あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「もっと猫が好きになってしまう映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。先月の「もっと犬が好きになってしまう映画」に続いて、どんな映画が登場するのか!? 今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。
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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。
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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は久しぶりに有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。
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有坂セレクト1.『こねこ』
監督/イワン・ポポフ,1996年,ロシア,84分
渡辺:あー!
有坂:これはもうタイトルのとおり、子猫が主役の映画になっていて、真冬のモスクワで、迷子になってしまった猫が自分の家まで帰ってくるという、シンプルな構成の物語となっています。もともと住んでいるアパートの窓から、ポンって飛び出ちゃったら、ちょうどトラックの荷台に着地し、そのままトラックが出発して、どこかもわからないところに連れて行かれる。そこから自分の家に戻るまでの物語になっています。ちょっとパッケージのデザインは暗い感じがしますけど、ちょっとロシア的な映像の暗さみたいなのは、もちろんあるんですけど、この映画の魅力は、このキュートな子猫が84分ずっと観られるっていうのもありますし、あと、他にも野良猫が結構出てくるんだよね。それで、猫同士で助け合ったり、この子猫が外で寒い中、寝なきゃいけないときに、野良猫がスーッと来て包み込んであげたりというシーンがあるんですよ。一応、これはちゃんと物語のある映画なので、ドキュメンタリーではないんですけど、猫は猫で演技をしているのか、もしくは本当に目の前にある可愛い子猫の命を守ってあげたいと思ったのか、でも、観ていてジーンとするようなシーンがずっと続きます。まあ、家に帰るまでの物語なので、ある種、ロードムービー的な楽しさもあるんですけど、動物好きな人ほど、やっぱりハラハラドキドキの物語はできれば避けたい、というところがあると思います。本当に猫が可哀想だなって思ってしまう。この映画にもちょっとドキッとするシーンはあるんですけれども、他の映画に比べると、割とその辺の表現は抑えめかなと思っていて、出てくる人間たちも、なんか極悪非道みたいな人は出てこないので、思っていたより、結構観ていてふわっとした気持ちで楽しめるような作品となっています。
渡辺:はいはい。
有坂:この映画をつくったイワン・ポポフという人は、もちろん大の猫好きで、この映画をつくるのに2年かけた、撮影に2年かけたそうです。なので、CGで誤魔化すとか、あと猫に下手な負荷をかけるとか、そういうことをなるべく避けて映画をつくりたいということで、最終的に2年という時間がかかったそうなんですけれども、やっぱりそれだけ時間をかけてつくってくれたなっていう、観ている側の満足感とか、安心感とかが感じられる映画となっています。で、それが猫ポイントで、猫ポイント以外でいうと、結構猫を通して、ロシアの社会が見えてくるところが面白いなと思っていて、これは20年以上前の映画なので、ソビエトが崩壊した直後に撮影されたらしいんですね。なので、割と貧富の差があって、この猫がもともと住んでいた家。飼い主さんは音楽家だっけな、すごく裕福な家なんですね。ただ、途中、途中で出会う人が、本当にその日暮らしをしている人だったりするので、その貧富の差みたいなものも、ちょっと気にしながら観ていただくと、当時の社会情勢が見えてきたりして、また広がりが出て面白いかなと思います。今、こんなちょっと情勢ですけども、もちろんロシアにも暮らしている人がいるとか、ロシアにも猫もいます。なので、そんな今のロシアに思いを馳せながら、観るのも一つかなと思います。これ多分配信では取り扱いはないんですけど、猫好きは間違いなくDVD買っていいと思います。ぜひ観てみてください。
渡辺:なるほど。好きだね!
有坂:好きだよ。好きでしょ?
渡辺:ロシア映画珍しいし、そんな観る機会はないと思うんですけど、これは入りやすいと思うんで。
有坂:そうだね。アメリカ映画っぽいね、分かりやすい作りだよね。
渡辺:なるほど。ストレートに来ましたね。それだったらちょっとストレートに行こうかな。
有坂:まさか、あれですか?
渡辺:いえいえ。違います。じゃあ、僕の1本目はですね。最近の作品です。
渡辺セレクト1.『猫たちのアパートメント』
監督/チョン・ジェウン,2022年,韓国,88分
有坂:あ、そっち!
渡辺:これは、韓国映画なんですけど、ドキュメンタリーで、韓国のソウルにある韓国最大の団地が再開発されることになって、そこには、実はたくさんの野良猫が平和に住んでいたんですけど、もう全部取り壊しになるということで、猫ちゃんたちの大引っ越し作戦が始まるというドキュメンタリーになります。これはですね、ボランティアの女性たちが、猫たちを保護するというところを追ったドキュメンタリーではあるんですけど、本当にそれまでは結構団地って、敷地のスペースを贅沢に使っているので、緑地の部分が多かったりとか、建物と建物の間が結構空いていたりとか、なんていうんだろう、そういう日向ぼっこしてる猫がいたりとか、めちゃくちゃ幸せに、安全に暮らしていたのに、引っ越さなきゃいけないというので、ただ猫たちが普段どこに住んでいるのかわからないから、おびき寄せたりとか、一生懸命捕まえようとするんですけど、猫たちはやっぱり気ままで我がままなので、なかなか近寄ってくれないし、そういうところの奮闘を描いた作品になってるので、そういうところがすごく面白いし。あとやっぱり人間の都合で取り壊さなきゃいけないとか、棲み家が奪われてしまうみたいなところもちょっとあったりとか、あと韓国のソウルなんかはすごい再開発が進んでたりするので、そういう時代背景も観られたりとかですね、っていうところの面白さもある作品となっています。
有坂:ほうほう。
渡辺:結構ボランティアの人たちが、なぜかみんな女性で、すごい女性の母性をもって猫ちゃんたちを保護しようとしてるっていう、そういう感じとかも面白くて、すごい名前をつけたり、リストをつくったりして「この子は何々」みたいな名前を、みんなで共有するように「この特徴がある子は、なんとかっていう猫ちゃんです」みたいなことを共有しあったりして、それでみんなを保護していくんですけど、なんかそういうやりとりとかもすごい面白いんですけど、やっぱりなんかこういうボランティアでやっていくっていうところの心意気とかもすごいなっていう。その辺も全部含めて、楽しめるドキュメンタリーとなっています。これもこのあいだ「下高井戸シネマ」でやっていて、この今回のテーマじゃなかったら観なかったかもっていう、ちょうどこのタイミングで観られたんで。
有坂:この今回、猫がテーマだから?
