あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「もっと家族が好きになってしまう映画」です。その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月も有坂さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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有坂セレクト1.『I am Sam アイ・アム・サム』
監督/ジェシー・ネルソン,2001年,アメリカ,133分

渡辺:ああ、そっち!
​​有坂:これはショーン・ペンが主演して、親子の話ですけど、パパ役がショーン・ペン、娘役が6歳の頃の天才ダコタ・ファニングが共演した映画になります。これはショーン・ペン演じるサムは劇中のセリフでもありますけど、7歳児程度の知能しか持っていないという、ちょっと障がいがある人なんですけども、そのサムには一人娘がいて、その名をルーシー・ダイアモンドというダコタ・ファニング演じる娘がいます。2人はささやかな生活を送りながらも、7歳児程度の知能しかないと言われているそのお父さんの年齢を、いよいよルーシーが超えますっていうときに、その彼に養育能力はあるのかどうかということが問題になってきて、ソーシャルワーカーによって2人が引き離されてしまうんですね。弁護士を頼って、何とか裁判を通してルーシーを取り戻そうとする、そういった物語になっています。で、この映画って、パッケージにブランコに2人で乗っているシーンとか、名シーンの連続で、しかも、この映画のサウンドトラックは本当にスルーせずにはいられない。なんと、この映画はビートルズのカバー曲で構成されているサウンドトラックなんですね。さっき、娘の名前をルーシー・ダイアモンドと言いましたけど、それもビートルズの曲名から取られていますし、あとは劇中「愛がすべて」っていうセリフ「All You Need Is Love」とか、あとは「ビートルズのレコードジャケットといえばこれ」っていう、アビイ・ロードの横断歩道を歩いているシーンにオマージュを捧げたような場面も出てきます。なので、この映画は、サムとルーシーという親子の愛の物語を描いて、やっぱり現実の厳しさみたいなものも描きながらも、大きなところで言うと、そういった「愛がすべて」っていうような大きな愛で包まれている。それをビートルズの楽曲を通して大きな愛で包み込むという意味で、本当にこれまでのヒューマンドラマとは違った、特別な魅力のある映画かなと個人的には思っています。
渡辺:うんうん。
有坂:お父さんが、ちょっと知的障がいがあるっていうことを、どう捉えるかっていうのは、捉える人の考え方で全然変わってくる。じゃあ、その一番大事なルーシーはどう考えているか、本当は一番そこを大事に考えなきゃいけないよねっていうところなんだけど、やっぱり社会のシステムがそれを許さないとか、そういった意味でいろんな角度から考えることができる。とても見ごたえもある作品ではないかなと思います。これってダコタ・ファニング、さっき、順也が天才って言いましたけど、本当に誰もがダコタの魅力に惹かれると思います。実際、オスカーは獲ってないんだけど、ゴールデングローブを獲ったっていうくらい演技派として評価も高かったんですけど、ダコタの妹、今や、そっちのほうが有名。エル・ファニング。実は、このエル・ファニングが、この『I am Sam アイ・アム・サム』に出ているんですよ。当時は、エル・ファニングを知らないから、2歳の頃のエル・ファニングが観られるので、ぜひエル・ファニングファンも、そこに注目して観てほしいなと思います。この映画の日本版のキャッチコピーは、「いっしょなら、愛は元気」っていうキャッチコピーです。本当にこのコピーに、この映画の大きなテーマが込められているかなと思います。ぜひ、世界中のパパとママに観てほしいなと思う一作となっていますので、ぜひAmazonPrime、U-NEXT、Netflix等で観られるそうです。まだ、観ていない方はぜひ。これ、サウンドトラックは、僕、本当に過去最も聴いたかもしれないっていうぐらい聴いているサウンドトラック。なんかビートルズのカバーだったら、オリジナルのほうがいいって思っちゃいがちなんですけど、カバーとして本当によくできている曲がそろっているので、ぜひ観ていただければと思います。
渡辺:なるほどね。父・娘ものですか。
有坂:そう、もう娘が生まれた身としては、そういうところもこれから重なってくるのかもね。
渡辺:なるほどね。
有坂:順也のところもね、一人娘。
渡辺:そうですね。ショーン・ペンも、これけっこう評価されていたけど、ダコタがやっぱりすごかったね。
有坂:そうだね。
渡辺:スターバックスで働いているんだよね。
有坂:そうそう、スタバでね、今は、スターバックスはけっこう、うちの近くの井の頭公園のスタバも聴覚障がいのスタッフの人がいて、今となっては当たり前になってきたけど、これ、映画で観たときは、ちょっと初めて観る風景だよね。早かったね、スタバがね。
渡辺:なるほど、2001年だっけ?
有坂:そう。
渡辺:じゃあ、続けて、そしたらこれにしようかな。2001年のアメリカ映画いきたいと思います。


渡辺セレクト1.『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』
監督/ウェス・アンダーソン,2001年,アメリカ,110分

