あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の映画部門のテーマは、「もっとおばあちゃんが好きになってしまう映画」です。先月のおじいちゃん映画に続けて、その“観るべき10本”を選ぶのは、マニアじゃなくても「映画ってなんて素晴らしいんだ!」な世界に導いてくれるキノ・イグルーの有坂塁さん(以下・有坂)と渡辺順也さん(以下・渡辺)。今月も、お互い何を選んだか内緒にしたまま、5本ずつ交互に発表しました! 相手がどんな作品を選んでくるのかお互いに予想しつつ、相手の選んだ映画を受けて紹介する作品を変えたりと、ライブ感も見どころのひとつです。


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お時間の許す方は、ぜひ、このYouTubeから今回の10選を発表したキノ・イグルーのライブ「ニューシネマ・ワンダーランド」をご視聴ください! このページは本編の内容から書き起こしています。




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−−−乾杯のあと、恒例のジャンケンで先攻・後攻が決定。今月は渡辺さんが勝利し、先攻を選択。それでは、クラフトビールを片手に、大好きな映画について語り合う、幸せな1時間のスタートです。


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渡辺セレクト1.『ベルヴィル・ランデブー』
監督/シルヴァン・ショメ,2002年,フランス、ベルギー、カナダ,80分

有坂:なるほど!
渡辺:これはフランスのアニメーションなんですけど、シルヴァン・ショメ監督による、ちょっとダークな……ダークファンタジーっていうのかな。かなりシュールな感じのアニメーションなんですけど、主人公が、おばあちゃんなんですね。で、孫のシャンピオンと2人で静かに暮らしているんですけど、あるとき、マフィアに、なんと孫がさらわれてしまうというというところから、孫を取り返すために、愛犬とともに旅立つというお話になっています。これ、主人公なんですけど、まったくおばあちゃんは喋らないっていうですね、無口で、無表情で、それでひたむきに愛しい孫を探しに行くんですけど、まったく喋らないし、表情もそんな変わらないんです。でも、やっぱりなんだろう、愛しい孫を取り返しに行くんだっていう決意とか、孫が本当に好きなんだなっていうのは伝わってくるんですね。なんか、その辺の演出が結構見事で、だんだん変なおばあちゃんを好きになって、応援してしまいたくなる、というような話になってます。
たぶん、物語上はニューヨークであろう架空の世界。そこに、また船に乗って乗り込んでいくんですけど、そこに、“三つ子のおばあちゃん”っていうのも登場するんですよ。この三つ子のおばあちゃんの助けを借りながら、マフィアのところに潜入していくんですけど、この三つ子のおばあちゃんも面白くて。テーマ曲になっているような歌を歌っていたりするんですけど、面白いシーンがあって、池に何かを投げて、それが爆弾でボーンって爆発して、降ってきたのがカエルっていうですね。池にいるカエルを爆弾で飛ばして、気絶しているカエルを拾って、それを煮てご馳走してくれるっていうシーンがあるんですけど(笑)。これ本当に、テーマ曲も独特で楽しいですし、日本がつくらないタイプのアニメですね。なんかフランスって結構、「バンド・デシネ」っていう漫画の文化があったりとか、そこから出てくるアニメとかもたまにあるんですけど、割とダークなトーンのものとかが多いので、日本のものとはまた全然違うんですよね。かなりシュールで、それでいて面白いっていう作品が多いんです。その『ベルヴィル・ランデブー』のビジュアル、これですね。ちょっとね。これ後ろ姿なんで、おばあちゃんが分からないんですけど。
有坂:なんか個人的な印象だと、無理やり例えるなら、『千と千尋……』のあのカオス。『ベルヴィル・ランデブー』も、そのちょっとキャラクターも、こうなんていうの、人間のシルエットとはちょっと違うね、いかにもデフォルメされたキャラクターで、もうその画面中にいろんな生き物が出てきたり、すごくスピード感もあるシーンがあったり、割となんかこうカオスなんだよね。そのエネルギーに引っ張られていくみたいな。という意味では、なんかすごく千と千尋にも通じるところがあるというか。監督のシルヴァン・ショメはきっと好きなんだろうなって、個人的には思った。
渡辺:だろうね。アウトプットはだいぶ違うけど。
有坂:そうだね。
渡辺:これは、結構、当時流行った作品なので。なかなか観る機会がないやつだったんですよね。DVDも確かね絶版になっちゃったりしていて、観る機会があんまりないタイプのやつなんですけど、作品としてはすごい面白いので。
有坂:去年あれだよね、リバイバルもやって、配信でもAmazonプライム。
渡辺:あのリバイバルが、公開以来だった。
有坂:そっか。そうだよね。
渡辺:だから何十年ぶりみたいな。
有坂:楽天でも観られる。DMMも。
渡辺:レンタルでしかやってないですけど、でも、これは本当に観る価値ある作品なので、ぜひ!
有坂:物語もそうですけど、その作品の世界観を愛するみなさんには、まず間違いのないカオスな一作だと思うので、ぜひ観てほしいね。
渡辺:そんなおばあちゃんからでした。
有坂:あー、よかった!
渡辺:被らなかった?
有坂:はい。じゃ、僕の一作目は、2003年フランスとジョージアの映画です。