渡辺:そうそうそう、これやった後、公開日見逃してて。
有坂:そうだよね。なんか観てない印象があった。
渡辺:それでやってたのを、観られて良かったですよ。
有坂:じゃあ、最新なホットなものを。
渡辺:そう。ということで、これまだ配信はないんですけど、劇場公開からまだそんなに経ってないので、二番館とかではまだやっていたぐらいなので、そのうちレンタルに出てくる作品になるんじゃないかなと思います。もうリアルな猫ちゃんがいっぱい出てくるので、楽しめると思います。
有坂:黒猫とか、いい顔してるね。
渡辺:なんか全部名前がついてるんだよね。
有坂:これ、僕、観られていないんですけど、予告編で観ただけでもすごい面白そうだった。そのボランティアの人たちの表情とか、猫好きなんだなっていうのが、もうなんかあふれ出ていて、お互い愛し合ってるみたいな。その雰囲気が良さそうだなって。良かったですか?
渡辺:良かったですよ。本当に、日常の中に普通に猫がいる、そういう生活の映像から始まっているんで、ほのぼのとして良かったです。
有坂:はい、分かりました。じゃあ、僕の2本目は、ヨーロッパにいこう。フランス映画です。
有坂セレクト2.『猫が行方不明』
監督/セドリック・クラピッシュ,1996年,フランス,91分
渡辺:うーん!
有坂:これは僕が映画に目覚めたのが1994年なので、目覚めて間もない頃。本当にフランス映画を観始めた初期、まだフランス映画を10本も観ていないようなときに出会った、セドリック・クラピッシュ監督の代表作の1本です。
これはもうタイトルがすべてを表しています。飼い猫がですね、行方不明になってしまい、その猫を探しに行く。その主人公、飼い主さんだけではなくて、いろんな人たちの手を借りながら、猫探しを通じていろんな人と出会いながら、主人公も成長していくというような物語になっています。これは、当時、まだ派手な映画とかしか僕は知らなくて、トム・ハンクスとかトム・クルーズとか。その中でフランス映画ということも知らずに観てみたら、こんな淡々とした物語が映画になるんだなっていう印象が、まず最初にあったんですね。やっぱり本当に日常を描いていて、映画の中だけの世界ではなくて、猫を飼っている人なら自分の身にも起こり得る物語なので、そういうところを自分の飼い猫を想像しながら観るのも面白いな、なんて思いながら、当時は観ていました。これ、ちょっと今言いましたけど、猫を探すっていう物語だけではなくて、猫探しを通じて出会う人。いろんな、フランス人なので個性的な人と出会うんですよ、主人公が。そこを通して、もともと色々モヤモヤしていた主人公自身が成長していく。だから、長い目で考えると、本当にあのとき、飼い猫のグリグリって言うんですけど、グリグリが脱走してくれたおかげで、自分が成長できた。もしかしたら、グリグリは私の成長を促すために脱走したのかもしれない。そんなことを考えてしまうような物語になっています。
渡辺:うんうん。
有坂:このビジュアルからも分かるように、全然悲壮感とかもなく、ちょっとポップなつくりになっていて、楽しいというか、淡々としながらも、ちょっとワクワクするような要素もあるような映画となっています。これ、今風に言えば“こじらせ女子”の物語だなと。当時、そんなこじらせ女子の映画なんていう言葉はなかったですけど、その視点で観ると、またちょっと90年代の代表作の一本も、違った観え方がして面白いかなと思います。それで、いろんなキャラクターが出てくるんですけど、マダム・ルネっていうすごい味のあるマダムが出てくるんですよ。これ、本編観た人は、みんな虜になってしまうようなマダムなんですけど、このマダム・ルネって、実際に監督のクラピッシュの彼女の猫を、マダム・ルネに預けたことがあるんだって。知り合いだった、もともと。で、彼女の猫をマダム・ルネに預けたら、マダム・ルネの家から猫が脱走したっていうことが、実はベースになっているんですよ。なので、その張本人を、その役にキャスティングするっていう、ちょっと遊び心もあります。なので、そんな視点で観ると、あのキャラクターもまたより愛おしく観えてくると思うので、ぜひ注目して観てみてください。すごく映画全体。リズムも良くて、シンプルで分かりやすくて、気持ちのいい映画となってます。回想シーンとかもないので、基本もう現在進行形の話が淡々と進んでいく、そんな物語となっています。これは、ベルリン国際映画祭で批評家協会賞を受賞した、映画としてもすごく高く評価されている、猫映画の代表作の一本かなと思います。ぜひ猫好きのみなさん、必見です!