有坂:うんうん、はい。
渡辺:『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は、ウェス・アンダーソン監督の初期作ですね。
有坂:おしゃれなのが、きましたね。
渡辺:同じ2001年の映画ですけど、こっちはかなり日本だとミニシアターで公開されたので、規模感はだいぶ小さかったですね、当時。これは、ウェス・アンダーソンが、当初、変な家族を描くでおなじみみたいな形で、しかも、家族がみんな天才っていう、そういうのが特徴の変な家族を描いていたんですけど、この 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』というロイヤル・テネンバウムズ家の話。お父さんはジーン・ハックマンで、超偏屈で、3兄弟なんですけど、それぞれ経営者・ビジネスマンと、劇作家と、テニスプレーヤーという3兄弟。それぞれ、みんな天才なんですよね。幼少期から才覚があってみたいな。で、3男のテニスプレーヤーがベン・スティラーなんですけど、子どもも3兄弟が全員赤いジャージを着ているっていう。
有坂:アディダスのね。
渡辺:っていう、本当に風変わりな、ウェス・アンダーソンを観たことある人だとわかると思うんですけど、すごいみんなキャラっぽくて、全員風変わりみたいな、もう相容れない人たちが家に集まって、家族の再生を試みるみたいな感じなんですね。まあ意見は合わないみたいな、そういう家族のドタバタを描く基本コメディなんですけど、やっぱりウェス・アンダーソンなりの相容れない人のドタバタやっているものが、全体的に観ていて、リズムが心地いいみたいな、面白さみたいなのを、この『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のときに、一気にこれで割と世に出てきた感じかなと思います。当初は、このリズムに慣れていなかったから、「なんだこれ?」っていうね。
有坂:そうなんだよね。同じこと言おうと思ったよ。
渡辺:変なのが出てきたなって感じだけど、とにかくおしゃれっていうね、ビジュアルとか美術とか、そういう音楽も含めて、すごいセンスはあるなっていうので。
有坂:上から目線だね(笑)。
渡辺:(笑)「いいんじゃないの?」みたいな。
有坂:でも、今、順也が言ったように、これって日本で初めて劇場公開されたウェス映画。この前の天才マックスの世界とか、Bottle Rocket(アンソニーのハッピー・モーテル)っていうのは、ビデオスルーだった。当時って、アメリカのコメディ映画が面白くもあり、しかも、個性的な監督のコメディ映画とかがどんどん出てきているんだけど、日本人とアメリカ人は笑いのツボが違うっていうだけの理由で、のきなみビデオスルーになっていた。劇場で公開されていなかった時代。で、初めて『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』を観たとき、ウェス・アンダーソンのスタイルがありすぎて、入り込めなくて、笑っていいのかもわからないのは、すごい覚えていて。だけど、それは理解できないから面白くないじゃなくて、理解できないんだけど、なんかすごいもの観たなっていう映画だったんだよね。だから、やっぱりパンフレットを買って読み込んだし、過去作を観ていくと、やっぱりウェスって自分が影響を受けた、文学とか映画とか音楽を詰め込むじゃない。そういうものがだんだん見えてきて、ウェスの沼にハマっていくわけです。それは、すごい覚えてる。
渡辺:そうだね。ここからね、ライフ・アクアティックとか、ダージリン急行も3兄弟の、あれは兄弟の話だけど、割とそういう家族とか兄弟の話みたいなものは、けっこう描いてる感じかなと思います。
有坂:これ、恵比寿ガーデンシネマで公開されていたんだよね。で、パンフレットが、文庫サイズのパンフレットで、川勝(正幸)さんが編集して、それが本棚に飾ってあって。でも、今やかなりレア版、高額商品、高額パンフレットになっているらしいんですけど。そうやって、やっぱりだんだん監督の評価が上がると、過去作のパンフレットの相場が上がるっていう。タランティーノとかね、そんなウェス・アンダーソンの初公開作だよね。
渡辺:これもけっこう配信で観られます。まだ観てない人もいると思うので、ぜひおすすめです。
有坂:じゃあ、僕の2本目、いきたいと思います。順也に取られる前にこっちにしよう。2011年のアメリカ映画、いきたいと思います。


有坂セレクト2.『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
監督/スティーヴン・ダルドリー,2011年,アメリカ,129分