有坂セレクト1.『やさしい嘘』
監督/ジュリー・ベルトゥチェリ,2003年,フランス、ベルギー,102分

渡辺:はいはい!
有坂:こちらは実写の映画となってます。一応、舞台はジョージアとパリになります。これは、エカおばあちゃんというですね、おばあちゃんと、あとはその娘、孫の3人の女性の物語になっています。基本物語の軸は、大体この3人の女性ばっかり出てくるんですけど、このエカおばあちゃんの子ども、娘がいるって言いましたけど、息子もいて、その息子が留学でパリに行ってるんですね。なので、家の中には、弟はいないんですけど、その弟から届く手紙とかを、エカおばあちゃんは毎回楽しみにしていて、「元気に頑張ってるんだね」とか。ということで、毎回それを楽しみにしているエカおばあちゃん。ところが、そんな息子のオタールが、これも物語の前半で起こることなので、ちょっとあえて言っちゃいますけど、パリで亡くなってしまうんですね。その亡くなってしまった情報は孫と娘、この写真でいうと上の2人ですね、が知るんですけど、もうそのおばあちゃんにとって、本当に唯一の楽しみと言ってもいい、オタールが亡くなってしまうなんて、やっぱりとても言えないと。「どうしよう?」ということで、悩んだ結果、優しい嘘をつくことになります。オタールのふりをして、孫のアダが手紙を書くんですね。「僕は、パリでこんなに元気にやってるよ」ということで、おばあちゃんを喜ばせる。それを何度も何度もやっていくうちに、実は、その孫娘のアダというのは夢があるんですね、本人的に。その自分の夢を重ねながら、あるときから手紙を書き始める。それを読んだおばあちゃんのリアクションを見てということで、その嘘をつくことでだんだん、おばあちゃんと孫との距離感も変わってきたりっていうふうに、物語が少しずつ、少しずつ広がっていきます。で、ある時、やっぱりそのおばあちゃんは、息子にぜひ会いたいということで、自分の大切にしてた本を、あるとき自分の娘とか孫に相談もなしに売ってしまって、資金を集めてパリに行く、っていうところで物語が大きく動き始めます。で、この物語の後半にも、この優しい嘘っていうタイトルがすごく効果的に使われていて、これを観たときはね、感動が止まらなかった。キノ・イグルーの初期のときにも上映したよね。
渡辺:そうそう。
有坂:ぜひ観てもらいたいんですけど、ただちょっと今、動画配信とかでは扱ってないので、なかなかレンタルショップっていうのも今ね、街からなくなってしまってるので、ちょっと見つけづらいかもしれないんですけど、多分オンラインでのレンタルとかにもありますし、DVDの販売も中古とかであると思うので、ぜひ可愛らしいおばあちゃん観たいなって人は、買ってでも観てもらいたい一作かなと思います。ちなみに、このエカおばあちゃんを演じた女優さんは、エステル・ゴランタンという方なんですけど、もともと女優さんじゃなかった。85歳で初めてオーディションを受けた。それでこの役をゲットしたっていう、本人も、やっぱり「いつかこういうことをやってみたい」っていう自分の夢を叶えて、映画の主演を張るというですね、とっても素敵な映画になっています。ちなみに、さっきDVDを買うのもおすすめって言ったんですけど、これあの特典映像で、なんかあえなく本編からカットした映像集というのも入ってて、そこに監督の説明とかもちゃんと入っているんですよ。なので、本編で落としているけど、実はここ入れたかったっていうところも共有することで、物語のいろんなメッセージが伝わるような内容になっていますので、ぜひ特典映像も合わせて観てもらえると面白いかな、と思います。
渡辺:なるほどね。好きだね。当時はね、(ジョージアではなく)グルジアって言ってたもんね。あのときはグルジアってどこ? っていうぐらいのマイナーな旧ソ連の一つの国っていう感じでしたけど。
有坂:そうそう。だから、そういう意味では、ほとんど聞いたこともないような国の街の風景とかね、そのライフスタイルとかもこの映画の中に映ってるので、そういった意味でも、すごく貴重な価値のある映画だなって当時から思ってましたけど、物語がとにかくいい!
渡辺:そうだね。
有坂:ぜひ観てください。
渡辺:泣ける感じのやつですから。はい、では続いて、2本目いきたいと思います。僕の2本目は、アメリカが舞台の2017年のドキュメンタリー映画です。



渡辺セレクト2.『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』
監督/松谷光絵,2017年,日本,105分

有坂:ああ!
渡辺:ターシャ・テューダーっていうのは、絵本作家なんですけど、アメリカを代表する絵本作家の人で、コーギー犬の話とかを描いているので、絵を見たら「この絵本か」ってわかると思うんですけど、なんか人間じゃなくて、みんな犬が主人公の、主人公というか、村人みたいなですね、村で。田舎の村の暮らしみたいなのが、すごい牧歌的で、いい感じに描かれてる絵本があるんですけど、この作者のターシャ・テューダーというおばあちゃんがですね、まさに絵本のような暮らしをしてる人なんですよね。なので、本当に手紙社を好きな人だったら、間違いなく大好きな世界観なんですけど。
有坂:好きな人もいっぱいいるだろうね。
渡辺:本当なんか中世みたいな。なんか、近代的な電化製品とか一切ない家に住んでいて、インテリアとか小物とか道具とかも、こだわり抜いていて、いいものを長く使うみたいな。そういう暮らしをしているんですよね。なので、なんか電化製品でチンってすぐできちゃうみたいなものじゃなくて、ぐつぐつ煮込むみたいな、そういうイメージがハマる感じの暮らしを地でいっている人なんですね。もう現代の人なんですけど、アメリカの田舎町に住んでいて、まさにそんな絵本のような暮らしをしている、その彼女に密着したドキュメンタリーなので、「本当にこんな人いるんだ」っていう憧れの世界を見せてくれる。そんなドキュメンタリーです。なので、結構ターシャ・テューダーに憧れている人って、すごい多いと思うんですけど、本当に憧れるおばあちゃん。自分の世界観がすごい完成されている。そういうその世界観を好きな人は、多分たくさんいると思いますので、ぜひこれはちょっと観ないとわかんないと思うんですけど、世界観をぜひ味わってほしいなと思います。
有坂:ターシャね。ターシャは、映画とか映像で見る前、テレビ放映とかもね、ドキュメンタリーいくつかされましたけど、その映像を観る前に本を買っていて、本っていうのはその絵本ではなくて、ターシャの暮らしを記録した写真集みたいな、それがすごい好きで、特にクリスマスのパーティーの風景とか、そこで出してる料理だったりとか、こういった暮らしをしてる人のクリスマスの風景が、写真に記録されてるのがすごい好きで、もう毎年その時期になると本を開いてっていうタイプだったんですけど、これ多分2つに分かれるなと思っていて、僕は写真で観ていたときに、自分の中で「こういう暮らし」っていうことが、自分の頭の中で映像化されていて、いざ映像を観たときに、現実のものとして動くじゃない。僕は、個人的には写真でとどめておけばよかった。だけど、実際に映像で観ると、本当に暮らしの細かいところもいっぱい見えてくるし、自分の生活に取り入れられるヒントなんて山ほどあるので、基本的にはものすごいおすすめしたいんですけど、もしかしたら写真で自分のイマジネーションも含めて、ターシャの暮らしを映像化している人には、観ない方がいい場合もあるのかな。
渡辺:ええ! そう?
有坂:すごい思った。なんか、現実になっちゃった。それが現実じゃないぐらい、理想的な暮らしを送っているっていうところが本当にすごい人で、ここは本当に好みの問題なので、僕はそこをそう思って。
渡辺:なるほど。でも、本当に家の中から庭から全部、なんていうのかな、自分の世界観をつくり上げてる感じなので、これは本当にちょっと映像で観てもらいたいなとは思います。
有坂:はい。分かりました。じゃあ、僕もドキュメンタリーいこう! 僕は、2014年のアメリカ映画です。