渡辺:クラピッシュの作品ってパリを描いているものが多いから、パリに住む男女のあれこれみたいなのを、ずっと描き続けている人なので、パリ好きとかね、そういう人にもいいんじゃないかな。
有坂:そうそう、パリ映画としても観応えがあると思います。そう、ロマン・デュリスもいるんです。これは、取られたくなかった。
渡辺:笑。そうですか。じゃあ、これいこうかな。僕の2本目は、2013年のアメリカ映画です。
渡辺セレクト2.『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』
監督/イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン,2013年,アメリカ,104分
有坂:おお。
渡辺:これはコーエン兄弟の作品なんですけど、映画でいうと音楽ものです。1960年代のフォークソングを歌っているミュージシャンが主人公なんですけど、(『猫が行方不明』の)“猫が逃げ出す”繋がりで、今これにしようと思って。これのオープニングが面白くて、ミュージシャンなんで音楽の演奏から始まるんです。家に帰ってきてるんですけど、人の家に実は泊まっていて、朝になったら出ていくという約束だったんですけど、ドアを開けて出ようとしたら、そこの家の飼い猫も一緒にビュッて出ちゃって、あって捕まえようとしたら、オートロックの扉がバタンって閉まってしまうというところからスタートするんですよね(笑)。近所の人に預かってくれって言っても、ダメだって言われて、しょうがなく片手に猫、片手にギターを抱えて、ニューヨークをさまよい歩くというところからスタートする話です。結構、そういう猫に振り回されながらですね、場所、場所を移動していく、ちょっとしたロードムービーになっているんですけど、主人公はミュージシャンで、ミュージシャンとして成功しようとする主人公の話なので、音楽が主筋の話ではありながら、ちょいちょい猫が出てきて、猫に振り回されるというところがポイントとなっていて面白いです。
有坂:うんうん。
渡辺:主人公はオスカー・アイザックという、このときはそんなに有名じゃなかったんですけど、その後、スター・ウォーズシリーズとかに出始めて、今結構有名になっていて、ジャスティン・ティンバーレイクとか、ミュージシャンが出ているっていうのもあるんですけど、みんな歌が上手で、キャリー・マリガンとか、このときはまだ無名だったアダム・ドライバーとかも出ていて、みんな、実は歌が上手いっていうですね。なんか音楽ものとしてもすごく良かったりするので。なんか、最終いろいろ振り回されて、もう音楽に見切りをつけるのか、どうするのかみたいなところの物語を描くんですけど、ボブ・ディランらしき人が最後出てきて、新しいスターが出てくるぞみたいなところを匂わせながら、終わっていくラストみたいなところもすごい良かったりとかですね。
有坂:ラスト言っちゃった?
渡辺:笑。ラストは、なんとなくの雰囲気です。そういうところも、なんかフォークソングから、新しい、そういうボブ・ディランみたいな人が出てくる流れの時代みたいな、音楽的な目線でも感じられるし、ポイントでやっぱり可愛い猫ちゃんが出てきて、やっぱり猫のなんていうんだろうね、勝手にピュッと出ちゃう、逃げ出しちゃうみたいなところとか。なのに、平気でうろうろ歩いてたりとか、そういう太々しさとか、おかしさみたいな、そういう猫の特徴っていうのを、この映画のスパイスにうまく生かしている作品かなと思いますので、そういうところでも面白いので、ぜひ観ていただければなと思います。今あれかな? U-NEXTで。
有坂:結構いろいろ観られるね。Amazonプライムも。これあれだよね、やっぱりモノクロ映画で60年代だっけ? その冬のニューヨークで、割と映像自体が静かじゃん。で、こういうミュージシャンが主人公だから、割と淡々とした映画だからこそ、猫が効いてくる。やっぱり静かな画面の中で、猫の動きって人間じゃコントロールできないし、そういう自由気ままなエネルギーが映画の中に入っている、静かな映画の中に入っているってところが、面白いなと思ったんだよね。もし猫がいなかったら、全然違った印象になるなっていうぐらい、猫が効いている映画だから、これはぜひ紹介したいと思ってたんだけど、絶対順也が紹介するだろうなと思ったから、あえてこれは外してよかった(笑)。いい映画だよね。
渡辺:音楽ものとしてもすごくいいので。
有坂:コーエン兄弟もちょっとパッとしない時期が続いていて、この『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』が出てきて、やっぱりすごい人だなって、改めて思った作品でもありました。
渡辺:うんうん。
有坂:じゃあ、僕もアメリカ映画いきたいと思います。2017年です。今、これ言われちゃうかなと思ってドキッとしたんだけど……。
gifted/ギフテッド
監督/チャド・スタエルスキ,2014年,アメリカ,101分
渡辺:おお!