渡辺:うーん。
有坂:これはオスカー俳優として有名なトム・ハンクス、サンドラ・ブロックが共演したということでも話題になっているんですけれども、でも、主人公はこの2人ではなくて、オスカーという少年が主人公です。この映画自体は、アメリカの9.11の同時多発テロが背景になっていて、その同時多発テロでお父さんを亡くしてしまった少年が、主人公を演じるオスカーです。そのお父さんがトム・ハンクス、そのお父さんが突然この世からいなくなってしまって、その死を受け入れられないオスカーが、ある日、お父さんの部屋で封筒の中に入っている鍵を見つけるんですね。その鍵が、きっとお父さんが自分に残してくれたメッセージに違いないということで、その鍵の謎を探しにニューヨークの街に飛び出てという、オスカーのちょっとした冒険を描いたヒューマンドラマなんですけど。このオスカーの健気な姿。やっぱり子どもにとって一番の恐怖って、両親がいなくなるってことだと思うんです。それを、アメリカの歴史に残ってしまうような事件で、亡くしてしまうってことは、小さい子どもは、なかなか受け入れがたいことだとは思うんですけれども、わずか、かすかな希望として一つの鍵がお父さんと自分をつないでくれるということで、物語がどんどんどんどん展開していきます。トム・ハンクスは、前半、映画の冒頭で亡くなってしまうんですけども、例えば、少年オスカーの記憶の中であったりとか、その後も映画の中にはもちろん出てきます。だんだんですね、いろんな人とオスカーは出会って、自分で行動することで、いろんな人と出会って、だんだんその亡きお父さんの知らない姿とかもわかるようになってきて、最後の最後でその秘密が明かされるという物語になっています。
渡辺:うん。
有坂:僕はもう初めて観たとき、後半20分くらい、もう涙が止まらない。もう本当に、今思い出してもけっこう危ない。ちょっと酔っ払っているので。でも、なんかこう世の中で、今もいろいろ社会は不安定ですけど、悲しいことが起こったりとか、自分の心が壊れちゃいそうなこととか、実際に起こったりしますけど、それでも前を向いて生きていきたいなとか、愛を持って生きようみたいな、そういうことが、たぶん人間の生きていく上で本当に大事なことなんだなってことを、この映画は改めて教えてくれるかなと思います。この素晴らしい作品を作った監督、スティーヴン・ダルドリー。この人はめぐりあう時間たちとか、リトル・ダンサーの人です。あんまり、ちょっと知られていないんだけど、脚本がよくできていると思うんですけど、これ、フォレストガンプを手がけたエリック・ロスなんですね。
渡辺:じゃあ、トム・ハンクスと、ここでもやっているという。
有坂:そうそう、そうなんですよ。あと、オスカー君のファッションもめちゃくちゃ可愛いので、一見、題材的にすごい重い印象ですけど、もちろんそういった重いメッセージもありながら、すごくテンポのいい映画的にワクワクするような要素もあり、ファッションも可愛く、でも、後半は涙が止まらないという、素晴らしい映画になっています。
渡辺:これ、恵比寿のガーデンプレイスでもやったもんね。
有坂:そう、やった。15日間やったイベントの最終日に、これをやりました。
渡辺:そっか、あれ、最終日だったっけ?
有坂:そう、なんでこれが最終日だったんですかって、すごいいろいろな人から聞かれた。
渡辺:なるほど。泣く映画が続きますね。
有坂:そうだね。確かに。
渡辺:じゃあ、泣く映画いきたいと思います。
有坂:映画観て泣くっけ?
渡辺:泣くよ(笑)。全然泣くから!
有坂:あと、どこで観れますか? ちょっともう一回出してみようかな。U-NEXTとか見放題。アマプラもレンタルだったら観られるね。観てほしい。これ、予告編は、U2の曲がめちゃくちゃハマっていて、でも予告編のみなんです。
渡辺:そうか、そういうのあるよね、たまに。
有坂:予告編もぜひ観てください!
渡辺:じゃあ、続けて僕の2本目は、2017年のアメリカ映画です。


渡辺セレクト2.『ワンダー 君は太陽』
監督/スティーヴン・チョボスキー,2017年,アメリカ,113分

有坂:はぁ、うんうん。
渡辺:これはもう、めちゃくちゃ号泣ものの作品です。これは少年、オギーっていう男の子が主人公なんですけど、他の子たちと違うところっていうのが、唯一顔に障がいを持った男の子なんですね。で、整形手術とかを繰り返してはいるんですけど、それでもちょっと見た目が人とは違うというのがあって、なかなか学校に行けないという男の子が、家族の支えもあって、お父さんとお母さんがね、オギー大好きで面倒を見て、ついに小学校デビューするっていうお話になります。実際、小学校デビューするんだけど、案の定、いじめに会うんですね。っていうのを、お父さんお母さんが明るく支えていくっていう、そういう親子の話だったりするんですけど。でも、オギーが、やっぱりこう自分からどんどん進んで、それを変えていこうっていうオギーのけなげな姿に涙するし、またね、個人的に好きなのがお姉ちゃん。お姉ちゃんが、実は自分自身もいろいろ友達ともめてとかいろいろあるんだけど、それでも弟を助けるというか、支えるみたいな。そういうめっちゃいいお姉ちゃんじゃんっていうところで、また泣くっていう。そういうオギーっていう少年を支える家族が、みんなチームとなって支え合っていくとか、オギー自身も友達をつくって前に進んでいこうみたいな、本当にね、とにかくポジティブになれるし、その姿を観てずっと泣いてるっていう、そういう作品ですね。これは本当にめちゃめちゃおすすめですし、家族の愛を感じることができる作品です。
有坂:お姉ちゃんさ、最初から「もう弟を支えるわ」っていう感じじゃないんだよね。
渡辺:そうなんだよね。
有坂:お姉ちゃんは、お姉ちゃんで悩みがあるんだけど、やっぱり弟のほうに親の目がいって、自分の悩みを打ち明けられないみたいな葛藤があるんだよね。その描き方がすごい秀逸だなって。
渡辺:そこも、ちゃんと描いてるところがね。
有坂:そうなんですよ。すごい、なんかそういうことだよね、兄弟とか家族って。
渡辺:これ、監督がスティーヴン・チョボスキーという人で、ウォールフラワーとかね。
有坂:そう、大好き。『ウォールフラワー』。
渡辺:あんまり多く監督はしていないんですけど、その中で初期作の『ウォールフラワー』っていうのが、また、青春群像劇としてすごいいいし、あと最新作が、ディア・エヴァン・ハンセンですね。これが、2年前くらいかな? 3年前か? けっこう作品全部いいやつをつくるので、音楽もいいしね。
有坂:そうだね。これあれだよね、ジャック・ホワイトのアコースティックの曲があって、それがめちゃくちゃかっこいいんだよね。
渡辺:そうだっけ? 『ウォールフラワー』も音楽がめちゃくちゃいいよね。
有坂:これ、スターウォーズのヘルメットだよね。あまりネタバレになるから言っちゃだめか。
渡辺:ヘルメットをかぶってね。こちらも、家族のおすすめの映画となっております。これ、けっこう観られますね。見放題で入ってます。
有坂:すごいね。フィルマークスの評価が4.3?
渡辺:すごいよね。
有坂:これ操作してる?
渡辺:してないです(笑)。
有坂:大丈夫ですか? フィルマークス。
渡辺:これは初期から本当に高かった。みんな泣くやつです。
有坂:そうだね。じゃあ、そんな爽やか感動ものがきたなら、それをバッサリいくようなものにしようかな。いいのかな? じゃあ、いきます。僕の3本目は、1978年のアメリカ映画です。


