこもっていた頃とは違って、どんどん自分らしさみたいなものに目覚め始めて、ボクシングにのめり込んでいって、人生のリターンマッチのゴングが鳴り響くというような話になっています。これはもう名優と言っていい安藤サクラ。数々の名演技を観せてくれていますけど、僕の中では、彼女のベストアクトだと思っています。これは、いわゆるロバート・デ・ニーロが『レイジング・ブル』でやったことを、安藤サクラがやってしまった。引きこもっていた頃の安藤サクラは、とにかくだらしなさを自分の体型で表現しなきゃいけないということで、撮影に入るだいぶ前からもう暴飲、暴食を続けて、太らせた。だけど、物語が進んでいくとともに、どんどん体が絞られていって、ボクサーに近づいていくわけですよね。そこに嘘があったら、物語に説得力が生まれないということで、ものすごいストイックに追い込んで、撮影中も絞っていって、リングに上がったときには、誰がどう見たって本物のボクサーにしか見えない。しかも、パンチとかもすごい鋭くて、速くて、本物のボクサーじゃないかなって、としか思えないぐらいのすごい迫力ある演技を見せてくれる作品ですし、展開もスピーディーで、後半特にスピーディーで、胸熱な展開で、日本映画でこんなに熱くなれるボクシング映画が生まれたかっていう感動が、個人的には大きかったです。日本のアカデミー賞では最優秀主演女優賞、脚本賞も受賞したということで、作品としても話題になった映画です。これ、主題歌、クリープハイプ。「百八円の恋」っていう。当時、消費税8%で、この「百八円の恋」のミュージックビデオは、映画監督の松居大悟がつくって、しかも8ミリフィルムでつくっているので、ぜひ2本立てで、本編と合わせて観てほしいなと思います。あと一個だけ。実は、これ中国版のリメイクがあるんです。中国でリメイクされて、まさに今大ヒットしてる。
渡辺:今?
有坂:そう。今現在。最近ニュースになっていて、今まで日本映画の中国版リメイクって結構あるんだけど、その中で興行収入として1位だったのは『ザ・マジックアワー』。三谷幸喜監督。ついに、それを抜いたらしいです。いまだにヒットしているということで、中国版は今のところ日本では観られないらしいんですけど、ポスターを見る限り安藤サクラの方がいいと思いました。でも、そんな世界的にも、中国でも話題になっている、そんな『百円の恋』をお届けしました。
渡辺:これ名作だもんね。けっこう撮影期間、短かったらしいんだよね。
有坂:そうなんだ。
渡辺:だから、太って痩せてがすごい短期間で、実際はそんなにじゃないんだけど、そう見せてる感がすごいらしい。
有坂:デ・ニーロ超えしたんじゃない(笑)?
渡辺:ボクシングものも多いじゃん。そのなかでも、日本映画でもボクシング映画って結構多いんですけど。
有坂:そう、武(正晴)監督の『アンダードッグ』とかも。
渡辺:そうだね。森山未來だよね。けっこうありますけど、女性っていうのは珍しいかもしれないですね。なるほど、じゃあ、僕の4本目は、ちょっと切り口を変えようかな。4本目は最近のにします。
渡辺セレクト4.『AIR/エア』
監督/ベン・アフレック,2023年,アメリカ,112分
有坂:あーあー、そうきた。
渡辺:これもジャンルは、バスケットなんですけど、ナイキの「エア・ジョーダン」の製作秘話に迫った作品です。結構スポーツものの映画っていうと、スポーツ選手が主役みたいなのが多いんですけど、またちょっと別の切り口で、スポーツビジネスのジャンルがあるんですけど、その中で最近面白かったのがこの『AIR/エア』です。公開も去年なので、まだ本当にやったばっかりの新作という感じなんですけど、ナイキの「エア・ジョーダン」ってもうベストセラーのバスケシューズで、バスケやってない人までみんな履いていたっていうですね。そのぐらい有名なスニーカーなんですけど、それがもともとマイケル・ジョーダンっていうNBA選手とナイキが契約して、生まれたのがそのシューズなんですけど、それの製作秘話になるんですね。当時のナイキっていうのは、スポーツメーカーとしていまいち伸び悩んでいる時期で、特にバスケ部門がライバルのCONVERSEとか、adidasとかそういったところに全然差をつけられてしまっているという状態で、これはどうにかしなきゃいけないというので、社長のベン・アフレックですね。頼まれたマット・デイモンという仲良しコンビの映画なんですけど、この二人が何か一発逆転を狙おうというので、マット・デイモンが調べに調べたところで見つけたのが、マイケル・ジョーダンっていう、当時まだスターになってない新人選手。彼に、こいつはこの後、絶対にスターになるから今のうちに契約してやろうというので、周りの反対を押し切って勝負に出るという話になってます。