有坂:『gifted/ギフテッド』に出てくる猫ちゃん、大好き! これ観た人、結構いるかな? ちょっと簡単に物語を紹介すると、この映画の主人公は、生まれて間もなく母親を亡くしてしまった、7歳のメアリーという少女が主人公です。彼女はおじに育てられているんですね。おじとメアリーで小さい町でささやかながらに、幸せに暮らしていたら、その7歳のメアリーがどうやら特別な才能があると。彼女は、実は天才なんじゃないかということが学校で発覚するんです。いろいろ調べていくと、本当に特別な才能をもらった人“ギフテッド”、ギフトとして特別な才能をもらった少女だということが分かるんですね。ただ、そのおじのフランクは、そんな彼女を特別な人間として育てたくないと、あくまで普通の人間の中で、自分の良さを発揮していってほしいという思いを持ちながら、でも、おじ・フランクの母は教育ママみたいなところがあって、もうそんな公立校なんか行かせないで、特別な勉強をさせましょうみたいな感じで、母と息子がバチバチぶつかって、その間も板挟みで、このメアリーちゃんは、いろんなことが起こっていくという物語になっています。
渡辺:はいはい。
有坂:このメアリーには飼い猫がいて、フレッドという猫です。このフレッドは片目しか見えない猫なんですね。片目がつぶれちゃっている猫。でも、フレッドはメアリーからすると特別な猫で、「うちの猫は歴史上一番すごい猫です。すごく頭がいいけど、誰も気づいてないの」って、学校でみんなに堂々とスピーチしちゃうような、かわいい猫なんですね。実際、頭が良くて鳥にも優しかったりする片目の猫フレッドが、やっぱりこのおばあちゃんとおじの間の板挟みになっている、メアリーの本当に心の拠り所になっている。本当に猫がいるといないでは、彼女の心の持ち様って全然違うだろうなという意味で、すごく物語の中で猫が効いている。猫なくして成立しないような物語になっています。学校にまで連れて行っちゃうんだよね、フレッドを。そういうところも普通の子どもだったらやらないけど、堂々とそういうことをやってしまう。メアリーの、まわりから見ると変わっているなというような一面が、うまく演出でも活かされているような場面も出てきます。この猫の片目のフレッドにはモデルがいて、この映画の脚本家が、実際に飼っている猫。モデルというか、出てくる猫が実は脚本家が飼っている猫らしいです。その猫を映画に実際に出演してもらって、こういう物語をつくっていった。要は、猫を愛する人がつくった脚本ということになっています。その片目の猫フレッドは、映画の撮影後も仲良く脚本家とその奥さんとともに幸せに暮らしているということなので、気になった方は、結構映画を観ると猫の印象が強いんですけども、この物語の中で、猫がどういうふうに効果を上げているかというところにもぜひ注目して、観ていただきたいなと思います。ちなみに、監督は『(500)日のサマー』のマーク・ウェブになっています。あっ、Amazonプライム、とうとう観られますね。
渡辺:めちゃくちゃ泣けるからね。
有坂:泣けるねー。ハンカチ、何枚か用意してぜひ観てみてください。
渡辺:主演のおじさん役が、クリス・エヴァンスという『キャプテン・アメリカ』の人なんですよね。もう、筋肉男みたいなのをずっとやってきた中で、急に天才をやるっていう。そこも面白かったけど。なるほど、そうきましたか。
有坂:よかった。よかった。
渡辺:3本目だよね? とうしようかな……。僕の3本目は、これにします。2001年の韓国映画。
渡辺セレクト3.『子猫をお願い』
監督/チョン・ジェウン,2001年,韓国,112分
有坂:ああ、うんうんうん。
渡辺:これは、さっき『猫たちのアパートメント』を撮った監督のチョン・ジェウンの劇映画の作品となります。
有坂:デビュー作だっけ?
渡辺:かな? 同じ監督なんですけど、主演はペ・ドゥナという女優さんです。これも多分、さっきの『猫たちのアパートメント』が新作でやったことで、4Kでリバイバル上映されていました。この作品も、すごく良くてですね。これは女の子たち、高校の親友5人組が主人公です。女子5人組の青春ストーリーという話ではあるんですけど、高校を卒業して、それぞれみんな社会人になっていて、実家を継いだりとかOLさんになって華やかな生活を目指していたりとか、あとは実家が貧しくてなかなか思うようにいかなくてみたいな、それぞれの女の子たちの歩む人生みたいなところを描いていく作品になっています。そういう青春作品としても面白いんですけど、その中で、ある女の子は実家が貧しくてなかなか思うような人生を歩めない、みたいなところがあるんですけど、その中で子猫を拾って、その子猫をすごく可愛がるんですね。自分の心の傷を癒してくれるのが子猫っていうような、多分位置づけなんだと思うんですけど、そういうところで子猫を可愛がっていくんですけど。やっぱりその子はなかなか人生がうまくいかなくて、警察にあるとき捕まってしまうんですね。っていうのがあって、親友の一人に、主人公であるペ・ドゥナに、子猫を託すっていうシーンがあって、それがさりげないんですけど、すごく感動的で。そこからタイトルも来ているっていうところがあるんですけど。なので、それまで高校のときに、バカ騒ぎしていた5人組がだんだん大人になっていって、ちょっとすれ違いも起こりつつ、みたいなところからのシーンですごく感動できる、シーンにつながるキーアイテムと言っていいのかっていうところに、その子猫っていうのがめちゃくちゃ生かされている作品だったりするので。なんかその子猫の使い方とかっていうのも、すごく上手なところではあるなという映画です。