有坂セレクト3.『インテリア』
監督/ウディ・アレン,1978年,アメリカ,93分


渡辺:ええ!
有坂:これはウディ・アレンの初期作、中期作かな。ウディ・アレンというのは、もともとスタンダップ・コメディアンで、そこから映画監督になって、初期はもうベタベタなコメディ映画。だんだんその中にドラマを、わりと深いドラマを入れ始めて、それがある種、完成形としてできたのが、アニー・ホールですね。『アニー・ホール』をつくって世の中から評価されて、いよいよ何でもつくれますっていうときにつくったのが、この笑いゼロのドシリアスな『インテリア』という、家族の崩壊劇です。
渡辺:(笑)
有坂:これ、本当に世界中のネガティブな家族の要素を詰め込んだんじゃないかっていうぐらいのものなんですけど、今回は「もっと家族が好きになってしまう映画」として選んでいますけど、なんで入れたかというと、これもある種一つの家族の形で、映画というのは色んな楽しみ方がありますけど、ある種一つ現実逃避とか、現実とは違う時間が体験できる。そういった意味で、この『インテリア』で自分の知らない家族の時間を体験して現実に戻ったときに、改めて自分の家族は幸せなんだなとか、素敵な家族だったんだなということを反面教師的に、このぐらいまでいけば反面教師にできること間違いなしです。これはどんな内容かというと、いわゆるお金持ちの人たちです。高級住宅地で別荘を持っているような人たちなんですけど、30年連れ添った老夫婦がいて、旦那さんが離婚をするという、まさか想定もしていない展開になって、その奥さんはショックで、「もうちょっとこの世にはいられない」みたいなことになって、大事件になって、3人いる娘も「お父さん、何突然、そんなこと言ってんの?」ということで、一見幸せそうに見えた夫婦のバランスが崩れるんですよね。その3人の娘と両親が集まって、ちょっと話をしようということで、ロングアイランドにある家に集まるんですけど、その家が基本的には主人公と言ってもいいぐらい、この映画のタイトル『インテリア』ですけど、この家というのが、母親がめちゃくちゃ完璧主義者の人で、インテリアコーディネーターなんですよ。家のインテリアも全部お母さんが、ミリ単位で物を置くところまで全部コントロールしているんですね。そこで育った3人の娘。本人たちは意識せずとも、その完璧主義者のお母さんのコントロール下に置かれて育った娘たちだから、ちょっとやっぱり母親に対して本音が言えないとか、どこか自分を抑えて生きているとか、そういう今まで表に出てこなかった感情が、お父さんの突然の離婚話によってあふれ出て、もう見たくもないですね、家族の罵り合いが始まるんですね。そこのすごいシリアスな部分を、このウディ・アレンというのは、一切逃げずに真正面から描き切った。この映画って、いわゆるBGMもまったく使われていないし、僕の記憶が確かなら、エンドロールもないんだよね。
渡辺:へぇー。
有坂:冒頭に確かクレジットが出て、エンドロールも確かなかった。やっぱりそこまで、映画史上類を見ないぐらいのシリアスな映画。そこまでのものがつくれたのは、さっきお話した『アニー・ホール』の成功があったからなんですよね。だから、そこまで本気でウディ・アレンが映画監督としてチャレンジしたかったものなので、何かそういう目線で、一表現者の際を楽しむという意味でもいいと思いますし、さっきお話した反面教師として、本当にこんな家族もいるんだなって結構驚くと思います。僕も数回しか観てないけど、かなり強烈に印象に残ってて。
渡辺:そうだよね、ウディ・アレンってコメディのイメージあるからさ、超絶暗い話をね。
有坂:でも、映像がとにかく綺麗で、もちろんタイトルにもなっている『インテリア』、インテリアも、ものすごいこだわってつくっているし、あと、ファッション。そういった視点で観て、この映画が大好きっていう人も実は結構いたりするので、恐れずに自分の心のタイミングがあったときに、チャレンジしてほしいなという、そんな家族の崩壊劇です。
渡辺:崩壊劇、そっちできましたか(笑)。これ好きだよね。
有坂:好きだね。この映画が好きって思ったときに、自分の根暗さをすごい思い知らされた記憶があります。
渡辺:なるほど(笑)、じゃあ、ちょっと僕の3本目いきたいと思います。僕は、2017年公開のイギリス映画。