ただ、ここのすごいのが、契約に臨むのがジョーダンじゃなくて、ジョーダンのお母さん。このジョーダンのお母さんが超敏腕マネージャーみたいな感じで、なかなか素直にうんと言わない人で、こことマット・デイモンとの攻防。このお母さんがやっているのもヴィオラ・デイヴィスっていう、もうアカデミー賞クラスの女優なので、このやりとりがめちゃくちゃ見応えのある演技となってます。エア・ジョーダンの裏に、こんなやりとりと展開があったのかというのも面白いし、肝心のマイケル・ジョーダンがほぼ出てこないという、チラ見せしかしないという、そういうところの演出とかもかなり面白い作品となってます。こういうビジネス路線のものっていうのも、スポーツ映画としては面白いのがあったりするので、それで、ちょっと最近の面白い映画として『AIR/エア』を上げてみました。
有坂:監督が?
渡辺:ベン・アフレックだよね。
有坂:マット・デイモンは、脚本とか絡んでいるのかな?
渡辺:どうだろうね。
有坂:『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の幼馴染の2人が、『AIR/エア』は知らなかったあの時代の、この世界を知れるっていうだけじゃなくて、ドラマに厚みがあったのかな。みんないいっていうよね。
渡辺:そうね。
有坂:いや、意外と良かったよって。
渡辺:そうなんですよね。
有坂:だから、そのマイケル・ジョーダンとか、ナイキとかに興味がなくても、映画としてやっぱり観応えもあるから。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:多くの人に観てほしいね。
渡辺:やっぱり、これからスポーツ選手をすごい変えたんですよね。当時のバスケ選手のユニフォームも、ピチピチの短パンだったところから、スラムダンクみたいなダボっとした、ちょっとロングになった。あのスタイルにしたのが、マイケル・ジョーダンらしいんですよね。スラムダンクなんかだと、もうみんなあのスタイルなんですけど、そのちょっと前まではもうピチピチの短パンだったので、その辺とかを変えていったのがマイケル・ジョーダンらしいので、なんかそういったところも知れたりするんで。
有坂:選手の肖像権みたいなのもここからだっけ?
渡辺:あのね、いや、バスケのライセンス? そうそう、だから靴が売れた分ライセンスが、ロイヤリティが入ってくるみたいな。そういう契約をしたのも、これが初めてっていう。
有坂:そこはかなり、スポーツとビジネスが密接してきた。僕が最初に紹介した『アザー・ファイナル』の対局を行く(笑)。
渡辺:ビッグビジネスの世界。
有坂:二本立てで見ると面白いかもね(笑)。
渡辺:という、『AIR/エア』でした。
有坂:わかりました。じゃあ、僕の最後5本目は、ちょっとこれはね、タイトルからして小難しそうな映画を、5本目に紹介していいかなと思ったんですけど、紹介したいと思います。
有坂セレクト5.『俺たちフィギュアスケーター』
監督/ウィル・スペック,2007年,アメリカ,93分
渡辺:(笑)そっち? なるほど。
有坂:すいません。これはもう正真正銘のおバカ映画です。これは、フィギュアスケーターのそのままなんですけど、これ、男子フィギュアスケートの、あっこれこれ! 二人いいわ! ほっとするね。こういう映画は必要ですよ。これが、スケートのシングル界の当時のツートップと呼ばれた二人。セクシーマッチョなウィルフェレルと、繊細で純情な天才美青年っていうツートップ二人が、しのぎを削ってトップを目指していたんだけど、ある大会で同着1位になってしまった。で、なんかこう自分、俺の方が上だってお互い思っている二人が、表彰台で、1位の表彰台に上るものの、そこで派手に喧嘩を繰り広げてしまった結果、一気にその栄光のスポットライトから転がり落ちて、どん底真っしぐらな人生になってしまう。そこから、なんか人生をもう一回、何とか大転換させようと、どうやったらできるんだ。散々悩んだ結果、よし、じゃあ、もう俺たちがペアを組んでしまおうということで、今までいなかった男同士のペアでフィギュアの世界に戻ってくるってう、そんな二人を主人公にしたコメディ映画になっています。
これはもう完全なコメディなんですけど、とはいえ二人が一生懸命自分の犯してしまった罪を乗り越えていくっていう展開は、ちょっと一瞬ほろりとしそうになるんですけど、それでも本当にくだらない笑いのほうに振り切っているという意味で、これはもうアメリカ人にしかつくれない、上質なコメディ映画としておすすめしたい一作です。
渡辺:上質なの?(笑)
有坂:上質だよ。おバカに振り切った意味での上質ね。これ、一緒に観に行ったよね?