有坂:ね。
渡辺:やっぱり、その後々の『猫たちのアパートメント』とかも観ると、やっぱり監督、猫が本当に好きだったんだろうなっていうのがすごく伝わってきます。だから、そのときだけちょっと猫を使ったというよりかは、やっぱり猫が何かこう、心の傷を癒してくれるっていう存在として、やっぱり大事なんだなっていうのが、ちゃんと分かっていたんじゃないかな、というふうにも思ったりしました。なので、そういう物語としても普通にしみじみと感動できるんですけど、猫好きにはやっぱりちょっとそういう子猫の登場の仕方とかもグッとくる作品だったりしますので、これ、そうAmazonプライムとかで観られるので、ぜひこの機会に観ていただけたらなと思います。
有坂:これは2001年リアルタイムで映画館で観ていて、ユーロスペースでやっていたのかな。このときってさ、韓国映画、今ってもう韓国映画って世界的にすごいことになっていますけど、ほんのね20年ぐらい前って、あのね『シュリ』だよね。『シュリ』っていう映画が1999年に大作でどんと出て、そこから、もう韓国は国策として、もう映画を全面に国がバックアップして、そこからどんどんどんどん右肩上がりで成長していって、『パラサイト』でアカデミー賞を獲って、ある意味一つ成功を収めた。その国策として動き始めたときに、これ2001年の映画だと思うので、出てきた映画で、なんか韓国映画ってそんなにまだなじみがない中で、「どんなものかな、『シュリ』はすごい派手な映画だったな」と思って観たら、本当にさりげない、5人の女性の映画で、「あっ、こういう映画も韓国から出てくるんだ」って思ったのはすごい覚えてる。で、そこからここ本当に、5年、10年で見ると韓国の女性映画ってさ、傑作いっぱいあるじゃん。
渡辺:そうだね。
有坂:シスター・フッドものもそうだし、『私の少女』とか。
渡辺:『はちどり』とかね。
有坂:そう、やっぱり女性映画が、本当に世界的に見ても傑作が多いのは韓国映画だと思うんですけど、その源流をたどっていくと、ある意味、この『子猫をお願い』にたどり着く。実際に、この映画の影響を受けて映画を撮ってる人もいるので、そういった意味でも韓国の近代映画史を見る上でも、重要な一本かなと思います。
渡辺:ちょっと言うの忘れてたんですけど、2001年のこの韓国映画なんですけど、その2001年の韓国女性が選ぶ最高の韓国映画、第1位だったそうです。
有坂:ああ、そうなんだね。まあそうだよね。
渡辺:言おうと思って忘れてた。
有坂:分かる分かる。そうなんですよ。なんか、それぐらい共感力もあって、映画としての評価も、歴史に残るような評価もある映画のテーマに、猫があるっていうのがいいよね。
渡辺:そうだね。
有坂:そのバランスが最高。
渡辺:ぜひ、この機会に観てみてください。
有坂:あっ、次は俺か。
渡辺:そうだよ(笑)。
有坂:自分が、今紹介したぐらいの満足感(笑)。じゃあ、僕の4本目ですね。僕もドキュメンタリー映画を1本紹介したいと思います。2016年の作品です。
有坂セレクト4.『猫が教えてくれたこと』
監督/ジェイダ・トルン,2016年,アメリカ、トルコ,79分
渡辺:んー!
有坂:これは、トルコのイスタンブールが舞台になった、猫ドキュメンタリーとなっています。トルコというのは、今の日本とはまったく違って、野良猫だらけです。それは、野良猫を避妊はするけど、あとは基本的には街で自由に暮らしてほしいということで、街全体で猫を飼っているみたいな、そういう街に暮らす猫7匹に密着したドキュメンタリーとなってます。これ、フィルマークスのあらすじのところにも書いてあるんですけど、この個性的な7匹をピックアップして、まとめたドキュメンタリーなんですけど、どんな猫がいるかをちょっと読みたいと思います。
渡辺:はい。
有坂:まず、生まれたばかりの子猫たちに餌をあげるため市場の食べ物を狙う「サリ」という猫、なでられるのが大好きなメス猫「ベンギュ」。レストラン近くにすみ、ネズミ退治を仕事にしている義理堅い性格の「アスラン」。喧嘩が強く旦那を尻に敷いているくせに嫉妬深い「サイコパス」。サイコパスって名前! 下町の市場にすみそこで働く商売人や客たちと触れ合う看板猫の「デニス」。遊び人風で周囲の大人たちの心を虜にする「ガムシズ」。高級なデリカティセンにいつも美味しい餌をもらっている礼儀正しい「デュマン」。というですね。生まれも育ちも全く違う、個性的な7匹の猫が楽しめるドキュメンタリーとなっています。基本、猫に密着して、カメラも本当に猫目線、すごい低い位置にカメラを置いて、猫目線でトルコのイスタンブールの街並みが観られるような映像になっていて、猫はもちろんのこと、イスタンブールを自分が旅をしているような気分になれる映像にもなっているので、旅が好き、猫が好きという人にはもうマストなドキュメンタリー映画かなと思います。『猫が教えてくれたこと』っていうタイトルの印象だと、ちょっと教育的な、割とメッセージ性があるのかなって思うかもしれないんですけど、基本的にはその自由気ままに生きている猫を淡々と撮影している映画です。あとは、そのトルコの人たちが優しく猫を見守っているような、そういう街の雰囲気、国の雰囲気みたいなのも伝わるようなドキュメンタリーとなっていますので、猫好きの人は、ぜひこのトークが終わったと、まずは観てみてはいかがでしょうか。
渡辺:アマプラでもやっているんだね。
有坂:最近の映画なので、アマプラは定額見放題。
渡辺:まだ観てないんだよな。このアップのやつは誰?
