あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「気になりすぎるタイトルでつい手に取ってしまう本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


──


1.『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』福音館創作童話シリーズ
著・文/斉藤 倫,イラスト/高野文子,発行/福音館書店




表紙もタイトルも最高にかっこいい一冊! 中身は詩の解説本のようでもあり、哲学対話のようでもあり、子ども向けに書かれたやさしい童話のようでもある。言葉について考えるのが好きな人には特におすすめ! そして絶対、夏に初めて読んでほしい本なんです、これは。



2.『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)
著・文/穂村 弘,絵/タカノ綾,発行/小学館




タイトルのすべてがよくわからない、でも手紙魔の女の子にもウサギを連れた夏の引越しにもなぜか惹かれてしまいます。穂村弘さんの歌集なのですが、ストーリー仕立てになっていて、恋愛小説を読んでいるようなせつなさ。自由で刹那的なまみの魅力を味わって。



3.『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ
著・文/木下龍也、岡野大嗣,発行/ナナロク社




こちらは穂村弘さんより少し下の世代、今の短歌界の2大王子といっても差し支えない2人による異色のコラボレーション歌集。7月のある1週間を舞台に、男子高校生2人の繊細な心の揺れや衝動を描いています。物語を読むというよりは写真を見ているように鮮烈。あ、そうそう、このタイトルです。当然ですが(?)短歌になってるんですよね。



4.『私の好きな孤独』潮文庫
著・文/長田 弘,発行/潮出版社




孤独というのはふつうは忌み嫌われるものですが、この言葉の組み合わせ、好きだなあ。詩人である長田弘さんの昔のエッセイ集ですが、今年になって文庫化されました。せわしない情報社会から距離をおきたいときに、知らない街の喫茶店とかでゆっくり読みたい本。自分がどこにいるのか見失ってしまえそう。



5.『友だちリクエストの返事が来ない午後
著・文/小田嶋隆,発行/太田出版




先日永眠された小田嶋隆さん。生前はたくさんのコラムを執筆されていました。もし未読だったらこんなユーモアあふれるタイトルの一冊から読み始めてみるのはどうでしょうか。大人の友情について考察しているエッセイですが、独自の鋭い視点にハッとさせられてしまうかも。



6.『愛はさだめ、さだめは死』ハヤカワ文庫 SF
著・文/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,訳/伊藤典夫、浅倉久志,発行/早川書房




とにかく名タイトルが多いといえば昔の海外SF小説です。『夏への扉』『星を継ぐもの』といったシンプルにして名作の匂いがプンプンするものから、『くらやみの速さはどれくらい』『月は無慈悲な夜の女王』と言った文章系まで幅広くかっこいい。それでSF好きの友人に『天の光はすべて星』よりかっこいいSFのタイトルってある? とLINEしてみたところ、秒で「愛はさだめ、さだめは死」と(のみ)返ってきました。なるほどたしかに優勝だ。



7.『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』河出文庫
著・文/鈴木しづ子,発行/河出書房新社




あまり有名ではないのですが、鈴木しづ子さんは娼婦俳人として戦後に2冊の激情的な句集を残し、昭和27年に失踪、消息不明となってしまった人。20年前なら椎名林檎として、今ならAdoとして活躍し、若い女子から共感されていたのではないでしょうか。いや、この頃すでにそういう存在だったのかな。ことばのセンスが天才で、うぎゃーっとなってしまいます。



8.『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門
著・文/北村紗衣,発行/文藝春秋




昔から『セックスと嘘とビデオテープ』しかり「部屋とYシャツと私」しかり、関係なさそうで意味ありそうな3つの単語の組み合わせは人を惹きつけるもの。映画などを例に挙げたフェミニズム批評集。メジャー作品をまた別の角度から見てみるという知的なよろこびを味わわせてくれます。



9.『去られるためにそこにいる 子育てに悩む親との心理臨床
著・文/田中茂樹,発行/日本評論社




子育てに悩む親に向けて書かれたカウンセラーの本ですが、タイトルがすごいと思う。「子どもは去っていくものですよ」というような濁し方ではなく、「去られるために、いる」とは。でもそうかもしれないと思います。確執とエゴで行き詰まりがちな関係には、ときにこれくらい強い言葉が必要なんでしょう。



10.『思考の庭のつくりかた はじめての人文学ガイド』星海社新書
著・文/福嶋亮大,発行/星海社




ハッとするようなかっこいいタイトルとは違うけど、人目を引く面白いタイトルが生まれやすいのがいわゆる「新書」。『スマホ脳』『ケーキの切れない非行少年たち』などのヒットはタイトルによるところも大きいのかなあと思います。先日新書コーナーで思わず手に取ったのはこのタイトル。人文書のすすめのような内容でしたが、「庭」という一語が効いてますよね。本屋さん散歩の際は、たまには新書コーナーもじっくり見てみると面白いですよ! ぜひおためしください。


──



選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。