渡辺:これあれだっけ? お酒飲んで。5人ぐらいで飲んでから観にいったやつね。
有坂:めちゃくちゃ楽しかった。映画館、大盛り上がり!
渡辺:そうですね。わざと酔っ払ってコメディを笑いに行くっていうスタンスで観にいったやつ。
有坂:面白かったな。で、くれぐれも、これは想像を超えるくだらなさなので、絶対真面目に観ないでください。本当にお酒飲んで観るぐらいが最高だし、でも、やっぱり笑いを全面に出した映画で、ちゃんと笑える映画っていうのは、本当にすごいことだと思う。シリアスな内容で、シリアスに悲しむよりももっと難しいと思うんだよね、人を笑わせるって。真面目に語れば語るほど、ちょっとどうなんだと思っちゃいますが、ちなみに、制作はベンスティラーなので、そんなベンスティラーの『LIFE!』とかね、『ズーランダー』とか好きな人もぜひここも押さえてほしいなということで、最後に紹介しました。はい、観てください。
渡辺:はい、じゃあ最後、僕の5本目いきたいと思います。僕はですね、2016年のイギリスかな。
渡辺セレクト5.『イーグル・ジャンプ』
監督/デクスター・フレッチャー,2016年,イギリス、アメリカ、ドイツ,106分
有坂:知らない……。
渡辺:これはですね、未公開なんだけど、意外といいって作品ってけっこうあるんですけど、そういうタイプの作品です。確かにサーチライトなんですね。「サーチライト・ピクチャーズ」っていう『リトル・ミス・サンシャイン』とかそういうのを生み出している傑作レーベルがあるんですけど、全部公開していなかったりするので、その作品なんですけど、これ、主演はタロン・エガートンっていう『キングスマン』の彼と、あとヒュー・ジャックマンですね。物語、どういうのかというと、このスキージャンプを目指すタロン・エガートンが主人公なんですけど、『がんばれ!ベアーズ』みたいな感じで、全然能力高くないジャンパーなんですけど、どうしても代表になりたくて、イギリスなんですけど、イギリスってスキージャンプがまったく有名じゃないので、一番オリンピック選手になれるチャンスがある。ライバルが少ないっていうところで、彼はそこを選びます。でも、全然活躍できないんですけど、そんななか、飲んだくれの元選手のコーチ、ヒュー・ジャックマンと出会って、なんとか代表になりたいから教えてくれって言って、最初はもうそんなの無理だみたいなことはあるんですけど、だんだん友情が芽生えてきて、2人で代表を目指すと、そしてついにオリンピックに出るっていう、そういう作品です。このオリンピックが、実話なんですね、実話ベースでそのときの冬季オリンピックっていうのがカルガリーオリンピックなので、方や、ジャマイカでは『クール・ランニング』があったときで。
有坂:おーお!