有坂:これ誰だっけな、誰っぽい?
渡辺:礼儀正しいやつ(笑)。
有坂:デュマンじゃなかったな。デュマンは黒猫だった気がするな。僕は、これを映画館で観たんですけど、なんか大スクリーンで猫を観るって、やっぱり特別だなって(笑)。基本、テレビが多い。岩合さん含め多い中、大スクリーンで猫を観るっていう体験も特別なので、ぜひドキュメンタリーとか、猫映画やったら、スクリーンで観るのもおすすめです。
渡辺:なるほど、じゃあ、続けて4本目ですね。僕の4本目は、日本の2011年の日本映画です。
渡辺セレクト4.『レンタネコ』
監督/荻上直子,2011年,日本,110分
有坂:うんうんうん。
渡辺:この『レンタネコ』は、監督は『かもめ食堂』の荻上直子監督です。もう荻上監督のいつもの感じのほっこりした作品となっているんですけど、この『レンタネコ』、どういう話かというと、「寂しいあなたに猫を貸します」という、“レンタネコ”をやっている市川実日子さんが主人公なんですけど、その彼女と猫たちの、あとはその猫を借りていく人たちのオムニバスストーリーとなっています。これがやっぱりね、猫好きは本当にほっこりしてしまうと思うんですけど、リアカーに猫が5、6匹乗っていてですね、それを市川実日子さんが土手を、リアカーを引きながら「レンターネコー」って言いながら、カラカラ引いていくっていうですね。
有坂:いいよね!
渡辺:そこに、いろんな人たちが猫を借りに来るというお話になっています。みんな、それぞれ猫を借りに来る何か思いだったりとか、エピソードみたいなのがあって、それぞれがちょっとした感動話になっていたりするんですけど、やっぱりなんか「寂しい人には猫を」みたいな、そういうところがすごく面白いなと思ってですね。やっぱり猫は、なんか癒しを与えてくれたりとか、寂しいところのそばには猫がいる。猫は癒してくれるみたいな、そういったものを、ほっこりとした面白い映画にまとめてくれたのが、この『レンタネコ』だと思います。本当に基本的にはコメディなので面白くて、なんか1,000円で貸してくれるんですよ(笑)。
有坂:(笑)
渡辺:借りる人たちも、なんか市川実日子が「これで」って、指一本出して、「一本で」みたいに言うんで、「1万円ですか?」って言うと、「いや、1,000円です」って。みんな「安すぎる」って、びっくりするんですけど、「あなた、それでなんか生活していけるの?」みたいに、逆に心配されちゃうっていう。でも、なんか市川実日子は、「実は、私、占い師として結構稼いでますんで」みたいな。そういう裏の顔があって、「レンタネコ」をやっているみたいな、そういうちょっと面白エピソードがあったりする作品となっています。で、これも、さっきの『子猫をお願い』とかに通じるところは、さっきも言ったんですけど、やっぱり寂しい心を癒してくれるのが猫だみたいな、そういうところを同じように描いた作品かなと思います。ちょっと描き方は、やっぱり監督によって全然違ったりはするんですけど、これもそういうふうに、ちょっと心を癒してくれるような作品となっていますんで、なんか疲れたときに観たら、ちょっと心が癒える、そんな作品となっています。これもいろんなとこでね。あのアマプラとかU-NEXT、Huluとかで観られますんで、機会があればぜひ観てみてください。
有坂:『レンタネコ』大好きですっていうコメントも来てますね。
渡辺:これ好きな人は多そうだもんね。
有坂:いいよね。「レンターネコ、ネコ、ネコ」ってね。
渡辺:「石やーきイモー」みたいな感じでね。
有坂:そういうところ、うまいよね。荻上さんはね。
はい、じゃあ、そんな『レンタネコ』から振り切った映画を、僕は最後5本目に紹介したいと思います。1973年のアメリカ映画です。
有坂セレクト5.『ロング・グッドバイ』
監督/ロバート・アルトマン,1973年,アメリカ,111分
渡辺:おお!