渡辺セレクト3.『わたしは、ダニエル・ブレイク』
監督/ケン・ローチ,2016年, ベルギー、イギリス、フランス,100分

有坂:出た!
渡辺:これも、ケン・ローチっていう、イギリスの巨匠が描いた作品になります。ケン・ローチはかなり特徴的というか、いつでも貧しい人たちの側に立って、社会を訴えるようなタイプの作品を撮るんですけど、この話もすごくて、おじいちゃんが主人公なんですね。大工のおじいちゃんが病気になって一旦休業するので、年金じゃなくて、失業手当をもらうっていって役所に行くんですけど、デジタル化になってるんで、全部デジタルで申請お願いしますとか言われて、パソコンとか一切できないから、そんなのできねえよって言っていたら、失業しているのに失業手当がもらえないみたいなことになっていって、同じようなシングルマザーがいて、その人を助けるんですけど、そのシングルマザーもちょっとした掛け違いで貧困に陥ってしまうっていう。こういう本当に真面目に生きてきた人たちが、ちょっとしたつまずきだけで、社会の枠からはみ出されてしまうっていう。全然悪くないんだけど、ちょっとなんかこう一個つまずくだけで、そっち側に簡単に落ちてしまうっていう、そういうなんか不条理さみたいなのを描いた作品なんですよね。
で、このおじいちゃんとシングルマザーと男の子が、お互いに支え合って生きていこうとするんですけど、これが実の家族じゃなくて、疑似家族みたいになってくるんですよね。親子3世代みたいな感じで、どんどん絆が深まっていって、力を合わせて生きていこうみたいになるんですけど、なんかこういう日本でいうと、万引家族とかもそうなんですけど、この疑似家族もの、本当の家族じゃないんだけど、ちゃんとお互いが必要とし合っていて、何か情が芽生えてそれで一つのコミュニティというか、家族的なコミュニティを形成していくみたいな、っていうのがすごく描かれていて。「本当の家族なんだけど仲悪い」っていう人たちもいるし、こういう本当にお互い必要とし合っていて、「疑似家族、本当の家族じゃないんだけど、うまくいく」というかね。疑似家族としてお互いを支え合っていくみたいな関係性ができていくんですけど、それでもね、この映画はそんなハッピーエンドに向かわずですね。また、試練が待ち受けていたりするんですけど、最後のスピーチをする名シーンがあるんですけど、そこで涙が止まらないっていうやばいね。もうね、めちゃくちゃ感動して、当時映画館で観ていても、最後、みんなすすり泣きっていう。映画館中にすすり泣きが聞こえるっていう。周りのリアクションも分かるっていうのが、映画館のいいところだったりするんですけど、本当にこれはそういう映画館での思い出も一緒にある感動作。家族でいうと、疑似家族のお話だなという傑作となっています。
有坂:ねえ、ケン・ローチ。これはあれだね、反面教師に。でも、反面教師っていうか、家族のことを本気で考えちゃうよね。この映画を観終わった後。
渡辺:本当に支え合っていく存在でもあるなっていうのは。けっこう配信でも観られる。これは、この年のベスト映画だったと。
有坂:順也でしょ。そうそう。ケン・ローチはね、俺らのケン・ローチって感じだよね。昔から、2人とも好きな監督で。
渡辺:これもおすすめです。
有坂:じゃあ、僕の4本目は、日本映画いきたいと思います。


有坂セレクト4.『おじいちゃん、死んじゃったって。』
監督/森ガキ侑大,2017年,日本,110分

渡辺:あーあ。
有坂:知ってます? 劇場公開はされた映画なんですけど、そんな、もちろんメジャー作品ではありません。これはタイトルそのまんまなんですけど、おじいちゃんが死んじゃったんですよ。そのおじいちゃんの死をきっかけに、それぞれ事情を抱えた家族たちが久しぶりに顔を合わせて集まったものの、超個性派たちが、おじさんたちが子どもかのように、どうでもいいようなことで喧嘩をし始めたりとかして、その向こう側に新しい家族の未来に向かって踏み出していくみたいな物語になっています。最初に「メジャーな映画ではない」と言ったんですけど、この映画のキャストを見ると、今をときめく岸井ゆきのさんの初主演作なんです。岸井ゆきの、光石研、岩松了、水野美紀、美保純、今年ブレイクした岡山天音が出ています。この人たちがある種、家族の関係で何かトラブルを起こして喧嘩している姿を想像するだけでも楽しいと思うんですけど。
渡辺:濃いね。
有坂:濃いよ! 岩松了とか最高だよ。コメディの人。この映画は、ちょっと設定がね、死を扱っているっていうのもあるんですけど、決して重いトーンのほうに行くことはなく、さっきの『インテリア』とはちょっと違うんですよ。ちゃんと笑えるシーンとかもあって、そういうこの監督、映画初監督作なんですけど、森ガキ侑大、元々ソフトバンクのお父さんのCMとかつくっていた人。やっぱりすごくバランス感覚に長けている人で、ちゃんと死を、センシブなものも扱いながら、その対局にある笑いも取り入れつつ、その本質のテーマの方に向かっていくっていう。映画としても、とってもよくできた作品かなと思っています。で、もういろんなキャラクターが出てくるので、いろんな人がいれば、それぞれやっぱり立場があって、それぞれの考えとか思いもあって、それが家族だと余計に変な方向にこじれていって。だけど、やっぱり血は争えないっていう、家族のことをなんかもう考えざるを得ないような、そんな作品になっています。で、この映画はキャストも素晴らしいんですけど、個人的には主題歌が大好きで、これはYogee New Wavesの「SAYONARAMATA」っていう名曲があるんですけど、それはこの「SAYONARAMATA」って、この映画のために書き下ろされた曲なんです。なので、あの曲、好きだよっていうファンの人も多いと思うんですけど、ぜひこの映画をイメージして書かれた曲、歌詞なので、そこも重ねながら観てもらえると面白いなと思いますし、この曲のミュージックビデオも岸井ゆきのが主演で、同じスタッフでミュージックビデオをつくっているので、ぜひ2本立てで楽しんでもらえればと思います。観られるかな?
渡辺:アマプラとかもあるから、U-NEXTとかもあるね。意外と観られますね。
有坂:ぜひ!
渡辺:なるほど濃いな。これは。はい、じゃあ、僕の4本目も邦画をいきたいと思います。僕は1953年の日本映画。