渡辺:実は『クール・ランニング』も実話なんですけど、ジャマイカじゃないイギリスでも、実はこんな話があったっていうですね、っていうところの面白さもあるし、作品としてもすごくよくできていて面白いです。
これ、なんで未公開だったんだろうっていう、監督がデクスタ・フレッチャーっていう人で、『ボヘミアン・ラプソディ』をつくった人なんですよね。なんで、『ボヘミアン・ラプソディ』はとんでもないヒットをして、もともとあれは、ブライアン・シンガーって人が監督やっていたんですけど、途中で降板して引き継いであれを傑作にした人です。その後、『ロケットマン』っていうエルトン・ジョンの半生を描いた作品で、これの主演がタロン・エガートンなんですけど、その監督がつくった作品なので、けっこうちゃんと実績のある人が実はこんなのをつくっていたっていう、キャストもね、けっこうちゃんとした。
有坂:我らがクリストファー・ウォーケンも出ている。
渡辺:そうなんです。こういう未公開でも、けっこう面白いのがあったりするので、これは観られるんだっけ? 配信で。これは見放題はないのか。でも、レンタルでアマゾンとかDMMとかで観られます。
有坂:聞いたこともなかった。
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渡辺:なんか、『クール・ランニング』来るかなと思っててさ。
有坂:いやいや、もう方々で言っているんで、そこは。いや『ロッキー』来るかと思った(笑)。
渡辺:いやいや、ベタすぎるでしょ。
有坂:ベタなとこ外したね。
渡辺:そうね。そこはやっぱりね。まったくかぶらなかったね。『奈緒子』なんか、想像もしていなかった。
有坂:けっこう真っ先に思い浮かんだ。
渡辺:かぶらずでしたね。
有坂:よかったよかった。スポーツ映画って、どうしてもちょっと日本だと人気も低いし、今回の今公開してる、何だっけ、『ネクスト・ゴール・ウィンズ』もあんまりお客さん入っていなかったんだよね。
渡辺:そうなんだ。
有坂:どうしても、やっぱりスポーツを真正面から描いたものって、結局本物のライブ感にはかなわないっていうことになっちゃうので。なので、ちょっとその切り口をいろいろつくる側も考えて、今は割と本当に幅広いスポーツ映画があるので、ぜひ、さっきのビジネス目線とか、あとその世界最下位決定戦っていうアイディアの面白さとか、いろんな視点でスポーツを考えるのも面白いかなと思います。ぜひ、観てみてください。では、最後にお知らせがあれば。
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渡辺:お知らせは、ちょっと毎度言っているんですけど、フィルマークスで今、リバイバル上映企画をいろいろやっていまして、今度やるのがちょっとまだ先なんですけど、3月22日からなので1カ月後ぐらいなんですけど、宮崎駿が昔作った『名探偵ホームズ』っていうテレビアニメシリーズがあるんですけど、その中で傑作4話を劇場版として公開をします。なぜか、登場人物が全員犬っていうですね、犬の顔をしているんですけど、ホームズとワトソンなんですけど、犬なんですけど、1話完結型の作品で、1話25分とかの普通のテレビアニメシリーズの中の、宮崎駿が監督した傑作4話っていうのをやります。これ、なかなか観ている人あんまりいないと思うので。でも、その時代の作品なので、めちゃくちゃ生き生きとした、もう動きがほぼラピュタです。
有坂:面白いよね、この時代のね。
渡辺:本当に面白いので、ぜひ。けっこう全国100館ぐらいでやるので、観てみてください。
有坂:じゃあ、僕からのお知らせは、3月28日に順也が所属しているフィルマークス企画で、映画のパンフレットのトークイベントをやります。みんな大好き大島依提亜さんと有坂塁が対談するという、とってもありがたいお話をいただいて参加します。でもこれ、順也の企画じゃないんですよ。フィルマークスの別の方が立ててくれた企画で、ありがたいことに、僕は映画パンフレット愛好家という肩書きもつけて活動しているので、その枠で呼んでいただいて、僕も本当に大島さんの映画パンフレットの第1号、『焼け石に水』。そこから買っているから、そこからすごい人出てきたって。
渡辺:大島依提亜さんって、映画パンフレットをつくっているデザイナーの方ですね。
有坂:第一人者。最近だと『カモン カモン』とかね。大島さんのプロフィール、出るかな? この下に、この『パターソン』も『ミッドサマー』も、『ちょっと思い出しただけ』も、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も、『アフターサン』も、カウリスマキも、でもね。古くは『めがね』もそうだよね。『かもめ食堂』もね。そんな大島さんと対談をさせていただきます。3月28日の木曜日。場所は渋谷になりますので、ぜひ映画パンフレット、ちょっと好きになってきたよっていう人には、参加してもらいたいイベントとなっています。よろしくお願いします。はい、ということで、今月の「ニューシネマ・ワンダーランド」はこれをもって終了です。次回は3月の終わりということで、もう春間近。テーマは何か完全に忘れてしまいましたが、また寒さが落ち着いた3月の末に、お会いしましょう! ということで終わりたいと思います。みなさん、どうもありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
Instagram
キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)