有坂セレクト2.『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』
監督/アルバート・メイズルス,2014年,アメリカ,80分

​​渡辺:うんうん、はい。
有坂:これはね、アイリス・アプフェルという女性がいます。まだね、多分生きてる。去年はね、まだ元気だったという情報が入っているんですけど、そのアイリス・アプフェルというのは、もともとインテリアデザイナーとして活躍して、その後、夫と設立したテキスタイルの会社が大成功を収めて、セレブリティーになったという方です。彼女自身が、本当に、もうみんなが熱狂できるようなファッショニスタで、もう自分の個性を存分に活かして、「洋服を着ることをこんなに楽しむ人がいるんだ」っていうぐらい、もう見るからにファッションを楽しんでる、エネルギッシュな方に密着したドキュメンタリーとなっています。彼女のファッションってすごく独特で、アイリス・アプフェルは自分のスタイルを確立してるというふうにいわれるんですけど、例えば、彼女がアクセサリー、これも首に大きいのつけてますけど、少数民族のアクセサリーをつけたり、民族衣装を着てみたり、でも、それと同時にハイブランドのアイテムを合わせたりという形で、ハイブランドだったらハイブランドだけでそろえるということではなくて、自分の個性に合うものを選んでいった結果、いろんな古着とかも着るんですねこの人。結果的にまわりから見ると、独特のスタイルだねって言われるようなセレブリティとして、彼女は有名になったという人です。やっぱり、そういったファッションセンスだけではなくて、自分自身にベクトルを向けて長年ずっと生きてきた人なので、彼女の話す言葉にもぐっとくる。名言の嵐です、この映画が。本当に、メモを取りながら観たいなって、初見のときにすごい思って、2回目以降ちょっとメモしていたんですけど、例えばこんな名言があります。

「自分が何者であるか、それは取り組んでみなければわからない」。

あとは、

「特にルールはないの。あっても破るだけ」。

渡辺:言いそう。
有坂:あとは、

「どういうふうに見えるかは、どういう人間かを反映するもの。パーソナリティがない人間は、それが露呈した服の着方をする」。

ちょっとドキッとするような。やっぱり、どういうふうにおしゃれになるかというよりは、自分に矢印を向けると、自ずとその人のパーソナリティがベースになって、その人らしさのファッションになっていくというようなことを、多分彼女は言いたいのかなと思うんですが、とにかく、彼女自身がファッションを楽しんで、元気で、いろんな人と交流しているような映像がずっと続いていくので、観ていてすごい元気をもらえます。なので疲れて、明日から仕事行くのやだなっていうときとかに、ものすごいおすすめな一本が、『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』です。
渡辺:U-NEXTとかやってるね。
有坂:そうだね。
渡辺:ニューヨーカーなんだよね。前に紹介した、『ビル・カニンガム&ニューヨーク』とかも出てくるよね。ニューヨークのファッション業界といえばっていう人たちが出てくるので。
有坂:そうだね。
渡辺:本当にかっこいいおばあちゃんっていう。元気だもんね。
有坂:そうなんだよね。
渡辺:まだまだ現役でいてほしいですが。
有坂:本当に。ぜひ観てたくさん影響を受けてほしいなって思います。
渡辺:なるほど、そうきましたね。じゃあ、続けて僕の3本目はこれにしよう。それを受けてなところもあるんですが、でも、最近の2022年のフランス映画です。



渡辺セレクト3.『パリタクシー』
監督/クリスチャン・カリオン,2022年,フランス,91分

有坂:ああ!
渡辺:まさに今映画館でやっている、もうちょっと終わりかけかもしれないんですけど、近くの劇場で、もしやっている方は、ぜひ映画館で観てほしい作品。どういう話かというと、パリのタクシー運転手が主人公なんですけど、その彼が、あるマダムを乗せるんですね。92歳のマダムを乗せて、パリの対岸まで送っていくっていう仕事だったんですけど、その彼女が寄り道したいということで、その寄り道に付き合っていくんですね。寄り道するたびに、彼女が話してくれる昔話にどんどん引き込まれていってしまうという話です。アイリス・アプフェルも94歳ということで、こっちは92歳なんですけど、そのマダムの話です。彼女はパリジェンヌなので、ニューヨーカーでもないんですけど、その92歳のパリジェンヌが昔話をしてくれるんですね。そこに、この主人公のタクシー運転手はどんどん魅せられていってしまうんですけど、その昔話、思い出話というのが、決して楽しいものではないんですね。彼女が、どういう生い立ちで、どういう人生を歩んできたかっていう。それを、このパリでどういうふうに生きてきたかみたいなことが語られていくんですけど、実は、結構それが壮絶なというか、割と辛い思い出だったりするんです。今のパリの女性っていうと、世界でも一番自立していて、シングルマザーでもバリバリやってますみたいな人が多そうなイメージなんですけど、そんなフランスのパリでさえ、この92歳のマダムが若い頃には、まだまだ保守的で、すごい男性社会で、女性一人で自立なんてとんでもないっていう、そんないわばフランスの女性史みたいなものが、彼女の思い出とともに描かれて、それを分かっていくみたいな。そんなつくりになっている作品なんですよね。で、こう思い出話と現代が交互に描かれるので、なんか昔だけの話じゃなくて、今と照らし合わせることで、よりそれが際立つっていうような演出にもなっていて。なので、すごいいい話を聞いているのに、すごいなんか学びがあるというか、そのマダムの話に、観客としてもどんどん魅せられていってしまうという作品となっています。パリのですね、すごい綺麗な風景を、車窓が映像としては綺麗なんですけど、それに過去の話が絡まっていっているので、なかなかちょっと楽しくも、感動するような作品となっています。これはね、まだ映画館で観られるので、ぜひ。
有坂:これ良かったよね。思っていたより全然いい映画で、しかも、そういった現代の話でありながら、過去に遡ることで、順也が言ったように女性の歴史みたいなものが見えてきてっていう深みのある物語なのに、上映時間が91分、これ大事。1時間半で、やっぱりそこまでのものを見せてくれるっていう意味でも、すごくなんか完成度の高い。
渡辺:確かにね。
有坂:誰にでもおすすめできる。
渡辺:そうだね。
有坂:僕、実際に母親におすすめして、母親が大感動した。なので、みなさんもね、自分の親とかへのおすすめにもいいかもしれない。
渡辺:そうですね。フィルマークスも4.0ってかなり評価高いので、だいぶみんなが面白いって言ってる作品ですね。
有坂:まだ、動画配信にはないから、劇場上映館26館って。近くでやってる方はぜひ。開いてくれた。東京だと4館、どこだ? 角川シネマ有楽町、渋谷HUMAXシネマ、キネカ大森、アップリンク吉祥寺。これ朝9時25分だ。これ、朝一で見たら最高な1日ですよ。
渡辺:確かにね。パリの綺麗な風景が見れますからね。
有坂:わかりました。じゃあ、僕の3本目は、順也の話を受けて、保守的なっていうね、さっきワードが出ましたが、保守的な時代を描いた『パリタクシー』。僕が紹介するのは、スイスの保守的な村が舞台の映画です。



