
あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今回は「観てほしい2000年代の映画」を切り口に、それぞれがおすすめの映画を5本ずつ紹介します。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月もお互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました!
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
渡辺:今日はねお題が。
有坂:そうそう。急遽、もともと1年分のお題を小池Pから出してもらってるんだけど、ちょっとそこを急遽変更になりまして、「2000年代の映画」のおすすめを今日は5本ずつ紹介しようと思います。2000年代ってね。いわゆる2000年から2009年までの10年間の中で5本。
渡辺:まあ、名作が多いから。
有坂:自分たちでお題を決めておきながら、5本なんて無理だよっていうぐらい楽しく、それぞれ5本選んで何を選んだかはお互いにまだ分からないので、1本ずつ紹介していこうかなと思いますので、ぜひ皆さんも楽しんで見てください。
渡辺:よろしくお願いします。
有坂:じゃあ、僕の2000年代5本ということで、まず1本目は……。ちょっと2本挙げていい?
渡辺:ダメでしょ(笑)。ダメに決まってるでしょ。
有坂:理由があるから。
渡辺:理由があってもダメでしょ(笑)。
有坂:ちょっとお願いいたしますよ。
渡辺:いきなり反則しないでよ(苦笑)。
有坂:お願いします。前代未聞でしょ。
渡辺:俺の候補が減っちゃうじゃん。
有坂:いや、違う違う、大丈夫。理由があるから聞いて。
渡辺:じゃあ、まず聞きましょうね。
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有坂セレクト1-1.『チェンジリング』
監督/クリント・イーストウッド,2008年,アメリカ,142分
有坂セレクト1-2.『グラン・トリノ』
監督/クリント・イーストウッド,2008年,アメリカ,117分
渡辺:はいはい。
有坂:これは共に2008年の映画です。なんで、これを2本挙げたかというと、まず2000年代の映画界を象徴する出来事として、やっぱりアメリカ映画のクリント・イーストウッドがもう無双状態!
渡辺:無双だったね。
有坂:映画の歴史に残るぐらいに、1年に1本ぐらいのペースで監督が傑作を連発する。前例のない神がかった10年が、2000年代のある意味、象徴と言ってもいいんじゃないかなということで、まず挙げました。この10年間、イーストウッド、何をつくっていたかというと、まず『スペース カウボーイ』、『ミスティック・リバー』、『ミリオンダラー・ベイビー』、『父親たちの星条旗』、『硫黄島からの手紙』、それで、『チェンジリング』、『グラン・トリノ』の『インビクタス/負けざる者たち』。これを、イーストウッドの年齢で言うと70歳から80歳のこの10年で、本当にいずれも傑作を量産した時代です。その10年の中でも、この『チェンジリング』と『グラン・トリノ』っていうのは、同じ年に公開された関連作でも何でもなく、この『チェンジリング』は今出していただいてますけど、アンジェリーナ・ジョリーが主演の、これはサスペンスドラマになってます。一方、『グラン・トリノ』は、クリント・イーストウッドが自ら主演も張る、これはもういわゆる人間ドラマとなってます。全然タイプの違う映画を2本、同じ年に発表してどっちも傑作だったっていうっていう話を、順也とその年散々して盛り上がったということも含めて、この2本を紹介したいと思います。まず、『チェンジリング』は、時代設定は1928年のロサンゼルスが舞台です。アンジェリーナ・ジョリー演じる彼女は母親で、息子が誘拐されてしまった。で、息子の生還を祈っているっていう母親なんですけども、ついに息子が見つかった。警察に保護されましたってことで、やっと会えると思って会いに行った息子が、どう見てもこれ自分の息子じゃないぞ。でも、警察は、いや、あなたの息子です。違います。そうですっていうところからドラマが始まっていく。しかも、実話の映画化なんですよ。その子どもが入れ替わってしまうというか、あんまり言うとネタバレになってしまうので、ちょっと深いことは言えないんですけども、大きな力が働いて自分の子どもが入れ替えられてしまうという、絶対にあってはならないような実話を、イーストウッドがアンジェリーナ・ジョリーを主演に映画化しました。この物語もやっぱり衝撃的であると同時に、これはアンジェリーナ・ジョリーとかの演技のレベルも高く、さらに時代設定が1928年なので、クラシカルなアメリカの風景とか、あとファッション。映画の内容はめちゃくちゃヘビーなんですけど、アンジェリーナ・ジョリーのファッションはクラシカルでおしゃれで、トータル、総合的なレベルの高さが本当に突出した一本で、個人的にはイーストウッドがつくってきた何十本の映画の中でも、トップクラスに大好きな一本です。この中で、アンジェリーナ・ジョリーの熱演が光ったんですけども、結果、それがアカデミー賞の主演女優賞に初ノミネートされました。過去に、彼女は『17歳のカルテ』で助演女優賞に輝いた経験はあるんですけれども、主演女優賞にノミネートされたという意味でも、彼女のキャリアの中でも、特別な一本ではないかなと思います。
一方、『グラントリノ』は、イーストウッドが元朝鮮戦争に出た軍人で、今は自動車工も引退して愛犬と2人で孤独に暮らしているという、おじいちゃんを演じています。彼の住むエリアにいろんな移民が入ってきて、なかなかその移民と馬が合わずに、敷地に入ってきた人がいたら銃かまして、「お前ら出てけ!」みたいな、いわゆる強面のめんどくさいおじいさんをイーストウッドが演じています。その中で、強面のイーストウッドがハマりすぎているんだよね。自分の世界に閉じこもっちゃって、何もかも否定するみたいな。観ている観客からすると、主人公のイーストウッドへの共感ポイントが、まったく見つからない。もうね。すがすがしいまでに意固地なおじいちゃん、この映画どうなっちゃうんだろうと思ったら、後半、ある少年一家が引っ越してきて、近くに。で、小さな事件が起こってそこから物語が動いていくんですけど、そんな意固地だったイーストウッドの心が少しずつ動いていく。で、あのね、映画史に残るラストが嗚咽級のラストが待っているわけです。
渡辺:アジア系の少年なんですよね。
有坂:そう、アジア系の少年。差別主義者だったこのイーストウッドが、そんな少年に対してね、だんだん自分の考えを変えていってというか、自然に変わっていく中で、だんだん自分も残された命の中で、どう生きたいかみたいなところが、最後の大きな決断につながってくる。思い出し泣きもできるくらい、ラストは素晴らしい映画です。なので、本当にヒューマンドラマで泣けるものもつくれれば、これまで散々つくられてきた実話がベースのサスペンス。これも、どっちも総合的にレベルの高いものを1年に2本出せるというところで、ちょっとイーストウッドやばいかもっていう、ある意味、2008年は象徴的な1年だったかなと思います。ということで、無双状態のイーストウッドから、2本ご紹介しました
渡辺:いや、普通に2本やったね(笑)。びっくりした! まとめて1本としてやるのかなと思ったら……
有坂:無理だね。
渡辺:普通に2本やったなと思って。これ何? 1枠でやるの?
