あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「おもしろすぎる大人の自由研究の本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。


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1.『猫にGPSをつけてみた 夜の森 半径二キロの大冒険
著・文/高橋のら,発行/雷鳥社




都会では特に、猫を自由に出入りできるように飼っている人はもう少ないかもしれません。里山でたくさんの猫を飼うことに決めた著者と、自由にのびのび生活する猫たちの暮らしが描かれたこちらのエッセイは、猫好きならうらやましさ爆発すること間違いなし。そして猫たちはどこへ出かけているのか。気になる方はぜひ。



2.『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?
著・文/上田啓太,発行/河出書房新社




こちらもいわゆる「やってみた」系の本ではありますが、何しろ無職期間は6年! 正直、最初の心境の変化(自由であることのよろこびや、それにも飽きてくることなど)は予想通りですが、そのあとの心の変容がすごい。これってもう悟りの境地では。いや、もともとの哲学的な資質が長い静寂によって立ち現れたのか。いやこれはやった人にしか書けない1冊だなとしみじみ感心。



3.『あの夏の正解』(新潮文庫)
著・文/早見和真,発行/新潮社




2020年・コロナ1年目の夏。甲子園中止のニュースを聞けば、誰もが「球児たちはがんばってきたのにかわいそう」と思うことでしょう。しかし、短いテレビニュースではわからない、彼らの心の奥底にある思いはどんなものだったのか。元高校球児であり作家である著者が何度も彼らのもとに通い、言葉を引き出す。甲子園好きはもちろんのこと「感動の押し付け系か?」とそれ系のニュースをななめに見ている人にこそおすすめしたい。



4.『20ヵ国語ペラペラ 私の外国語学習法』(ちくま文庫)
著・文/種田輝豊,発行/筑摩書房




大人の勉強、というと、いつも上位に挙がるのが外国語の修得。何を隠そう私も「英語がもっとできたら」と思いながら中2レベルを維持し続けているひとりです。学習法とありますが、この本の内容が勉強の参考になる要素は皆無。ただ、特別な人の頭の中を覗き見て、この才能ゆえの奇妙な人生を知り、ことばが通じ合うよろこびに立ち会えるのはとっても面白くて、脳がキラーンとしてしまいます。



5.『世界ピクト図鑑 サインデザイナーが集めた世界のピクトグラム
著・文/児山啓一,発行/ビー・エヌ・エヌ




標識や案内板など、世界のあらゆる場所で活躍する人型の記号「ピクトさん」。日本のサインデザイナーである著者が海外で撮影してきたたくさんの写真を分類し解説する1冊。多種多様のピクトのかわいさを愛でるのはもちろん、デザイン好きな人には勉強になる部分も多く、また看板を通してその国の背景や社会の変化を知ることもできるんだなあと驚くことばかり。どの業界のことでも生粋のオタク(?)の解説ってほんとうにいいものです。



6.『料理に役立つ 香りと食材の組み立て方 香りの性質・メカニズムから、その抽出法、調理法、レシピ開発まで
著・文/市村真納,レシピ制作/横田 渉,発行/誠文堂新光社




料理が好きな方なら、自宅でかんたんにできるこんな実験の本はいかがでしょうか。おそらく一般実用のために書かれてはいないこの本、いったい誰が何のために使うのか……専門書なの? 何なの? という内容で、「分子が」というワードで始まる理系の研究っぽい雰囲気にすっかり魅せられてしまいます。この夏は料理の香りの実験をしまくって、壁新聞を作って家に貼るのもいいかも。



7.『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫)
著・文/トーマス・トウェイツ,訳/村井理子,発行/新潮社




いや、同じ料理でももう少しものづくりのほうを研究したい(?)という方にぴったりの本がこちら。卒業論文のためにゼロからトースターを作る、そのためにまずは材料を探しに鉱山へ行くぞ、というちょっと奇天烈な著者。ユーモアたっぷりに試行錯誤の様子が綴られていて楽しく読めるのもいいし、私たちがふだん使っているプラスチックって……と環境問題についてふと考えさせられたりも。はたしてトースターは完成するのか? 結果はこちらの表紙をごらんください。



8.『日本のインド・ネパール料理店
著・文/小林真樹,発行/阿佐ヶ谷書院




気づけば日本中のどこにでもあって、だいたい同じようなメニューのインド風カレー店。サラダのオレンジ色のドレッシングまで同じような気がします。いったいなぜこのスタイルに? なんでみなさんは日本に来たの? と、そんな疑問を解決するべく、著者は北海道から沖縄まであらゆるインネパ店へ向かい、店主の話をひたすら聞いた。そこで見えてきた彼らの歴史、ビジネス、そして人生。まさに研究と呼ぶのにふさわしい壮大な1冊!



9.『目の見えない人は世界をどう見ているのか
著・文/伊藤亜紗,発行/光文社




目が見えている自分からすると、目の見えない人の感覚はなかなか想像できず、つい、今の自分から視力を奪った世界に近いのかなと捉えてしまいます。でもこの本を読むとまったくそうではないということがありありとわかる。誤解を恐れず言ってしまえば、「すごい!めちゃくちゃおもしろい!」と。そうか、世界って私が見ている形が全部じゃなかったな、と、そんな当たり前のことを鮮やかに突きつけてくれる本です。



10.『べつに怒ってない
著・文/武田砂鉄,発行/筑摩書房




ここまでさまざまなユニークな研究をご紹介してきましたが、「無」の中からも人は何かを考えたり何かを見つけることができる、という例。わざわざ考えなくてもいいことばかり考えている、と自負する著者の「だからなに」としか言いようのないエッセイ。エレベーターで蛾を助けた話とか、喫茶店でケーキが品切れだった話とか……。が、絶妙なリズム感と観察眼で、これがとんでもなく面白い。読んだ後はきっとあなたも、それまで気にならなかったことに気づく「目」を手に入れてしまっているはず。


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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。