有坂セレクト3.『マルタのやさしい刺繍』
監督/ベティナ・オベルリ,2006年,スイス,89分

渡辺:ああ!
有坂:これはトループ村っていう、スイスの本当に小さな村に住んでいる、80歳のマルタというおばあちゃんが主人公の映画になっています。これも、スイス映画って、あんまりね、みなさん馴染みがないかなと思います。実際、日本に入ってきてるのは、割と個性の強い監督が撮った、ちょっとこうアート寄りなものが多かったりするんですけど、『マルタのやさしい刺繍』は、すごく物語的にシンプルで、割と共感性の高い映画になっています。どんな内容かというと、この80歳のマルタは、最愛の夫に先立たれてしまって、もう意気消沈しながら、なんとなく毎日を過ごしてたときに、ふとあることを思い出すんですね。それが、実は彼女が若い頃に、自分でデザインして、刺繍までしたランジェリーショップをオープンしたかったっていう、夢を思い出すんですよ。でも、彼女が住んでいる村はものすごい保守的で、しかも男尊女卑も強いし、女性で年齢もいった人がランジェリーショップをオープンするなんて、ほぼ不可能って、まずみんなが思ってしまうようなことを、彼女は自分の人生に後悔を残したくないということで、実際に行動に移し始めるんです。もう、これだけで面白いこと間違いなしですよね。実際に、彼女が周りの男どもからですね、やんや言われながらも行動していくうちに、このDVDの画像にもありますけど、だんだん彼女に共感する人たちが増えてきます。やっぱりそうやって行動することで、夢が現実になっていって、これまでとは違った人のつながりが生まれて、それによって地域が活性化して、みんなが幸せになっていく。本当に、そういったある種、理想的なものを描いている作品が、この『マルタのやさしい刺繍』かなと思います。やっぱりこうだんだん年齢とともにいろんな経験をして、経験をベースにこれをやろう。これをやると失敗しちゃうかもしれないとか。だんだんみなさんね、ジャッジするようになっていくと思うんですけど、やっぱり同じシュエーションってね、二度あるわけではないので、参考にするのはいいんですけど、やっぱり過去の経験に縛られすぎて、現在の自分の本当の思いがおざなりになっちゃうと、本当にそれはね、後悔につながっていくと思います。やっぱり今は今しかないし、心がどう動いているかというところにフォーカスすると、やっぱりやるべきことってはっきりしてくるのかなと思うんですけど、まさにその瞬間を生きているのが、この映画の80歳の、おばあちゃんマルタです。やっぱり映画を通して彼女の物語を共感していくと、こんな、もうアウェーな環境でも、マルタはこんな頑張ってるんだ。私も頑張ろうってすごい沸き上がってくるような、もうエネルギーに包まれる作品になっているので、これは、もっともっと多くの人に観てもらいたいなと思いつつ、これも現在は動画配信では取り扱いがないです。ただまあ、いずれリバイバルだったり、動画配信でも観られる映画だと思います。あとは、DVDもこれも出ているので、ぜひ買ってでも、これも観てもらいたいなと思う作品です。
渡辺:そうだね。
有坂:これのDVDの特典で、面白いのが1個あって、これは特典映像じゃなくて、字幕、日本語字幕のところがちょっと面白い。通常字幕バージョンと、もう1個、“でか字幕”バージョンがある。なので老眼でちょっと小さい文字が見えないよっていうおばあちゃんにも、もうね、全力でおすすめできる、でか字幕バージョンが入ってますので、ぜひおばあちゃんとね一緒に、おばあちゃん子だよって人は、ぜひ一緒に観るとその後の会話も弾むし、そこからまた、何か2人で始めてみようかっていうところにも、つながるかもしれないので、おすすめしたいなと思います。これ、あのね、2006年公開当時のスイスでは、観客動員ダントツ1位だった。
渡辺:そうなんだ
有坂:この映画が1位になった、その年以降のスイスって、どんな国になったんだろうねっていうぐらいみんなの奥底にある。そういうなんか好きなものとか、楽しく生きたいというところを刺激してくれる一本になってますので、ぜひ機会を見つけてご覧いただければと思います。
渡辺:これ、下着を作るからね。男がヤーヤー言うんだよね。中学生みたいなノリで。でも、おばあちゃんだらけだもんね。
有坂:そうそう。でも、おばあちゃんがみんな可愛いんだよね。おしゃれだし。
渡辺:まさに、おばあちゃん映画だ。
有坂:そうそう、おすすめです。
渡辺:そうきましたね。じゃあ、ちょっとこれにしようかな、僕の4本目は2015年の日本映画です。