有坂:これは一枠ですよ。2000年代、語るのにさ。
渡辺:普通に2本やったなと思って(笑)。一発目から、いきなりルールを壊してきましたけど。
有坂:真似してみる?
渡辺:いやいや、僕は真面目なんで。1本目いきたいと思います。2000年代、本当にいっぱいありすぎるんで、これちょっと軸をつくって。「最近リバイバル上映で観た映画」という軸で、やっていこうと思っています。ということで、
有坂:お願い、お願い! あれだけは避けてください……。
渡辺:どうしよう。順番的に、とりあえず1本目。まずは2004年の作品です。
渡辺セレクト1.『エターナル・サンシャイン』
監督/ミシェル・ゴンドリー,2004年,アメリカ,107分
有坂:あーあ!
渡辺:フィルマークスでも、リバイバル上映を自分でやったっていうのもあり、もともとめちゃくちゃ思い入れがあるからやったんですけど。それが、まず『エターナル・サンシャイン』なんですけど。これもね、本当にめちゃくちゃ2000年代を代表する作品だなと思いますけど、監督がミシェル・ゴンドリー。この時代ってやっぱりスパイク・ジョーンズとか、ミシェル・ゴンドリーみたいに、ミュージックビデオの世界から、広告の世界とかから、映画界に来たという、監督が出てきた時代。本当に新しい感覚で、音楽をすごくうまく使うであったりとか、なんかスタイリッシュな映像であったりとか、なんかちょっと今までの監督とは違う種類の人たちが出てきた時代だというのがあって。そのミシェル・ゴンドリーの代表作っていうのがこの『エターナル・サンシャイン』だと思います。『エターナル・サンシャイン』はアカデミー賞でも、実は脚本賞を獲っていたりして、脚本がすごい秀逸というふうに言われています。これは、主演がジム・キャリーとケイト・ウィンスレットのラブストーリーなんですけど、実は、時間軸をすごいいじっている作品なんですよね。二人が出会うところから始まるんですけど、その出会うシーンっていうのは、実は、時系列でいうと後の方の話で、なんかこう出会って別れて、また出会ってみたいな話ではあるんですけど、その時間軸を実はすごいいじっている。ストーリーとしては、恋愛して別れた2人が、それぞれ相手の思い出の記憶を消すっていう話なんですよね。記憶を消すっていう会社があって、そこに依頼して、その記憶を実は消していたみたいな2人の話だったりします。その時間軸をすごいいじっているんですけど、ケイト・ウィンスレットを演じる彼女の髪の毛の色がすごい変わるんですよね。オレンジ色だったり青だったりとか、色がシーンによって違うんですけど、それが実は時間軸によってオレンジ色の髪の時代とか、青い髪の色の時代とかがあるので。そこを注意深く観ていると、映画の時系列と、物語の中の時系列が違っているっていうことに気づいたりするんですけど。なので、そういうちょっとなんか時間軸をうまくいじってるっていう脚本がすごく評価されて、アカデミー賞も取っているというものになります。ジム・キャリーが、ジム・キャリーといえば変顔でお馴染みのコメディ俳優なんですけど、得意の変顔を一切やらず、封印して、真面目に挑んだ作品としても有名なところなんですけど。あとあの記憶を消す会社の人として、マーク・ラファロとか、あと、キルスティン・ダンストとか、イライジャ・ウッドとか。イライジャ・ウッドも、『ロード・オブ・ザ・リング』の影響を引きずってるような人たちとかが、またちょっと違う演技でここに出ているみたいなところもあったりするので、キャストも結構いい人たちが出ていたりします。このミシェル・ゴンドリーらしい演出として、すごいトリッキーな映像を撮るので、今だったらCGでやるようなことを、めちゃくちゃアナログでやっていたりするので。隣の部屋に行ったら違うシーンになっていたりとか、冬の海辺、海岸にベッドがあって起きたら2人がそこで目覚めるみたいなものとか、幻想的なシーンをめちゃくちゃアナログで撮っているから、その撮影すげえ大変だっただろうなみたいなことも想像してみると、すごい面白かったりします。ミシェル・ゴンドリーってそういうトリック的な撮影方法を、ミュージックビデオのときからすごいやってるので、その辺も掘り下げてみるとめちゃくちゃ面白かったりするので、そういう意味でもMTVとかから来た、そういう新しい監督たちが活躍した時代。その代表的なのが、このミシェル・ゴンドリーの『エターナル・サンシャイン』だなというので、まず一発目に挙げました。
有坂:だよね、だよね。
渡辺:なんでね、ちょっとそういう軸で、僕は選んでいこうかなと思います。
有坂:わかりました。じゃあ、申し訳ないんですけど、僕の2本目も『エターナル・サンシャイン』です。
有坂セレクト2.『エターナル・サンシャイン』
監督/ミシェル・ゴンドリー,2004年,アメリカ,107分
渡辺:(笑)
有坂:ちょっと、順也がしゃべっている間に作品変えようかなって悩んでいたんだけど、無理!
渡辺:何? 2本目だった?