有坂:これはですね、泣く子も黙るハードボイルド小説のですね、巨匠・レイモンド・チャンドラーが原作を書いた、その映画版です。これ、まあ73年で、当時もそんな別に第一線のスターというわけでもない人が主役を演じているので、見た目もめちゃくちゃ地味だし、物語もいわゆる探偵もの。フィリップ・マーロウっていう、レイモンド・チャンドラーの中では、よく出てくる探偵がいて、そのフィリップ・マーロウシリーズの一つなんですけど、いわゆる事件が起こって、それを解決していくというような物語の推理ものになってます。で、この中で、なんで猫映画として紹介するかというと、この主人公のマーロウが、猫を飼っているんですよ。これ、映画の冒頭がね、大傑作と言ってもいいオープニングシーンなんですけど、眠っていたところ、猫がお腹を空かせて、このマーロウを起こすんですね。で、マーロウは、家にあるキャットフードをあげようとするんですけど、猫のお気に入りの銘柄のキャットフードが切れちゃってたんですよ。で、切れちゃっているけど、まあこれでいいかってあげたら、全然食べなくて。お前、それじゃないだろうみたいな感じで、猫から「いつもの出せ! 出せ!」って言われて、なんだよと言いながら、スーパーまで買いに行くっていうシーンから始まるんですよ。
渡辺:そうだったね。
有坂:そう。で、買いに行ったものの、いつもの店にいつものキャットフードが、しかも売り切れていて、でも、しょうがないからって別の銘柄のキャットフードを買っていったら、それも食べない。で、キレて猫が家出してしまうっていうシーンから始まる、ハードボイルド映画です。ここはやっぱり、すごくうまくて、これ実は原作には、こんなシーンはない。猫エピソードっていうのはなくて、これは映画版オリジナルの設定らしいんですよ。ロバート・アルトマンというアメリカを代表する巨匠なんですけど、アルトマンが自らつけた設定。でも、やっぱりそうやって猫を飼っていて、猫にも見放されているダメダメな探偵フィリップ・マーロウっていう印象を、最初の5分から10分で、すごく印象付けてくれる。なんか理屈じゃなくても映像でわかるし、すごく共感しやすいじゃない。
渡辺:なるほどね。
有坂:っていうね。やっぱその描き方がもう天才! で、やっぱり当時の探偵モノとかって、例えばハンフリー・ボガート。ボギー、有名ですけど、ハンフリー・ボガードが割とフィリップ・マーロウを演じることが多かったり、そのボギーのイメージもあって、やっぱり男臭いとか、渋いとか、かっこいいとか、なんかそういうイメージが強い中、強い男じゃなくて、優しい男として、フィリップ・マーロウを描きたかったんじゃないかなと。
渡辺:なるほど。
有坂:そういう意味で、猫を大切にしているっていうシーンを、最初に持ってきたのかなと思います。なので、そういう猫好きがキュンとするようなシーンから、本当にいわゆる探偵モノが始まっていくっていう、このバランスは多分ね、映画史120何年の中でも、唯一無二だと思いますし、いろんなその後の映画にも影響を与えている一本かなと思いますので、あまり、普段そういったハードボイルド系に馴染みがない人も、猫好きだし、それならじゃあ観てみようかと思って、観てもらえる人が一人でも増えたらうれしいなと思います。ちなみに、アルトマンが勝手に設定を変えた猫設定ですけど、原作のファンからは大不評だったらしいんですけど、でも、原作を知らずに、映画としての評価はめちゃくちゃ高い。日本で言うと、松田優作も「『ロング・グッドバイ』は大好き」と明言するぐらい、本当にこれは映画史に残る一本と言ってもいい、めちゃくちゃ地味な、でも、猫が可愛いハードボイルド映画となっています。
渡辺:なるほど、なんか「腹減った」って言ってるのに、「食わないんかい!」みたいなね(笑)。猫あるあるだよね。飼っている人は、わかると思いますけど。
有坂:行っちゃったよみたいな。せっかく起きて、寝起きで買いに行ったんだよ。しかも、それも食べてもらえないってね。そんなシーンを考えるの天才だし、それを、思いついたときのアルトマンの顔とか見てみたいな(笑)。アルトマンも猫が好きなんだろうね。
渡辺:そうだよね。
有坂:じゃないと、あんなシーンは描けない。
渡辺:なるほどね。原作にはないんだね。知らなかった。
有坂:いいエピソードだよね。
渡辺:なるほど!
有坂:ぜひ、観てください。
渡辺:ハードボイルドで来ましたね。じゃあ、僕の5本目は、2016年のアメリカ映画です。
渡辺セレクト5.『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
監督/アシュリング・ウォルシュ,2016年,アイルランド、カナダ,116分
有坂:ああ、なるほど!
渡辺:これはカナダの画家のモード・ルイスの生涯を描いた作品なんですけど、個人的にもめちゃくちゃ大好きで。
有坂:俺も好き!
渡辺:サリー・ホーキンスがモード・ルイスを演じていて、その旦那さんをイーサン・ホークが演じています。モード・ルイスっていう人は、もともと重いリウマチを患っていた方で、なので、すごく体が悪いんですね。家族からもちょっと疎まれていたらしいんですけど、そんな環境が嫌で、独立したいということで、後の夫となるエベレットのところに、家政婦募集というのに申し込んで、そこで住み込みで働くようになるというストーリーとなっています。その中で、モード・ルイスは絵を描き始めて、彼らのすごい小さい家なんですけど、その小屋の中で絵を描き始めて、いろんな絵を描いていくんですけど、その中で猫の絵があって、このポスターにもちょっと左下のところに黒猫の絵が描いてあったりするんですけど。すごい可愛い猫の絵があったりして。彼らの生活の中にも猫が出てきたり、というのがあって、その一つのポイントとなっているのが、可愛い猫たちになっています。これはもうモード・ルイスの話としてもすごくいいし、本当に絵本の世界みたいな物語なので、なんだろうな、とにかく観てほしい(笑)。
有坂:(笑)。
渡辺:モード・ルイスという人を知らなくても、こんな画家いたんだって。
有坂:知らなかった?