渡辺セレクト4.『あん』
監督/河瀨直美,2015年,日本,113分

有坂:うんうんうん……。 渡辺:この『あん』はですね、おばあちゃんは樹木希林さんです。監督は河瀨直美監督なんですけど、どういう話かというと、ある、どら焼き屋さんですね。なんて言うんでしょう、ポツンとほったて小屋みたいなのである、コーヒースタンドみたいな感じのどら焼き屋さんが舞台なんですけど。すごい坂道の……桜の綺麗に咲く坂道にポツンとある、どら焼き屋さんが舞台です。店主が、永瀬正敏さんなんですけど、一人でやってるどら焼き屋さんで、あるとき、そこのアルバイト募集みたいな求人を見て、おばあさんが訪ねてくるんですね。それが樹木希林なんですけど。「私バイトしたいんだけど、ここで働きたいんだけど」みたいに言って、ちょっとおばあさんだとな……みたいな。でも、どうしても働きたいということで、働いてもらうと、あんをつくるのが天才的に上手なおばあさんで、お店が瞬く間に繁盛しだすっていうお話になります。でも、やがてちょっと心ない噂が出てきて、あのおばあさん、病気なんじゃないかみたいな、というところで、またお客さんが離れていってしまってみたいな、というところを描く人間ドラマなんですけど。とにかく、めちゃくちゃ感動するお話です。樹木希林さん演じるこのおばあさんが、何で訪ねてきたのかとか、この人はどういう人なのかみたいなのが、後半だんだん分かってくるんですけど、それがもう分かるにつれて、涙が止まらなくなってくるっていうですね、そのぐらいちょっと感動が待っている話なんですけど。本当になんか、こうずっと人生、陰で生きてきた人が、ちょっとだけ表に出て輝きたいっていうですね。その本当に、なんか、そんな些細な願いというか、ほんの一瞬みたいなところを、綺麗に描いてくれた作品だなと思っていてですね。それがすごい、桜が咲く季節が舞台になったりするので、桜がすごい印象的なんですけど、桜っていうのもなんかすごい綺麗なんですけど、咲く時期は一瞬だったりするんで、それとすごい重ねてしまうようなところもあって、それも相まって、もう感動が止まらなくなるようなですね、そんな素敵なおばあさんを樹木希林さんが演じてくれたっていう、印象的な作品となっています。
有坂:ほんと演じてくれただよね。演じてくれてありがとうっていう。
渡辺:役者もみんな良くて、本当に登場人物は少ないですけど、店長の永瀬正敏と、あと常連になる女子高生の女の子がいるんですけど、本当に限られたキャストで
有坂:あれだよね。孫娘出てるよね。
渡辺:孫娘? ああ!
有坂:もっくんの娘、内田伽羅が女子高生役で出てくる。
渡辺:そうだそうだ。
有坂:伽羅ちゃん
渡辺:河瀬直美監督って、結構好みあると思うんですけど
有坂:癖が強いんだよね。
渡辺:でも、原作ものを撮らせると、めちゃくちゃいい映画撮るっていうですね。これもドリアン助川さんの原作があって、だからなんかね、自身のオリジナル脚本より、こういう……。
有坂:いや、いいですよ!
渡辺:いやいや、誰に忖度してんの(笑)。
有坂:ちょっと大丈夫?
渡辺:消されちゃう? それはもちろん好みはあると思うんですけど、僕はそういう、河瀬監督の原作ものは本当に素晴らしいと思う作品なんで、これはもし観てない方がいたら、めちゃくちゃおすすめなので、ぜひ樹木希林ファンだったら、絶対観たほうがいい作品でもありますね。
有坂:コメントに、「財布持って走って買いに行きたくなりました」「賛否両論分かれる監督」。
渡辺:それは、やっぱりみなさん思っている感じなんですかね。
有坂:でもね、あれなんですよ。世界的に癖の強い個性的な監督がつくる王道映画って、傑作が多いんですよ。『スクール・オブ・ロック』とかそうだし、あとビフォアシリーズ、『ビフォア・サンセット』とかもそうなんですけど、その日本版は、河瀬直美監督の『あん』と言ってもいいのかもしれないね。
渡辺:本当に素敵なおばあさんなので。
有坂:はい、わかりました。じゃあ、僕の4本目はですね。予定していたスウェーデンのあの映画を却下して、順也がそれでくるなら、僕はこれでいきます。2008年上映の日本映画です。