有坂:2本目。だから1本目に紹介しておけばよかったと思ったけど。
渡辺:いやいや、いきなり2本紹介してるじゃん(笑)。
有坂:失敗した……。でもね、これは本当に2000年代を代表する一本だし、個人的にも本当にフェイバリットムービーなんですよ。だからね、ちょっと変えるわけにはいかないなと思いました。今、その映画のメインの話は順也がおおかたしてくれましたけど、やっぱりゴンドリーらしい、ちょっとトリッキーな部分って、けっこう映画にしたときって諸刃の剣だなと思って。というのも、『エターナル・サンシャイン』以外の映画だと、どうしてもゴンドリーらしいトリッキーな映像はふんだんに楽しめるんだけど、それが物語の流れにいまいち乗っかりきらない。ここのアイデアは面白いんだけどって、観ている側がストーリーから離れちゃう傾向がどうしてもあって。でも、この『エターナル・サンシャイン』に関しては、その物語の中にちゃんとゴンドリーらしさっていうものをうまく取り入れて、一つの世界になってるんだよね。そういう意味では本当に奇跡的なバランスでつくられた一本かなと思っています。さっき言ってたけど、海辺にパッてシーンが変わって、海辺にベッドがあって、二人がいてっていう、あれも記憶の断片じゃん。失われてく記憶とか、思い出した記憶がパッて思い浮かぶ強烈なワンシーンって辻褄があっていなくても、本人たちの中の記憶で成立してればいいわけで、それをああいうゴンドリーらしいアナログ感ある強めのビジュアルで出せるっていうのは、手法としてすごくうまいし、よくそれを発明したなって思います。話的には、元カノとの思い出を、捨てられた側としては、俺も記憶消してやるって言ったものの、思い出せば思い出すほど彼女のことがだんだん忘れられなくなるって、誰もが共感できる。ある意味、自分が知っている感情じゃない。そこがベースにまずあるから共感しやすいし、物語に入っていきやすい。その自分が知ってる感情を、新しい表現で観せてくれるっていうのが、この『エターナル・サンシャイン』の絶対的な個性だし、これ以降って、そういう手法の映画が増えているなって思うんだよね。だから、もう恋愛というのは普遍的なものだし、これから100年経ったって映画の主要なテーマになっているだろうけど、それをどう観せるかみたいなところに、いろんな新しいクリエイティブを入れていったっていう意味でも、すごく歴史に残る一本だなと個人的には思っています。で、その記憶を消去していくってさ、言われれば理屈でなんとなく頭でわかるけど、なんとなくわかるくらいじゃない。それを視覚的に、本当に見事に可視化してくれたからみんながそこも共有できるし、さらに知っている感情を描いてくれているから、もっと物語に没入できる。そういう意味ではね、いろんな角度から本当に丁寧に丁寧に一つの世界をつくっていったんだなっていうのが、深掘るほどにわかってくる名作だなと思います。あと、個人的にこの映画の大好きなポイントは、音楽。これはザ・ポリフォニック・スプリー っていうバンドの「Mr. Blue Sky」。日本では、某ビールのCMでも使われたあの曲だったりとか、あとベックのね、切ないベックのあの曲がやっぱり映画の世界をつくっている。この音楽へのこだわりはね。ずっといろんなミュージシャンのMVをつくってきたゴンドリーらしさでもあるなと思います。あと、最後に順也がさっきジム・キャリーの話をしていましたけど、やっぱりコメディアンが真面目な役をやったときに、本当に今までにないような魅力を見せるっていうのは、これまでもあるんだよね。うちらの時代でいうと、『いまを生きる』のロビン・ウィリアムズとか、ある意味、そういう意味ではジム・キャリーを笑いを封印した、笑いの中にたまに垣間見える寂しさみたいなものとかを、きっちりその役とつなげてキャスティングしたゴンドリーもすばらしいなと思うので、語れるポイントは山ほどある。『エターナル・サンシャイン』は、観ていない方は、ぜひ観てほしいね。観れば観るほど面白い。
渡辺:そうなんですよね。
有坂:今、観られるのかな? 配信でも観られるね。
渡辺:変えなかった(笑)。
有坂:うん、無理でした。
渡辺:はい、じゃあ、続けて僕の2本目にいきたいと思います。
僕の2本目は、2000年の作品です。
有坂セレクト2.『ヤンヤン 夏の想い出』
監督/エドワード・ヤン,2000年,台湾、日本,173分
有坂:うんうん。
渡辺:これも去年リバイバルで始まって、僕、今年になってから観たんですけど、Bunkamuraで。ほんと改めて素晴らしいなっていう。監督はエドワード・ヤンという人で、台湾映画を代表する監督なんですけど、近年けっこうリバイバルをされていて、これのね4Kバージョンのほうがあるんですけど、そっちで観ました。で、これね、このヤンヤンっていう男の子がポスターになっていますけど、4K版はまた全然違うビジュアルで、そっちのほうがやっぱりなんか洗練されていて、今っぽいというか
有坂:全然違う子が演じているのかと思った。
渡辺:ヤンヤンっていうのが主人公の小学生の子なんですけど、そのヤンヤンの家族、お姉ちゃんがいて、お父さん、お母さんがいて、おばあちゃんがいてみたいな、っていう家族の物語なんですけど。その家族一人一人にストーリーがあるっていうのを、丁寧に描いていくんですよね。なんで、ヤンヤンの物語があって、お姉ちゃんのストーリーがあって、お父さんの話があってとか、そうやって一個一個を織り交ぜながら描いていくことで、家族の物語がすごい重層的に膨らんでいくっていう。それぞれが関わっているので、それぞれの話の中にヤンヤンの中にお姉ちゃんが出てきたりとか、お父さんの話の中にヤンヤンが出てきたりとかっていう、そういう関わり方も出てきて、なんか一つの物語がすごい、なんて言うんですかね、多重に構造されているような、大きな物語になっていくっていう。それがこの『ヤンヤン 夏の想い出』っていう。これなんか、現代版なんかミーミーみたいになってて、
有坂:それヤンヤンの名前じゃないの?
渡辺:この邦題がどうやってついたのかは分かんないんですけど、ヤンヤンだけの物語のような感じがしちゃうんですけど、実は家族全員の物語になっている。けっこう大人の話とかもあったりして。なので、可愛い男の子の話かと思いきや、割と大河ドラマ的に大きな話になっていく物語なんですけど、これが本当にとにかく素晴らしい! エドワード・ヤンの『カップルズ』とか、『恋愛時代』とか、けっこうリバイバルされてきてるんですけど、どれも今観たほうが面白いというか。なんか、本当にエドワード・ヤンの面白さみたいな、大人になったからっていうのもあると思うんですけど、昔なんか観たときは、そんないまいちに刺さってなかったんだけど、最近リバイバルで観直すとめちゃくちゃいいっていう。こんなエドワード・ヤンが良かったんだっていう、あらためて気づかせてくれる。このヤンヤンの4K版のリバイバルは、めちゃくちゃヒットしていて、けっこうロングランしてるので、今もやっている劇場ではあると思うんですけど、できれば劇場で観たほうが落ち着いて観られると思うのでおすすめなんですけど。結構やっていますね。
渡辺:これはね、本当に、今観てもすごくあの良さを感じられる作品だと思うので、なんか最近いろいろやっている4Kリバイバルみたいな中でも、かなりの成功事例じゃないかなと思っているので。本当に映画館でやってるうちに。おすすめです!
有坂:そうだねー。いつまでもやってるわけじゃないんだよね。
渡辺:そうなんです。
渡辺:ヤンヤンでした。
有坂:ヤンヤン、ここで話したかな? 僕、個人的に『ヤンヤン 夏の思い出』には特別な思い出があって、初めて日本で公開されたというか、上映されたのは、東京国際画祭のプログラムの中で上映されて、その後、正式なロードショーが始まったんだけど、そのプレミアチケットをゲットして東京国際映画祭で僕は初めて観たんですね。そこに、エドワード・ヤンが来たんですよ。もうあの時代って、エドワード・ヤンってけっこう生きながらにして伝説みたいな監督で、やっぱり『牯嶺街少年殺人事件』っていう映画で伝説になり、当時レンタルビデオで2本組でみんな借りたいんだけど、常にフルレンタル状態で借りられれば借りられるほどビデオがどんどん擦れてきて、結果的に観られない人まで出てくるみたいな、そのぐらいの人気だったんですよ。そのエドワード・ヤンの新作で、本人も来る。だからもう始まる前からすごい熱気で、本人が登壇して、舞台挨拶して、いよいよ新作始まりますって照明が落ちて始まるんだけど、そのときに。
渡辺:思い出したわ!
有坂:そのときに、僕の満席のオーチャードホールの僕の隣の席だけ空いていて、誰かチケット買ったのに来れない人いたんだなって思ってたら、ステージ降りたエドワード・ヤンが僕の隣に座ったんですよ(笑)。もうファンからしたら「いいな」とかって言われるけど、全然なんにも嬉しくなくて、エドワード・ヤンの隣で僕が、例えばいびきをかいて寝ちゃったら、もう「日本人には刺さらなかった」みたいに思われるんじゃないかとか、そういうプレッシャーがありすぎて、初見の『ヤンヤン 夏の思い出』は、ほぼ覚えてない。
渡辺:寝てたんじゃないの?(笑)
有坂:寝てない、寝れない! あんなにプレッシャー、感じたことないぐらい。公開した後にちゃんと観に行きましたけど。あれはあれでね、今となっては思い出だけど、監督の隣ってこんなプレッシャーなんだなっていう、僕の思い出。
渡辺:絶対嫌だよね(笑)。
有坂:嫌だよね。いやー、怖かった。……はい。では、僕の3本目にいきたいと思います。僕は、2007年のアメリカ映画です。
有坂セレクト3.『デス・プルーフ in グラインドハウス』
監督/クエンティン・タランティーノ,2007年,アメリカ,113分
渡辺:出た!
有坂:『デス・プルーフ』っていうのは、そもそも単体の映画だけではなくて、グラインドハウスっていうプロジェクトの中の一本なんですね。もう2本立てなんですけど、グラインドハウスのもう1本は、『プラネット・テラー』っていうゾンビ映画。これはロバート・ロドリゲスっていう人が撮って、タランティーノの仲良し。グラインドハウスっていうのは、いわゆるアメリカのローカルなところにある昔ながらの映画館。場末の映画館。そういうところで、ボロボロのフィルム。いろんな全国各地を巡ったフィルム、ついに回ってきましたみたいな。場末の映画館に行くと、もうコマ飛びしているし、フィルムの状態もボロボロでみたいな。そういう映画館で観たB級映画とかに、タランティーノはものすごいいろんな影響を受けていて、「改めて自分たちの時代でグラインドハウス映画つくろうぜ」ってロドリゲスと盛り上がって、それぞれが60分ずつぐらいのタランティーノはアクション映画をつくる。ロドリゲスはゾンビ映画をつくる。その2本立ての間に、フェイクの予告編も入れようぜって言って、エドガー・ライトとか著名な監督に存在しない予告編をつくってもらって、トータルで3時間くらいのパッケージとして上映するっていうのが、そもそもの始まりなんですね。そのグラインドハウスとして日本でも上映はされたんですけど、1週間限定とかでしかやらなくて、それ以降は『デス・プルーフ』、『プラネット・テラー』という単体の映画。もともと60分でやっていたものを、90分とか100分に伸ばして、その一本の長編として上映をしていました。僕は、タランティーノがつくった『デス・プルーフ』が本当に大好きで、これって一言で言うと、カーアクションを極めた作品です。映画が前半と後半に分かれていて、前半は女性たちが車に乗って盛り上がっているところに、ドクロのマークがついたやばい車が後ろから忍び寄ってきて、その車から、後ろからガンガンつけられて、その女性たちがひどい目にあって前半が終わります。けっこうそこのシーンとかはグロいシーンとかもあるので、苦手な人は注意した方がいいと思います。そこで終わったら、そこからもう1年後ぐらいに話が飛んで、今度別の女性たちが車に乗っているところが始まって、そこに再びドクロのマークがついた。それを運転してる人はスタントマン・マイクっていう名前なんですけど、カート・ラッセル演じるスタントマン・マイクがまた忍び寄ってきて、その女性たちを餌食にしようとするんですよ。観ている人はさっきの前半の惨劇を知っているから、またか、やばい、怖い、ドキドキって思っていたら、後半は女性たちがめっちゃ強いんですよ。あんなに無敵だと思ってたスタントマン・マイクが、後半ボコボコにされるっていう。もうこんなに爽快なガールズムービーないっていうぐらいの展開に、話がなっていきます。なので、映画の中で描かれる女性っていろんな多種多様な女性が描かれています。けど、このカーアクションのスタントに耐えられるぐらいの、しかも、本人がスタントウーマン入れずに車のボンネットにしがみついて、アクションをこなしてるんですよ。その人は、実は本当のリアルなスタントウーマンの人で、タランティーノの『キル・ビル』の映画に、スタントウーマンとして出ていた人なんですね。彼女の身体能力と演技力に魅せられたタランティーノが、よしじゃあ、彼女を主演に映画をつくろうと言ってできたものなので、彼女のアクションありきなんです。それがもう、やっぱりCG使わないその迫力と臨場感。観ていてドキドキしながらも、物語も何とかこうなってほしいっていうところを、観ている側の想像を超えるような爽快な展開と、こんなに素晴らしい終わり方ってある? っていうぐらいのラストのパキッと気持ちよく終わる、あの瞬間。終わった瞬間、エンドって出た瞬間、拍手が自然に出てしまうような、そんな痛快アクションです。タランティーノは、デジタルに頼らないで、生身の人と車で撮りたいっていう。本当にそれは口で言うのは簡単なんですけど、やっぱりリスクも同時に存在する中で、とことんそれを貫いて作品にしてくれました。なので、僕らはもうね、完成したものを観られていますけど、それを現場で体を張って、命がけでやってた人がいるって思えば、思うほど、リスペクトがすごく強くなるような、そんな一本となっております。
渡辺:好きだね!
有坂:大好き! サントラもめっちゃかっこいいんですよ。
渡辺:本当に好きだよね。
有坂:タランティーノって、DJみたいなところもあるじゃないですか。選曲の妙で、フレンチポップスとか入れたりするんですよ。この世界観に。
渡辺:このグラウンドハウスっていう企画が面白いんだよね。
有坂:そうだね。
渡辺:なんかね、それ用の予告をつくっていたりとか。
有坂:あと、フィルムに実際傷を入れたりとかして、ボロボロのフィルム風に撮影したりするんですよね。好きな人じゃなきゃ、そこまでできないからね。
渡辺:リバイバルとかもたまにあると、ちゃんと二本立てでね。そういうのもある作品ですね。……はい、では続けて3本目、僕いきたいと思います。次はですね、アニメーション。2006年の日本のアニメーションです。
渡辺セレクト3.『パプリカ』
監督/今敏,2006年,日本,90分
有坂:うんうん。
渡辺:これも今年からリバイバル上映が始まって4K版を観たんですけど、改めてね、『パプリカ』、めちゃくちゃ面白い。今敏監督で、本当にアニメーションの天才みたいな感じの人なんですけど、もう若くして亡くなっちゃったんで、4本ぐらいしか撮ってないかな。映画でいうと。その中でも代表作がこの『パプリカ』になります。話の内容としてはすごい不思議で、不可解な事件が起こるんですけど、それがどうも夢を操作されている、夢を乗っ取られた人たちが何か事件を起こしたりしていく、ということが判明していく。それを追う刑事だったりとか、実はそのきっかけとなった、夢を操作する装置を考えた会社の社員たちが、事件というか事故を起こさないように、誰が操作してるんだみたいな。これを何か侵入してる犯人は誰なんだみたいなのを、追い詰めていくっていう話になってます。この夢の中に入ってその人を追うとか、そういう夢の中に入れる装置だったりとか、この設定にすごく感銘を受けたハリウッドを代表する映画監督がいて、その人がこの『パプリカ』に影響を受けてつくった作品っていうのもあります。
有坂:あれね。
渡辺:その監督が誰かというと、クリストファー・ノーランですね。世界的に有名なその人が、この作品に影響を受けて作ったのが『インセプション』という作品です。レオナルド・ディカプリオとかが、夢の中に入っていくみたいな。まさにこの設定そのままだし、ホテルのシーンでグニャグニャに床が波打って、うわーっていう幻想的なシーンがあるんですけど、それを『インセプション』もそのまま使っていたりするので、クリストファー・ノーランがどんだけ影響を受けたんだっていうような作品ですね。ノーランだけじゃなくて、本当に世界的にいろんな作家とかクリエイターに影響を与えているのが、この『パプリカ』という作品なので、これは本当にアニメーションとしてもすごい面白いし、なんかそういう世界中のクリエイターを刺激するような、いろんな独創的なアイデアにあふれた作品になっています。いろんな夢の中の、いろんな冷蔵庫だったりとか、人形だったりとかが、パレードをしだすシーンとかがあるんですけど、そこがもうすごく印象的で、そこと今年タイアップしたのが、パルコだったんですね。パルコのグランバザールっていうお正月のキャンペーンがあるんですけど、そこに採用されたのがこの『パプリカ』で、それのパレードのシーンをグランバザールのCMに使っている。それが、今年の1月の大きなキャンペーンで、それに伴ってパルコのある街だけでリバイバル上映されたっていうのが、この『パプリカ』の企画。それが、リバイバル上映の企画だったんですよね。なので、吉祥寺とかね、パルコのある街では、池袋とか、そういうとこではこの『パプリカ』のリバイバル上映がされていたということになります。本当に今敏って、あと『PERFECT BLUE』とか、『東京ゴッドファーザーズ』とか、『千年女優』と、映画はこの4つしかなくて、あと『妄想代理人』だっけな、アニメシリーズあるんですけど、なので、監督しているのは本当にそれしかないんですよね。結構40歳ぐらいで亡くなったかな。40代でね。たぶん次回作をつくっている途中で亡くなってしまったんで、その途中の作品を引き継いで完成させるというプロジェクトが、実は発足したんですけど、結局無理だったっていう。今敏が何を考えていたのかとか、今敏のクリエイティビティがやっぱり再現できないっていう結論になって、『夢みる機械』だったっけな、っていうタイトルで途中の作品があったんですけど、完成プロジェクトも実は達成できずっていう。それぐらい天才だったっていうね、人なんですけど。その人の代表作なんで、これはもうちょっと、できれば映画館でやるタイミングで、すごい観たらいいなと思うんですけど、配信とかでやってると思うんで、ぜひ機会があればこれも観ていただきたいなと思います。
有坂:なるほどね。なんか、あれだよね。今敏のリバイバル、フィルマークスでやっていたよね。
渡辺:『PERFECT BLUE』とかね。
有坂:やばい、もう45分だ。僕の4本目、これもフェイバリットムービーの1本。2006年のアメリカ映画です。
有坂セレクト4.『リトル・ミス・サンシャイン』
監督/ジョナサン・デイトン,2006年,アメリカ,100分
渡辺:出た!
有坂:これはね、家族ものの映画なんですけど、主人公がその家族の中の一番末っ子の娘。ちょっとぽっちゃり系な女の子、オリーブという女の子がいて、彼女がひょんなことから全米美少女コンテストの地区代表に選ばれるという、なんで選ばれたのかがわからないまま物語が進んで、代表に選ばれたなら、みんなで決勝戦の地・カリフォルニアにみんなで行こうぜってことで、黄色いバンに乗って家族みんなで旅をするというロードムービーとなっています。
この家族がクセものぞろいで(笑)。
渡辺:クセ強ばかりだよね。
有坂:6人家族なんですけど、もう勝ち組になることだけに没頭しているお父さんとか、もうニーチェに習ってひたすら沈黙を貫くお兄ちゃんとか、ゲイで自殺未遂するおじがいたりとか、あとヘロイン吸入しているおじいちゃんがいたりっていう。そういうバラバラだった家族が旅を通じて、少しずつ家族の絆を取り戻していくという物語になってるんですけど、この映画はストーリーもいいし、役者もグレッグ・キニアとか、スティーヴ・カレル、トニ・コレット、ポール・ダノとかね、アラン・アーキンとか、そんな聞いたことない名前ばっかりかもしれないんですけど、結構みんな実力派。
渡辺:そうだね。
有坂:実力派のいいところを揃えている。さらに音楽もスフィアン・スティーヴンスとか、デボーチカとか、フジロックとか大好きって言ってる人も、いいキャスティングだねっていうような人を、ミュージシャンにも揃えている。さらに、黄色いバスも含めた、映画全体の色彩。その辺のコントロールも含めて監督のつくりたい世界観が本当にブレていない。基本的には優しさに満ちているというところで、同じような映画はあっても、ここまでの完成度と、みんなから愛されている映画じゃない、これって。ここまでのものっていうのは、なかなかないかなと思います。あと、そのいわゆる、今日紹介している2000年から2009年までのゼロ年代の映画の中で、やっぱりアメリカのインディペンデント映画を語る上では、この『リトル・ミス・サンシャイン』の成功というのは無視できないというぐらい、本当に小規模な映画が結果的に大ヒットして、オスカーにノミネートされるというところまでいったことで、後のインディペンデント映画にも、いろんな影響を与えるような特別な一本かなと思います。後半の美少女コンテストでダンスするシーン、映画を観て初めて笑い泣きをしたんですけど、そこで流れる音楽がリック・ジェームスという人の曲で、僕らの世代からすると、M.C.ハマーのあの曲。あれ、M.C.ハマーがサンプリングしているんだよね。もとはこのリック・ジェームスって人の曲で、その人の曲が最後の美少女コンテストで流れるんですけど、このダンスシーンは本当に笑い泣き必死の素晴らしいシーンなので、ぜひ!
渡辺:女の子がもう分厚いメガネで。
有坂:お腹ぽっこりで(笑)。
渡辺:かわいいんだよね。あと、サーチライト・ピクチャーズっていうね。
有坂:そう。
渡辺:もう本当に、今、A24とかそういうレーベルがブランド化していますけど、本当にミニシアター系のブランドといえばサーチライトっていうね、それの代表格な作品じゃないですかね。
有坂:お金かけたメジャー作じゃない。低予算なんだけど良質な映画をつくるような流れをつくったのが『リトル・ミス・サンシャイン』であり、サーチライト・ピクチャーズだったかなと思います。
渡辺:では、巻き巻きでいきます。僕の4本目は、今度、邦画をね、いきたいと思います。2005年の日本映画です。
渡辺セレクト4.『リンダ リンダ リンダ』
監督/山下敦弘,2005年,日本,114分
有坂:うんうんうんうんうん。
渡辺:これは、リバイバルを去年やっていて、それで4K版で観たんですけど、山下敦弘監督の代表作でもあります。どういう話か一言で言うと、青春バンドものですね。女子高生たちが主人公なんですけど、文化祭で演奏するっていう。そしたら、なんかすったもんだがあってボーカルが抜けるみたいなことがあって、どうしようみたいな。本番3日後なんだけどっていう、そういうドタバタの3日を描くという作品なんですよね。で、その中で韓国人留学生のそれはペ・ドゥナなんですけど、その子を誘ってみたりとか。この女の子4人が文化祭に向けて走り出すみたいな、そういう話です。それでもうタイトルの通り、ブルーハーツの「リンダ リンダ」をやるために、そのゴールに向けて走り出すっていう。最初はいろいろグダグダやっていたりとかあるんですけど、だんだんまとまって走り出すみたいなところが、感動できる青春作品という感じです。やっぱり改めて観ても面白いし、やっぱりこういう普遍的なテーマだなって思うし、バンドやる良さとか、しかも高校生、バンドし始めの良さみたいなところとかね、女子高生たちの友情と気だるさみたいなところとか、本当にそういうのがよくできた作品だなと思ったので。実は、マツケン(松山ケンイチ)もね、ちょい役で出ていたりして。これ、リバイバルやったときに、マツケンもなんかなんだっけ、登壇かコメントか何かして、そのときにみんな「え? マツケン出てたんだっけ?」となったっていうね。で、この4人がペ・ドゥナも含めて、今の4人で写真が投稿されていたりとかっていうのがあって、なんかそういうのも今のリバイバルする良さみたいなのがあって、良かったなと思います。
有坂:あれだよね、バンド経験者って1人だけだよね、4人中。
渡辺:経験者いたんだっけ?
有坂:ベース? ドラムだったかな。一人いて、あと香椎由宇と前田亜季と、ペ・ドゥナ。懐かしいね。
渡辺:でも、上手くないんですよね。
有坂:上手くなくていいんだもんね、設定としてもね。
渡辺:3日後、どうするっていう。その3日でどうにかなるわけもないっていうね。それもちゃんと良かったなっていう感じでしたね。
有坂:ペ・ドゥナが、日本映画に進出し始めたとき。
渡辺:そうね。この後、是枝監督の作品とかに出るので。韓国を代表するような役者になっていくので。
有坂:はい、じゃあ、僕の最後5本目はそんな『リンダ リンダ リンダ』と真逆の、最後にこんなヘビーな映画やめてよっていう、あれ行きます。わかりますか?
渡辺:わかんない。
有坂:2007年のアメリカ映画です。今回、僕、アメリカだけで行きます。
有坂セレクト5.『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
監督/ポール・トーマス・アンダーソン,2007年,アメリカ,158分
渡辺:なるほど! 最高じゃないですか。
有坂:これは、『マグノリア』とか、最近だと俺らの去年のベスト1、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のポール・トーマス・アンダーソン。
渡辺:アカデミー賞、行くのかっていう。
有坂:行ってもらわないとという、ポール・トーマス・アンダーソンが2007年につくった映画です。これは、20世紀初頭の時代設定で、そのときにカリフォルニアで石油産業、一攫千金を夢見る欲の塊みたいな、ダニエル・デイ=ルイス演じる男が、なんとか自分が油田を掘り当てて、自分が金持ちになるんだっていう夢に突き動かされて、莫大な富と権力を何とかして手に入れようとする男の物語です。その彼は、実際に権力とかを手に入れるんですけど、その土地で住民たちから絶大な信頼を得ているある男と出会うんですね。その男が牧師なんです。もう性格的には大局な二人が出会う。その牧師を演じてるのが、さっきの『リトル・ミス・サンシャイン』で、無口なニーチェに憧れているポール・ダノという、これも2000年代の若手俳優の一人と言ってもいいと思います。ダニエル・デイ=ルイスっていう圧倒的な演技派に対抗する若手、しかも牧師で出てくる。その2人のキャラクターの違いもそうだし、ポール・ダノのナチュラルな演技と、ダニエル・デイ=ルイスの本当にこの人やばいんじゃないかっていう、リアリティとギラギラみなぎるエネルギーがぶつかり合うと、本当に観たことないような演技合戦が観られる。しかも、2人の演技だけじゃなくて、この今フィルマークスの画像にもありますけど、炎が上がっている。映画の前半15分は、ひたすら採掘作業してるダニエル・デイ=ルイスが、15分くらい続くんですよ。セリフなしで。そこも、本当にやっているんじゃないかっていうくらい、映像から溢れてくるエネルギッシュな、パワフルなエネルギーみたいなのが、映像から170分ぐらいずっと伝わってくる中に、超個性派の2人の演技バトルがあるんですよ。映画のラストの方では、2人のバチバチの演技バトルで映画が終わってくるんですけど、そこである名台詞があったり、観終わった後もその名台詞を言い合って、なんかこう『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ごっこがやりたくなるような、そんな面白さもあります。でね、これ、おいおいと思ったエピソードが一個だけあって、僕はさっき、タランティーノの映画挙げましたよね。『デス・プルーフ』、大好きです、タランティーノ。で、ポール・ダノ。『リトル・ミス・サンシャイン』、大好きです。でも、タランティーノがこの年に、21世紀の映画ベスト20というのを発表するときに、大きな欠陥さえなければ、この映画は1位に挙げていた。その大きな欠陥とは、ポール・ダノだって。ポール・ダノの演技の迫力がなさすぎて、演技が弱すぎて、映画のバランスがおかしなことになったと批判したの。で、もうSNSが大炎上して、ポール・ダノが何かをコメントを返す前に、ファンたちがポール・ダノ擁護のコメントで、結局「僕はみんなが言ってくれるおかげで、何も言わずに済んでる」みたいな、それ以上大きなことにはならなかったんだけど、タランティーノ的にはダニエル・デイ=ルイスと真っ向勝負できる、バチバチのエネルギーを出している人を置いてほしかった。ポール・ダノじゃダメなんだ、弱すぎるみたいな。
渡辺:認めなかったんだ。
有坂:それもね、やっぱり監督の個性の違いであって、個人的にはナチュラルな演技が、気持ち悪さが良かったと思います。
渡辺:良かったけどね。
有坂:とにかく、こんなパワフルな映画、映画史上観てもそうそうないっていうぐらい。
渡辺:ダニエル・デイ=ルイス、これで獲っているんだよね。
有坂:オスカー、獲ったんだっけ?
渡辺:主演男優賞。
有坂:そうか。『マイ・レフトフット』
渡辺:出れば、獲る人だからね。
有坂:撮影賞も獲ったんだね。ワン・バトル大好きな人はこれを観てもらわないと。
渡辺:めちゃくちゃ重厚な作品で、本当に傑作、5本目に来ましたね。……じゃあ、時間になっちゃいましたけど、僕の5本目いきたいと思います。僕の5本目も日本映画で2004年の作品。
渡辺セレクト5.『花とアリス』
監督/岩井俊二,2004年,日本,135分
有坂:うーん、うんうんうん。
渡辺:岩井俊二の作品で、ちょうど今、岩井俊二30周年でレトロスペクティブをやっていて、本当につい数日前に観ました。本当に改めて素晴らしい。本当に良くて、主演が蒼井優と鈴木杏。2人が女子高生のお話なんですけど、花とアリスっていうこの2人の話で、『花とアリス』なんですけど、この女子高生2人の何気ない日常と初恋を描いた作品なんですけど。本当にそれだけの話を、これだけ綺麗な映像と、いい音楽と、この2人のみずみずしい演技で、長編として見せ切るっていう。本当に岩井俊二ワールドだからできる作品だなっていうのを、本当に感じさせられた作品だったなと思います。岩井俊二の作品の『花とアリス』っていうすごい綺麗なタイトルから、話を観ていくと、一人は花で、もう一人はアリスなんだけど、なんとかアリスって名前なのかと思ったら、有栖川徹子っていう名前みたいな(笑)。それで、アリスって言っているのも、すごい面白いなっていう。徹子っていう、めちゃくちゃ実は古風な名前だったみたいなところとかもね。なんか、実はそういうところがあるっていうのも、話を観ていく中で分かっていくっていう面白さとかね、っていうのもあって。
本当に蒼井優と鈴木杏の、このとき2人も本当に素晴らしくて。なんか初恋しちゃったんだけど、鈴木杏のアプローチが独特すぎて、先輩、なんだっけな、先輩に「あなたは記憶喪失になっていて、本当は私と付き合ってます」みたいなアプローチをしだして、先輩も先輩で、「え、そうなの?」みたいな。
有坂:覚えてる、覚えてる。
渡辺:信じちゃうっていう(笑)。
有坂:それは、岩井俊二っぽいよね。
渡辺:そうそう、そんなわけないだろうっていうことを、それらしく観せちゃうっていう、本当に岩井俊二ワールド。でも、そこに引き込まれちゃうっていうのが、本当に素敵だなっていう。本当に岩井俊二も独特のスタンスで、この2000年代をいろんな傑作を生み出していた監督だなと思うんですけど。
有坂:これ、ポッキーのあれだよね。
渡辺:ええと、キットカット。
有坂:キットカットか。そうだそうだ。
渡辺:キットカットのね、もともとCMの映像から、それで生まれて、長編になって。そうなんですよ。という5本目です。だから、けっこう最近観たリバイバルで、やっぱり素晴らしい作品があったんで、それでまとめてみました。
──
有坂:じゃあ、今日紹介していないのだと、ちなみに、タイトル、どんなのがあった?
渡辺:最初はリバイバル縛りとも思ってなかったけど、でも、『ピンポン』とかね、『スクール・オブ・ロック』、『スナッチ』、『シティ・オブ・ゴッド』、『ゆれる』、『落下の王国』、『メメント』、『ダージリン急行』、『ゴーストワールド』、『きみに読む物語』、『ミスト』、『かもめ食堂』、
有坂:そうね。
渡辺:いろいろめっちゃあるよ。
有坂:『花様年華』、『ダークナイト』、『マルホランド・ドライブ』、『スーパーバッド』、『EUREKA ユリイカ』、『ブロークバック・マウンテン』、『キッチン・ストーリー』、『歩いても 歩いても』、『崖の上のポニョ』、ということでね、まだまだ思い出せてないけど、他にもきっとあるよね。ということで、これをきっかけに皆さんもぜひ、2000年代の個人的なフェイバリットを考えてみてください。
──
有坂:はい、じゃあ、最後にお知らせを。
渡辺:えーとですね。ちょっと、やばい用意しとけばよかった。これです。フィルマークスで、90年代の映画をまとめたリトルプレスをつくったんですけど、これの発売記念イベントを学芸大学の「COUNTER BOOKS」さんという書店で行います。それのトークイベントをやるんですけど、僕ら2人で出ますと。この中にも塁の文章も寄稿してもらってるので、それもあって2人でトークイベントをやります。イベント自体は、映画の料理とか、いろんな人たちをクリエイターも呼んで、イベント自体はいろいろモリモリでやっていくものになるんですけど。午前中?
有坂:11時半から1時間半、トークイベントがあって、その後またいろんなコンテンツがあります。
渡辺:僕らはもう90年代映画について語るっていう、この前ね、下北沢の「B&B」でもやったんですけど、用意していたやつの2割ぐらいしか話せなかったっていうね。
有坂:思い入れが強すぎて。
渡辺:ネタはまだいっぱいある。その続きを話そうと思っています。
有坂:今日は2000年代だったけど、こちらは90年代の映画の話をします。僕からは、3月22日の日曜日に、千葉県の松戸市で1日街中を使って映画で遊べるイベントをやります。これは200人限定で、チケット制のイベントなんですけど、最終的にはかつて映画館があった広場で、そこでみんなで『ニュー・シネマ・パラダイス』を観るんですけど、日中は4店舗で映画の上映が行われていたり、映画のZINEマーケットがあったり、あと映画の漫才ライブがあったり、その中で、えっと「春雨橋広場」っていう、夜、『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映する広場で、このニューシネマワンダーランドの公開収録をやります。なので、次回はこの手紙社のスタジオではなく屋外で、きっと晴れ渡った青空のもとでやる予定です。なので、オンラインで観ていただくのもいいし、チケット買っていただいて、それは買わなくても観れるのか。でも、ぜひ買っていただいて、映画も全部で4本。『ニュー・シネマ・パラダイス』、『音楽』っていう日本のアニメーション、あと『キートンのセブン・チャンス』、あと『ひいくんのあるく町』っていう個人的に大好きなドキュメントを上映しますので、ぜひそちらもインスタグラム、ホームページ等でこれから情報も上げていきますので、よろしくお願いします。
──
有坂:はい、ということで駆け足になりましたが、次回はじゃあ松戸で、お会いできればと思います。では、今月は以上となります。遅い時間まで、どうもありがとうございました!!
渡辺:ありがとうございました! おやすみなさい!!
──

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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