あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「移動中にちょうどいい、初夏にきらりと映える装丁の本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。今月は、例えばシースルーなバッグに入れて、あえて表紙を見せたい(かもしれない)素敵なジャケットの本。持ち運ぶことを前提に、移動中のちょっとした時間でも読める本からリストアップ!


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1.『水上バス浅草行き
著・文/岡本真帆,発行/ナナロク社




「ほんとうに あたしでいいの? ずぼらだし、 傘もこんなに たくさんあるし」の歌で有名になった(?)歌人・岡本真帆さんのデビュー歌集。日常をキュートに&せつなく切り取る短歌たちは、自分の日常にもセンチメンタルなフィルターをかけてくれる。装丁の蛍光カラーとスワンボートもかわいすぎの1冊。



2.『いのちの車窓から』角川文庫
著・文/星野 源,発行/KADOKAWA




思わずどこかに電車ででかけたくなるのびやかな海のイラスト。星野源さんは私などが言うまでもなく歌や演技以外にエッセイも天才的な面白さなので、未読の方はぜひ。日々思うことをユーモアをまじえながらも静かな情熱と信念を持って語っている文章に心がすっと溶けていく。しんどい日の読書にもおすすめ。



3.『観光』ハヤカワepi文庫
著・文/ラッタウット・ラープチャルーンサップ,訳/古屋美登里,発行/早川書房




海の装丁つながりでもう1冊。こちらは私が長いこと推し続けているお気に入りの小説なのですが、装丁のエメラルド色のグラデーションがとてもきれいで好きなんです。タイの作家による短編集で、貧困の中で懸命に生きる人たちの少し悲しい話が多いのだけど、その中で起きた奇跡のような美しい瞬間が1冊に詰め込まれています。



4.『彼女たちの場合は』集英社文庫
著・文/江國香織,発行/集英社




14歳と17歳の日本人女子ふたりがアメリカを放浪するロードムービー。なかなか海外にはいけない近年だけど、ふたりに連れられてアメリカを旅するうち、自分の魂も高揚して自由にひろがっていくのを感じます。上下巻のくすんだブルーとピンクの組み合わせが最高にかわいくて2冊同時に持ち歩きたくなってしまう。



5.『すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集
著・文/ルシア・ベルリン,訳/岸本佐知子,発行/講談社




今、本好きのあいだでもっとも注目されている作家、ルシア・ベルリンの新刊がついに発売。前作「掃除婦のための手引き書」は川上未映子さんや小川洋子さんも大絶賛していましたが、今回も同じような短編集ということで期待大。私もこれから読むのが楽しみな1冊です。装丁もシックで美しく、ちょっと背伸びしてひとりでバーで読んだりするのにも似合いそう。



6.『塩一トンの読書』河出文庫
著・文/須賀敦子,発行/河出書房新社




須賀敦子さんによる「読書のススメ」的エッセイ。少しだけ昔に書かれたいい文章を読むと、いつも心が静かにトリップできるのが好きです。装丁はおそらく当時ではなく今の時代の写真で、何気ないんだけどそこがいい。クーラーの効いた、広すぎる図書館みたいな静かな場所で読みたい。ちなみに塩1トン、というのは、「それを舐めきれるくらいの長い時間をかけること」という意味です。



7.『遺したい味 わたしの東京、わたしの京都
著・文/平松洋子、姜 尚美,発行/淡交社




正直、おしゃれな表紙かというとわからないのですが(笑)、透ける素材のバッグからこの本が透けている人がいたら、一瞬だけ「あ、この人お寿司持ち歩いてるんだな」と脳の錯覚で思ってしまいそうだし、わざと透けさせているとしたらその人のことを好きになってしまうと思います。東京と京都に住む女ふたりの、好きな店についての往復書簡。静かな文体が大人っぽくて素敵!



8.『土を編む日々
著・文/寿木けい,発行/集英社




こちらも誰かのバッグからのぞいていたら、そんなに仲良くない人だったとしても「その本いったい何?」と聞いてしまいそう。写真の緑が美しくて、鍋の中でテキスタイルのようになっている豆に目を奪われてしまいます。「きょうの140字ごはん」の料理家・寿木けいさんが季節の記憶と旬の野菜を結びつけて書くエッセイはきりりと美しくて、心までしゃきっとします。



9.『センス・オブ・ワンダー』新潮文庫
著・文/レイチェル・カーソン,訳/上遠恵子,発行/新潮社




新緑の季節にグリーンが美しい本をもう1冊。この淡い写真は川内倫子さんによるもの。女性生物学者、レイチェル・カーソンによる名著で、自然から受け取るインスピレーションについての散文のような本。文庫になって本文中にも川内倫子さんの写真がたくさん収録され、解説もかなり豪華でボリュームたっぷりなのでぜひ読んでみてほしい! キャンプやアウトドアに出かける前に読むのもいいかも。



10.『蝶のしるし』台湾文学ブックカフェ1 女性作家集
著・文/江鵝、章緣、ラムル・パカウヤン、盧慧心、平路、柯裕棻、張亦絢、陳雪,訳・編/白水紀子,編/呉佩珍、山口守,発行/作品社




最近本屋さんで「かっこいい装丁だな、目を引くな」と思って手に取ると韓国文学なことが多いです。で、カルチャー的に(書店まわりのことなんかも)日本・韓国・台湾、って三兄弟的に同時多発的なムーブメントが起きていることが多くて、そこで「そういえば台湾は今」と思って手に取ったのがこちらの本。女性作家の作品だけを集めたアンソロジーだけど、やっぱり私たち同じ時代を生きてるんだねと思ってしまった。ご興味ある方、ぜひ良きジャケ買いを!


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。