有坂セレクト4.『歩いても 歩いても』
監督/是枝裕和,2007年,日本,114分

渡辺:ああ! なるほど!
有坂:これは、僕ちょっと予備で用意してた作品なんですけど、
渡辺:引っ張られた?
有坂:引っ張られた。もう樹木希林といえば、ということで、『歩いても 歩いても』を紹介します。これは、もう現在、大ヒット上映中の『怪物』の是枝裕和監督の、2007年の作品になります。是枝さんのフィルモグラフィー、たくさん傑作があるよね。『誰も知らない』とか、『万引き家族』とかもありますけど、僕の中でのナンバーワン是枝ムービーは、『歩いても 歩いても』。
渡辺:俺もだね。
有坂:ダントツで! っていうくらい個人的にまず特別な一本です。話は、他の作品と同じように、他愛のない日常をベースに、人間の心の深いところをえぐっていくような内容になっています。これは、ある夏の日が舞台で、鎌倉だっけ? 地元に帰る。夏のお盆の時期に、自分の子どもが亡くなった命日に合わせて、みんなが集まって帰ってくると、息子も帰ってくるし、娘夫婦も帰ってくると。そこのお父さんが、原田芳雄さんで、お母さんが樹木希林、息子が阿部寛、娘がYOUなんですね。阿部寛のほうには連れ子がいて、奥さんは夏川結衣の連れ子として息子がいるんですよ。なので、樹木希林からすると、血のつながってない孫っていう、ちょっと微妙な関係。こういう設定の作り方が是枝さん、うまいなと思うんですけど、この映画は、本当に何でもないような日常。何も起こらない夏の一日みたいな日が舞台になっていて、親戚が集まって、久しぶりに集まったものの、実際なんかこう、一緒にいてもちょっと気まずい空気が流れたり、居心地悪かったり、でも、急に楽しくなったり、誰もが経験したことがあるようなものをフィクションの中で描ける。しかも、その演じてる人が、誰もが知ってる樹木希林とかYOUなのに、もう本当にこの母と娘にしか見えないような掛け合いがあったり。
渡辺:台所でね。
有坂:そう、台所で。なんか、あの二人のコンビネーションがね、面白いんですよ。即興なんじゃないかなっていうぐらい、でも、本人がやってるというよりも、この役のキャラクターが喋っているようにちゃんと感じる、役を生きているような二人がすごく魅力的でもあります。で、なんかこの映画の樹木希林さんは怖いんですよ。もうこれ、ある意味ね、『歩いても 歩いても』ってホラー映画と言ってもいいんじゃないかなって思って。
渡辺:闇をえぐっていくんだよね。
有坂:そう、やっぱりその自分がおそらくすごく大切にしてた長男を、亡くしてしまったっていう傷を、そこから乗り越えられていないんだよね。その命日にみんなが集まってきて、一家団欒の時間を過ごすのは嬉しいんだけど、その亡くなったことに関わった人に、毎回来させてっていうちょっと残酷な一面があったり、夏川結衣に対して姑としてちょっときつい部分を見せたり、なんかそういう、ただ人のいいおばあちゃんではなくて、そういった意味での人間のダークサイドを再現しているのが、この樹木希林さん。やっぱり、この役を他の人が演じていたら、たぶん全然違った印象になる。樹木希林さんだからこその作品に、最終的にはまとまったなっていう意味で、本当に彼女のベストアクトの一つと言ってもいいかなって思うぐらい、素晴らしい演技が観られます。で、あとこの映画の見どころといえば料理です。みんなでご飯をつくってというシーンあるんですけど、とにかくですね、とうもろこしのかき揚げがね、これ観たら絶対食べたくなるので、これから観る方は、あえて逆に用意してから観てみてください。そのとうもろこしを一個一個手で取っていくっていうシーンも、ちゃんと映っているし、揚げているシーンとかね、本当においしそうなんですよ。そのかき揚げだけじゃなくて、枝豆とミョウガの混ぜご飯とか、豚の角煮とか、あと大根のきんぴらとか。割と、やっぱり日常を丁寧に描くときに、食事のシーン、食べるだけじゃなくて、どういうご飯が出ているかっていうのを描くことで、観てる側の共感性ってすごく高くなってくるので、そこにもこだわってるっていう意味で、もうねパーフェクトな一本。風景も綺麗だし、その風景を歩いてる人の撮り方も綺麗、後ろ姿とか、もうなんかいろいろ思い出してきた。ここらへんでやめとかないと止まらない。ということで、美しくもあり、同じぐらい恐ろしい映画。本当にやっぱり是枝監督ってすごいなっていうことが伝わってくるような一本だし、これから夏に向けておすすめの一本でもあるので、ぜひ観てみてください。
渡辺:樹木希林さんが、『あん』とは全然違うやつなんで、ちょっと観比べてみるのも面白いかもしれないですね。
有坂:二本立て。
渡辺:なるほど、僕もベスト是枝映画です。『歩いても 歩いても』。
有坂:真似した?
渡辺:いやいや、真似してない(笑)。『怪物』もすごいんで、『怪物』、もし観て是枝監督すごいと思ったら、さらにすごい作品がありますよっていう。
有坂:そう、今日だからこの配信始まる前に、順也とさっき『怪物』の話で一盛り上がりしてきて、『怪物』は是枝さんだけじゃなくて、脚本も素晴らしいので。
渡辺:音楽もね。
有坂:そうそう、その話はいずれどこかで。
渡辺:はい、いよいよラストですね。僕の5本目はですね、
有坂:ここ絶対被らない自信ある!
渡辺:あっ、そうですか。俺も被らない自信ある。
有坂:やばい!
渡辺:僕は、2016年のアメリカ映画です。



渡辺セレクト5.『あなたの旅立ち、綴ります』
監督/マーク・ペリントン,2016年,アメリカ,108分

有坂:はぁー、なるほど。
渡辺:これはそんな有名な作品ではないんですけど、どういう話かというと、新聞に訃報記事って出るじゃないですか、あの人はこんなにいい人でしたとか、こんな業績を残しましたみたいな。そういう訃報記事ってありますけど、それを見たおばあさんが主人公です。新聞記者の訃報を専門で書くライターさん。このポスターの真ん中にいる、アマンダ・セイフライド演じる子が、ライターさんなんですけど、訃報記事の依頼をいつものように受けるんですね。そうすると、なんと頼んできたのが、存命の本人っていうですね。普通は遺族とかが頼んでくるんですけど、まさかの本人が存命中に頼んできた、というところから始まります。彼女はヒアリングに行くんですけど、なんで頼んできたかというと、知り合いのその訃報記事を読んで、自分の訃報記事を用意しておきたい、というところで、頼まれることになるんですね。で、私の知り合いがリストをつくっておいたから、コメント集めてきてみたいな感じで頼まれます。彼女が、そのリストに沿って取材に行くんですけど、みなさん口々に言うのは、「あの女は最悪だ」っていうですね(笑)、とても記事を書けるようなコメントが、一つも出てこないっていうところから物語が展開してきます。なので、彼女からすると、一言もそんな褒めているのが出てこないというので、さすがにやばいとなって、自分が死んだ後に、あの人はこんなことをしてくれたっていう、その業績を残すためにですね、誰かにいい影響を与えるっていうことをするための旅に、彼女たちと出るっていうお話になってます。で、これおばあちゃんが、シャーリー・マクレーン。名女優のシャーリー・マクレーンが、またね、めちゃくちゃいいんですよね。なんか本当にちょっとツンとした、意地悪おばあさんみたいな感じもありつつ、ちょっとやばいみたいな、っていう微妙な表情も出せる、ベテラン女優なんで、その彼女たちが誰かにいい影響を与えるための旅に出て、いろんなところで思い出づくりをしていくっていうところが、本当になんか微笑ましくてですね、本当にいい話っていう作品です。途中でラジオ局を乗っ取ったり、いろいろするんですけど、そのBGMとかもすごく良くて、これ本当になんか地味で、あんまり知名度ない作品なんですけど、クオリティはめちゃくちゃ高くて、アマンダ・セイフライドは『マンマ・ミーア!』とかで有名だと思うんですけど、あと、シャーリー・マクレーン自体はもう名女優ですし、結構キャストも良くて、音楽も良くて、話も良くてっていう、小じんまりとした作品ではあるんですけど、かなり良い出来になってますので、この意地悪ばあさんが、良いことをしようと奮闘する姿っていうのがとても微笑ましく、最後、めちゃくちゃ感動させてくれる良作となってますので、これもぜひ観てもらえればなと思います。
有坂:結構観られるね。
渡辺:そうね。
有坂:U-NEXTだと見放題。Amazonプライムはレンタル。なるほど、それが5本目!
渡辺:そうです。結構好きなの個人的に。なので、これは取られないかなと。
有坂:この話、したことないよね。観てたんだと思った。
渡辺:大好きだね。
有坂:本当に観た?
渡辺:3回くらい観たよ(笑)。
有坂:そんな観てんの? それなのに聞いたことなかった。このために取っておいたんだね。ちょっとコメントが見れなくなっちゃった。スクロールしてもらっていいですか。いっぱい来てた。「表紙から一筋縄ではいかない、おばあさん」。いかないよね。シャーリー・マクレーン、なんかちょっとやっぱり、声も意地悪感が出ているもんね。もともとなんか。
渡辺:ちょっとね、威厳のありそうな感じが似合う。
有坂:適役だよね。はい、じゃあ最後、僕の5本目は、日本のドキュメンタリーです。観ている人いるかな? 2019年のドキュメンタリーです。



渡辺セレクト5.『生きる LIVING』
監督/オリバー・ハーマヌス,2022年,イギリス,102分

渡辺:ええ!?
有坂:これは、原田美枝子さんという女優いますね。原田美枝子さんの実の母を、原田美枝子が監督して撮った24分の短編です。これ、劇場公開もしてます。
渡辺:へー。
有坂:ユーロスペースとかで。これ、ユーロスペースで観たのかな。これは原田美枝子さんって、もう言わずとしれた大女優。彼女は、デビューが15歳で黒澤明とか、増村保造とか、深作監督とか、勝新とか、もう錚々たる人の映画に出た、もう現代を代表する大女優の1人です。その彼女が、自分の母が認知症になって、一人暮らしができなくなると、ここにも書いてますけど、お世話をするようになったときに、あるとき、お母さんがふと、「私ね、15歳の時から女優やってるの」って言ったんだって。でも、お母さんは女優やったことない。15歳から女優やってるのは、原田美枝子なんですね。なので、娘になっちゃった、お母さんの記憶の中で。それを受けて原田美枝子は、もしかしたらお母さんも自分のように演じたいっていう願望があったんじゃないかっていうことで、お母さんにカメラを向けて、自分で映画を撮り始めるんです。そこが良くて、作品をつくりたくて、内容を考えるんじゃなくて。目の前で起こっている日常のなかに、何か自分の心が動いて、カメラを回し始めるんですね。でも、彼女はもちろん映画に出る方なので、つくることは全然わからないので、自分の息子、石橋大河っていう。
渡辺:これキャストみんな家族のことでしょ。
有坂:そう、これ、結局家族の記録ドキュメンタリーみたいなものなので、息子が映像制作を手伝ったり、お姉ちゃんの優河、ミュージシャンですね。優河さんも出てくる。石橋静河さんも出てくる、という意味でファミリームービーとしても、石橋家のファミリームービーとしても映画ファンとしては、見応えがある作品になっていて。やっぱり認知症って、まだいろんな細かい部分が解明されてないので、このカメラを向けた先に何か分かりやすい答えが待ってるようなタイプの映画ではないんですけど、やっぱりお母さんが、もしかしたら女優になりたかったっていうところからカメラを向けて、女優として接していく。そこに原田美枝子の娘としてのやっぱり愛情。母親の最後の愛情みたいなのが、映っているような気がして、個人的には良かったんだよね。完成度が高いという映画ではないです。ただ、やっぱり誰もが、自分の親に対する思いとかって、大なり小なりあると思うんですけど、普段、演じている側の原田美枝子が、自分たちと同じように心が動いて、こういうアクションを起こして、作品にしたというところが、すごく一つ価値のある映画かなと。
渡辺:Netflixでやってるね。
有坂:そう、今、Netflixで観られるみたいです。このお母さんは、原田美枝子が15歳で女優としてデビューしたときに、こんなことを言っていたそうです。「あなたが好きなことをしなさい。お母さんは戦争でやりたいことができなかったから、でも、やるなら必ず最後まで続けなさい」と、15歳の原田美枝子に言って、原田美枝子はいまだにトップ女優だと。そのトップ女優が、その言葉を残してくれたお母さんにカメラを向けた一作になっています。ぜひ紹介したかった。
渡辺:すごいなんかポスターのお母さんいい笑顔。
有坂:そうそう! やっぱり娘とかね。優河さんはミュージシャンで、石橋静河は女優として活躍してますけど、なんか2人のプライベートな姿。要は、おばあちゃんを見ている、その眼差しとか、そういうのもなんかね、ちょっと愛おしくていいんです。言葉に説明しづらいタイプの記録映画になっているので、おばあちゃん映画の最後に、ぜひ紹介したいなということで。
渡辺:すごいのきたね。
有坂:『女優 原田ヒサ子』を最後に紹介しました。観ている人いるかな、
渡辺:俺も知らなかったぐらいだからね。でも、Netflixで見れるなら、20何分だしね。観やすいし。
有坂:そうそう、でもね、サクッと観ない方がいいと思う。やっぱりほら、ちょっと心をフーって一回落ち着かせて、なんか20何分で終わっちゃうから、なんとなくで観ない方がね、心に多分深く残ると思うので、ぜひおすすめの作品でした。


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有坂:はい、ということで以上10本、みなさん観ている作品などはあったでしょうか。好きな映画、これ好きだよっていうのもね、中にはあったかなと思うんですけど。
渡辺:そんなメジャーなやつはなかったもんね。その最初に言った、『千と千尋……』の湯婆婆とかさ、そういうのがおばあちゃんって言えば、めちゃくちゃメジャーなやつだけど。
有坂:あと、何を用意していた?
渡辺:なんかね、すごいいっぱい。あとはね、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』とか、『ロンドン、人生はじめます』、ダイアン・キートンの。
有坂:うんうん、その辺のやつね。
渡辺:あと、『人生フルーツ』とか、『西の魔女が死んだ』とか。
有坂:そうそう、西の魔女ね。
渡辺:あと、『メタモルフォーゼの縁側』もあった。あと、『アイリス・アプフェル!』もあったけど、塁がくるだろうなとは(笑)。その辺かな。
有坂:俺はね、『ロッタちゃん』。『ロッタちゃん』は、主人公がおばあちゃんじゃないんだけど、やっぱりあの5歳のロッタちゃんが、家でプリプリしてお母さんとかに反抗しまくって、駆け込む先がおばあちゃんの家なんだよね。だから、おばあちゃんの存在がいかに大事か、しかも隣に住んでいる。なんか、そのことによってロッタちゃんが、本当にこう、みんなに見守られながら、あんなエネルギー満点なロッタちゃんが、1回、家からいなくなってくれるってだけでも、たぶん家族も一回息抜きできるし、そういった意味でもおばあちゃんとの距離感とか、心の距離感とかね、物理的な距離感も含めて、すごく意味のある一作だなと思って。
渡辺:それがスウェーデンのって言ってたやつだ。
有坂:そう。『歩いても 歩いても』に変えちゃいました、ということで、ぜひ観てないっていう作品は、あの手この手で探して観ていただけたらと思います。


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有坂:では、最後に何か、順也からお知らせがあれば。
渡辺:僕が、フィルマークスの方で映画のリバイバル上映企画とかもやってるんですけど、
この夏に、夏に観たいアニメ作品というので、『時をかける少女』と『サマーウォーズ』を、それぞれ全国の映画館で上映する企画を作りましたので、『サマーウォーズ』なんか特に、栄おばあちゃんっていうのがまた出てきますんで。栄おばあちゃんの誕生日っていうのが8月1日なんですけど、それに合わせた日程でやっていたりしますので、ぜひ夏に観たいアニメ映画として、この夏、観ていただければなと思います。
有坂:結構な規模でやるんじゃない?
渡辺:そう全国100館ぐらいでやるので、割と観られるエリアが多いと思います。
有坂:頑張った?
渡辺:頑張りました(笑)。
有坂:そうなんですよ。順也は普段、フィルマークスの会社でこういうイベント企画やったり、プロデュースやっていて大変なんだよね。
渡辺:大変でした(笑)。まだ始まってないけど、
有坂:でも、大ヒットするだろうね。
渡辺:ねぇ、してくれると、宮崎駿が、新作があります。思いっきり日程がかぶってるんですけど。
有坂:そうなんだ
渡辺:ぜひ、2つ観てください(笑)。
有坂:僕からのお知らせは、もう来週か。代々木上原にある「haco」というギャラリーでイベントを行うんですけど、これが、革小物の作家さん、「ke shi ki」という名前でやってる革小物の作家さんと、コラボレーションの企画です。どういう形でのコラボかというと、普段僕がやってる映画カウンセリング、「あなたのために映画を選びます」という1時間の映画カウンセリングを、「ke shi ki」のデザイナーの細川瑠璃さんに??1時間みっちりカウンセリングをして、彼女に合った映画を僕が5本選びました。その5本を、彼女は革小物の作品としてつくったものを展示・販売すると。あと彼女が、映画にすごく惹かれたきっかけというのは、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』という映画なんですけど、僕たち、キノ・イグルーも名付け親になってくれたのが、アキ・カウリスマキということで、カウリスマキつながりで『希望のかなた』のイメージの作品もつくってくれる、ということです。それは、ギャラリーの1階で展示して、2階では「あなたのために映画を選びます」を、1日3人を4日間、4日連続でやります。これ、ちょっともう予約でいっぱいになってしまってるんですけど、それとは別に土曜日、24日かな、19時半からトークイベントを行います。デザイナーの細川さんと映画にまつわるトークをしようということで、やるんですけど、イベント名が「SUSHI & TALK」ということで、お寿司を食べながらトークが聞けます。これ、お寿司の方を担当してくれるのが、テキスタイルデザイン的な、すごくおしゃれな「fuu.fuu.fuu」という名前でやっている人が、グラフィカルな押し寿司をつくってくれるんです。それを食べながら、映画トークをするんですけど、そのトークの内容っていうのは、「想像力を刺激する映画の世界について」ということです。今回、映画をモチーフに彼女が作品をつくる。世界を見渡すと、他にもそういう事例ってあるよね。具体的に言うと、グッチ。グッチのあるシーズンは、映画監督のスタンリー・キューブリック。『2001年宇宙の旅』とか『シャイニング』とか、キューブリックの作品モチーフで、一つのコレクションを作るとか。そうやって、実は映画というのは作品だけではなくて、いろんなところに影響を与えているということを、いろんな事例を画像とか見ながら、紹介するようなトークイベントになってますので、こちらはまだ予約受け付けていますので、みなさんは来ていただいて、ぜひこの「ニューシネマ・ワンダーランド」観てますよって声かけてくれたら嬉しくて、多分ビールとか一気しちゃうんで、よろしくお願いします(笑)。
渡辺:グラフィカルな寿司っていうのがね
有坂:そう。グラフィカルな押し寿司。彼女は、雑誌の『装苑』の福田里香さんのずっと続いている連載で、先月、紹介されていて、まさに今グイグイ来ているので、彼女本人とも会えるので、面白いことをいろいろ探している方にも、ぜひ参加していただきたいイベントとなっています。


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有坂:ということで、今月の「もっとおばあちゃんが好きになってしまう映画」が出そろいました。おじいちゃんも出そろいました。ぜひご覧になって、観比べていただけると嬉しいです。では、また来月日程はまだ決まっていませんが、ぜひまたお会いできたらと思います。遅い時間まで、みなさんありがとうございました!
渡辺:ありがとうございました。おやすみなさい!!


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選者:キノ・イグルー(Kino Iglu)
体験としての映画の楽しさを伝え続けている、有坂塁さんと渡辺順也さんによるユニット。東京を拠点に、もみじ市での「テントえいがかん」をはじめ全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映。その活動で、新しい“映画”と“人”との出会いを量産中。

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キノ・イグルーイベント(@kinoiglu2003
有坂 塁(@kinoiglu)/渡辺順也(@kinoiglu_junyawatanabe