渡辺セレクト4.『東京物語』
監督/小津安二郎,1953年,日本,135分

有坂:うんうん、なるほどね。
渡辺:はい、これは小津安二郎の代表作ですね。小津安二郎って、基本家族を描くものが多いんですけど、その中でもこの『東京物語』というのは、広島にいる両親が、東京にいる子どもたちに会いに行くという、上京して会いに行くという話なんですけど、でも、東京で働いている娘とか、息子夫婦たちはけっこう忙しい日々を過ごすので、なんやかんや田舎から来た両親を邪険に扱うじゃないですけど、そんなに構わず、「ちょっとあんまり構ってられないから、熱海でも行ってきたら」と、旅行に追いやっちゃうという話なんですね。こういうのって割と普遍的な話かなと思うんですけど、これは1953年の話なんですけど、そんな現代でも全然ある話というか、日々忙しい現代人が田舎から来た両親をちゃんと構ってあげられないみたいなところで、唯一、田舎から来た両親を一番親身に見るのが、今は亡き息子のお嫁さん。原節子が演じる役なんですけど、その人が一番老夫婦を親身に見てくれるっていうですね。これもさっきの疑似家族じゃないんですけど、本当の血の繋がった娘とか息子とかが適当にあしらっているのに対して、血の繋がってない義理の娘というか、今は亡き息子の奥さんが一番親身に面倒を見てくれるっていうっていうのを、笠智衆とかがしみじみと演じるところに、これも涙するっていうですね、もう自然とポロポロ。その姿に涙が出てくるっていう。こういう、やっぱり普遍的な話を描いてるから、ずっと名作としてね、こんな70年前とかの映画が、いまだに語り継がれている。
有坂:そうだね。
渡辺:この小津安二郎を敬愛する海外の映画監督っていっぱいいるんですけど、その中にヴィム・ヴェンダースという監督が、先日PERFECT DAYSっていう映画をつくっていて、これは日本を舞台に役所広司が主演なんですけど、この役所広司の役名が、平山っていうんですけど、それがまさにこの『東京物語』の笠智衆の名前が平山っていうんですよね。いったら、この家族全員平山なんですけど、劇中に思いっきり「平山」みたいに出てくるわけじゃないんですけど、ポロッと平山っていわれる場面があって、この家族が平山なんだってことはわかるんですけど、でもそういう小津安二郎を敬愛してる人だと、自分の新作の主人公、平山にするんだみたいなっていうのもある。そういう語り継がれている名作で、家族の話だったりするので、これもめちゃくちゃいい話なのでオススメ映画です。これもけっこう観られますね。小津安二郎でも代表作ですね
有坂:いやー、これ世界的な名作だからね。若い頃に観てよくわからなかったっていう人も、年を重ねてもう一回、ぜひ観たらいいなと思います。やっぱりよく言われるけど、本当の名作映画って、年を重ねて観たときに違うキャラクターに感情移入できる。若い頃は自分と同世代の若い子だったけど、それをもう地でいってるようなね。
渡辺:小津なんかもう、特にそうだよね。しかも、10年ごとに見方が変わるというか、娘が嫁に行くお父さんの話だったりするじゃん。だから、その年になったら笠智衆に思いっきり感情移入するわけでしょ。
有坂:そうやって心に決めているんでしょ?
渡辺:いや、お前に言ってるんだよ(笑)。
有坂:お互いね(笑)。お互い一人娘だから、そうなんですよ。
渡辺:そうなるんだろうなっていうね。だから、まだまだ楽しめるんだよね。小津はこれから。そんな名作を観てみました。
有坂:超名作です。じゃあ、僕の最後、5本目いきたいと思います。