渡辺:うん。
有坂:俺もまったく知らなかった。
渡辺:こんなすごい素敵な絵を描く人が、そういう最初はつらい生い立ちで、でも、貧しいんだけど、二人で貧しいながら絵を描いて、細々と生計を立てているみたいな、そういった生活が描かれていくんですけど。ただ、絵はやっぱりいいので、だんだん話題になっていくんですよね。そのうち、ニクソン大統領だっけな、とかも買い求めるみたいな。でも、彼ら自体はずっと生活スタイルを変えずに、つつましく暮らしていくっていう話になっています。そのストーリーとか全体的に洋服の感じとか、可愛い小屋の家とかも含めて、本当に絵本の世界みたいです。なので、実写の作品なんですけど、なんか絵本の素敵な物語を読んでいるような、そんな不思議な感覚になる作品だったりしますので。でも、ポイントとしてちゃんと猫ちゃんも出て、その絵もすごい可愛いというのがありますので、実際のモード・ルイスの絵もすごい素敵だったりするので、そういうところも合わせて楽しんでいただければなと思います。
有坂:サリー・ホーキンス、この後は『シェイプ・オブ・ウォーター』だよね。
渡辺:そうだね。続けてな感じだと思う。
有坂:だから、やっぱり一番脂が乗っている時期のサリー・ホーキンスも観られると思うので。一気に来た感じだね。
渡辺:本当に。そうなんですよ。
有坂:確かにね。これはまったく選択肢に入ってなかったな。それにしてもタイトル長すぎるよね。
渡辺:そうだね。
有坂:これは説明しちゃったね。びっくりしたもん、最初。誤植かなって思った。まあモード・ルイスが、やっぱり知名度が日本だと低いからね。それをどう伝えようかっていう、その辺が見え隠れするタイトルだなと思うんだけど。これは素晴らしい映画。これ、韓国版のポスターも、デザインが素晴らしいので、後でぜひ検索してみてください。絵になるシーンがすごく多い。
渡辺:そうだね。
有坂:これは、デザインする側もつくりがいがある映画かなとも思います。観られますね。U-NWEXTでも。アマプラでも観られます。
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有坂:ちなみにですね。僕が紹介した『ロング・グッドバイ』の主人公のフィリップ・マーロウという役なんですけど、これ今度、『探偵マーロウ』という映画が公開される。リーアム・ニーソン主演で、6月16日、『探偵マーロウ』という映画が公開されて、もう劇場で予告編も流れてるので、ぜひリーアム・ニーソンで探偵マーロウって来たら、『ロング・グッドバイ』の人だ。あの猫映画のマーロウだって、思い出してもらえたら嬉しいなと。
渡辺:新作も猫が出てくるかもね。
有坂:出てきてほしい! でも、リーアム・ニーソンだからちょっと不安だね、やっつけないかどうか。『探偵マーロウ』ありがとうございます。そうそう、ダイアン・クルーガー、ジェシカ・ラング、ニール・ジョーダンが監督なんだよね。
渡辺:なるほど。
有坂:ということで、「もっと猫が好きになってしまう映画10選」、どうだったでしょうか。みなさんの中で、推しの猫映画もきっとあると思います。なんでそれが上がらなかったんだろうなって、気になっている人もいると思います。でも、それぞれやっぱり見方もあったり、僕らの場合だとライブ感が大事なので、相手が言ったものを受けて紹介する映画を変えたりとか、そうして紹介した10本となってますので、ぜひ、なかなか観ないようなジャンルのものにも、チャレンジしていただけると嬉しいなと思います。
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有坂:じゃあ、最後にお知らせ。
渡辺:僕は、フィルマークスのほうで、今映画のリバイバル上映企画とかをやってるんですけど、それで、4月21日(金)から『ムーンライズ・キングダム』が、ちょうど公開10周年になるんですけど、それが1週間限定で劇場で観られるというのをやっていますので、ぜひこの機会に観ていただければと思います。
有坂:キノ・イグルーとしては、4月30日(日)、東村山にある「豊島屋酒造」という酒蔵で映画をやります。これは例年秋に、蔵開きのタイミングで「豊島屋フェスタ」っていうフェスをやってたんですね。コロナの影響でちょっと3年ぐらいやっていなかったんですけど、時期を変えて「豊島屋フェスタ2023」が復活するということで、4月30日の朝10時から16時かな、という割と短い時間でやります。その豊島屋酒造の敷地の中で、いろいろな日本酒が飲めたり、ライブがあったり、クラブスペースがあったり、僕らは一つの大きい倉庫を映画館にします。そこで短編映画を2本だっけ? 2本か3本上映するんですけど、基本的には、来場者はみんなお酒を飲んでいます。やっぱり失礼がないように、僕たちもちゃんと日本酒を飲んで、映画の上映をやるんですけど、この短編映画っていうのは、何を上映するかはその場のフィーリングで決めるんですね。なので、僕たちの酔っ払い具合、そこに集まったお客さんの酔っ払い具合を見て、だったらこれが面白いだろうということでやりますので、ぜひ、そんなここでしか体験できない映画の時間もね、面白いと思うので、「豊島屋フェスタ2023」の情報もぜひチェックしてみてください。
渡辺:日本酒オリジナルカクテルも出します。
有坂:そうなんです。順也、元バーテンで、無茶ぶりでね、豊島屋の日本酒を使ってカクテルをつくって、それも販売するんだよね。それ決まった?
渡辺:前のやつを一生懸命思い出しています(笑)。
有坂:というお酒好き必見のイベントとなっていますので、よろしくお願いします。はい、では、今月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は以上となります。犬・猫、改めて振り返って、いろいろぜひ映画を観てみてください。では、終わりたいと思います。遅い時間まで、みなさんありがとうございました。
二人:おやすみなさい!
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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。
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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003)
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe)