あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「冬の夕暮れに読みたくなる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『喫茶店で松本隆さんからきいたこと
著・文/山下賢二,発行/夏葉社




西日が差し込むような冬の夕方の喫茶店ってよいですよね。話に夢中になっているうち、外があっという間に暗くなっていたり。かの有名な作詞家・松本隆さんの、インタビューや自伝としては決して語られないような語りを素朴にまとめたこの本は、冬の夕暮れの読書にぴったり合う1冊。



2.『月とコーヒー
著・文/吉田篤弘,発行/徳間書店




ひとりきりで夕暮れをすごすとき、こんな本がそばにあったら最高に幸せかも。吉田篤弘さんの描き出す、現実にしてはちょっと不思議でまるで夢の中のようなやさしい世界は、マジックアワーの空気そのもの。少しずつ大切に読みたい短編が詰まってます。



3.『百年と一日
文/柴崎友香,発行/筑摩書房




知らない街で迷子になってみるのが好きです。特にだんだん暗くなってきて、でも帰り道がわからない……というときの心細さが好き。理解してもらえるでしょうか?(笑) 私の知らないあいだもずっとこの街に人はいて、暮らしているんだな、とかみしめると「わーっ」と叫びそうになる。そんな不思議(?)を小説にしてくれたのがこの本です。



4.『
著・文/junaida,発行/福音館書店




つまり、夕暮れの、あの「魔」なかんじ。ほんとうは変な世界があって、そことつながっちゃってるんじゃないかといちばん信じられるような時間だと思うんです。最近ブレイクしている絵本作家・junaidaさんのこの作品はポッケの中に入ると広い海原に出てしまったり、ぐわんぐわん世界を揺さぶってくれたりして好きです。



5.『水中の哲学者たち
著・文/永井玲衣,発行/晶文社




個人的に最近いちばん面白いと思った本。哲学の本、って、ふだんあんまり手に取らないんですが、これはまるで詩集のようでもあり笑えるエッセイのようでもあり、的確に心のど真ん中に飛び込んでくる文章が心地いいです。今までにまったく見たことがない新しい面白さで、哲学思索へといざなってくれます。



6.『美しい街』
著/尾形亀之助,画/松本竣介,発行/夏葉社




心さびしい夕暮れには哲学もいいですけど、詩集もいいですよね。といって詩集も無限に出ているので、たとえばこの『美しい街』なんてどうでしょうか? 1900年生まれの詩人の作品を集めて2017年に新たに出版されたものなのですが、ただそこにあるがままの情景を綴るような投げっぱなしの言葉は、広い湖を見るようでなにか気持ちいいです。



7.『わたしのなつかしい一冊
著・文/池澤夏樹・ほか,イラスト/寄藤文平,発行/毎日新聞出版




子どもの頃に好きだった本の思い出って特別で、今でも胸に光り輝いているかんじがするし、他の誰かがなつかしい本を語る言葉もまたきらめいています。これはたくさんの作家さんの「なつかしい一冊」の思い出を集めた贅沢な本。そこに自分が好きだった本を見つけたりするとさらにうれしかったり。



8.『左上の海
著・文/安西水丸,発行/中央公論新社




ときには少し古い時代の小説を読んだりするのもいいものですよね。最近発売されたこちらは、村上春樹さんの文庫のイラストなどでも有名なイラストレーター・安西水丸さんの短編小説集。街で生きる大人の男女の孤独や悲しみ、それでもなお凛としている姿は今の私たちと少し遠くて惹かれます。



9.『ナナメの夕暮れ
著・文/若林正恭,発行/文藝春秋




中年になっていくということは、青春的な時代が《夕暮れていく》ということなのかもしれません。自意識と社会常識の抑圧の中で自分探しを文章にし続けてきた若林さんの「自分探し終了宣言」エッセイ。大人になることは何かを諦めたり濁らせたりすることではなく、よりまっすぐなほんとうの自分になることなのだと教えてくれます。



10.『関西酒場のろのろ日記
著・文/スズキナオ,発行/Pヴァイン




夕暮れというと、ついさびしいイメージばかり浮かんでしまいますが、楽しい夜の始まりを告げる時間でもあるんですよね。コロナが少し収まっている今、ひさしぶりに街で飲みたい気持ちも高まります。しばらく私たちから遠ざかっていたこの街飲みレポートは、異世界のようでもありなつかしくもあるあの空気を思い出させてくれる、まさに今読みたい1冊です。


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。