有坂セレクト5.『タレンタイム〜優しい歌』
監督/ヤスミン・アフマド,2009年,マレーシア,115分

渡辺:おー、なるほど。
有坂:これは、マレーシアの女性監督のヤスミン・アフマドという人がつくった、遺作になります。物語としては、これは高校生の話で、学校の中でタレンタイムっていう音楽コンクールがあって、それに出場するには、先生たちが主催するオーディションに通過した人しかタレンタイムの本番には出場できないんです。そこのタレンタイムに出場したい子どもたちが何人かいて、その子たち3組かな、が主人公として描かれている。いわゆる群像劇になってます。それぞれ、例えばピアノが上手な女子学生がいたりとか、あとは二胡って中国の楽器を演奏する優等生がいたり、それに嫉妬する子がいたりとか、そういうティーンの日常を描きながら、お母さんが実は余命いくばくもないみたいな子がいたり、そういうそれぞれの物語を描きつつ、ラストはタレンタイムの本番に向かっていく。その音楽コンクールを題材にしている映画なので、とにかく音楽が素晴らしいんですよ。これはさっき二胡って言いましたけど、中国の二胡っていう楽器とか、ピアノだったり、あとはボーカル曲も本当に胸にしみる、すごく真っ直ぐなラブソングとか、とにかくいろんなタイプの曲が聴けるところもこの映画の見どころです。僕は、この映画を初めて観たのは、東京国際映画祭の「アジアの風」っていう部門だったのかな、当時は。全然人気のない部門で、観にいってもこのヤスミン・アフマドって、新作がつくられるたびに映画祭のアジアの風部門で上映されていて、毎回それを観にいっていたんですけど、だんだんファンが増えてはいたものの、タレンタイムのときも決して満席にはならず、観てすごい映画を観てしまったなって感動しつつも、日本での公開が決まらなかったんですよね、しばらく。5年くらい経ってからだよね。
渡辺:そんなに経ってたんだっけ。
有坂:そう、なかなか公開されなくて、もし、自分が宝くじとか当たったら、この映画の権利を買いたいって思うぐらい、特別な一本だったんですね、その時点で。で、劇場公開はされないものの、そのヤスミン・アフマドって人はこの映画を撮った後に亡くなってしまったってこともあって、例えば、アテネ・フランスとか、小さい場所を使った特集上映とかで、たまに観られたんですよ。そのときに、奥さんを誘って観に行って、僕も初見かのように打ちのめされるほど感動して、お互い感動しすぎて、帰り道に言葉がまったく出ないんです。1時間ぐらい散歩して、映画の話をしようとすると一気に映画のシーンがフラッシュバックして泣くっていう(笑)。2人とも泣くっていう。その時間も、今振り返るとあんな映画体験なかったねってことにもなるので、僕たち夫婦にとっても特別な映画ってこともあって、実は、さっきから出てるひとり娘の名前は、この『タレンタイム』からつけた名前です。なので、この映画はいろんな子どもたち、いろんな家族の、マレーシアというのは多民族国家なので、やっぱり日本とはちょっと違う、いろんな難しさが、宗教的な問題とか、民族の違いによって恋が実らないとか、そういうシリアスな題材もありつつ、でも改めて家族ってことを前向きに考えさせてくれるような素晴らしい映画になっています。それが、僕の場合は自分の今ある家族にも直接つながってくる映画なので、あと自分の親とか兄弟とも共有したいと思ってDVDをネットで注文して、勝手に送りつけた。それぞれの家にDVDがあるので、僕の有坂家、ここから続く有坂家の家族の映画みたいに、代々受け継がれていってほしいなっていう、それぐらいのレベルで特別な一本になります。順也に紹介されないで、よかった!
渡辺:でも、本当にマレーシアは多民族国家なので、家々の事情があるんだよね。中国系もいるし、マレー系もいるし、イスラムの家もあってとか、それぞれの事情が絡み合って問題も起きるんだけど、それを乗り越えての恋の話もあり、タレンタイムに向かっていくっていう。
有坂:本当にこの映画を観ないとわからなかったね、マレーシアの人たちの切実な悩みとか、やっぱり世界って本当に広いんだなっていうものを、この映画の誰かに感情移入しながら感じることができて、ダイバーシティとか、多様性を考える上では、本当にぜひ今の子どもたちにも観てほしいなって思う。
渡辺:でも、マレーシアとか抜いても、普通に映画としてめちゃくちゃ面白いんで。
有坂:そこがすごいんだよね。
渡辺:アマプラとかで観られるうちに、本当に観た方がいいな。
有坂:またリバイバル上映やるんだよ。今年やるので、ベストは劇場で。
渡辺:音楽がいいから。
有坂:帰り道で言葉にならないです。
渡辺:ぜひ、みなさんに体験してほしいです。なるほどね、塁らしい。了解です。僕の最後5本目は、これは一本の映画というかですね、シリーズです。


渡辺セレクト5.『男はつらいよ』シリーズ
監督/山田洋次,1969年〜,日本

有坂:ツイン・ピークスかと思った。
渡辺:毎年やる映画で、たくさんあるんで、どれって選べなかったんですけど、寅さんのシリーズにしたいと思います。
有坂:好きだね。
渡辺:好きなんですよ。この監督の山田洋次監督は、小津安二郎の弟子というか、同じ松竹の師弟関係にあるので、山田洋次も、小津節というか、松竹の流れというかを受け継いで、家族の話を撮っている監督なんですけど、まさにこの『男はつらいよ』は、葛飾柴又にある団子屋さんが実家で、そこはおいちゃんとおばちゃんがいて、両親はいないんですけど、妹のさくらと一緒にいて、さくらはそこで団子屋さんをやってるんですけど、主人公の寅さんは風天なんで、行商人として日本全国を旅していると、でも、ちょいちょい実家に帰ってくる。そこがこの映画になっているんですけど。やっぱり、近所の人たちも巻き込んだ家族感。おいちゃん、おばちゃんが両親代わりで、妹のさくらがいて、妹のさくらも結婚するんで、前田吟がいるんですけど、そこに息子が生まれて、吉岡秀隆だったりするんですけど、あとは、義理の弟の博が近所の鉄鉱屋さんで働いているんですけど、そこの社長がタコ社長がいて、つるっぱげの社長がいるんですけど、タコ社長も「おい寅!」みたいな感じで、帰ってくると家にみんな集まってくるっていう。「寅ちゃん帰ってきたの?」とかって言って、近所の人たちもみんな来るみたいな。近所をひっくるめた家族付き合いみたいなのが、普段は家にいない寅さんをきっかけに、それが生まれてくるっていう。近所に帝釈天っていう、芝又にあるお寺があるんですけど、そこの住職が『東京物語』の主人公の笠智衆っていうですね。だから、笠智衆は僕はリアルタイムで知ってたいのは寅さんの住職っていう感じだったんですけど、山田洋次の師匠の小津安二郎の映画では、ずっとメインキャストを務めていた名優だったっていうね。その辺も、松竹の流れと、小津安二郎と山田洋次の師弟関係で、そこで役者が受け継がれているみたいな。それもまたすごい面白いし、ちょっとこういう下町の変な家族の話っていうので、どのところを切っても面白いと思うんですけど、いくつか名シーンじゃなくて、傑作選みたいなのがあって、75年の寅次郎相合い傘とかですね。
有坂:生まれた年の映画だ。
渡辺:毎回、必ず“マドンナ”っていって、寅さんと恋に落ちる女優さんが出てくるんですけど、このときは、浅丘ルリ子 のやつですね。けっこう、そうそうたる女優さんがね、毎回マドンナとして出てくるので、浅丘ルリ子 は多分2回か3回出ているっていう、珍しい感じのマドンナですね。そういう毎回違うマドンナと50話ぐらいあるから、相当な恋多き男なんですよね。
有坂:寅さんは実らない。
渡辺:実らないんだよね。だいたい寅さんのほうが、振っちゃうんでね。
有坂:そうなんだ。
渡辺:言い寄られて、うまくいきそうになるんだけど、俺は旅に出るよみたいなのでいなくなっちゃうっていうね。そういうのを50回ぐらい繰り返してるんで。50作あるんで。
有坂:もう王道のパターンなわけでしょ。
渡辺:そうそう。
有坂:待ってました! だよね。
渡辺:オープニングはだいたい夢から始まるから。「何それ?」みたいなのから始まって、「あっ夢だった」っていうところから始まるっていうね。いやー、これはもう本当に、1話だけでも観てもらえると面白いかなと思います。
有坂:『男はつらいよ』って正月映画だったんだよね。
渡辺:そうね、映画でね。
有坂:それがいいなと思って。毎年正月になったら、お父さんと一緒に観に行くとか、そういうエピソード、けっこういろんな人から聞いたことがあって。
渡辺:テレビでもやっていたからね、毎年。
有坂:なんか、その1年の行事の中に、決まった映画があるってないじゃない。今って。そういうものがそろそろ、なんか1タイトルぐらい出てこないかなって、ちょっと期待してしまうけど。好きだよね、順也は。
渡辺:うちの両親が好きだったので観ていました。
有坂:まだ3本ぐらいしか観てない。
渡辺:3本観たんだ。
有坂:観ますよ。山田洋次先生の。

 

──

 

有坂:はい、それぞれ出そろいました。
渡辺:かぶらず、また。
有坂:そうだね。リトル・ミス・サンシャインとか出すかなと思ったけど。
有坂:最初に挙げたんだけど、別のテーマで挙げていた。「もっとおじいちゃんが好きになってしまう映画」みたいな、検索していたらね、挙げていたから、それは避けようと思って。そうだね。かぶらず、ラストのでも、小津からの山田洋次っていうのは、順也らしいなと思うし、僕は『タレンタイム』も紹介できたので、それぞれの色が出たかなと思います。最後に何かお知らせがあれば。

渡辺:先月も言ったんですけど、フィルマークスでリバイバル上映をやっていて、ちょうど明日からですね。宮崎駿の昔の名探偵ホームズというアニメのリバイバル上映企画を、ちょうど明日から、全国の映画館でやりますので、ホームズとワトソンがなぜか犬っていう謎設定なんですけど(笑)、これを明日から2週間、春休み企画として全国の映画館でやりますので、ぜひ、なかなか観る機会ないタイプのやつなので、この機会にぜひ。
有坂:上映時間って何分くらいなの?
渡辺:あのね、1話完結のテレビアニメの4話。1個25分とかで90何分とか、そういう感じです。
有坂:結構やるね。頑張ったね。
渡辺:頑張りました!
有坂:この前、僕、3月28日に映画のパンフレットのトークショーに出演するんですけど、大島依提亜さんっていう、日本を代表するトップデザイナー、パンフレットデザイナーと対談するんですけど、その企画がフィルマークスで企画してくれたのは順也じゃなくて、別の人で。打ち合わせに行ったら、遠くのデスクで真面目に仕事をしている姿を見て、ちょっと新鮮でした。たぶん、真面目に仕事している風だったと思うんですけど(笑)、こういう企画を頑張って考えたり、交渉したりしてるみたいです。
渡辺:で、有坂さんの連絡先を教えてくださいって言われて、パンフレットの企画ね。
有坂:そうそう、ありがたい企画を。それはもうチケットは、ソールドアウトしちゃっているんですけど。
渡辺:即完だったみたいな。
有坂:大島依提亜さんですから。
渡辺:だいぶ期待値は高い感じだと思うんで。

有坂:僕のお知らせは、改めて著書。『18歳までに子どもにみせたい映画100』です。ちょうどこれから入学シーズンとか、進学などなどあると思うんですけど、そのお祝いにぜひプレゼントとして贈るのに、本当に最適な一冊かなと思ってます。改めてここに紹介した100本もそうですし、それぞれの映画におまけが2本付いているので、全部で300タイトル紹介されている本なんですけど、日本の子どもたちが、この300本を18歳までに観ていたら、日本ってどう変わるかなとか考えれば考えるほど、ちょっとワクワクするので、発売されたのが12月なので、もう3カ月ぐらい経っているんですけど、もう長い期間かけて何とかロングセラーにするべく、ちょっとまたいろいろと考えていることもあります。4月6日に葉山の玉蔵院というお寺で、クリスマスならぬブッダの誕生日をお祝いする「花まつりWEEKEND」というイベントに、今年も僕ら参加するんですけど、そこでこの本を販売します。そのときは、映画おみくじ付きでこの本の販売もしますし、その場でサインのほうもしますので、まだ持ってないよという方は、「花まつりWEEKEND」もイベントとしてすごい楽しいので、ぜひ来ていただけると嬉しいです。
渡辺:増版されているんでしょ。
有坂:もう2回、3刷かな? そうなんですよ、嬉しい! もっと頑張ります。

 

──

 

有坂:はい、ということで、3月のキノ・イグルーの「ニューシネマ・ワンダーランド」は、これをもって終わりたいと思います。
渡辺:ありがとうございました!
有坂:遅い時間まで、みなさんありがとうございました!
渡辺:おやすみなさい!!

 

──

 

 

選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe