これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?



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第5回「今の自分に合った恋愛へ一歩踏み出すには?」

 

月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。甲斐みのりです。

11月になり、深まる秋の景色の中に冬の気配もちらちらと。今年ももう残り2か月……と、抱える仕事やせわしい日々の生活を思い、トロンとした目で途方に暮れかけていたところへまゆみ もちさんからの相談が届き、「おお、恋愛か!」と、パチンと目が覚めたように前のめりになりました。



【今月のお悩み相談】

相談者:まゆみ もちさん

迷いましたが……お恥ずかしいですが、恋愛について書いてみます(笑)。

私は世に言うシングルマザーです(もっと良い言い方ないのかなぁ 笑)。12年目です。実家が地方なので親も頼れず、人に頼るのも苦手で、必死で子育てと仕事をしてきました。上の娘は大学生、下の息子は中三になり、生活も少し楽になってきて楽しく暮らせています。

コロナ禍になる以前からですが、私はいつも仲の良いご夫婦に憧れながらも、再び家族というカタチが怖い自分もいます。

だからでしょうか、初めから転勤になるような相手を好きになってしまったり、お付き合いをしても、途中から彼との心の距離(?)が出来てしまったりです。いつも恋愛が苦手と思ってしまう、そんな自分を変えたいのですが、何か良い方法はありますでしょうか? (´∪︎`*)

どうにも歳を重ねると、“恋愛”という言葉や感情そのものに気恥ずかしさを覚えてしまいがちですが、短いながらもまゆみさんの語りは、湿り気がないさっぱりとした明るさがあり、ああいいなあ、こんなふうに言葉にすることは大切だなあと感心し、「そうそう、いくつになっても恋愛が身近にあっていいじゃない」と、こちらまで心が浮き立ってきます。


一方で、恋愛や結婚、人との出会いや別れには、さまざまな形があります。誰かとともに生きることを考えることと、一人で自分らしく生きること、どちらもステキなことだと思います。また、それぞれが自分個人の人生を歩む中、恋愛や結婚の先に別れという選択があるのも当然です。まゆみさんのように、「恋愛がしたい!」と願う人が身近にいたら、いいねいいねと肩を抱きたくなりますが、恋愛や結婚が人の全てではないというのも、この場で強くお伝えしたいです。恋愛をせずとも罪悪感を感じることはないですし、今は結婚という形にとらわれず自分らしく生きられる時代。“誰かと一緒に”という前提なしで、「自分の人生を堪能する!」という方ももちろん、いいねいいね、のびやかに行き(生き)ましょうと、肩を抱きたくなります。

 



さてさて話を戻しまして。まゆみさんにとって、人に頼らず二人のお子さんを育ててきた時間は誇りですね。必死で子どもや仕事と向き合ってきた中、他者には計り知れない、さまざまな思いや出来事の連続だったことでしょう。そうして今、「生活も少し楽になってきて楽しく暮らせています」とからっと言えること、「自分を変えたい」とこうして一歩踏み出していることからも、人生のひと山をこえたまゆみさんが、いかに芯があり魅力的な人柄であるか伝わってきます。お子さんも成長するにつれ、まゆみさんが楽しく幸せであることが自分たちの幸せでもあると感じるようになるのではないでしょうか。これからさらに、まゆみさん自身とお子さんが心地よく過ごせるように、ここに書いてくださった、まゆみさんの願いが叶いますように!
(シングルマザーという言葉、違う表し方があるといいなと私も思います!)


まゆみさんの話を伺うかぎり、「家族というカタチが怖い」と臆病になったり、恋愛に苦手意識を持ちながらも、真っ向から恋愛という感情を拒絶せず、これまでにも人を好きになり、お付き合いしてきたとのこと。その上でなにより、まゆみさんが恋愛への苦手意識を克服することを願っているので、大きな心配はいらないなあと感じました。これからも人を好きになり、関係を築いていけるはずです。

 




まゆみさんは、これまではお子さんを第一に考え、母としての気負いがあったはずですから、ある一時期、恋愛においてスムーズにいかなかったこと、ネガティブにとらえなくていいと思います。器用にできず当然ですよ! 今から、次を大切にしましょう。「私はいつも仲の良いご夫婦に憧れながら」とのことですが、その憧れに近づくことに、早いも遅いもありません。今は怖いと感じることも、変化する可能性は確実にあります。もちろん、まゆみ さん次第ではありますが、「変わりたい」と手探りするまゆみさんは、きっと変われると思います。


まゆみさんは、10代、20代、30代、40代……と歳を重ねるごと、恋愛観は変化していませんか? 出会う人も自分自身も、以前とは違う価値観を抱いているはずですし、また同じ人を好きになるわけではありません。それからもしも、これからまた好きな人ができて、心の距離ができることがあっても、まゆみさんが悪いわけでもありません。ただ相性が合わなかっただけ。そんなときは、さらっとからっと、さあ次へ! これまでまゆみさんが経験してきた時間や思いを、柔軟に受け止めてくれる方を気負わず再び探しましょう。そして、そんな方に出会ったときは、その方のこれまでの時間や思いも柔軟に受け止めてあげてください。


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私はこれまでにも、同世代、年上、年下と年齢関係なく、「恋がしたい」「パートナーがほしい」「ときめきたい」などと、外側に向いた気持ちを打ち明けられることがよくありました。そのたびに「いいじゃない、いいじゃない!」と、こちらまでなんだか嬉しくなって心から応援したい気持ちが湧き起こり、ぎゅっと背中を抱きしめてきました。


誰かを好きになることは、その人自身が抱く思い。応援と言いながら、私のような他者ができることは限られています。いつもよりおしゃれを楽しみながら行動範囲を広げてみることを提案するくらい。髪型を整える、お化粧を楽しむ、お気に入りの洋服に身を包む、好きな場所に出かける、いつもと違う行動をしたり場所を目指すなど、一人で過ごしているときでも自分自身の心がときめいていると、身軽に気軽に広い世界へ飛び出していけるし、他者からも魅力的に感じるでしょう。私の友人の話ですが、「恋がしたい、自分を変えたい」と強く思ったのをきっかけに、来客の予定がなくても、部屋に花を飾り始めたそうです。すると自分の気持ちが上向きに変化し、まもなく出会った人と結婚に至りました。“自分の気持ちをときめかせるなにか”を探して日々を楽しむことがパートナーと出会う近道なのかもしれません。


趣味、仕事、日常の生活圏内、旅先、紹介、どんなところに出会いが待ってるか分からないものですから、今までよりもちょっとずつ世界が広がるようにと、可能性を探ることも一つです。これも私の友人の話ですが、自分が少しでも興味があって楽しめる分野の集いを探して一人で参加するようになったことで(その友人の場合は日本酒、いろいろな店で開催される日本酒の会に参加していました)、複数の新たな仲間ができ、同じ趣味のパートナーと出会い仲良く過ごしています。今このコロナ禍では、複数で集まる趣味・専門の会が以前より減少していますが、少人数で開催されていることもあるので、検索してみること自体も楽しいひとときではないでしょうか。





とはいえ、今までとは違う場に一人で踏み出すのは大きな勇気が入りますよね。私、ずっと考えていたことがあるのです。パートナーと出会うのに、年齢、職業、趣味、年収、理想の容姿……と古風なこだわりが薄れてきている時代。そこで、手紙社の出番ではないでしょうか。すでに、手紙社の部員制度で細分化された趣味の場が提供されていますが、さらに「出会いのきっかけ」に特化する機会や企画があってもいいのでは? と。月刊手紙舎の読者さんにしても、自分ならではの趣味を持つ人が多いのではと思うのと同時に、恋愛に対しては内向的であったり、基本的には一人でも行動できるのでパートナー探しを先延ばしにしていたり、恋愛の悩みを打ち明けることが苦手だという人がいるのではと。


手紙社、旅、散歩、文房具、コーヒー、焙煎、カフェ、純喫茶、地ビール、日本酒、ワイン、民藝、俳句、名建築、落語、美術館、読書会、ミニシアター、京都、銭湯、料理、お菓子作り、離島、昭和、パン、絵本、植物、キャンプ、登山、音楽フェス、クラフトフェア、お笑い……などなど、より細分化した興味・趣味を持つ人同士を紹介できるようなシステムがあったらいいのになあ、それができるのは手紙社では? と、まゆみ もちさんからの相談の場をお借りして、そっと提案してみます!


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甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2021年4月には『たべるたのしみ』に続く随筆集『くらすたのしみ』(ミルブックス)が刊行。